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俺×恋=0になります。  作者: 光黒猫
第四章 俺×近くの存在=近すぎてわかりません。〜姉弟姉妹編〜
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128話 俺×静かな時間=少しだけ救われました。

部屋の中は、ずっと静かだった。


時計の針の音だけが、一定のリズムで響いている。カチ、カチ、と刻まれるその音が、やけに大きく感じる。


「……」


白ヶ崎は、変わらずそこにいた。


床に座ったまま、特に何をするでもなく、ただ同じ空間にいる。


真守も、ベッドに座ったまま動かない。


会話はない。


無理に話そうとする気配もない。


それでも——


不思議と、居心地は悪くなかった。


「……」


どれくらい時間が経ったのか分からない。


気づけば、部屋の中の光が少しずつ暗くなっていた。夕方を過ぎて、夜に変わり始めている。


「……ね」


ふいに、白ヶ崎が口を開いた。


「ご飯、食べよっか」


「……」


その言葉を聞いた瞬間——


ぐう、と小さく音が鳴った。

自分のお腹だった。


「……」


一瞬、何が起きたのか分からなかった。


けれどすぐに理解する。


「……腹、減ってる」


ぽつりと呟く。


さっきまで、そんな感覚は一切なかったのに。


「……」


なんでだよ、と心の中で思う。


こんな状態なのに。


あんなことがあって、頭もぐちゃぐちゃで、何も整理できていないのに。


それでも、体は普通に腹が減る。


「……普通に」


その言葉が、ふと頭をよぎる。


結城の言葉。


——普通に出会って、普通に好きになりたかった。


「……」


少しだけ、胸が痛む。


「……行く?」


白ヶ崎が聞く。


「……ああ」


短く答える。


立ち上がる。


体はまだ少し重いけれど、さっきほどじゃない。

部屋を出て、二人でリビングへ向かう。


「……」


電気をつける。


いつもの空間。けれど、どこか久しぶりな気がした。

冷蔵庫を開けて中を見る。


「……」


数週間前に買った食材が、そのまま残っていた。

野菜はしなびている。肉も、明らかにもうダメな色をしている。


「……」


最近の自分を思い出す。


まともに食事をしていなかった。

ほとんど、カップラーメンだけで済ませていた。


「……終わってんな」


小さく呟く。


食生活も、生活自体も。

全部、崩れていた。


「これ、ほぼダメだね」


白ヶ崎が覗き込んで言う。


「……だな」


冷蔵庫を閉める。


「……コンビニ行こっか」


白ヶ崎が自然に言う。


「気分転換にもなるし」


「……」


少しだけ考えて——


「……行くか」


頷く。


外に出る。


夜の空気は、昼よりも冷たかった。

頬に当たる風が、少しだけ頭を冷やしてくれる。


「……」


二人で並んで歩く。


街灯が、一定の間隔で道を照らしている。

静かな夜。人通りは少ない。


「……」


その景色に、ふと記憶が重なる。


夜の道。


同じように歩いたことがある。


祇園に会うため。


「……っ」


一瞬で、空気が変わる。


あの時の会話。


あの時の違和感。


全部が、頭の中に蘇る。


「……」


足が、わずかに止まりそうになる。


その時だった。


「ね」


白ヶ崎の声。


「コンビニでさ、新作のスイーツ出てたよ」


「……は?」


一気に現実に引き戻される。


「この前見たんだけど、結構美味しそうだった」


「……なんだそれ」


「チョコ系」


「雑すぎだろ説明」


「食べれば分かる」


「適当だな」


自然と、言葉が返っていた。


「……」


白ヶ崎は、特にこちらを見ないまま続ける。


「あと、おにぎりも新しいの出てた」


「どんだけチェックしてんだよ」


「普通でしょ」


「普通じゃねぇよ」


軽く言い合う。


さっきまでの重たい空気が、少しだけ薄れる。


「……」


気づく。


白ヶ崎が、わざと話題を振っていることに。

さっきの空気を、引きずらせないように。


「……」


それが分かって、少しだけ楽になる。


「……今日は」


白ヶ崎が、ふいに言う。


「ずっと一緒にいるから」


足を止めずに、そのまま続ける。


「安心していいよ」


「……」


その言葉が、すっと入ってくる。

抵抗もなく。そのまま。


「……うん」


小さく、返す。


それだけで、十分だった。


コンビニに着き、適当に食べ物を選ぶ。

おにぎりと、弁当と、飲み物。

白ヶ崎はさっき言っていたスイーツを手に取っていた。


「それかよ」


「そう」


「ほんとに買うんだな」


「当たり前」


レジを済ませる。


また、夜道を歩く。


さっきよりも、少しだけ足取りが軽かった。


部屋に戻る。


テーブルに食べ物を並べる。


「いただきます」


小さく言って、食べ始める。


「……」


一口食べる。


普通の味だった。コンビニの弁当。

特別美味しいわけでもない。


けれど——


「……」


ちゃんと、食べている感覚があった。


隣で、白ヶ崎も普通に食べている。

スイーツを開けて、無言で食べている。


「……」


しばらく、静かな時間が流れる。


その中で——


「……私ね」


白ヶ崎が、ぽつりと口を開いた。


「今の時間、嫌いじゃない」


「……」


少しだけ手が止まる。


「真守くんは、辛いかもしれないけど」


淡々とした口調のまま、続ける。


「私は、こうして真守くんのそばにいる時間、嫌いじゃない」


「……」


場違いな言葉かもしれない。


普通なら、もっと違う言い方をする場面なのかもしれない。


それでも——


「……」


不思議と、嫌じゃなかった。

むしろ、そのまっすぐさがありがたかった。


「……そっか」


小さく返す。


それだけで、十分だった。


「……」


白ヶ崎が、少しだけこちらを見る。


「私、ずっと一緒にいるから」


はっきりと言う。


「絶対に裏切らない」


「……」


視線が合う。


逃げていない目だった。


「だから」


一拍置いて——


「一人で抱え込まないで」


「……」


「一緒に、解決してこ」


その言葉は、軽くなかった。


ちゃんと、覚悟を持って言っているのが分かる。


「……」


真守は、しばらく何も言えなかった。


その言葉を、そのまま受け取る。


疑うこともなく。誤魔化すこともなく。

ただ、真っ直ぐに。


「……ああ」


小さく、頷く。


それが、今できる精一杯だった。


それでも——ちゃんと、届いていた。

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