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俺×恋=0になります。  作者: 光黒猫
第四章 俺×近くの存在=近すぎてわかりません。〜姉弟姉妹編〜
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127話 俺×崩壊=もう一人じゃ耐えられません。

昼の光が、やけに白く感じた。


病院を出た時、時計はまだ昼過ぎを指していた。いつもなら授業中の時間。教室で当たり前のように過ごしているはずの時間。


「……」


けれど今日は、もう戻る気にはなれなかった。


足は自然と、学校とは逆の方向へ向いていた。考えるまでもなく、その選択をしていた。


「……今日、休むわ」


小さく呟く。


誰に言うでもなく。ただ、自分に言い聞かせるように。


隣を歩く白ヶ崎は、それに対して何も言わなかった。止めることも、理由を聞くこともない。


ただ、いつも通りの距離で、横にいる。


「……」


会話はなかった。


駅へ向かう道。電車の中。寮へ戻るまでの道のり。ずっと、何も話さなかった。


けれど、不思議と気まずさはなかった。


ただ——静かだった。


頭の中は、ずっと同じ言葉で埋まっていた。


——バイバイ


結城の最後の声。


あの時の顔。


涙の形。


全部が、何度も何度も繰り返される。


「……」


歩いているはずなのに、地面の感覚が曖昧だった。現実に戻れていないような、どこか浮いたままの感覚。


「……」


寮に着く。


見慣れたはずの建物が、やけに遠く感じた。


エレベーターに乗り、上がる。廊下を歩く足音だけが、やけに響た。


自分の部屋の前で、ようやく足が止まる。

鍵を取り出そうとした、その時だった。


「……真守くん」


横から声がした。


白ヶ崎だった。


「……私は、いつまでも、あなたの味方だから」


静かな声だった。


強くもなく、優しく押し付けるでもなく。ただ、そこに置くみたいに言う。


「……」


返事が、できなかった。


その一言が、やけに刺さった。

ここまで、なんとか保っていたものが——


その瞬間、崩れた。


「……っ」


息が詰まる。


胸の奥に押し込めていたものが、一気に溢れ出す。


「……は、っ……」


呼吸が乱れる。


うまく吸えない。


「……っ、なんで……」


声が漏れる。


止めようとしたのに、止まらなかった。帰り道、ずっと堪えていた。電車の中でも、歩いている時も、ずっと。


ここで崩れたら終わると思っていたから、無理やり抑えていたのに。


「……っ」


膝が、力を失う。


そのまま崩れそうになった瞬間——


「……真守くん!」


白ヶ崎がすぐに支える。


肩を掴まれる。


「……大丈夫?」


「……」


何も言えない。


言葉にならない。


「……なんでだよ……」


ようやく出た声は、ひどく弱かった。


「なんで……あんなこと……」


頭の中が、ぐちゃぐちゃだった。


怒りも、悲しさも、悔しさも、全部混ざって、何が何だかわからない。


「俺、何も知らなくて……」


言葉が途切れる。


「全部……嘘で……」


思い出す。


結城の言葉。


笑っていた顔。


全部。


「……っ」


「……」


白ヶ崎は、何も否定しなかった。


「……そうだね」


小さく、肯定する。


「しんどいよね」


「……」


「わけ分かんないよね」


「……」


「……それでも、真守くんは間違ってないよ」


「……っ」


その一言で、さらに涙が溢れる。


「……間違ってるだろ……」


震える声で言う。


「全部……遅くて……何もできなくて……」


「そんなことない」


即座に返ってくる。


「助けたじゃん」


「……」


「ちゃんと、助けた」


「……っ」


言葉が、刺さる。


けれど、それでも納得できない。


「……でも……」


言い返そうとする。


でも、続かない。


「……」


白ヶ崎は、それ以上何も言わなかった。


ただ、隣にいる。


それだけだった。


「……」


少しずつ、呼吸が落ち着いてくる。


それでも、胸の奥の重さは消えない。


「……」


ぽつりと、口を開く。


「……一人になりたくない」


自分でも驚くくらい、素直な言葉だった。


「……」


白ヶ崎は、一瞬だけ目を見開く。


けれど、すぐに——


「……うん」


静かに頷いた。


それだけだった。


「……」


鍵を開ける。


ドアを開ける。


中に入る。


いつもの部屋。


何も変わっていないはずなのに、妙に空っぽに感じた。


「……」


一度、白ヶ崎と視線が合う。


「……じゃあ、一回戻るね」


「……ああ」


それだけ言って、白ヶ崎は自分の部屋へ戻っていく。


ドアが閉まる。


「……」


静かになる。


一人になる。


それだけで、また何かが込み上げてきそうになる。


「……」


ベッドに座る。


俯く。


何も考えたくないのに、考えてしまう。


結城の顔。


最後の言葉。


「……バイバイ」


小さく、呟く。


その瞬間——


コンコン、とノックの音。


「……真守くん」


白ヶ崎の声。


「入るよ」


返事を待たずに、ドアが開く。


白ヶ崎が入ってくる。


少しだけ私服に着替えていた。


「……」


何も言わずに、部屋の中に入る。

そして、そのまま近くに座る。


「……」


何も聞かない。


何も言わない。


ただ、そこにいる。


「……」


真守も、何も言わなかった。


言葉を探す気力もなかった。


ただ——隣に、人がいる。

それだけで、少しだけ息がしやすくなる。


「……」


時間が、ゆっくり流れる。時計の音だけが、静かに響く。


それでも——


さっきまで感じていた孤独は、少しだけ薄れていた。


「……」


白ヶ崎は、何も変わらずそこにいる。


離れない。踏み込みすぎない。

でも、いなくならない。


その距離が、今はただありがたかった。


「……」


目を閉じる。


まだ、全部は整理できない。まだ、何も解決していない。


それでも——


「……」


一人じゃない。


それだけで、ほんの少しだけ救われていた。

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