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俺×恋=0になります。  作者: 光黒猫
第四章 俺×近くの存在=近すぎてわかりません。〜姉弟姉妹編〜
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125話 俺×病室の扉=怖くて仕方ありません。

教室に戻ったあとも、落ち着かなかった。

席に座っているはずなのに、どこにも座れていないような感覚。周りの声も、景色も、どこか遠くにある。


「……」


会長の言葉が、頭の中で何度も繰り返される。


——面会ができるようになったよ。


その一言だけが、やけに鮮明に残っていた。


「……」


会える。


それだけのはずなのに、胸の奥がざわつく。行きたいはずなのに、足が動かない。


「……なんでだよ」


小さく呟く。


自分でもわかっている。ただ様子を見に行くだけだ。無事かどうか確認するだけ。


それだけのことなのに——怖い。


「……」


何が怖いのかも、はっきりしない。


結城の状態か、それとも——


「……」


それ以上は考えないようにするが、思考は勝手に沈んでいく。

もし、もう話せない状態だったら。もし、自分のことを恨んでいたら。


もし——


「……っ」


考えが止まらない。


息が、少しだけ浅くなる。

気づけば、拳を強く握っていた。


このままここにいても、何も変わらない。


「……行くか」


小さく呟く。


その言葉と同時に、体が動いていた。


席を立ち、教室の扉へ向かう。まだホームルームも始まっていない。そのまま扉を開けて、廊下に出る。


止まらない。


ただ、それだけを考えて歩く。


「……ちょっと」


後ろから声がする。


振り返ると、白ヶ崎だった。


「どこ行くの」


「……ちょっとな」


それだけ言って前を向く。


けれど——


「ちょっとじゃないでしょ」


すぐに前に回り込まれ、行く手を塞がれる。


「……」


顔を上げる。


「……その顔、なに」


白ヶ崎の声が少し低くなる。


「……別に」


そう返すが、自分でも分かる。

まともな顔じゃない。


「歪んでる」


はっきり言われる。


「……」


言い返せない。


「……結城のとこ行くんでしょ」


「……ああ」


短く答える。


「大丈夫かって聞きに行くだけだ」


それだけのはずだった。


「それなのに——」


言葉が詰まる。


「……怖い」


小さく漏れる。


「なんでか分かんねぇけど……めちゃくちゃ怖い」


情けないと思う。


それでも、止められない。


「……」


白ヶ崎は何も言わない。


少しだけ間を置いてから——


「じゃあ、私も行く」


「……は?」


思わず顔を上げる。


「一緒に行く」


当たり前みたいに言う。


「いや、いいって」


即答だった。


「関係ないだろ」


「関係なくても行く」


「来んなって」


「来る」


一歩も引かない。


「……」


少しだけ苛立つ。

けれど、それ以上に——


「……なんでだよ」


その言葉が先に出た。


「……」


白ヶ崎が少しだけ視線を逸らす。


「……嫌な予感がするから」


「は?」


「真守くんが」


一瞬、間があって——


「真守くんじゃなくなっちゃう気がする」


「……」


何も返せなかった。


「だから、そばにいるだけでいい」


白ヶ崎が続ける。


「面会はしない。外で待ってる」


「……」


「でも、病院までは一緒に行く」


「……」


一人よりは、マシかもしれない。そんな考えが、頭をよぎる。


「……はぁ」


小さく息を吐く。


「……勝手にしろ」


ぶっきらぼうに言う。けれど、それは拒絶じゃなかった。


「ありがと」


白ヶ崎が小さく言う。


「礼はいらないよ」


そう返して、歩き出す。


隣に、足音が並ぶ。


「……」


一人じゃない。

それだけで、ほんの少しだけ楽だった。


駅へ向かい、電車に乗る。


移動の間、ほとんど会話はなかった。それでも気まずさはない。ただ隣にいる、それだけだった。


病院が近づくにつれて、また胸がざわつき始める。


それでも、足は止まらなかった。


病院に着き、受付で名前を伝えると、案内はすぐに通った。


「面会、可能になってます」


その言葉で、現実味が増す。


「ただし、短時間でお願いします」


「……はい」


短く答える。


廊下を歩く。一歩進むごとに、心臓の音が大きくなる。


病室の前で、足が止まる。

ドアの向こうに、結城がいる。


何を言えばいいのかも、わからない。


「……行ってきなよ」


横から、白ヶ崎の声。


「私はここで待ってるから」


「……」


ちらっと見る。


白ヶ崎は、いつも通りだった。


「……すぐ戻る」


それだけ言って、ドアに手をかける。


開ける。


病室に入る。


静かな空間。


ベッドの上に——結城がいた。


「……」


ゆっくりと、視線が合う。


「……」


その目は——光が、なかった。

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