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俺×恋=0になります。  作者: 光黒猫
第四章 俺×近くの存在=近すぎてわかりません。〜姉弟姉妹編〜
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124話 俺×再会=踏み出すか迷ってます。

朝の空気は、少しだけ重かった。


昨日のことが、頭のどこかに残っている。言えなかった言葉も、途切れた会話も、そのまま引きずっている感覚があった。


「……」


玄関の前で、一瞬だけ立ち止まる。


考えても仕方ない。そうわかっているのに、足がすぐには動かなかった。


小さく息を吐いて、ドアノブに手をかける。


開ける、その瞬間だった。

隣の扉が、ちょうど開く。


「……」


視線が自然とそっちに向く。


そこから出てきたのは——


真希那だった。


「……」


一瞬、思考が止まる。


赤坂の部屋。

そこから、当たり前のように出てきた姿。


スーツ姿で、髪も少し整えていて、いつもより大人びて見える。


「……」


目が合う。

けれど、言葉は出てこない。

ただ——胸の奥に、ほんの少しだけ別の感情が混ざる。


「……」


ちゃんと、近くにいたんだな。


そんな、どうでもいいはずのことに、少しだけ安心している自分がいた。

ずっと帰ってこなかったわけじゃない。どこか遠くに行ったわけでもない。すぐ隣に、いた。


それだけで——


「……」


少しだけ、力が抜ける。


「……あの——」


言葉を探して、口を開く。


けれど——


真希那が、こちらを睨む。


強く、まっすぐに。


そのまま視線を逸らして、何も言わずに歩き出した。


「……っ」


言葉が、途切れる。


足音だけが遠ざかっていく。


「……はぁ」


小さく息を吐く。


さっき感じた安心感が、一瞬で掻き消える。

イラつきと、落ち込みが同時にくる。


「……なんだよ」


誰に言うでもなく呟く。けれど、それ以上は何もできなかった。


そのまま学校へ向かう。


足は自然と、生徒会ではなく教室の方へ向いていた。


「……」


教室の前で、ほんの一瞬だけ迷う。

それでも、そのまま扉を開けた。


「お、楽々浦!」


神宮丸の声が飛んでくる。


「昨日マジで最高だったな!」


「お前だけだろあんな騒いでたの」


「いやいやお前も普通に楽しんでただろ!」


「してねぇよ」


「嘘つけ!」


「うるせぇな」


軽く返す。


自然に出た言葉だった。


「……」


教室の空気、人の声、ざわめき。

どれも、久しぶりに感じる。


「ね」


横から声。


白ヶ崎だった。


「ちゃんと来たんだ」


「……まぁな」


「ふーん」


それだけ。


いつも通りの距離。

特に踏み込んでこない。それが、少しだけありがたかった。


そのまま時間が流れていく。


授業、休み時間、他愛のないやり取り。

全部が、どこか懐かしかった。


そして——昼休み。


「……」


ぼんやりしていると、背後から声がした。


「楽々浦君」


静かな声。


けれど、それだけで教室の空気が変わる。


振り向く。


そこにいたのは——会長だった。


一瞬でざわめきが広がる。

小さな歓声。

視線の集中。


「……」


白ヶ崎だけは、特に変わらない。

ちらっと見るだけで、すぐに視線を外す。


「少し、いいかな」


会長が穏やかに言う。


「……はい」


立ち上がる。視線を背中に感じながら、教室を出る。人のいない廊下を少し歩いて、二人きりになる。


「……」


静かになる。


「さて」


会長が口を開く。


「気持ちは変わったのかい?」


「……なんのことですか」


「個室のことだよ」


穏やかなまま続ける。


「今日は、そこにいなかっただろう?」


「……」


少しだけ間が空く。


「……気分転換です」


短く答える。


「なるほど」


会長が小さく頷く。


そのまま、少しだけ口元を緩める。


「それなら、ちょうどいい」


「……?」


「朗報がある」


その一言で、空気が変わる。


「結城君の件だ」


「……っ」


自然と、体が反応する。


「面会ができるようになったよ」


「……え」


一瞬、理解が追いつかない。


「医師の判断でね。まだ完全ではないけれど、短時間なら可能になった」


「……」


胸が、強く打つ。


「……そうですか」


思わず、小さく息が漏れる。


会える。


その事実だけが、先に胸に落ちてくる。


「君なら、どうするかなと思ってね」


会長が静かに言う。


「行くか、行かないか」


「……」


言葉が出ない。


頭の中に、いくつものものが浮かぶ。真希那のこと、赤坂のこと、昨日のこと。


そして——結城の姿。


「……」


会いたいのか。


それとも——


「……」


自分でも、わからなかった。


「焦る必要はないよ」


会長が穏やかに言う。


「君が決めればいい」


「……」


その言葉が、静かに残る。

選ぶのは、自分だ。


「……」


小さく息を吐く。


まだ、答えは出ない。


けれど——その選択が、すぐそこまで来ていることだけは、はっきりとわかっていた。

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