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俺×恋=0になります。  作者: 光黒猫
第四章 俺×近くの存在=近すぎてわかりません。〜姉弟姉妹編〜
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123話 俺×メッセージ=うまくいきません。

家のドアを開けた瞬間、静けさが広がった。


「……」


当たり前のはずなのに、少しだけ違和感があった。

真希那がいない。それだけのことなのに、気楽とか解放感とか、そういうものはなかった。


ただ——


「……静かすぎるな」


ぽつりと呟く。


靴を脱いで、そのまま部屋に入る。電気もつけずに、しばらくそのまま立っていた。


腹は減っている。何か食べようと思ってキッチンに向かい、棚を開けてカップラーメンを取り出す。お湯を沸かそうとして——


「……」


手が止まる。


理由はよくわからなかった。ただ、さっきまでの時間が頭のどこかに残っている。

白ヶ崎と神宮丸と過ごした時間。何も考えずに笑えた時間。


それと、この静けさが妙に噛み合わなかった。


コンロの火をつけずに、ポケットからスマホを取り出し、画面をつける。


無意識だった。


開いたのは——真希那とのトーク画面だった。


最後のメッセージは、あの時のまま。喧嘩の余韻が、そのまま残っている。

既読はついている。でも、そこから何も動いていない。


「……」


何か打つ。


消す。


また打つ。


何を書けばいいのかわからない。

謝るべきか、普通に話しかけるべきか、今さら何を言えばいいのか。


指が止まる。


「……」


小さく息を吐く。


それでも、何も送らないままにするのは違う気がした。


ゆっくりと、文字を打つ。


『……話せる?』


短い一文。それだけ。


送信ボタンを押す。


「……」


既読がつくまでの時間が、やけに長く感じる。画面を見つめたまま、動けない。


数秒後——既読。


「……」


それだけだった。


返信は、来ない。


「……まぁ、そりゃそうか」


小さく呟く。


当然だ。あれだけのことを言っておいて、都合よく返ってくるわけがない。


「……」


少しだけ肩の力が抜ける。


いや、違う。


落ちたのは、気持ちの方だった。


「……はぁ」


息を吐く。


やっぱり簡単にはいかない。さっきまで少し軽くなっていたはずの気持ちが、またじわじわと重くなる。


その時だった。


——着信。


「……っ?」


画面を見る。


真希那。


一瞬、思考が止まる。


「……」


すぐに出るべきか、少し迷う。


けれど——


そのまま、通話ボタンを押した。


「……もしもし」


少しだけ声が固くなる。


『……なに』


短い声。


冷たいわけじゃない。でも、優しくもない。


「いや……その」


言葉を探す。


「……ちょっと、話したくて」


『……それで、あの一言?』


「……」


『雑すぎでしょ』


「……悪い」


素直に出た言葉だった。

でも、それ以上が続かない。


『……』


一瞬、沈黙が流れる。


『で、なに』


真希那の声が、少しだけ強くなる。


「いや……別に、なんていうか……」


言葉にできない。


謝るべきなのはわかってる。

でも、それを口にするには、まだ何かが引っかかっている。


『……はっきりしなよ』


「……」


『話したいって言ったの、そっちでしょ』


「……」


言い返せない。


けれど——


「……そっちだって」


気づけば、口が動いていた。


「……言い方、あるだろ」


『は?』


空気が変わる。


『なにそれ』


「いや……」


「……こっちもさ、普通に話そうとしてんのに」


言ってから、自分でもわかる。


違う。


これは、言いたいことじゃない。

でも、止まらない。


『普通?』


真希那の声が、はっきりと苛立ちを帯びる。


『あんな終わり方しておいて、普通に話せると思ってんの?』


「……」


『こっちは、まだ全然整理ついてないんだけど』


「……」


胸の奥が、少しだけ痛む。


でも——


「……俺だって同じだよ」


反射的に返す。


「……全部、整理ついてるわけじゃねぇよ」


『じゃあなんでそんな態度なの?』


「……っ」


言葉が詰まる。


『さっきからさ、自分のことばっかじゃん』


「……」


『ちゃんと謝る気あるの?』


「……」


ある。


けど——


言えない。


『……もういい』


その一言で、空気が切れる。


「ちょっ——」


『今は無理』


「……」


『……また連絡して』


そこで、通話が切れた。


「……」


静寂が戻る。


スマホを見つめたまま、動けない。


「……はぁ……」


深く、息を吐く。


「……なんでこうなるんだよ」


頭ではわかっている。自分が悪いことも、今の言い方が違ったことも。


それでも——うまくいかない。


「……」


ベッドに倒れ込む。


天井を見上げる。


さっきまで、少しだけ軽かったはずなのに、また元に戻ったみたいだった。


それでも——何も変わっていないわけじゃない。


連絡をした、ほんの一歩。それだけでも、前に進んだはずだった。


けれど——


「……遠いな」


その距離は、まだ思っていたよりもずっと遠かった。

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