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俺×恋=0になります。  作者: 光黒猫
第四章 俺×近くの存在=近すぎてわかりません。〜姉弟姉妹編〜
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122話 俺×友との夜=少しだけ前を向けました。

夜の空気は、思っていたよりも冷たかった。


ゲームセンターの喧騒を抜けて外に出た瞬間、その静けさに少しだけ耳が慣れなくなる。さっきまでの音が嘘みたいに、街は落ち着いていた。


「いやー、マジで楽しかったな!」


神宮丸が両手を頭の後ろで組みながら、大きく伸びをする。


「声でかい」


白ヶ崎がすぐに返す。


「いやでも楽しかっただろ?」


「まあ……悪くはなかった」


「素直じゃねぇな〜」


「うるさい」


いつものやり取り。


変わらないテンポ。


「……」


その少し後ろを歩きながら、それを聞いている。


街灯に照らされた二人の背中。何も変わっていないようで、でも確かに今この瞬間を一緒に歩いている。


その事実が、少しだけ不思議だった。


夜風が、頬を撫でる。


少しだけ汗ばんでいた体温を、ゆっくりと冷ましていく。


「なあ楽々浦!」


神宮丸が振り返る。


「さっきのプリクラ見せろよ!」


「やだよ」


即答だった。


「なんでだよ!」


「お前には見せない」


「ひでぇ!」


「自業自得」


白ヶ崎が冷たく言い放つ。


「トイレ行ってたあんたが悪い」


「それはそうだけどさ!」


「じゃあ諦めなさい」


「ぐっ……!」


完全に論破されている。


「楽々浦だけでもいいだろ!?」


「やだって言ってんだろ」


少しだけ強めに返す。


「ちぇー……」


神宮丸が分かりやすく肩を落とす。


その様子が、妙に面白くて——


「……はは」


気づけば、小さく笑っていた。


「あ」


神宮丸が目を見開く。


「今笑っただろ!」


「いや別に」


「笑ってたって!」


「気のせいだろ」


「絶対笑ってた!」


「うるせぇな」


軽く言い返す。


そのやり取りが、自然だった。


無理に合わせたわけでもなく、気を遣ったわけでもない。ただ、流れのまま出た言葉。


「……」


それに、自分で少し驚く。


こんな風に言葉が出るのは、いつぶりだろうか。


少しだけ、歩くペースが揃う。

三人の距離が、自然と横並びになる。


会話が一瞬だけ途切れる。

けれど、それは気まずさじゃなかった。

ただの、静かな時間。


足音だけが、規則的に響く。


夜の住宅街。遠くで犬が鳴く声。風が木を揺らす音。その全部が、やけに心地よかった。


「……」


何も考えていない。


いや、正確には——考えなくていい時間だった。


ここ最近、ずっと頭の中を占めていたもの。祇園のこと、結城のこと、赤坂のこと。


全部が、少しだけ遠くにある。


「……こんな時間、久しぶりだな」


心の中で、ぽつりと呟く。


何も解決していない。


状況は何も変わっていない。


それでも——


「……楽だな」


ただ、それだけを思った。


「ね」


ふいに、隣から声がした。


気づけば、白ヶ崎が横に並んでいた。

神宮丸は少し前を歩いている。


「今日の真守くん」


白ヶ崎が前を向いたまま言う。


「ちょっとマシだった」


「……は?」


思わず顔を向ける。


「なにそれ」


「そのままの意味」


淡々としている。


「さっき、普通に笑ってたし」


「……別に」


「別にじゃないでしょ」


軽く言われる。


「前よりは、全然マシ」


白ヶ崎が続ける。


「……」


その言葉に、何も返せなかった。


「でも」


一拍置いて——


「前の方が、もっとマシだったけど」


「……」


胸の奥が、少しだけ揺れる。


否定する言葉はいくらでも出せるはずだった。

うるさいとか、余計なお世話とか、放っとけとか。


けれど——


「……」


出てこなかった。


図星だったからかもしれない。


それとも——


その言葉に、嫌な感じがしなかったからかもしれない。


「……」


前を見る。


街灯が、道を等間隔に照らしている。

その光の中を、三人で歩いている。


「……別に、戻りたいとは思ってないけど」


ぽつりと、口から出た。


「でも」


言葉を選ぶ。


「最近の自分、正直……好きじゃない」


それは、初めて口にした本音だった。


「……そ」


白ヶ崎は、それ以上何も言わない。


ただ、少しだけ距離を詰めてくる。

肩が、軽く触れる。それだけだった。


でも——


それだけで、十分だった。


「……」


無理に励まさない。深く踏み込まない。

でも、離れもしない。


その距離が、やけに心地よかった。


「おーいお前ら!!」


前から神宮丸の声。


「なんか二人だけ空気違くね!?」


一気に現実に引き戻される。


「気のせい」


白ヶ崎が即答する。


「いや絶対違うだろ!?」


「うるさい」


「ひでぇ!」


いつもの調子に戻る。


「……」


少しだけ、息を吐く。


胸の奥にあった重さが、ほんの少しだけ軽くなっていた。


全部は無理でもいい。


一気に変わらなくていい。


「……」


夜空を見上げる。


雲の隙間から、星が少しだけ見えた。


「……もう少しだけ」


小さく呟く。


「ちゃんとやってみるか」


その言葉は、誰にも届かないくらいの小さなものだった。


けれど——確かに、自分の中で変わり始めていた。

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