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俺×恋=0になります。  作者: 光黒猫
第四章 俺×近くの存在=近すぎてわかりません。〜姉弟姉妹編〜
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121話 俺×放課後=少しだけ戻ってきた気がします。

電車の揺れが、やけに新鮮だった。


窓の外を流れていく景色。夕方に差し掛かった街の色。制服のまま電車に乗って、どこかへ向かうなんて、いつぶりだろうか。


「いやー久々に遠征って感じするな!」


神宮丸が楽しそうに声を上げる。


「一駅で遠征とか言わないで」


白ヶ崎が即座に切り捨てる。


「いや気分の問題だろ!」


「気分で遠征って言うのダサいからやめて」


「辛辣!」


いつものやり取り。


「……」


それを、横で聞いている。


二人は、何も変わらない。


自分の中で色々あったことなんて、関係ないみたいに。


それが——


「……」


少しだけ、楽だった。


無理に合わせる必要もないし、気を遣われるわけでもない。ただ、いつも通りの距離で接してくる。

今の自分には、それがちょうどよかった。


駅を降りて、少し歩いた先。

大きなゲームセンターが見えてくる。


「お、ここだここだ!」


神宮丸が先に走り出す。


「はしゃぎすぎ」


白ヶ崎が呆れたように言いながら、その後を追う。


「……」


その後ろを、少しだけ遅れてついていく。


中に入ると、音が一気に押し寄せてきた。


電子音、笑い声、機械の駆動音。全部が混ざって、頭の中が一瞬だけ忙しくなる。


「うおー!やっぱこれだよな!」


神宮丸がテンション高く振り返る。


「まず何やる!?」


「うるさい」


白ヶ崎が淡々と返す。


「ちょっとは落ち着いて」


「無理!楽々浦!お前何やる!?」


急に振られる。


「……別に」


少しだけ視線を動かす。


クレーンゲーム。音ゲー。対戦ゲーム。


「……適当でいい」


「よしじゃあ全部だな!」


「雑すぎでしょ」


白ヶ崎が呆れた顔をする。


「順番とか考えなさいよ」


「じゃあまずは——」


そこから、わちゃわちゃと動き出す。


クレーンゲームで神宮丸が無駄に熱くなって、結局取れずに落ち込んで、白ヶ崎に「センスない」と言われて。

音ゲーで白ヶ崎が普通に上手くて、神宮丸が「なんでそんなできるの!?」と騒いで。


その横で、ただ見ているだけの時間もあった。


けれど——


「……」


気づけば、少しだけ体が軽かった。


頭の中の重さが、ほんの少しだけ薄れている。


「ほら次!」


神宮丸がまた声を上げる。


「まだやるの?」


「当たり前だろ!」


「元気すぎ」


「若さだ!」


「同い年でしょ」


「精神年齢の話だ!」


くだらない会話。


でも——


「……ふっ」


また、小さく笑っていた。


しばらくして。


「ちょっとトイレ行ってくる!」


神宮丸が急に言い出す。


「行ってこい」


白ヶ崎が適当に手を振る。


「すぐ戻るからな!」


そう言って、慌ただしく去っていく。


「……」


少しだけ、静かになる。


そのタイミングで。


「ね、真守くん」


白ヶ崎がこちらを向いた。


「……なに」


「プリクラ撮ろ」


「は?」


一瞬、意味がわからなかった。


「いや、なんで」


「いいじゃん」


軽いノリ。


「今なら空いてるし」


「いやそういう問題じゃ——」


「行くよ」


腕を軽く引かれる。


「ちょっ……」


そのまま、半ば強引に連れていかれる。


プリクラ機の前。


「……」


妙に、落ち着かない。


「何その顔」


白ヶ崎が覗き込む。


「別に」


「固すぎ」


「しょうがないだろ」


「しょうがなくない」


即否定だった。


「ほら入るよ」


そのまま中へ押し込まれる。


3、2、1とカウントダウンが始まる。


「はい、ポーズ」


「……」


どうすればいいのかわからない。


とりあえず立つ。

その横で、白ヶ崎は普通にピースしている。


「ほら笑って」


「無理」


「無理じゃない」


近い。


距離が。


「……」


視線のやり場に困る。


「次いくよ」


シャッター音。


また、カウント。


「ちょっとは慣れた?」


「あぁ、少しは慣れた」


「嘘」


白ヶ崎が少し笑う。

そのまま、少しだけ距離を詰めてくる。


「……」


肩が触れる。さっきより近い。


「ほら」


「……」


何も言えないまま、またシャッターが切られる。


回数を重ねるごとに、少しずつ空気が変わっていく。最初のぎこちなさが、少しずつ抜けていく。


気づけば、自然と笑っていた。


「いいじゃん」


白ヶ崎が満足そうに言う。


「その顔」


「……どの顔だよ」


「今の」


またカウントが始まる。


その瞬間——


「はい最後」


白ヶ崎が、ぎゅっと腕に抱きついてきた。


「!?」


反応が遅れる。


そのまま——シャッター。


「……」


一瞬、思考が止まる。


「何してんだよ」


「別に」


平然としている。


「最後くらいサービス」


「意味わかんねぇ」


「照れてる?」


「照れてない」


「顔真っ赤だけど」


「違う」


完全に見透かされていた。


落書きコーナーに移動する。

画面に映る写真。


「……」


どれも、自分だった。

でも、どこか違う。


「ほらこれ」


白ヶ崎が一枚を指さす。


「この顔」


そこには、自然に笑っている自分がいた。作っていない、無意識の笑顔。


「……」


こんな顔、いつぶりだ。


「これが一番好きかな」


白ヶ崎がぽつりと言う。


「……」


何も言えなかった。


ただ、その写真から目が離せない。

問題が起こる前の、自分。そんな感覚が、そこにあった。


「……で」


白ヶ崎が最後の一枚を見て、ニヤリとする。


「これ」


「……やめろ」


さっきのやつだった。完全に照れている自分。


「いいじゃん」


「よくねぇ」


「分かりやすいし」


「違う」


「いや分かりやすい」


完全にからかわれている。


「これはあれだ、タイミングが悪くて——」


「言い訳下手すぎ」


「違うって」


必死に否定する。


「ほんとに?」


「ほんと」


「へー」


ニヤニヤしている。


「……」


その空気が、少しだけ心地よかった。


「おいお前ら!!」


背後から声。

振り向くと、神宮丸が立っていた。


「何してんだよ!!」


明らかにショックを受けている。


「なんで俺がいない間に!!」


「タイミング悪いあんたが悪い」


白ヶ崎が即答する。


「ひどくない!?」


「事実でしょ」


「いやそうだけどさ!!」


「じゃあ文句言わないで」


「ぐっ……!」


言い返せない。


「ずるいだろ!」


神宮丸がこっちを見る。


「楽々浦も楽しそうじゃねぇか!」


「……別に」


「いや絶対楽しかっただろ!いや絶対楽しかっただろ!!」


意味もなくニ回言う。


「よし!」


急に立ち直る。


「もう一回撮るぞ!三人で!」


「断る」


白ヶ崎が即答する。


「なんで!?」


「今ので十分」


「俺がいないじゃん!」


「知らない」


「冷たすぎる!」


「トイレ行ったあんたが悪い」


「それ言われると何も言えない!」


わちゃわちゃと騒ぐ。


気づけば、外に出ていた。

空はもう、少し暗くなっている。


「電車乗る?」


神宮丸が聞く。


「……どうする」


白ヶ崎がちらっとこっちを見る。


「……」


少しだけ考える。


「……歩くか」


ぽつりと言う。


「お、いいじゃん!」


神宮丸が乗る。


「運動にもなるしな!」


「単純」


白ヶ崎が呟く。


「でもまあ、それでいい」


そのまま、三人で歩き出す。


「……」


騒がしくて、面倒で。

でも——


「……悪くない」


小さく呟く。


その声は、完全に軽くなっていた。

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