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俺×恋=0になります。  作者: 光黒猫
第四章 俺×近くの存在=近すぎてわかりません。〜姉弟姉妹編〜
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120話 俺×過ぎていく時間=落ち着いてるだけのはずです。

一人になってから数日。静かな時間が、当たり前みたいに続いていた。


教室には寄らない。生徒会室にも顔を出さない。そのまま奥の部屋へ向かう。扉を開けて、中に入る。椅子に座る。書類を手に取る。


——それだけで一日が始まる。


「……」


無駄がない。


考えることも、話すことも、必要最低限で済む。誰にも気を遣わないし、誰にも踏み込まれない。あの部屋は、そういう場所だった。


気づけば、作業の手は止まらなくなっていた。


以前よりも、明らかに速い。迷いがない。感情に引っ張られない分、判断も単純になる。


「……悪くないな」


小さく呟く。


その言葉に、嘘はなかった。


これでいい。

そう思えるくらいには、もう慣れていた。


けれど——


ふと、手が止まる瞬間がある。


静かすぎる部屋の中で、自分の呼吸だけが聞こえる時。ページをめくる音すら途切れた時。


「……」


何もない。


本当に、何もない。それが、少しだけ——


「……」


考えかけて、やめる。


余計なことだ。

そうやって、また作業に戻る。


ノックの音がする。


「失礼するよ」


扉が開いて、会長が顔を出す。


「順調そうだね、楽々浦君」


「……はい」


「顔色もいい。無理をしている様子もない」


穏やかな声。


「君はちゃんと、自分に合ったやり方を見つけた」


「……そう、ですかね」


「そうだよ」


即答だった。


「無理に誰かと関わる必要はない。君はもう十分、頑張っている」


否定されない。


むしろ、肯定される。


「……」


それだけで、胸の奥にあった小さな引っかかりが、少しだけ薄れる。


「……ありがとうございます」


「何かあれば、いつでも頼ってくれ」


そう言って、会長は静かに部屋を後にした。


「……」


また、一人になる。けれど今は、その状態が自然だった。


気づけば、放課後になっていた。


いつも通り部屋を出て、靴を履き替えに向かう。廊下の空気が、少しだけ重く感じるのも、もう慣れていた。


下駄箱に着くと——


「あ、真守くん」


白ヶ崎の声。


「……白ヶ崎さん」


視線を向けると、その隣にもう一人。


「おい楽々浦!助けてくれ!」


神宮丸だった。


やたらと必死な顔をしている。


「こいつがさっきから冷たすぎるんだよ!」


「当たり前でしょ」


即答だった。


白ヶ崎が腕を組んだまま、冷めた目で神宮丸を見る。


「なんであんたに優しくしなきゃいけないの」


「いや同じクラスだし!仲良くしようぜ!」


「断る」


「即答!?」


「無理」


「二回言う!?」


「無理なものは無理」


「心折れるわ!」


テンポよく続くやり取り。


「……」


いつもなら、ここで何か言っていたはずだった。


ツッコミを入れて、呆れて、巻き込まれて。


けれど——


「……」


言葉が出てこない。


ただ、少し離れた場所で、そのやり取りを見ている自分がいる。


どこか、他人事みたいに。


「いやお前も何か言えよ楽々浦!」


神宮丸がこちらに振る。


「その無言が一番刺さるんだけど!」


「……」


少しだけ口を開く。


けれど、何も出てこない。そのまま閉じる。


「ほら見なさい」


白ヶ崎が淡々と言う。


「困ってるじゃん」


「困ってんのは俺だよ!」


「知らない」


「冷たっ!」


そのやり取りを見て——


「……ふっ」


小さく、笑いが漏れた。


ほんの一瞬だった。


自分でも気づかないくらいの、小さな笑い。


けれど——


「……」


その感覚が、少しだけ引っかかる。


いつぶりだ。こうやって、何も考えずに笑ったのは。


「お」


神宮丸がニヤリとする。


「今笑っただろ」


「……別に」


「いや絶対笑った!」


「気のせい」


「いや今のは笑ってた!」


食い下がる。


「ほら白ヶ崎も見てただろ!」


「見てた」


「だよな!」


「ちょっとだけね」


「ちょっとでもいいんだよ!」


勝手にテンションが上がっている。


「よし決めた!」


急に声を張る。


「ゲーセン行くぞ!」


「は?」


白ヶ崎が即座に反応する。


「なんでそうなるの」


「今の流れだろ!」


「どの流れよ」


「楽々浦が笑った、いい空気、遊びに行く!完璧だろ!」


「意味わかんない」


「論理的だぞ!?」


「どこが」


白ヶ崎がため息をつく。


「……あんたがいなければ考える」


「俺が条件で外されてる!?」


「当たり前でしょ」


「ひどっ!」


即答だった。


「……」


そのやり取りを、またぼんやりと見ている。


「ほら楽々浦!」


神宮丸がこっちを見る。


「お前も来るだろ!」


「……」


少しだけ考える。


帰っても、やることは同じだ。


誰もいない部屋に戻って、静かな時間を過ごす。


それは楽だ。


間違ってはいない。


けれど——


「……」


さっきの笑いが、少しだけ残っている。


「……どうするの」


白ヶ崎がちらっとこちらを見る。


いつもの調子で、深くは踏み込まずに。


「……別に」


小さく息を吐く。


「少しだけならいいよ」


「よっしゃああ!!」


神宮丸がガッツポーズを取る。


「決まりな!」


「はぁ……」


白ヶ崎が呆れたように肩を落とす。


「ほんと、なんでこうなるの」


「楽しいからだろ!」


「うるさい」


「辛辣!」


わちゃわちゃと騒ぎながら歩き出す二人。


「……」


その後ろを、少し遅れてついていく。


さっきまでの静かな時間とは違う空気。

騒がしくて、面倒で、でも——


「……まぁ、いいか」


小さく呟く。


ほんの少しだけ、足取りが軽くなっていた。

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