表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
俺×恋=0になります。  作者: 光黒猫
第四章 俺×近くの存在=近すぎてわかりません。〜姉弟姉妹編〜
PR
119/226

118話 俺×嫌悪感=壊れているのは誰ですか。

廊下を歩く足音が、やけに響いていた。


放課後の校舎は人が少なく、静けさが広がっている。その中を、一人で歩いているだけなのに、なぜかその静けさが重く感じられた。


「……」


さっきのやり取りが、まだ頭の中に残っている。

葵の表情、あの目。何も言えなかったあの空気。それでも——不思議と、さっきまで感じていた重さは少しだけ軽くなっていた。


「……なんでだよ」


小さく呟く。


理由は、分かっている。会長の言葉だった。「君は間違っていない」ただそれだけの言葉。

それなのに、胸の奥に溜まっていたものが少しだけ解けた気がした。


「……」


視線を落とす。


さっき流れた涙の理由も、分かっている。本当は、こんな自分は嫌いだった。

イライラして、当たって、誰かを傷つける自分なんて、認めたくなかった。


誰も傷つけたくないはずなのに、気づけば全部逆のことをしている。


「……」


祇園の事件。あの時、ほんの少しだけ戻った記憶。


それからだ。何かが、少しずつズレている感覚がある。

うまく言葉にはできないけれど、前と同じ自分ではいられなくなっているような、そんな違和感がずっと残っていた。


考えを振り払うように、歩き続ける。


その時だった。


「……」


視界の先に、人影が見える。


立ち止まる。


その人物も、動かない。


そして——


「……」


完全に道を塞ぐように、目の前で仁王立ちしていた。


奏だった。


「……」


何も言わない。


ただ、じっとこちらを見ている。


その視線が、明らかに普通じゃないことはすぐに分かった。


「……」


真守は何も言わず、そのまま横を通り過ぎようとする。


その瞬間——


「おい」


低い声。


次の瞬間、胸倉を強く掴まれた。


「……」


体が止まる。


「おまえ」


顔を近づけられる。


「葵になんかしただろ」


圧が強い。


問い詰めるというより、断定だった。


「……」


目を合わせない。


そのまま、無言で視線を逸らす。


「……なんだその態度」


さらに力が強くなる。


「……別に」


小さく、返す。


「関係ないでしょ」


挑発するように。


自分でも分かるくらい、余計な言葉だった。


「……あ?」


空気が変わる。


それでも、止まらない。


止められない。


「自分が泣いたからって、姉に頼るのかよ」


言った瞬間、自分でも分かった。


——最悪だ。


思ってもいない。なのに、口が勝手に動く。


「……」


奏の表情が、完全に変わる。


怒りが、はっきりと乗る。


「おまえ」


声が低くなる。


「次、同じこと言ったら——殺すぞ」


一歩、踏み込む。


距離が詰まる。その圧だけで、普通なら動けなくなるはずだった。


「……」


それでも——


口が、止まらない。


「……やれるもんなら、やってみろよ」


小さく、呟く。


その瞬間だった。


奏の拳が振り上げられ、迷いのない動きで、そのまま——振り下ろされる。


「……」


瞬間、体が動いた。


考えるより先に。流れるように、腕を動かす。

拳を受け流し、力の方向を逸らす。


そのまま——


一歩踏み込み、拳を突き出す。


止める。


奏の顔面、寸前で。


「……っ」


風だけが、頬をかすめる。

あと数センチ。それだけで、当たっていた。


「……」


奏の目が、見開かれる。


さっきまでの圧が、一瞬だけ消える。


驚き。


そして——ほんの少しの恐怖。


「……」


そのまま、動かない。


動けない。


「……次、同じことやったら」


静かに、言う。


「殺しますよ」


自分でも驚くくらい、冷たい声だった。


拳を引く。


そのまま、背を向ける。


「……」


何も言わない。

何も振り返らない。

ただ、その場を離れる。


背中に視線を感じたまま廊下を歩く。

さっきよりも、静かだった。


「……」


胸の奥が、ざわつく。


何かが、おかしい。

分かっている。それでも——止まらない。


そのまま家に帰り、玄関を開ける。


「……」


静かだった。


昨日と同じ。いや、昨日よりも。


「……」


靴を脱ぐ音だけが響く。


返事はない。気配もない。


「……はぁ」


小さく息を吐く。


キッチンに向かう。


冷蔵庫を開けが、何も作る気になれない。

目に入ったのは、カップラーメン。


それを手に取る。


「……」


これでいいか。


そんなことを思いながら、ぼんやりと立ち尽くす。


「……」


何もない空間。


静かすぎる部屋。


その中で、ただ一人。


「……」


ふと、手が止まる。


それでも——


何も考えないようにする。


そのまま、真守はポットに手を伸ばした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ