表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
俺×恋=0になります。  作者: 光黒猫
第四章 俺×近くの存在=近すぎてわかりません。〜姉弟姉妹編〜
PR
117/227

116話 俺×静かな違和感=崩れ始めている気がします。

朝、目を覚ました時、最初に感じたのは静けさだった。


いつもなら、どこかから物音がする。キッチンの音だったり、声だったり、無駄に騒がしい気配があるはずなのに——それがない。


「……」


天井を見上げたまま、数秒。


嫌な予感が、遅れて浮かぶ。


「……帰ってないのか」


小さく呟く。


昨日のまま、真希那は戻ってきていなかった。

スマホを見る、通知はない。当然のように、連絡もない。


「……」


胸の奥が、少しだけざわつく。けれど、それを無理やり押し込める。

考えても仕方ない。そう言い聞かせるように、体を起こした。


——教室には、行きたくなかった。


理由ははっきりしている。


今は誰とも顔を合わせたくない。


赤坂に、会ってしまうかもしれない。


何を言われるか分からないし、何を言うべきかも分からない。


「……」


面倒だった。


ただ、それだけだった。


自然と足は、生徒会室へ向かっていた。


いつもより早い時間。


扉を開けると、すでに何人かは来ていたが、特に会話もなく、それぞれが自分の作業に集中している。


その空気が、妙に楽だった。

何も話さなくていい。何も考えなくていい。


自分の席に座り、資料を広げる。

黙々と手を動かす。時間だけが、静かに流れていく。


その時だった。


「楽々浦くん」


声がかかる。


葵だった。


「その資料、こっちのデータと照らし合わせてくれる?」


「……ああ」


短く返す。


自分でも分かるくらい、ぶっきらぼうだった。


「——あ」


一瞬で気づく。


「……すみません」


小さく言い直す。


「今やります」


「……うん」


葵はそれ以上何も言わなかった。


けれど——


視線だけが、少しだけこちらに残っている。


そのまま作業に戻る。けれど、さっきまでの集中はどこかに消えていた。


「……」


沈黙が、少しだけ重くなる。


数分後。


再び、声がかかる。


「……楽々浦くん」


今度は、さっきよりも少しだけ柔らかい声だった。


「大丈夫?」


「……大丈夫です」


即答だった。


間を置かない返事。


「そうは見えないけど」


「問題ないんで」


言葉が、少しだけ尖る。


自覚はあった。

止める前に、出てしまう。


「……」


葵が、少しだけ黙る。


それでも、引かなかった。


「……何かあった?」


「別に」


「別にじゃないでしょ」


少しだけ強くなる。


その言葉に、胸の奥がざわつく。


「……」


視線を落とす。


作業に戻るふりをする。


けれど——


「……赤坂さん?」


その一言で、手が止まった。


「……」


数秒。


何も言わない。


言えない。


「……関係ないですよね」


ようやく出た言葉は、冷たかった。

自分でも分かるくらいに。


空気が、変わる。


「関係あるよ」


葵が、はっきりと言う。


「今の楽々浦くん、そのままにしていい状態じゃない」


その言葉に——引っかかる。


「……は?」


思わず、顔を上げる。


「……つまり、俺は今まともじゃないってことですか」


「違うよ」


すぐに返ってくる。


「そういう意味じゃなくて——」


「じゃあ何なんですか」


被せるように言う。


「放っといてください」


言葉が、止まらない。


「今、そういうのいいんで」


「よくないでしょ」


葵の声も、少しだけ強くなる。


「そのままにしていいわけない」


「……」


イラつきが、じわじわと広がる。


抑えきれない。


「……先輩に何が分かるんですか」


口から出た瞬間、空気が止まった。


「……」


葵が、何も言わない。


ただ、こちらを見ている。その視線が、少しだけ変わっていた。


「……」


時間が、妙に長く感じる。


何か言うべきだった。分かっている。

けれど——言葉が出てこない。


「……そう」


小さく、呟く。


それだけだった。それ以上、何も言わない。

何も言わずに、視線を外す。


そのまま、作業に戻る。


「……」


さっきまでと同じはずなのに。


空気が、まるで違う。


重い、息がしづらい。


「……」


真守は、何も言えなかった。


言えないまま。


ただ、目の前の資料を見つめ続けていた。

けれど——文字は、まったく頭に入ってこなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ