112話 俺×休日=なぜかデートになりました。
休日の朝だった。
目が覚めた瞬間、今日は何もない日だと気づく。学校も、生徒会もない。
「……」
久しぶりに、予定のない一日。
ゆっくりしてもいいはずだった。
「まーくん起きてー!」
その考えは、ドア越しの声で一瞬で崩れた。
「……」
嫌な予感しかしない。
「起きてるー?」
「起きてる」
そう答えた瞬間、ドアが勢いよく開いた。
「よし、じゃあ出かけよ!」
「は?」
意味がわからない。
「デート!」
「嫌だ」
「なんで!?」
「なんでじゃねぇよ」
(起きてすぐに何言ってんだこいつ)
「だってまーくんずっと家にいるじゃん!」
「退院したばっかだからな」
「だからこそ外出るの!」
理屈が強引すぎる。
「……面倒くさい」
「はい却下!」
即答だった。
「拒否権ないからね!」
「あるだろ普通」
「ないの!」
断言された。
「……」
数秒だけ考える。逃げられない。
「……はぁ」
ため息をつく。
「少しだけだぞ」
「やった!」
満面の笑みだった。
そのまま強引に準備をさせられ、気づけば外に連れ出されていた。
街は思ったよりも人が多かった。
休日らしい賑わい。
「ほらほら!こっち!」
「引っ張るなって」
真希那に腕を掴まれて歩かされる。
完全に主導権は向こうにある。
「まーくん、これ似合いそう!」
「絶対似合わねぇだろ」
差し出されたのは明らかに変な服だった。
「えー、絶対いけるって!」
「いけねぇよ」
「試着だけでも!」
「しない」
即拒否。
そんなやり取りを何度も繰り返しながら、店を回る。
正直、疲れる。けれど——
「……」
少しだけ、気が紛れているのも事実だった。
「ねー、次あっち行こ!」
「はいはい」
適当に返す。
その時だった。
「……あれ?」
聞き慣れた声。
振り向くと——
「……白ヶ崎さん?」
そこにいたのは白ヶ崎だった。
「……あら、偶然」
明らかに準備されていたようなタイミングで現れた。
「いや嘘だろ」
「偶然だって言ってるでしょ」
「タイミング良すぎるだろ」
「知らない」
絶対嘘だ。
「咲音ちゃん!」
真希那が嬉しそうに近づく。
「一緒に回ろ!」
「……別にいいけど」
あっさり了承。完全に合流した。
「……」
なんか増えた。
そのまま三人で回ることになり、さっきよりさらに騒がしくなる。
「まーくんこれどう思う?」
「知らん」
「ちゃんと見て!」
「なんで俺が評価係なんだよ」
「大事だから!」
意味がわからない。
白ヶ崎は横でクスッと笑っている。
そのまま時間が流れていき、気づけばフードコートに辿り着いていた。
「お腹すいたー!」
「そりゃあんだけ歩けばな」
席に座りながら、どこで食べるかを考える。
「どうする?」
「うーん……」
そんな中、真希那が急に顔を上げる。
「ねぇ」
嫌な予感。
「今日はまーくんの退院祝い第二弾をやりたくて、葵ちゃんと唯ちゃんも呼ぼ!」
「……」
空気が止まった。
一瞬で、軽かった空気が変わる。
「……やめとけ」
思わずそう言う。
「なんで?」
「……」
理由は、言わなくてもわかるはずだった。
けれど真希那は引かない。
「だってさ」
そのまま、まっすぐこちらを見る。
「まーくんと唯ちゃん、仲悪いの見てるこっちも気分悪い」
「……」
「仲直りしてよ」
まっすぐすぎる言葉だった。
逃げ場がない。
「……」
何も言えない。
白ヶ崎が横で小さくため息をつく。
「……逃げてばっかじゃ、何も変わらないでしょ」
その一言が、刺さる。
「……」
視線を落とす。
正しいことは、わかってる。
「……わかったよ」
小さく答える。
「呼べばいいんだろ」
「うん!」
すぐに笑顔に戻る真希那。
「……ほんと調子いいな」
「えへへ」
そのまま店を選びに立ち上がる。
「どこにする?」
「いっぱいあるな……」
視線を巡らせる。
その時だった。
「いらっしゃいませー!」
妙に元気な声が響いた。
一つの店。そこだけやけに活気がある。
「……なんか元気だな」
「ね!あそこにしよ!」
真希那が迷わずそっちへ向かう。
「おい待て——」
止める間もなかった。
カウンターの前に立つ。
そして。
「……」
視界に入った瞬間、言葉が止まる。
そこにいたのは——
「……いらっしゃいませ」
赤坂だった。
一瞬で空気が凍る。
「……」
お互いに、言葉が出ない。
ただ、目だけが合う。
「……」
逃げることもできた。
けれど——
「……あの」
声が出た。
自分でも驚くくらい、自然に。
「今日、その……」
言葉を探す。
「退院祝い、やるんですけど」
「……」
赤坂の目が、少しだけ揺れる。
「もしよかったら……来ませんか」
沈黙。
ほんの数秒。
「……」
「……わかった」
小さな返事だった。
それだけで、十分だった。
その場はそれ以上何も起きず、注文を済ませて席に戻る。
「……」
真希那を見る。
「……これのために来たな?」
「バレた?」
満面の笑みだった。
「お前なぁ……」
呆れる。
完全に仕組まれていた。
「でも、よかったでしょ?」
「……」
否定できない。
「……まあな」
小さく答える。
その後はまた騒がしい時間が戻る。
白ヶ崎のツッコミ。
真希那の暴走。
どうでもいい話。
笑い声。
「……」
ふと、思う。
「……ありがとな」
小さく呟く。
真希那には聞こえていない。
それでもいい。
ただ——
ちょっとだけ、助かった、そんな休日だった。




