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俺×恋=0になります。  作者: 光黒猫
第三章 俺×過去=探し出します。〜過去探索編〜
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111話 俺×病院=救われたのに前に進めません。

病院に着いた時、胸の奥に残っていた重さが少しだけ強くなった気がした。

見慣れた建物。数日前まで自分がいた場所。もう戻ることはないはずなのに、足が自然とここへ向いてしまう。


自動ドアが開く。


冷たい空気と、あの独特の匂い。


「……」


一歩、足を踏み入れる。


受付に向かうと、見覚えのある看護師が顔を上げた。


「あれ、楽々浦さん?」


少し驚いたような表情。


「退院したばかりですよね?どうかされました?」


そのまま心配そうに身を乗り出してくる。


「どこかまた痛みが出ましたか?」


「いえ、そういうわけじゃなくて……」


軽く首を振る。


「今日は別の用件で来ました」


そう言って、一呼吸置く。


「結城さんの件なんですが……」


名前を出した瞬間、看護師の表情が少しだけ変わった。


「ああ……結城さんですね」


カルテを確認するように視線を落とす。


「数日前に、意識は戻ってますよ」


「……っ」


その一言で、胸の奥に張り詰めていたものが一気に緩んだ。


「……そうですか」


思わず、小さく息が漏れる。


よかった。それだけで、十分だった。


「ただ……」


看護師が少し言葉を選ぶように続ける。


「面会は、まだ難しい状態でして」


「難しい、ですか?」


「はい。ご本人が、誰とも会いたくないと仰っていて……」


「……」


言葉が止まる。


「医師の判断で、今は無理に会わせない方がいいということになっています」


丁寧な説明だった。


拒絶されているわけじゃない。


でも、距離は確かにあった。


「……わかりました」


無理に食い下がる理由もなかった。


「ありがとうございます」


軽く頭を下げて、その場を離れる。


来る前よりも、気持ちは軽くなっていた。

それでも——


「……」


会えないという事実だけが、少しだけ引っかかる。


外に出ると、夕方の空気が肌に触れた。

病院の中より、少しだけ温かい。


「……生きてるなら、それでいいか」


小さく呟く。


それだけで、十分なはずだった。


足は自然と、自宅へ向かっていた。

考えることは、まだ山ほどある。


けれど今は——


そこまで深く考える余裕はなかった。


家の前に着く。


鍵を取り出して、玄関に手をかけようとしたその時だった。


隣の扉が、静かに開く音がした。


「……」


反射的に視線を向ける。


そこにいたのは——赤坂だった。


一瞬、時間が止まる。


お互いに、何も言わない。


ほんの数秒の沈黙が、やけに長く感じた。


「……」


何か、言うべきだと思う。


頭ではわかっている。けれど、言葉が出てこない。あの日のことが、邪魔をする。


赤坂の方も、同じだった。

視線が合って、すぐに逸らされる。


そして——


「……退院、おめでとう」


小さな声だった。


それだけ。それ以上は何も言わない。

そのまま、自分の部屋のドアを開ける。


「……」


引き止めることも、できなかった。


ドアが閉まる音だけが、やけに大きく響く。


「……」


残されたまま、立ち尽くす。


何かが、確実に変わってしまった。

それだけは、はっきりとわかる。


「……」


小さく息を吐く。


今は、まだいい。無理に踏み込むべきじゃない。そう自分に言い聞かせる。


気持ちを切り替えるように、玄関のドアを開ける。


その瞬間だった。


「まーくんおかえりーー!!」


「うわっ!?」


勢いよく飛び込んでくる影。


「ちょっ、真希ねぇまたそれか!!」


真希那だった。


完全に油断していた。そのまま抱きつかれる。


「だって帰ってきたし!」


相変わらずだった。


「……はぁ」


思わずため息が漏れる。


けれど、その温度は重くない。

むしろ少しだけ、救われる。


「ほらほら!今日もちゃんとご飯あるから!」


「毎日気合い入れすぎだろ」


「いいの!」


「よくねぇよ」


いつものやり取り。


変わらない日常。

それが、毎回少しだけありがたかった。


「……」


玄関の向こう。さっき閉まった隣のドアが、頭をよぎる。


「……ま、いいか」


小さく呟いて、そのまま中へ入る。


今はまだ——


それでいい気がした。

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