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俺×恋=0になります。  作者: 光黒猫
第三章 俺×過去=探し出します。〜過去探索編〜
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110話 俺×登校=何か欠けています。

朝の空気は、どこか現実味がなかった。


退院して初めての登校。見慣れたはずの通学路が、少しだけ遠く感じる。体の痛みはほとんど引いているのに、胸の奥に残った重さだけが消えない。


「……」


校門をくぐると、いつもと同じ景色が広がっていた。何も変わっていないはずなのに、自分だけが別の場所から戻ってきたような、そんな違和感がまとわりつく。


教室の扉を開けた瞬間だった。


「おい!!楽々浦!!」


真っ先に飛び込んできたのは神宮丸の声だった。


「大丈夫なのかよ!?ニュースみたいになってたぞ!?」


「いや、そこまでじゃねぇよ……」


苦笑しながら返すと、すぐに周りのクラスメイトたちも集まってくる。


「ほんとに大丈夫?」

「怪我やばかったって聞いたけど……」

「無理すんなよ?」


一気に距離が詰まる。騒がしくて、うるさくて——でも、それが少しだけ心地よかった。


「あー……まあ、なんとか」


曖昧に返すと、神宮丸がニヤッと笑う。


「なんとかって顔じゃねぇけどな」


「うるせぇよ」


軽く返すと、どっと笑いが起きる。


そのやり取りに、ほんの少しだけ、本当に少しだけ、戻ってきた気がした。


けれど。


「……」


教室の中を見渡して、無意識に一箇所へ視線が向く。


そこにいるはずの人物は——いない。


何もなかったように時間は流れていく。


授業も、休み時間も、驚くほど普通だった。普通すぎて、逆に現実感がない。


あれだけのことがあったのに、世界は止まっていなかった。


そして、気づけば放課後になっていた。


自然と足は、生徒会室へ向いていた。


扉の前で一瞬だけ立ち止まる。


あの場所に戻るのは、少しだけ勇気が必要だった。それでも、手をかけて扉を開ける。


「失礼します——」


言い終わる前に、視線が集まった。


一瞬だけ、空気が止まる。


「……」


何も言わない。ただ、全員がこちらを見ている。


その沈黙を破ったのは——会長だった。


「おかえり、楽々浦君」


いつもの柔らかい声だった。


会長はゆっくりとこちらへ歩いてくる。その足取りは穏やかで、優しさすら感じるほどだった。


「怪我の具合はどうだい?」


「……問題ないです」


そう答えた瞬間だった。


ふわりと、視界が近づく。


「無事でよかった」


気づけば、抱きしめられていた。


「……っ」


驚きで一瞬体が固まる。


強くもなく、弱くもない。ただ包み込むような抱擁。だが、その温度に安心はなかった。


周りを見る。


誰も止めない。


誰も何も言わない。


ただ、見ているだけだった。


「……ありがとうございます」


少しだけ間を置いて、そう返すと、会長はゆっくりと離れた。


「無理はしないようにね」


そのまま、何事もなかったかのように自席へ戻っていく。


「……」


胸の奥に、言葉にできない違和感が残ったままだった。


そのまま、副会長のスペースへ向かう。

葵の姿が見えた。


「……楽々浦くん、おかえり」


その声は、落ち着いていた。


けれど、どこか少しだけ力が抜けたようにも聞こえる。


「……ただいま戻りました」


「うん」


短い返事。


それ以上は、特に何も言わない。


病院で会っているからか、余計な言葉はいらなかった。その静かなやり取りが、逆に自然だった。


軽く視線を交わしてから、真守はその場を離れる。


生徒会室の奥へ。


「神楽坂先輩」


声をかけると、小さく肩が跳ねた。


「ひゃ、ひゃいっ……!」


振り向いた顔は、いつも通りおどおどしている。


「おかえり……」


「ただいまです」


少しだけ間を置いて、本題を切り出す。


「祇園先輩は……どうなったんですか?」


その瞬間、神楽坂先輩の視線が泳いだ。


「え、えっと……それは……その……」


明らかに、言葉を濁している。


「……」


嫌な予感がする。


「わ、私は、その……詳しくは……」


その時だった。


「それなら僕が説明しようか」


背後から、静かな声。


振り向くと、すぐ後ろに会長が立っていた。


「……っ」


気配すら感じなかった。


「彼女は退学処分になったよ」


淡々とした声だった。


「それと——施設に送られた」


一切の感情を感じさせない言い方だった。


「……」


言葉が出てこない。実感が、まるで湧かなかった。


「まあ、当然の結果だね」


軽く肩をすくめる会長。


それ以上、何も言えなかった。


その後の時間は、ほとんど記憶に残っていない。

作業をしていたはずなのに、何も頭に入ってこなかった。

気づけば、生徒会は終わっていた。


「……」


静かになった部屋を出て、廊下を歩く。


足は自然と、校門の方ではなく——駅の方へ向いていた。


考えるまでもなかった。


向かう先は、一つしかない。


「……結城」


名前を小さく呟く。


夕焼けが、やけに眩しかった。

そのまま、病院へ向かう足を止めることはなかった。

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