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俺×恋=0になります。  作者: 光黒猫
第三章 俺×過去=探し出します。〜過去探索編〜
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109話 俺×いつもの日=戻った気がします。

退院して、家の前に立った時だった。


ふと、息を吸う。


外の空気が、やけに新鮮に感じる。病院の匂いじゃない。消毒液でも、無機質な空気でもない、いつもの街の匂い。


「……」


ほんの少しだけ、肩の力が抜けた気がした。


全部が終わったわけじゃない。

自分の中では何も解決していない。


それでも——


「……帰るか」


小さく呟いて、ドアに手をかける。


開けた瞬間だった。


「まーくんおかえりーーーー!!!!!」


「うわっ!?」


視界いっぱいに真希那が飛び込んできた。


勢いが強すぎる。避けきれない。


「ちょ、待て待て待て!!」


受け止めた瞬間、体に走る痛み。


「ぐっ……!」


普通に痛い。


「大丈夫!?今の大丈夫!?」


「お前が聞くな!!」


「だって心配だったんだもん!」


全然反省してない。


むしろ満面の笑み。


「……まだ治ってねぇんだぞ」


「大丈夫大丈夫!死にかけから復活したし!」


「雑すぎるだろその理論!」


普通に危ない。


というか、今の一撃で普通に怪我が悪化しそうになった。


「ほらほら!とりあえず中入って!」


「おい押すな!」


そのまま背中を押されて家の中に入れられる。

靴を脱ぐ暇もあまりない。


「はい、ここ座って!」


「命令形かよ」


リビングに連れて行かれ、そのままソファに座らされる。


「動かないでね!」


「いやさっきから動かしてるのは誰だよ」


真守のツッコミなど気にせず、真希那はキッチンへ向かう。


「水飲む?」


「飲むけど」


「はい!」


渡されたコップ。


でかい。


「……多くない?」


「多めにしといた!」


「加減を覚えろ」


とりあえず飲む。


普通に喉が渇いていた。


「あとねあとね、ご飯も用意してあるから!」


「早いな」


「退院するって聞いた瞬間から準備してた!」


妙に気合い入ってる。


というかテンションが高すぎる。


「……落ち着け」


「無理!」


即答だった。


「だってまーくん帰ってきたし!」


理由がシンプルすぎる。


「……」


思わずため息をつく。


けど、その空気は重くない。


むしろ、いつも通りすぎて——少しだけ安心する。


その時だった。


「……あ、もう来てたんだ」


聞き慣れた声。


振り向くと、白ヶ崎が立っていた。


「白ヶ崎さん?」


「……様子見に来ただけだから」


さらっと言う。


けど、すでに靴は脱いであるし、完全に上がる気満々だった。


「それ長居するやつだろ」


「しないし」


「絶対するだろ」


「しないって言ってるでしょ」


いつものやり取り。


「……」


なんか、普通だ。


変わらない。


「それより」


白ヶ崎が腕を組む。


「無茶しすぎ」


「……すみません」


素直に返すと、少しだけ表情が緩んだ。


「……まあ、無事ならいいけど」


その言い方も、いつも通りだった。


「ねーねー咲音ちゃん!」


真希那が割り込む。


「まーくん今めっちゃ弱ってるからさ、優しくしてあげてね!」


「弱ってるって言うな」


「だって事実でしょ?」


「否定はできないけど言い方!」


「じゃあボロボロ?」


「もっと悪化した!」


会話のレベルが低い。


「……はぁ」


白ヶ崎が小さくため息をつく。


「うるさい」


「咲音ちゃんも混ざる?」


「混ざらない」


即答。


「えー」


「えーじゃない」


でも、そのやり取りもどこか柔らかい。


真希那はそのままキッチンへ向かい、「ちょっと待っててね!」と声をかけてくる。


「……」


ふと、静かになる。


白ヶ崎と、二人。


「……」


ほんの一瞬だけ。


頭に浮かぶ。


病室の光景。


何も言わずに出ていった背中。


「……」


すぐに、目を逸らす。


——今は、いい。


考える必要はない。


「……どうしたの」


白ヶ崎が首を傾げる。


「いや、なんでもない」


「ふーん」


少しだけ怪しそうに見られる。

けど、それ以上は何も言わない。


そのまま話題が変わる。


学校の話。授業のこと。どうでもいい話。

笑いもある。


「はいできたー!」


真希那が戻ってくる。


テーブルに料理が並ぶ。


「……」


普通に多い。


「多くない?」


「退院祝いだから!」


「だからって量がおかしい」


「食べれる食べれる!」


「無理だろ」


「大丈夫!」


「根拠がない!」


でも、そのまま食べ始める。


味は——普通にうまい。


「……普通にうまいな」


「でしょ!」


ドヤ顔。


「そこは褒める」


「もっと褒めていいよ?」


「調子乗るからやめとく」


「えー」


そんなやり取りをしながら、時間が過ぎていく。


笑って。


話して。


久しぶりに、ちゃんとした“日常”だった。


「……」


夜。


一人になる。部屋の中。


静かだ。


ベッドに座り、手を見る。

まだ少し、震えが残っている気がした。


「……」


ふと、思い出す。


言葉。


空気。


全部。


「……」


息を吐く。


「……ま、今はいいか」


小さく呟いて、そのままベッドに倒れ込む。


目を閉じる。

考えない。

今は——それでいい。

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