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俺×恋=0になります。  作者: 光黒猫
第三章 俺×過去=探し出します。〜過去探索編〜
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107話 俺×覚醒=取り戻します。

意識が、落ちていく。


音が遠ざかる。痛みも、重さも、すべてがゆっくりと溶けていくみたいに、境界が曖昧になっていく。


暗い。何も見えない。

それでも、どこかで——


「……まも……」


声がした。


遠くから。


水の中で聞いているみたいに、ぼやけているのに、はっきりと“自分を呼んでいる”のがわかる声。


「……まもる……」


少しだけ、近づく。


その響きに、何かが引っかかる。

懐かしいような、でも思い出せないような、胸の奥をざわつかせる感覚。


「……まも君」


次の瞬間、世界が切り替わった。


――――――


目を開ける。


畳の匂いがした。


鼻の奥に残る、乾いた汗と木の香り。頬に触れる感触は、固くて冷たい。視界に入るのは、天井の木目。


見覚えがある。


いや、見覚えなんて言葉じゃ足りない。

これは——


「……道場……?」


呟いた瞬間、頭に衝撃が走った。


「寝てんじゃねぇ!!」


ゴン、と鈍い音。


「——っ!?」


思わず体が跳ねる。


見上げると、そこに立っていたのは厳しい顔をした師範だった。


腕を組んで、睨みつけてくる。


「何回言わせるんだ。甘ったれるな」


低く、重い声。


「立て」


その一言に、体が勝手に反応する。


考えるより先に、膝に力が入る。

立ち上がる。

息が荒い。体が重い。それでも、止まらない。


「……押忍!!」


声が出た。


自分でも驚くくらい、自然に。


構える。拳を握る。

その瞬間、体の奥から何かが“戻ってくる”。


動き方。呼吸の仕方。足の運び。

全部、考えなくてもできる。


「もう一回だ」


師範の声。


「押忍!」


踏み込む。拳を出す。打つ。避ける。受ける。

全部が繋がる。


流れるように、体が動く。


——けれど。


一瞬、足がもつれ視界が揺れる。


「っ……!」


バランスを崩し、そのまま、床に叩きつけられる。


「——っ、く……」


呼吸が乱れる。

胸が痛い。体が言うことを聞かない。


「……情けねぇな」


師範の声が落ちる。


「それで終わりか?」


「……まだ……です」


無理やり言葉を絞り出す。


その時。


「まも君、大丈夫?」


隣から、声がした。


柔らかい声。


すぐ近く。


視線を向ける。


そこにいたのは——誰か。


顔はぼやけている。輪郭だけが見える。

でも、その声だけははっきりとわかる。


「……ゆーちゃん」


自然に名前が出た。自分でも、驚くくらい自然に。


「気にするな!」


言いながら、無理やり体を起こす。

足が震えながら、それでも立つ。


「男はな!」


声が、少しだけ大きくなる。


「女の子のために頑張らなきゃならねぇんだよ!!」


拳を握る。


痛い。でも、それでも。


「どんな困難でもな!!」


言い切った、その瞬間。

ゴンッ、とまた頭に衝撃。


「——いってぇ!?」


「馬鹿かお前は!」


師範の声が飛ぶ。


「今は男も女も関係ない!!」


「……っ」


「目の前のことに集中しろ!!」


「……押忍……」


頭を押さえながら、返事をする。


そのやり取りを見ていた“誰か”が、くすっと笑った。


視線が合う。


ぼやけているのに、笑っているのがわかる。


その笑いにつられて——


「……はは」


自分も、笑っていた。


——————


————


——



その笑いが、遠ざかる。


代わりに、現実が流れ込んでくる。


血の匂い。


重い空気。


荒い呼吸。


「……っ」


視界が戻る。


体育館倉庫。

床。

結城。

祇園。


「……」


ゆっくりと、立ち上がる。


痛みはある。だが、それはもう“邪魔”ではない。


呼吸が整ってい、視界が澄んでいる。

すべてが見える。

距離、動き、タイミング。


「……なんだ、こいつ」


誰かが呟く。


一歩、後ずさる。


「……へぇ」


祇園が、小さく声を漏らす。


「それ、何?」


わずかな驚き。


「楽々浦くん、そんな顔もできるんだ」


「……」


真守は何も言わない。


ただ、一歩、前に出る。それだけで、空気が変わる。

男たちが、本能的に距離を取る。


「来いよ」


強がりの声。


次の瞬間——


踏み込んでいた。


一瞬で距離を詰めると、そのまま腰の回転に乗せて拳が走る。

無駄のない軌道で放たれた一撃は、顎を正確に捉え、鈍い音と共に男の体を吹き飛ばした。


「がっ——!?」


崩れ落ちるのを視界の端で捉えたまま、真守の動きは止まらない。


拳を引き戻すと同時に足を滑らせ、次の相手の懐へ潜り込む。

体重を乗せた膝が腹部へ突き刺さり、息を潰した男の体が前のめりに崩れる。


そのまま肩を押し込み、軸を奪い、床へ叩きつける。


「ぐっ……!」


視界が開ける。


残りの位置が、すべて見えている。


背後から迫る気配。


振り向かない。


わずかに体を引き、次の瞬間、回転の勢いを乗せた裏拳が側頭部を打ち抜く。

男の体が横に流れ、そのまま崩れ落ちる。


「なんだよこいつ……!」


男の声が震える。


真守は止まらずに、踏み込む。


振り下ろされる腕より速く懐に入り込み、鳩尾へ一直線に突きを叩き込む。

空気が抜ける音と共に、体が折れ、そのまま膝から崩れる。


さらに一歩。距離を詰める。

後退しようとした最後の一人の足元を払う。


体勢が崩れた瞬間——


「——っ!!」


最後の一撃が叩き込まれた。


静寂。


誰も、立っていない。


残るのは——祇園だけ。


「……」


ゆっくりと、歩く。


足音が、やけに響く。


祇園の呼吸が乱れ、一歩、下がる。


「……っ」


「ま、待って……」


声が震える。

そして、涙が浮かぶ。


「やめて……」


「……」


真守は止まらない。


何も言わない。ただ、近づく。

その沈黙が、何よりも重い。


「お願い……」


祇園の声が、崩れる。


それでも——


拳を、ゆっくりと握る。

そのまま振り上げた、その瞬間。


「待って!!楽々浦くん!!」


アリスの声。


「——っ」


時間が、止まる。


「……あ……」


視界に現実が戻る。


倒れた男たち。震える祇園。血まみれの結城。


そして——自分の拳。


「……何……」


理解した瞬間、体から力が抜ける。


膝が揺れ、視界がぐらつく。


その隙を——祇園は見逃さなかった。


一気に距離を取り、ポケットに手を入れる。

取り出したのは、ナイフ。


「……っ!」


そのまま、結城の首元へ。


「動かないで!!」


鋭い声。


「……」


真守は、動けない。


体に力が入らない。それでも——目だけは、祇園を捉える。


「……もう、やめましょう」


静かに、言う。声は震えていない。


「……」


「こんなこと、本当はしたくないんでしょう」


一歩、踏み出す。


足は重い。それでも、止まらない。


「……」


祇園の目に、涙が浮かぶ。

けれど、何かに抵抗するように強がる。


「は?何言ってんの」


「……」


「うざいんだけど」


声は強い。でも、手は震えている。


ナイフの刃先が、わずかに揺れる。


「……やめましょう」


もう一度。


優しく。


「……」


「もう、無理しなくていい」


「……っ」


祇園の呼吸が乱れる。


涙が、頬を伝う。


それでも——


「黙れよ……!」


叫ぶ。


「何も知らないくせに……!」


「……」


「勝手なこと言うなよ……!」


「……それでも」


真守は、止まらない。


「何度でも言います」


ゆっくりと距離を詰める。


「……もう、大丈夫です」


その言葉に——


祇園の力が、わずかに緩んだ。


その瞬間。


真守は、一気に踏み込む。


手首を掴み、ナイフを弾く。

床に落ちる音。


そして、そのまま——祇園を、抱きしめた。


「……っ」


体が震える。祇園の体も、同じように震えている。


「……もう、いいです」


小さく、言う。


「無理しないでください」


「……っ」


祇園の声が、崩れる。


「……ほんとは……」


嗚咽混じりに、言葉が零れる。


「こんなこと……したくなかった……」


「……」


「……こうなる前に……助けてほしかった……」


「……ごめん」


真守は、ただそう言った。


強く、抱きしめる。


その時——


「そこまでだ」


低い声。


三宝と山影。


一瞬で距離を詰め、祇園が拘束される。


「待ってください……!」


真守は手を伸ばす。だが、力が入らない。


「離してください……!」


その瞬間。


山影の腕が振られる。


「邪魔だ」


「——っ」


衝撃。視界が弾ける。

そのまま——完全に意識が、途切れた。

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