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俺×恋=0になります。  作者: 光黒猫
第三章 俺×過去=探し出します。〜過去探索編〜
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104話 俺×勘違い=守る場所を間違えています。

朝から、胸の奥に残る違和感は消えなかった。


昨日、何も起きなかった夜。その“何もなかった”という事実が、逆に頭の中にこびりついて離れない。

本来なら、安堵していいはずだった。守るべきものは守られて、被害も出ていない。それなのに、息を吐いた瞬間、どこかで何かを間違えているような感覚だけが残る。


「……」


制服のボタンを留めながら、動きが止まる。


来なかった。


ただそれだけなのに、その“来なさ”が不自然すぎる。


予測は外れている。


それ自体はあり得る。人間のやることだ、絶対なんてない。

けれど——これまでの流れを考えれば、今回だけ外れる理由が見当たらない。


だからこそ、怖い。


「まーくん、起きてる?」


ドア越しに真希那の声がした。


いつも通りの、軽い声。


「起きてる」


短く返すと、ドアが開く。


「顔、暗くない?」


「気のせいだろ」


「いや暗いって」


覗き込まれる。


その距離の近さが、妙に現実感を戻してくる。


「……大丈夫だって」


そう言うと、真希那は少しだけ眉をひそめたが、それ以上は追及してこなかった。


「……そっか」


それだけ言って、引く。


「……」


違和感は、消えない。


いつも通り生徒会室の扉を開けた瞬間、空気の重さがはっきりと伝わってきた。


静かすぎる。


誰も無駄な音を立てない。紙をめくる音、ペンが走る音、それだけが妙に大きく聞こえる。


張り詰めている。

会長はいないのに、この空気は異常だった。


「……すみません」


その中で、ぽつりと落ちる声。


結城だった。


机の上には修正だらけの書類が積まれている。赤ペンの跡が、何度も何度も重なっている。


「また?」


黒ヶ峰が淡々と言う。


「ここ、三回目だよね」


タメ口。遠慮のない言葉。


「……すみません」


結城は視線を落としたまま、書き直そうとする。けれど、その手はわずかに震えていた。


「ほんとさ」


黒ヶ峰が続ける。


「なんであんたがここにいるの?」


静かに刺さる言葉。


「……」


結城は何も言わない。ただ、耐えている。


「……黒ヶ峰」


真守が口を開いた。


「……何?」


少しだけ苛立った視線が向く。


「その辺にしとけ」


短く言う。


「いま、仕事を教えるだけだろ」


視線を逸らさず続ける。


「結城を潰してどうすんだよ」


一瞬、空気が止まる。


黒ヶ峰は舌打ちをして、視線を逸らした。


「……別に」


それ以上は何も言わない。


けれど、空気は戻らない。


「……」


結城と一瞬だけ目が合う。


何かを言いかけて、やめたような目。

すぐに逸らされた。


「楽々浦くん」


葵の声が入る。


「確認して」


「あ、はい」


書類を受け取る。


「今は、こっちに集中して」


少しだけ強い声。


「……」


意味はわかる。


——作戦。


今、優先すべきこと。


「……わかりました」


そう答えながらも、胸の奥のざわつきは消えない。


「……」


結城のミスは続く。黒ヶ峰は黙っているが、明らかに苛立っている。


そして——


扉が開いた。


「……何をしているんだい?」


会長だった。


穏やかな声。その一言で、空気が凍る。


「……」


ゆっくりと室内を見渡し、結城の前で止まる。


「……君」


優しい声音。


「期待してたんだけどな」


軽く首を傾げる。


「この程度?」


「……」


結城は何も言わない。ただ、俯く。


「……まあいいや」


あっさりと切り捨てる。


「期待しすぎた僕が悪い」


その言葉が落ちた瞬間、結城の肩がわずかに揺れた。


声は出さない。ただ、静かに耐えている。


会長が一歩だけ近づく。

その瞬間——


「……やめてください」


真守が前に出た。


声は静かだった。

けれど、はっきりとした拒絶の意思が込められていた。


「それ以上は、必要ないです」


会長の視線が真守に向く。


数秒の沈黙。


「……へぇ」


小さく笑う。


「庇うんだね」


「……」


何も返さない。ただ、立ち続ける。


「……まあいい」


あっさりと引いた。


「楽々浦君に言われたら仕方ない」


そのまま、部屋を出ていく。


空気が、ゆっくりと戻る。


結城は何も言わず、副会長のスペースに戻ると、そのまま椅子に沈み込むように座った。


「……はぁ……」


深い、ため息。それだけだった。


「……」


真守は少し間を置いてから、その隣に立つ。


「……大丈夫か」


「……なんとか」


短い返答。


視線は落ちたまま。


「……」


無理をしているのは明らかだった。


「……無理すんな」


それだけ言う。


結城は何も返さなかった。


けれど、その呼吸は、少しずつ落ち着いていった。


「楽々浦くん」


戻るとすぐに葵の声。


「……はい」


「今、何が一番大事かわかってるよね?」


その目は真剣だった。


「……」


「作戦に集中して」


言葉に迷いがない。


「ここでズレたら、全部終わる」


「……」


その言葉が、胸に重くのしかかる。


ズレ。


まさに今、自分が感じているもの。


「……わかってます」


小さく答える。


「そしたら今日は実際に作戦を実行しよう」


覚悟を決めたようにアリスが、その一言だけを残して放課後を待った。


そして、放課後。真希那を学校近くに呼び、配置につく。


葵、アリス、赤坂。

全員が揃っている。


準備は万全。


「……」


なのに。


来ない。


時間だけが過ぎていく。


「……遅い」


葵が呟く。


「……」


胸の奥の違和感が、確信に変わり始める。


「……おかしい」


来るはずだ。来ると読んでいた。

それが来ないということは——


予測が外れたんじゃない。

そもそも、前提が間違っていた。


「……」


その瞬間だった。


「——真守くん!!」


校舎の上から白ヶ崎の声。


「転校生が——!!」


息を切らしながら叫ぶ。


「連れ去られた!!」


時間が止まる。


「……は?」


理解が追いつかない。


「……違う」


真守の中で、全てが繋がる。


「……標的……」


最初から、ズレていた。

守る場所を、間違えていた。


「……行くぞ!!」


走り出そうとする。


その瞬間——


「——待って!!」


赤坂の声が、空気を切り裂いた。


足が止まり、思わず振り返る。

赤坂の表情は、今まで見たことがないほど真剣だった。

ただ止めたんじゃない。


"止めなければいけない理由がある顔”


「……行っちゃダメ」


低く、強く言い切る。

その一言が、場の空気を一変させた。


「……なんでですか」


思わず問い返す。


「……」


赤坂はすぐに答えない。

けれど、その沈黙が——何よりも重かった。

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