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俺×恋=0になります。  作者: 光黒猫
第三章 俺×過去=探し出します。〜過去探索編〜
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101話 俺×作戦=まだ平和です。

あれだけ騒がしかった昨日の余韻が、まだどこかに残っていた。


朝、目を開けた瞬間から、それはなんとなくわかる。胸の奥にあった重さが、ほんの少しだけ軽い。完全に消えたわけじゃないのに、息がしやすくなっているような感覚だった。


「……」


天井を見上げたまま、ぼんやりする。


何も起きていない。


それがこんなにも楽だとは、少し前までは思っていなかった。


「まーくん、起きてるー?」


ドア越しに聞こえる声。


昨日と同じテンション。


「起きてる」


短く返すと、すぐにドアが開いた。


「じゃあ起きてるならいいよね」


「何がだよ」


「朝ごはん一緒に食べるの」


「昨日も食べただろ」


「今日も食べるの」


強引だった。


けれど、その強引さがどこか安心する。


「……わかったよ」


そう言うと、真希那は満足そうに笑った。


「よし」


それだけで嬉しそうにするのが、少しだけ可笑しい。


その流れのままリビングに向かうと、テーブルには簡単な朝食が並んでいた。昨日よりは少しだけ手を抜いた感じの内容だったが、それでも何もないよりは十分だ。


「今日はちょっと手抜きね」


「自分で言うな」


「昨日頑張ったからいいの」


椅子に座らされるようにして、そのまま食事が始まる。パンをかじりながら、どうでもいい会話が続く。

内容は覚えていない。ただ、笑ったり、軽く言い合ったりする、その空気だけが残る。


「ねぇ」


真希那が不意にこちらを見る。


「今日も一緒にいたい」


「生徒会ある」


「終わってから」


「……」


少しだけ考えてから、


「好きにしろ」


と返す。


「やった」


その一言で満足そうに笑う。


その顔を見て、また少しだけ肩の力が抜けた。


警戒はしている。何かが起きるかもしれないという感覚も消えていない。それでも、こうして普通に朝を過ごせることが、少しだけありがたく感じていた。


そのあとの時間は、驚くほど何も起きなかった。


教室では神宮丸が相変わらずのテンションで騒ぎ、白ヶ崎がそれを冷たく流す。真守はその間で適当に言葉を返しながら、流れに身を任せていた。


昼休みには自然と三人で食堂へ向かい、そこに赤坂が加わる。軽口と笑い声が重なり、時間はあっという間に過ぎていった。


結城の姿はなく、それについて深く考えることもなかった。ただ、少しだけ静かな余白がある。それだけの違いだった。


特別なことは何もない。


それでも、どこか満たされるような時間だった。


気づけば放課後になり、そのまま生徒会室へ向かう。


扉を開けると、静かな空気が広がっていた。

その中に、葵の姿がある。


「お疲れ様、楽々浦くん」


「お疲れ様です、葵先輩」


短い挨拶を交わし、そのまま自然に席へ向かう。


「今日、教室どうだった?」


「平和でした」


「そっか」


葵は安心したように頷く。


そのまま軽く作業の確認をしていると、部屋の隅に座っている人物に気づいた。


「……あ」


アリスだった。


「み、みなさんお揃いですね……」


少しだけ、おどおどした様子でこちらを見る。


「どうしたんですか」


真守が声をかけると、アリスは少しだけ視線を下げてから、


「その……ちょっと、気になることがあって……」


と、小さく言う。


その一言で、空気がほんのわずかに引き締まる。


「……手紙の件ですか」


「う、うん……」


頷く。


「まだ断定はできないけど……」


少し間を置いて、


「……たぶん、そろそろ動くと思う」


その言葉は小さかったが、はっきりと聞こえた。


さっきまでの穏やかな空気が、ゆっくりと沈んでいく。


「……タイミングは?」


葵の声が変わる。柔らかさの中に、仕事としての鋭さが混じる。


「わ、わからない……でも……」


アリスは一度息を整えてから、


「“油断している時”を狙ってくる可能性が高い」


と続けた。


「……」


真守は黙って考える。


油断している時。今まさに、その状態だ。


「……今だな」


自然と口に出る。


葵も静かに頷く。


「対象は……」


その先を、真守が引き取る。


「真希ねぇだ」


迷いはなかった。


これまでの違和感が、一本に繋がる。


「……うん」


アリスも小さく頷く。


沈黙が落ちる。


数秒。


その中で、結論はすぐに出た。


「やりましょう」


真守が言う。


「……何を?」


「護衛です」


はっきりと言い切る。


「向こうが動く前に、こっちが先に動く」


葵は一瞬だけ目を伏せてから、ゆっくりと顔を上げた。


「……うん」


小さく頷く。


「やろう」


その言葉に、迷いはなかった。


「アリス先輩、協力お願いします」


「は、はい……!」


一度おどおどした様子を見せてから、


「……作戦、立てるね」


と、少しだけ口調が変わる。


「時間帯、行動範囲、接触パターン……全部整理して、配置を決める」


さっきまでとは違う、はっきりとした声。


「……頼りになりますね」


真守が言うと、アリスは少しだけ照れたように視線を逸らした。


「そ、そんなこと……」


けれど、その表情はどこか強かった。


「……よし」


真守が小さく息を吐く。


「決まりですね」


葵が横に並ぶ。


三人の視線が揃う。


さっきまでの平和な一日の延長線。その中で、静かに決まった。


真希那を守るための、護衛作戦。

まだ何も起きていない。だからこそ。


その“まだ平和な今”の中で、確実に動き出していた。

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