78.真実の鍵
部屋の中の張り詰めた空気が和んでからほどなくして、マコトの右肩付近に白煙が現れ、使い魔のルクスになった。
宙に浮いたまま、腕を組んであぐらをかいているのは、お決まりのポーズ。
目が合ったマイコに対しても、かしこまる様子は微塵もない。
「状況は?」
「式神の掃討は完了したぜ。
ただし、十一姫は行方不明。
このホテルの内にも外にも気配がないから、ずらかったはず」
「私たちがいる限り、手出しはしないと思うけれど、しばらくは警戒を続けなさい」
「合点承知の助だ。
他の連中にも伝えておくぜ」
そう言い残して、ルクスはフッと消えた。
「ミナ、マコト。もう大丈夫でしょう。
この部屋の結界を解除しなさい」
「「はい! お母様!」」
「それから、私は少し、カナの様子を見ます。
カズコ。話があるから、ここに残って。
ミナとマコトとイリヤは、いったん、一階のロビーで待っていなさい」
「「はい! お母様!」」
テキパキと指示するマイコは、イリヤだけもじもじしていることが気になった。
「イリヤ。何か言いたいのなら、遠慮なく言いなさい」
「お、お母様。伺ってもよろしいでしょうか?」
「何なりと」
「お母様は、炎竜を覚醒させる目的は何だとお考えでしょうか?」
「まだわかりません。
それについて、十一姫本人が、曖昧なことしか言わなかったからです」
「お姉様方は、魔王が世界を滅ぼすため、と推理なさいました。
これについて、どう思われますか?」
「それは、可能性の一つです」
「他の可能性は、何がありますでしょうか?」
「それを聞いて、何を知りたいのですか?」
「実は、……あのお方が、悪い人には思えないのです」
「と言うことは、彼女が悪者ではないという前提での推理を知って、安心したいのね?」
「……はい」
「先入観は、事実を歪めます。
推理は、あらゆる可能性を考える必要があります」
「申し訳ありませんでした……」
ここで、マコトが挙手をした。
「お母様のお考えをお聞かせ願えますでしょうか?」
「今日、彼女と話した感じでは、ヴァルプルギスの魔宴で魔女たちへの抑止力に使うためと言っていましたが、それは取って付けた口実でしょう。
真の目的は別にあります」
「なら、やはり、魔王が世界を滅ぼすことに協力したと――」
「それは、可能性の一つ」
「他には、何があるでしょうか?」
「悪玉でなければ、善玉という見方があります」
「具体的に言いますと?」
「彼女が、悪に協力するのではなく、悪を倒す立場に立っているということです。
例えば、自分自身が炎竜を使って何かを滅ぼす。
――魔王とか」
「!!」
「おそらく真実の鍵は、カトリーン・シュトラウスが握っています。
彼女がなぜ、明日の試合で炎竜を覚醒させようとしているのか?
誰に頼まれたのか?
試合前に、それをなんとか聞き出しましょう」
「はい!」
「でも、真の目的を知ることが目的ではありません。
最終的には覚醒を阻止することを忘れないように。
場合によっては、ミナもマコトもイリヤにも、明日は協力してもらいます」
「「「はい!」」」