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ESPフェイタル  作者: 夜栗鼠丸
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闇に堕ちたその日



 射撃訓練場 午後10時 


 ペイント弾を使用した、模擬戦は朝から今現在の時間まで続いた、この模擬戦でペイント弾を一度も被弾せず30人近くのESP能力を有する者たちに、俺達三人は勝利した。

 教官が俺達の前に立ち敬礼をする、俺達もそれに対して敬礼で返す。

「殻無ザクロ、神崎ユリネ、そして西園寺ムクロ……貴殿らを成績優秀者として、ここに認定する、今後も訓練を怠らず、更なる高みへと目指すように」


 先ほどと同じように敬礼を繰り返す。

「と、まぁ堅苦しいのはここまでね……はい、被弾した生徒諸君は、教室に集まってね、PIPでESP能力に制限かけるからさ」

 この模擬戦が行われる前に、俺達が生き残ったら、俺達以外の生徒のESP能力に制限をかける、俺が出した条件だ、そして一ヶ月間、俺達の奴隷として尽くす。


「これでまた、嫌われる理由が増えたな」

「ムクロ君があんな事言うからでしょ?」

「私、まだ編入したてなのに」

「そう言うな……一ヶ月の間だけさ、俺は何もしてないのに嫌われる事に腹がたっただけ、嫌われる理由なんて……理由にならないんだ」

 そう、理由はない……ただでさえESP能力があるだけで、一般からは除外され、その力が強ければ強いほど普通のESP能力を持つ者からでさえ、嫌われる。

 これを「理由はない」と言わず、なんと言うのだ? 俺には分からない。

 ユリネはツインテールを揺らしながら、廊下を走り出す。

「早くシャワーあびたぁい!」

「私もそうするわ……ムクロ、あんたは?」

「夜風に当たってから帰る、先に行ってていいぜ、編入したてのお前の部屋は寮の五階に割り当てられてるはずだ。」

「わかったわ、ありがとう」

 二人は元気に校舎の外へ飛び出す、俺は一人遅れて、ゆっくりと歩く……今夜の月は満月だ、趣味の天体観測を楽しまずにはいられない。

 ……いい月だ、夜に上を向きながら歩くのは自分的にとても楽しい、まるで自分以外の人間が、いなくなったような錯覚を身体中に覚える、誰もいないと言うだけで、こんなに解放された気分になるのは、人を避けつづた結果とも言えるだろう。

 しばらく星空と月を見て解放感に浸りきってから、また前を見て歩きだす、流石に夜もふけると、風が冷たく感じられる。


「……ぐはあぁぁあ!!」


 ん? 叫び声? こんな夜中に……寮の方か、そう思って寮へ向かうが、寮の中からの声ではないようだ、どうやら寮の裏側からの声だ、寮の裏側は人が数人通れるか、通れないかの、細い通路が寮の壁と校内の敷地を区切るフェンスで挟まれている、気になって仕方ないので、俺は裏側をそっと覗いた。


「ま、まってくれ……どうか命だけは!」

「嫌よ……誰かを殺す目的で来てる割りには、殺される覚悟がないなんて、ヘドが出る」


 俺の目に映し出されたのは、ザクロが一人の血まみれの男をいたぶってる姿だった、暗がりで、よく見えないが、血まみれで他に二人の男が倒れている、その二人は既に息絶えているのか、ピクリととも動かず、血だまりを地面に作り上げている。


「ザクロ……お前なにやって」

「あーらら、見られちゃった……もう少し楽しんでたかったんだけど……いや、楽しみが増えたと思えばいいわね」

 こいつは何を言ってるんだ!? 昼間に見せていた明るい表情とは、まるで違う。

 鬼か何かに取り憑かれたような変貌をしている、返り血が彼女の顔の大半を赤く染めている。

「優等生、演じるのもストレス溜まるのよねぇ」

「た、頼む……たすけ……」

 ザクロがまだ息のある男の頭を踏みつけると男は動かなくなった。

「……お、お前……そいつら」

「ああ偶然、寮に忍び込んで、あなたを暗殺するように言われてた反乱分子の手先、みたいね……首元にアンチテーゼのタトゥー入ってるし」

 全員死んだ、確実に……本来なら尋問して、有る程度の情報を引き出す事が必要だ、もしくは身柄を拘束して然るべき機関に託さねばならない、それを完全に放棄して、殺戮楽しんでいたのか? 間違いないこいつは俺と同じであって、そうでない人間だ。

「はははは……嫌な所見られちゃったな、でも、もう手遅れ……口封じをしないといけないから、死んで貰おうか……まぁ最も私があなたの隣の席が良かったのは、あなたなら死んでも誰も困らないと思って機会を伺う為だしね」

 ユリネの席を奪ったのは、そんな理由だったのか……。

 そして、その言葉は俺に向けられているのか? 俺しかいない、だとしたら逃げないと……助けを求めないと……足が動かない、恐怖でか? 違うな、足が氷漬けにされて、身動きが取れないんだ。

「地中の水分を持ち上げて凍らせた……私の能力『マテリアルラウンダー』は一定範囲の物質を操る事が可能……さて、あなたはどんな風に鳴くのかしら?」

 彼女は手に持っていたサブマシンガンを俺に向ける。

 瞬間、身体に殴られたような感覚と激痛が走る……撃たれた!? マジで食らったのか!!? 腹から血が出てる痛てぇ!!!

「この世に生まれてきた事を後悔するまで、嬲り尽くして殺してあげるわ」



 身体中から血が出る……痛い……骨も折れるまで、殴られる……なんでだ、懐かしい……ああ、これは知ってる感覚だ……幼い頃、両親に散々暴力を振るわれた、その感覚に似てるんだ…………懐かしいなぁ。

 俺の意識は徐々に遠のき、自分の間の前は暗闇になって行く……。



 ふと口の中に鉄のような味が広がる、それと同時に身体の出血口に血が入り込んで、再び身体が血を巡らせ骨も元にもどり、視界も明るくなった。

「よ、よかっだぁぁぁ」

 明るい視界の先には見慣れたユリネの姿があった、ここはユリネの部屋のようだが、俺自身、瀕死からの回復は初めてだった、おそらく俺のESPの一つ『ブラッドスカベンジャー』が発動したのだろう。

「ムクロ君、寮の裏で血まみれで倒れてたんだよ?」

 半べそのユリネが疑問形で聞いてくる。

「ああ、ちょっとな……アンチテーゼの暗殺者に襲われて、不意を突かれたんだ、相打ちだったから問題ねーよ……あいつらの死体もあったろ?」

 身体に危険が迫った事をPIPが認識……ESPの制限が緩くなって『ブラッドスカベンジャー』が一時的に解除されたようだ。

「うん、不意打ちなんて卑怯な……血を飲ませられて良かったよ、あのまま死んじゃうんじゃないかと思った」

 ザクロに殺されかけた事を、うまく誤魔化す、アンチテーゼの死体はユリネが通報して回収されたようだ。

 通報という事は、生きてる俺は事情聴取などをされるのだろうか? ていうか、そもそも何故俺はユリネの部屋にいるのだろう、男子の俺が女子のユリネの部屋にいるのは落ち着かないのが普通であろう、早い所、部屋に戻り寝るか。

「さて、戻るか」

「もう帰っちゃうの?」

 ベッドの上に二人並んで座っている訳だが……ああ、そのセリフは一種の色仕掛けだな、現にユリネの体は俺に若干よりかかっていて、更に服の袖をそっと細く綺麗な指の先で掴んでいる。

 大半の男ならこのユリネの容姿と合わさってこんな事をされれば、落ちるが、俺には「いつもこいつといる」というステータス的な何かがある為、耐性がついている……悪いなユリネ。

「ああ、そうだ帰っちゃうんだ」

 俺はユリネをそっと押しのけると部屋のドアに向かって歩く。

「あわ……ちょっと……ねぇ! 命助けたのは私だよ!」

 見返りを求めるのか……まぁ確かに、命を助けられたが、以前よりもユリネの存在が俺にとって……なんかこう……大切な気がする、どうしてなのだろうか。

 立ち止まり、ユリネの方を向く、顔を膨らませて、不機嫌をアピールしている……仕方ない、ちょっとだけ付き合ってやるか。

 テレビの電源を付けて入力切替のボタンを押して、テレビの近くにあったゲーム機の電源をつけた、ユリネの部屋の半分は漫画とゲームで埋れている、女の子らしい部屋とは言えない。

「ゲームでもやるか」

「おー! 普段下手くそで、苦手だとか言ってたのに珍しいね」

 相変わらず機嫌直るの早いな、さてどのタイトルをやるかな……。

「これどう? 生物的危険6」

「6なんて出てたのか……4以来やってないな」

「二人で出来るよ、テレビ二つあるし、HDとソフトとコントローラーも二つある」

 二人でやる気はなかったが、まったく分からない物を一人でやるよりはいいだろうと、思いユリネが渡してきたコントローラーを握る。


数時間後


「随分アグレッシブになったなゾンビ……武器持ってるし」

「最近やられ役のゾンビも鬱憤が溜まってるんだよ」


更に数時間後


「やべ、もう体力ねぇよ……即死技じゃないだけまだ、マシか……4はチェーンソー、一撃だったからな」

「怯んだら体術を出せるよ」

「そーれっと、お! 倒せたか」


 結局この日は、深夜3時頃まで、ゲームをして遊んだ、遊び疲れたユリネは満足そうな笑みを浮かべコントローラーを握ったまま眠りについていた、昔からゲームが好きなユリネらしい。

 思い返せば初めてこいつと会ったのもゲームがきっかけだったか、小学生の頃、流行っていたゲームを俺だけもっておらず、除け者にされた俺に、笑いながら話しかけてくれた「これ、私クリアしたから、貸して上げるよ」今でも覚えている言葉だ。

 まぁ、そのゲームは当然、俺はクリア出来なかった、昔からゲームは苦手なのだ。


「……さて、戻るか」

 俺はユリネの部屋の電気を消すと、廊下に出る、寮の明かりも消えていて、非常灯の僅かな明かりを頼りに、五階あがって自分の部屋へもどり、シャワーを浴びて眠りについた。

 翌朝は規定時刻通り起きて制服を着て校舎へと向かう準備をした。

 階段を降りて、他の生徒達が寮から吐き出されるのを尻目に、ユリネの部屋へ向かった……部屋のドアを開けると間違いなくまだ眠っていた。

「ほら、朝だぞ! 起きて支度しろ、先行ってからな」

「ほえ……? ふわぁ〜眠むい……」

 これはしばらく、ボーッとしてるだろうな。

 俺はユリネを起こした後に、寮から出て校舎へと向かった……だが、先程から殺気の混じった視線を嫌という程、浴びせられている。

 その視線の主は俺に駆け寄り、前に立ち止まり両肩を掴むと顔を近ずけると質問してきた。

「何故……何故生きてるのよ!!」

 身長170cmあるであろう、この女は昨日、俺をありがたくも殺しかけた、殻無ザクロ本人であった。

「殺したはずよ!?」

「かろうじて生きてたんだよ……俺は他者から血液を飲まされると綺麗に再生出来るからな……にしても、俺を上回り異常者っぷりだな……俺は他人を苦しめるが殺すのは、あまりやらない」

「……そう」

 少し歩く……しかし殺気の混じった視線は消えはしなかった、ザクロの視線ではない、これは美人のザクロと並んで歩く俺への男子生徒及び女子生徒の視線だ。

「離れて歩けよ」

「嫌よ……私にその義務はないわ」

「俺と並ぶ義務もないだろ」

「あなたと並ぶ義務はあるわ」

 どんな義務だよ! 少なくともそんな傍迷惑な義務はこの状況に適されないだろう。

 しかしこいつは俺が早歩きになると早歩きをし、走り出すと走り出した。

 困った……この一分一秒、俺は周りの生徒から殺意のこもった視線を浴びせ続けられるのか、しかしこれに追い打ちをかけるように、ユリネがやってくる。

「ム、ク、ロ、くーん!」

 走り飛びつき背中に抱きつく、暑苦しい、そして何より周りの視線が怖い。

 この状況の打破は最早不可能だろう。


 朝、いつも通りのホームルームが終わる、今日は昨日のような模擬戦はない、いくら軍事学科と言えど、俺達は学生であり、学生らしい授業を受ける事も義務である。

 そして昼には食堂で食事、食事のラインナップは豊富で大体いつも俺はハンバーグを食うことにしている。

「……」

「またハンバーグ 飽きないの?」

「いつも同じなのかしら」

 いつもなら、黙々と食べ終われるが、ユリネにプラスしてザクロまでいる、まぁいい丁度良く突き放す機会が出来たと思えばいいだろう、こんな危ない奴と居たくないし……ユリネよりは物分りも多少はいいだろう。

「ユリネ……昨日俺を殺しかけたのは、ザクロだ」

「え」

 呆気に取られるユリネ。

「俺は不意をつかれたくらいじゃ死なない……ご高名なカオス様の裏の顔を見たからやられたんだ、こいつは危険だ」

 ユリネはザクロを見る、危険という認識を持たせれば近寄らなくなるだろう、当然危険視されたザクロも今後は近寄り難くなるはずだ、ザクロは黙々と和食を食べて口の中の食べ物がなくなると、箸を置いた。

「そうよ、私が殺しかけたわ」

 あっさり、認めた? 何を考えてやがる。

「ユリネ、貴方はムクロの中に抑え難い殺戮衝動があるのを知ってるわよね」

「うん」

「私もムクロと同じ身なのよ……抑え難い殺戮衝動がある、それもムクロなんかとは比にならないわ」

 優等生演じるのもストレスが溜まるとかじゃなかったか……しかし殺戮衝動ならユリネがクールダウンをかければいい話しだ。

 多分ザクロはストレスが溜まるたびに俺に「殺戮」という形で、八つ当たりするつもりなんだ、だから今は一緒にいる、ユリネがクールダウンをすれば、俺は殺されずに済む訳だが、これでは重荷が増える……ただでさえ、ユリネが重荷なのに。

 殺されるか一緒に居るか……俺が選ぶ選択肢は一つだけだ。

「ザクロ……ユリネには殺戮衝動を抑える力がある……お前も俺と同じ身なら試してみろ、しかしなんだ? なんで俺に殺戮衝動があるって分かった?」

「時々私と同じ目をするからよ、人を殺したくてしょうがない……あなた人を殺したくなった時に鏡をみたことはない? 私は偶然あったのだけど、その時の目と同じ目つきを貴方はしてるわ」

 自分の目……あまり気にしたことはないが、なんとなくそんな気がする。同じ目。

「ユリネとりあえず、ザクロにクールダウンをかけてみろ」

 ユリネは口に食べ物を入れたまま、もぐもぐしながら、ザクロの肩に手を置いてクールダウンを使用した。

「どうだ変化はあるか?」

「……ふーん、何ていうか分からないけど、殺戮衝動は引っ込んだみたいね……たしかな能力ね精神治癒の一種かしら」

「精神だけじゃなくて、軽い怪我にも効くぜ……口内炎とか」

 ザクロが口内炎と言う言葉に対して、なにそれと言いたそうな目をする。

 ちょうどユリネが食事を完食した。

「ごちそうさまー!」

「……随分食ったな、太るぞ」

 昼食をとり終えた俺達は教室にもどる、ユリネは机に戻ると、あくびをして眠った、夜遅くまでゲームしてれば普通か。

「ムクロ、あなたが殺戮衝動を感じるようになった理由と時期は?」

「なんだイキナリ……殺戮衝動なんて物心つくころにはあったさ、理由は多分両親からの暴力だ」

「……」

 ザクロはそれだけ聞くと黙りこんだ、ザクロにされた質問を此方から聞いてみようと思ったがやめた、ザクロどこか思いつめた表情をしている。

「……てないのね」

 よく聞き取れなかった。

「何か言ったか?」

「何も、それにしてもユリネって可愛いわよね」

「そうだな」

「貴方はあの子の事好きなの?」

「……な!?」

 不意打ちだったから、驚いた、思わず間抜けな声をあげて座っていた椅子から落ちそうになる。

 そして体制を立て直して考える……ユリネを異性としてあまり意識してはいなかったが、周りから見れば確かに「付き合っている」と見られるのは当然だ、そう考えると途端に俺は恥ずかしくなった。

「……嫌いじゃない」

「ふーん、好きなんだ」

 俺はあえて否定はしなかった、いや否定出来なかったのほうが正しいだろう、否定してしまったらユリネに申し訳ない気がする。

 正直の所そういうのは、未経験だし、まったく分からない、俺は本をよく読むが本はそんな事を教えてはくれない、本と言っても、そういう類の本もまったくもっていないのだ。

「好きなら、早めに気持ち伝えてあげなさいよ、伝えようとした時には遅い事もあるんだから」

「なんだ? まるで、経験でもあるみたいな言い方だな……御教授願いたいもんだぜ」

 しばらくどうでもいい話をしてると、教官が教室に入ってくる、だがいつもと違った。

 何処が違うのかというと、一人の男を連れていた、その男は正真正銘の日本のESP組織の男だった、ESP組織には警察のような多種多様な部署があるが、この男はいったいなんの部署なのだろう、ていうか警察や組織に世話になるような事なんて……心当たりがありすぎるぜ。

 一つは最近の東京都庁の事、一つはユリネにすり寄ってきた不良をいたぶった事、そして昨日の夜のアンチテーゼの事。

 男は教卓に立つ。


「神崎ユリネと西園寺ムクロ……来い」


 態度悪……ていうか、拒否権はないの? ないよね、なんか偉そうだし、逆らったら面倒そうだし、あーくそマジで帰りたい、俺は寝てるユリネを揺すって起こすと、態度のデカイ男について行く、教室の外へ出ると教室の中にいる生徒達が、何かを話しはじめる。

「なにやらかしたんだ?」

「可哀想にユリネちゃんまで」

「本当、黄味悪い」

 うざい……まぁ言いたい奴には言わせとくか、実際なにも出来ない、弱者なのだから。

 男について行くと、校長室へと入った、しかし校長室に校長の姿がない、校長の席に変わりに男が座る。

「座れ」

 来客用の席にユリネと俺は腰を下ろした、ユリネはまだ眠そうだ、それを見た男はユリネの頭を掴もうとするが、俺がそうはさせない。

 男のデカイ手の手首を掴み止める。

「すいませんね、こいつは寝ると中々起きないんですよ、起こしたいのはわかるんですけど、乱暴はやめて下さいね、仮にも俺のスポッターなんで……おい、ユリネ! いい加減起きろ!」

 俺はユリネが目が覚めるまで肩を掴んで揺らした、ようやくユリネは現状を知って、姿勢を整えると、男を見る。

「……」

 ユリネは無言だ、ユリネでもこの男を知らない事だけは確かなようだ。

 そして男は俺達はを知っている。

 何者なんだこいつは。

「私はESP組織のとある重役を任されてる者だ、今日伺ったのは、他でもない、貴殿らはGECKを知ってるな」

 俺とユリネは首を縦に振る。

「実はGECKは国家の機密対象で、一般人の貴殿らが知ってるのはまずいんだ……」

「なるほど、口封じを……ですが、方法が気に食わないですね……」

 ユリネの言葉を聞いた男は目を見開き驚いた表情をしている、つまりこの男は口封じの為に何かをしようとしているのだろう。

「この、校長室は校舎の一階最東端に位置しています、そして窓の外には大きな木がたっていて、中が見えずらい、更に廊下は最も、ひと気がない場所です」

 男は慌てて通信機のような物を取り出して通信を始めるが応答がないのか、非常に焦りだす、しかし、校長室の席に再び腰をかけると「なんのことだ」と誤魔化そうとする、しかし最早遅い……「口封じ」と「ひと気のない場所」をキーワードに考えられるのは、殺害だろう。

 俺はESPを使って男の心を読んだ、どうやら本当に殺害する気だったようだ。

(まずい、バレてるのか? いやまてまだ策はあるはずだ、校長室の外に待機してる仲間に……)

 どう考えてもバレてんだろ、アホ……俺は席を立つ。

「どうした? 顔色が優れないな、あんた……汗もひどい」

「な、なんの事だ」

「大方、国家機密を知った俺達を消して、ついでに国に危険視されてる俺を殺しとこうと思ったんだろ、だが、失敗した」

「ムクロ君……窓の外に一人、廊下に二人」

 俺はナイフを取り出して、手の平でクルクルと回す。

「この男はどうするんだ? 先にやっちまうか」

「ううん、その人は動けない程度に」

「ま、待ってくれ私は!!」

 男は何かを言おうとするが、先に俺の投げたナイフが足に刺さった、そして叫び声をあげると廊下にいた二人が、入ってくる。

「どうした!?……ぐはっ」「なんだ、うお……ぉぉぉ」

 素早くナイフをもう一つ取り出して、床を蹴って跳躍すると、片方の男の心臓を刺し、抜き取ると同時にナイフの持ちてを逆手にして、もう片方の男の首を切り裂くと、鮮血を噴き出しながら床に倒れた。

「あー返り血、ひでぇな」

「窓の方はスナイパーだよ」

 俺は痛い痛いと泣き叫ぶ、男の懐からハンドガンを抜き取ると、窓を開けて銃を撃った。

 ハンドガンの射程圏にスナイパーを配置する程舐められているのは非常に心外だ、銃弾は窓から微かに見える、体育館の上にいる敵の眉間を貫いた。

「そ、そんな……精鋭だぞ、簡単にやられるはずが」

「あんたの任務は失敗だよ、ユリネは敵の配置が分かり、そしてそれを俺が殺す、最強のスナイパ&スポッターに喧嘩売ったんだよ」

 ユリネは男に近づいて、前かがみになる。

「それで、悪いんですが……あなたには生きて帰って今の事を報告して下さい……私達を消そうとするのは不可能と、そして私達はGECKの存在は知らなかったと伝えて下さい、でないと次は……」

「殺す」

 男の足に刺さったナイフを抜き取ると、男は地面を這いずって校舎から消えた。

「教官が私達を売ったのかな?」

「なんでだ?」

「教官もGECKを知ってる……あれは私達のPIPの大元なんでしょう? しかも大元って教えてくれたのは教官」

「確かにな……ちょっとキツ目に問い詰めて、売ったのがあいつなら……」


「殺すかい? やれやれ二人とも派手にやったね……後始末を考えて欲しいな」

 噂をすればと言う奴だ、問い詰めてようかと思っていたが、止めた……ユリネはホッとした表情をして、教官を見た。

「教官は私達を売ってはいないんですね、このタイミングで入ってくことは……授業は?」

「自習にしてあるさ、死体の片付けをしないとね」

 俺はナイフの血を拭き取りながら、廊下へでる、後からユリネが急いでついてくる。

 だが、去り際に確認しなくては。

「教官、この事態を把握してたのか?」

「うん、もちろんさ、でも僕の自慢の教え子が殺される訳ないだろう……特にムクロ君、君はね……しかし、まさか殺害しちゃうなんてな……精鋭部隊に三人の空きが出来ちゃったよ、どうしよう」

 知るか……しかし、危険視されてる以上、今後もこういう事がないとは言い切れないだろう、何たって国が敵に回っていると言ってもおかしくない……しかし、そうなると分からな事が一つある、俺をこの学校に通わせている事だ、いっそのこと殺せる時に殺せばいいだろうに。

 まぁ疑問と同時に解る事も、全くない訳ではない、解る事というのは、犠牲を覚悟で不穏分子を呼び寄せる事、例えは俺を捕らえて利用もしくは、殺害するには確実にここに来る必要があるのだ、つまりはエサだ。

 もう一つは不穏分子と同じ考えを持つ国の者達からすれば、俺の力は「利用出来る」という事だ。

 先程の敵が少数であったが、ESPを統率する組織では、俺を排除したい者と、俺を利用したい者がいるようだ。


 

 何だってこんなに、この世界は生きにくいんだ? 俺達が何をしたって言うんだ? 俺達が悪いのか?

 違う俺達は悪くない、悪いのはこの世界と、俺達を受け入れない人間達だ。

「……昔はさ、ユリネ……俺達は普通の人間でありながら、少し不幸だったよな」

「どうしたの急に」

「最近少しはマシになったと思ったが、やっぱり、あまり変わらないみたいだ、周りの環境に振り回されて、罵られ、罵倒され、哀れまれ、馬鹿にされる」

「……」

 ユリネはなにも答えない、ただ暗い表情を浮かべ、俺の話を聞いてる。俺は話を続けた。

「それでも生きていたいだなんて、かなり前向きだよな……でも俺、流石に疲れたよ……ここに居たって何も変わりゃしない、だからってこんな所抜け出しても、力が操れない俺は、追われて追いつかれて、連れ戻されるんだ……もういっそのこと死ねたら楽なのにな」

 そう言った時、ユリネの平手打ちが俺の顔に炸裂した。

 痛い……ユリネ?

「馬鹿! 私はムクロ君の為に……ムクロ君は危険な存在じゃないって事を頑張って伝えようとしてるのに……」


 ああ、そうだ……こいつはこんな事をしてたな、でも具体的に何をしてるかは知らない……。

 ユリネはそれだけ言うと走って何処かへ行ってしまった、俺はただ呆然と立ちすくむ。

 この世界が憎い、憎くてたまらない、それでも生きたいが、それすら許されないって言うなら……こんな世界ぶっ壊してやる。


 精神安定剤を飲み込む、夕焼け色の空が俺に早くやりたい事をやれと言っている気がした、寮に戻り部屋へ入ると制服を脱ぎ捨てる、部屋の中から必需品を掻き集めてから、身仕度を済ませた。

「後戻りはしない……」

 呟いた……俺は今何をしようとしているんだろうか……正しい事ではない、きっと悪人がする事をしようとしてるんだ。

 でもこんな世界に生まれた事を呪っても仕方ない、なら行動して変える。

 俺は夜になるのを待つと寮から飛び出した、そして学校からも出る、立派な校則違反だ……でももうここには戻らないのだ。


 俺は東京都庁に向かった、俺がいまからやろうとしてる事はGECKへのハッキングである、東京都庁の何処にあるかは分からないが、情報は現地調達するしかないだろう。

 時刻は夜9時半を回り、東京都庁の中から勤め人が吐き出される。

「よし、誰にする……出来れば歳を喰ってて偉そうな奴にするか」

 俺は思考が口に出たのも気がつかない、そして一人の男に目を付けた、よしあいつにするか。

 俺は男の帰宅を尾行して、ひと気のない場所でナイフを取り出し、つきつけて路地裏へと連れ込む。

「金ならやる! 見逃してくれ」

「そんな物はいらない、俺が欲しいのはお前の社員証とGECKの情報だ」

「……そんな物でいいのか?」

「早くしろ」

「わ、分かった、ほら社員証だ……それとGECKは地下にある……常に重装備をした警備員が定時連絡を取り合い50人体制で、警備してる……監視カメラも至る所にある……」

 ビンゴだったようだ。

「あと一つ」

「な、なんだ」

「GECKの操作はどうしたら出来る」

「わ、私の社員証をかざせばいい、もう見逃してくれ……私には家族もいるんだ」

「……分かった、社員証は必ず返しに来る、ないと困るんだろ?」

 それだけ言い残すと、俺は再び都庁へ向かった、都庁の正面玄関は広々としたロビーに空港にある金属探知機のゲートが設置されている、俺は持っているナイフや銃が反応するのを承知で、ゲートを通る。

 金属探知機のランプが赤く光る

「はい、止まって……君誰?」

「以前ここが占領された時に来た者です」

「ああ、軍事学科の……腕輪が反応したんだね、通っていいよ」

 うまく口実を作り切り抜け、社員証を使って、奥の部屋へ入り長い廊下を歩く、しばらくして明らかに怪しい雰囲気があるエレベーターに乗り込む、そして地下へ降りて行く。

 エレベーターの中でガスマスクを付ける、エレベーター内には監視カメラ等はない、潜入装備を整えてエレベーターから降りる。

 エレベーターから降りた先には金属の足場があり梯子がかかっていてた、まだ下があるようだ。

 いやまて妙に薄暗いが、下の方は若干明るいな、何故だ? 俺は金属の足場の柵から身を乗り出し下を覗いた。

「これがGECK、まるでサーバールームだな……統率端末があるはずだ、探そう」

 俺は梯子を降りた、降りたところから、監視カメラに映らないように死角に入り警備の目をかいくぐる、警備員達は皆、機関銃を手に徘徊しているようだ。

 俺は姿勢を低く保ち、警備員の一人に対して対人格闘で習ったCQBの近接格闘で、相手を投げ飛ばしてから相手をに馬乗りになると喉元にナイフを突き付けると、質問した。

「GECKの統率端末はどこだ?」

「……こ、このサーバールームの南西に小さな部屋がある、そこのコンピューターで操作を行っている……こ、殺さないでくれ」

「ありがとさん!」

「ぐはっ!」

 みぞおちに強烈なパンチを打ち込み気絶させる、警備員の装備を剥ぎ取り、裸にして隠した。

 同じ装備なら見つかっても平気だろう。

「よし、ぴったりだな……」

 警備員の言った通りに南西へと向かう、サーバールームなだけあってかなり広い、人物の身長より高い、よくわからない機械が列を成して並んでいる。

 やがて、南西へと辿り付くと警備員の言った通り目的の場所に辿りついた、部屋のカードリーダーに社員証をかざして、部屋のロックを解除する、部屋の中にはコンピューターが一台だけあり、そのコンピューターにはカードリーダーが付いていた、これも社員証をかざすと操作可能になる。

 さて、GECKへアクセスだ、文字だらけだな、管理画面にはGECKによって記録されている、人間の名前がズラリと並んでいる、こいつらは全員PIPの装着をされているようだ。

 俺は画面左上端の方に目的の人物を探し出す検索エンジンがついてる事に気がついて、自分の名前を打ち込み、管理画面の自分の名前をクリックした。

「よし、これだ」

 クリックすると同時に俺は自分についての記録を見た、その中にいくつか気になる単語があり、注意深く、それを読みすすめた。

『危険度5 最高レベル スペックレベルエラー 出生東京都 旧姓 殻無』

 殻無……なんでザクロの苗字が?

『状態 健康 経歴……両親から執拗な虐待を受け育ち、非常に危険性の高い性格をしている、両親離婚後、母方に引き取られた、現在母親は行方不明』

 なんだ、これは……確かに両親からは虐待を受けていた、母親が行方不明なのも知ってる、だが、この旧姓が殻無と言うのはなんだ? 母親の旧姓は確か西園寺で俺は西園寺家の人間で間違いない、確か父親は婿養子だったか……俺はそのせいで……。

 なんだ? 何か大切な物を忘れている? 

 ふと社員証の社員名を見た、殻無と書かれていた。

 ……おいおい待てよ、なんなんだよこれ。

 一気に頭の中が混乱する、俺は呼吸を止めて、とりあえず当初の目的を果たす事に専念するようにした。

「PIPの制限解除……これだ、よし、それから健康状態を昏睡状態に変更……いつもユリネのそばに居たおかげでハッキングも覚えられた……」

 これで今の自分を止められる物はない、殻無と俺に何があったのかは分からない、気にはなるが、後回しだ。


『施設内に侵入者 施設内に侵入者 これは訓練ではない 繰り返す 施設内に侵入者』


 ちっ、気絶させた奴が見つかりでもしたか、まぁいい、PIPの制限解除された俺に敵う奴なんていない。

 俺は部屋を飛び出す、すると数多の警備員が銃を発泡してくる。

「あぶなっ!」

 部屋の近くにあった建物を支える柱に身を隠す、銃弾は部屋を風穴だらけにし、先程まで自分が立っていた場所は銃痕が残っている、精密機械が置かれてるのに、お構いなしか。

 俺は腰にぶら下げていた、催眠ガスの入った煙幕を投げた。

「催眠ガスだーっ!」

 数十名の警備員が催眠ガスで眠ったが、まだ残っている奴がいるようだ、糞……早い所片付けないと、外へ出た時に囲まれる……どうする。

「……こっち」

「お前は!」



 一瞬にして、周りの景色が移り変わる、この感覚を俺は知ってるいる、模擬戦の時にあった。

「逆撫……」

「勘違いするなよ、私は頼まれたからお前を助けた」

 それだけ彼女は言い残すと虚空へと消えた、頼まれた? 誰にだ……俺があの場へ行く事を知ってる、もしくは、予想できる人物……まぁ今はいい。

 社員証返しに行くか。


「ほらよ……」

「……君、何処かであった事あるか?」

「ねぇよ……こっちからも質問いいか?」

「もちろん」

「殻無ってのは、あんたの名前か?」

「ああ、そうだとも……私は殻無ロクロ」

 何処と無くだが、俺やザクロに名前が似てやがる……次の質問だ。

「西園寺ムクロを知ってるか? 数ヶ月前に国家非常事態を発令させる原因になった、イカれた殺人鬼だ」

「知っている……彼の事を追っているのか? 彼がESPを発現した時に、彼が錯乱し、何人もの人が殺され復讐を企む輩は沢山いる」

 そんな事を聞きたいんじゃない、質問の仕方を変えるか。

「あんた子供はいるのか?」

「い、いる……二人だが、片方の子は離婚した妻に連れて行かれてしまった」

「そいつの名前は?」

「ムクロ……」

 マジかよ……てことはザクロは腹違いの兄弟って訳か。

「俺がそのムクロだとしたら?」

「……な、何が言いたい」

「俺は両親から虐待を受けてたんだ、母親は俺のせいで子を産めないって理由で、父親は血の繋がらない奴なんて、家族じゃないと言ってな」

「……まさか」

 老け顔の男は驚いている、俺は怒りが湧いて抑えこもうと必死に拳を握る……。

「き、君がムクロだって言うのか!?」

「GECKで全部見たんだよ……旧姓が殻無だった、それでオマケに殻無ザクロって奴が転校生でいやがる、更には貴様はその父親、間違いないな」

 怒りが表情を塗り替え、あらわになってしまったのか老け顔の男は後ずさりをして後ろへと尻もちをついた。

「す、すまない事をしたと思ってる、私の浮気が原因で、離婚したんだ……まさかそんな辛い思いをしてるなんて」

「今ここで、てめぇを殺してやるか迷ってんだがな」

「ゆ、許してくれ」

 俺はナイフを取り出す、怒りに任せて振り下ろせば、俺を辛い環境に置いた人間を殺せる。

 だが出来ない何故だ、憎いんだろ、こいつが憎くてたまらないんだろ。

「あああああ!」

「ひっ!……」

 俺はナイフを投げ落とした、男のすぐ腰の横の地面に落ちて刺さる、男は立ち上がると走って逃げていった。

「はぁはぁはぁはぁ……俺は何を、してるんだ」



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