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ESPフェイタル  作者: 夜栗鼠丸
4/4

三人の反逆者

【ESPフェイタル 4】


 地面に刺さっているナイフを拾う、しばらく呆然として、何もしない、ただ立っているだけだ。

 俺は親父に何をしたかったのだろう、謝罪を求めていた訳じゃない、じゃぁ殺害して恨みを晴らす? 違う……やり場のない怒りに困っていただけだろう。

 夜道を歩き出す、世界を壊す計画はまだ途中だ、自分のPIPを見る。


【ESP 制限 なし】

【ESP名 フェイタルブラッドハート】

【ESP詳細 ……エラー】

【スペックレベル ……エラー】


 GECKへのハッキングはしっかり出来ているようだ、国家機密に手を加えたのだ、国家反逆罪で、この国から追われる事になるな。

 だが、まだやる事は山程ある、計画をおさらいしておこう。

 第一段階はアンチテーゼやその他、この国の脅威になる勢力を排除する、それも俺の手で。

「やってやる……世界を壊す為だ」

 俺は夜道をまた歩き出して、適当なネットカフェへと入る、そしてシャワーを浴びる終えると個室の端末のスイッチをオンにする。

「最近のアンチテーゼとか、犯罪等の情報収集とやらをするか」

 検索エンジンをクリックしたが、突如その時、電子メールが着信した。

 ……店のPCに対して電子メール……こんな事出来る様な奴、ユリネ以外にいる訳がない。

 案の定予想していた通りユリネからの電子メールであった。

 内容は戻ってこいとのメールだったが、戻るつもりはないと返してやると、理由を聞いてきた。

 俺はそっとキーボードのキーを押して返信を返した。




 午前2時 軍事学科ESP寮 ユリネの部屋


「私も……反逆者になる!」

「本気なの? ムクロがやろうとしてる事は、この国の全てを敵に回すことよ、あなた達2人が最強だからって生き残れる保証はないのよ」

 そんなの分かっている事、でもあんなメールの返事されたら、私もやらないわけには、いかないんだから。

「私は、ムクロ君の為に生きてるの、たとえ誰が敵であろうと、この身を引く気にはなれない」

 ザクロちゃんは私の言葉を聞いて、目を細くしながら頭に手を当てて溜息をついた。


 私が小学生の頃、ムクロ君に出会った、最初はおかしな子だと思った……人が苦しむ様や動物をいじめては笑う、正直怖かった。

 でも、偶然にも彼の残酷な性格が私を助けた事が全ての始まりなのかもしれない。

 いつもの帰り道で私は誘拐されかけた事がある。

「離して! 誰か!」

「大人しくしろ、お嬢ちゃん……へへへ」

 一人の中年男が、私を担ぎ上げ車に乗せたのだ、抵抗するも虚しくドアを閉められ、男が車を発進させた時だった、車は急にスリップした。

 それと同時に笑い声が聞こえた、とても甲高い声で、それがムクロ君だった。

 彼は片手にナイフを持っていて、車のタイヤのゴムの切れ端がナイフに絡まっていた、それを見た男は逆上して、車から降りてムクロ君に向かって行った。

「てめぇ! なにしてんだ!」

 車内から私はムクロ君が襟首を掴まれて持ち上げられている姿が見えた、誰かを呼ばないと、しかしムクロ君は笑いをやめると、死んだ目をして男をただ見ていた。

 男はムクロ君を殴ろうと拳を振り上げたが、その刹那の一瞬で、襟首を掴まれていたムクロ君のナイフが男の腹を貫いていた。

「あがっ!」

「グリグリすると、内臓出てくるんだよ、知ってる?」

「うっ……やめ……」

「死ね死ね死ね……お前なんて、正当防衛だぁ」

 男は腹を貫いているナイフを手で止めようと試みたが、ナイフは両刃の為、掴んだ手すら切りつけていた、やがて男の体からおびただしい量の血とピンク色の何かが出てきた……腸だ、男の腹からは腸がナイフによってえぐり抜かれていた。

「ははははは!!」

 その腸が出た瞬間、またムクロ君は笑い始めた、怖い……見ているだけで、怖い、だがそれと同時に微かに私は心が高揚していた。

 そうだ、そうなって当たり前だ……殺してしまえ! そんな奴生きてる価値なんてない! 死刑だ!

 驚いた私の中にもこんなドス黒い感情があるなんて。

 やがて男は倒れて、ムクロ君はその男に馬乗りになるようにして、ナイフを引き抜いては、また刺し、引き抜いては刺しを繰り返した。

 私は車から飛び出して、その場から逃げるのではなくムクロ君に駆け寄った。

「……あ、ありがとう」

 普通ならこんな言葉は出ない。

「はぁ? なにお前……」

「あなたのおかげで、私助かったの! だからありがとう」

 ムクロ君は男から降りる、首をかしげてナイフを持ったまま腕を組んで考えだした。

「……人を殺して、お礼を言われる?」

「確かに殺しちゃったね……でも、そのおかげで私は助かってる、今度は殺さないで助けて欲しいな」

 私は何を言ってるんだろう、普通なら今すぐにでもこの場を去る、もしくは誰かに助けを求める場面だ。

「なぁ、殺さないで助けたら……またお礼言ってくれるのか?」

「うん、もちろんだよ!」

「わかった、殺さないで助ける……約束だ」

 その日から私が誰かにいじめられたり、けなされたりすると、ムクロ君は飛んできて、私を助けてくれた。


「ありがとう、ムクロ君」

「やっぱり気分いいや、お礼言われるの」


 徐々にだが、ムクロ君と親しくなるにつれて、一緒に遊んだりするようになって、中学生になる頃には、ムクロ君も人並みには常識を持ってきて、人を自分から傷つける事はしなくなった。

 それでも私に何かあるたび、私に気を使って、話を聞いてくれたり、時々私を悪く言う奴を見つけては喧嘩して、孤立しがちな私を助けて、まるで……。



「だから今度は私が助けるね、ムクロ君」

 私はPCをアタッシュケースにしまうと、部屋を飛び出した。

「ちょっと、ユリネ! まったく……止めても聞かないわよね」

 寮の玄関を出る、走る……体力はかなり自信がある、遅れてザクロちゃんが走ってくる。

「ザクロちゃんには関係ないよ?」

「そういう訳にもいかないのよ、殺戮衝動のリミッターがいないと、不便だし……ムクロにいま何かあっても困るからよ」

 それだけ言うとザクロちゃんは自分のPIPをいじって、PIPの内側からカードを抜き取る。

「なにそのカード?」

「サイフみたいなものよ」

 確かにクレジットカードのような物だ、だけど私はまるで見たことがない色と綺麗な模様が入ってる。

「この先、金銭的な事で困ったら使える」

 ああ、やっぱりクレジットカードなんだ。

「もしかして……それがあれば何でも買えるの!?」

「もちろんよ」

 実はさっきから私はお腹が空いている……しかしそれは困った時だけ使うものだ。

「なにカード見ながらよだれ垂らしてんのよ、まさかお腹空いたから、これでご飯とか考えてる」

「うっ……確かにお腹はすいてます」

「しょうがないわね、何か食べる?」

「ステーキとかでお願いします!!」

「急いでるのに!?」






 無音な個室、無音と言っても完全に無音ではない、PCの独特な起動音が静かになっている、月明かりが窓から心地よく刺す。朝よりも夜の方が好きだ。

 俺はそろそろ眠ろうと目を閉じようとしていた、深夜何時なのかは分からない、PCで調べた情報には限度があった、国への反乱分子やらアンチテーゼやらの情報はどれもニュースや新聞で報道があった物だ。

 こちらからアプローチを試みるも、いい方法なんて思いつきもしないし、その発想すらどうしたらいいか分からない。

 こんな時にユリネが居てくれたらな、あいつなら完璧な作戦を考えてくれるんだろうな……ん?  窓の外で何か光った? ランダムに発せられた光……光った場所は、ここから少し離れたビルの屋上か10階建てくらい、この部屋は6回……まさか!

 俺はその場から飛びのいて部屋の明かりを消す、先程まで月を映し出していた、窓は粉々に割れて、室内の床に散る同時に床には銃痕が出来上がる。

「危なかった……完全に不意をつかれた」

 部屋の壁を伝って、窓まで近づいて手鏡で相手の位置を確認する。

「あそこか、まだ動かない?」

 だが次の瞬間、割れた窓から何かが飛び込んでくる、緑色でゴツゴツとしている……手榴弾!

 俺は部屋から飛び出す、部屋のドアが吹き飛び爆風で体が少しだけ空中に浮き、こける。

 さっきの手榴弾はスナイパーの方じゃない……下から投げ入れた感じだった……ん? このネットカフェ俺以外の利用客がいなくなってる……ちっ、贅沢して個室なんて取るんじゃなかった!

 くそっユリネ無しでは敵の位置なんて想像もつかない、どうする? 戦いは避けて、なんとか逃げるしかない……攻撃の方法から、敵は二人以上、尚且つ包囲されてる可能性がある。

 俺はPIPの健康状態をチェックする、ちゃんとハッキングした時の昏睡状態になっている、俺がちゃんと動ける事が分かる人間が仕掛けてきてるのか?

 このネットカフェは3階が受付になっていて、その上の4階、5階、6階が主なパソコンと敷居だけの部屋となっている、6階にのみ個室がいくつかある、脱出するとなると3階の受付からエレベーターに乗り1階へと出て行く事になる……どうする。

 下の階から階段を上がる音がする、エレベーターも動き出した……まずい来てる……なにか手はないのか? 天井に通気口ダクトが剥き出しになってる……あれだ!


「6階へ到達、ターゲットの確認を始める……」


 ダクトに隠れた事をバレないよう静かに匍匐前進をする。

 通気口の中は所々網目になっていて下の様子が伺えるようだ、情報が少ないまま動き回るのは、まずい、網目から奴らを覗いてみておこう。


「遺体はないな」

「生きて逃げたか?」

「まさかだが、だとしたら何処へ逃げた?」

「こちらチームマルチーズ……ターゲットロスト」


 チームマルチーズ……チームマルチーズ……チームマルチーズ……頭の中でエコーが効いた音声で3回繰り返された、何故、愛くるしい犬の犬種をチーム名にしたんだよ! 随分手の込んだ襲撃仕掛けてくるから、もっとかっこ良くて記憶に残るチーム名にしろよ! 何だよチームマルチーズって! せめてFOXとかにしろよ!

「おいおい、ワンワンカンパニーの初仕事ミスったら今後仕事来ないぞ、急いで探せ」

「ラジャー」「ラジャー」「ラジャー」

 まぁ名前はどうでもいい、この際会社名も無視だ、ワンワンカンパニー……ファンシーな名前のくせして、やり手のPMCって所か。

 俺はダクトの中に小一時間篭る事にした。




 完食し山盛りになった空き皿、水を注ぎ濡れたコップ、ふ……ここで全てをチャラにする、あのメニューを頼む。

「カレーの激辛チャレンジ……スペシャルで」

「お嬢ちゃん本当にやるのかい?」

「気になさらないで、もしダメだったら私が払いますので」

 ザクロちゃんはステーキハウスの店主に黒いカードをちらつかせるように見せる。

 店主はそれを見て、ほっとするのと同時に驚きもした、すごいカードなんだな。

「じゃぁ、ちょっと待ってね」

 店主が厨房へと入る。


「ユリネあなた…8万近く食べてるわよ? 本当に大丈夫なの?」

「大丈夫だ、問題ない」

 親指を立てて答えてあげた。

「何故かやたらと心配になるセリフね」

 ちなみに今がどう言う状況かと言うと、ステーキハウスで目についた美味しそうなメニューの料理を片っ端から食べている、当然私の胃袋は今までの料理が入っている、しかしここで問題が発生する、料金だ。

 ザクロちゃんの言う通り私は既に8万以上の料理を口へ運び胃袋に収めた、ステーキハウスは深夜と言え、まだ賑わいがあり周りには他のお客もいる、さっきからジロジロと見られているが、それは仕方ないだろう、どう見ても小柄な少女がとてつもない、大食いなのだから……人を見た目で判断すんなよ、お前ら。

 厨房では店主と従業員が作戦会議を、お客達の視線は私に釘付けである。



「まずいっすよ、店長……あの子本物ですよ、俺達の激辛カレーも……あの子相手じゃ」

「言うな!! 今ここで負けたら、大赤字だ……なんとしても勝たなきゃならない、そうだ……あれだ! お前まだあのスパイスあるか?」

「あれですか! ありますけど……あれは流石に卑怯ですよそれに、味見したその日、店長舌が腫れ上がってたじゃないですか、しかも激辛カレーのスペシャルにそれを足すなんて」

「やるんだ! やらなきゃ……死ぬ」



「あの子どのくらい食べた?」「あんな花も恥じらう年頃の子が恐ろしい」「てか、二人とも超可愛いじゃん」


 うるさい……ラストメニューが来るのだ、最後くらい人間にとって至福のひと時をゆっくり過ごさせて欲しいな。


「しかも、これから激辛カレーのスペシャルだろ?」「とんでもない量の上、ルー、一滴でも、皿の外に零したらアウトらしいな」「無茶だ、いくらなんでも時間制限もあるんだぞ!」


 うるさいうるさい……携帯のイヤホンを耳に入れて音量を最大にして目を閉じた。

 しばらくして目を開けるとその場には、大人の両手を三人並べようやく包み込めるような大きな皿の上に激辛カレースペシャルが置かれていて、店主がストップウォッチを持っていた。

 イヤホンを耳から外すと身体を解す、手元に置かれたスプーンを握ると、店主がルールの説明をした。

「水無し、ルーが皿から出たら失格、10分までに食べ切れたら、お代は無料になる、いいね」

「はい」

「はじめ!」


 スプーンでまずはルーをすくう、そのルーをライスへと持っていくと、まず一口。

 噂によるとこの一口で、あまりの辛さにリタイアするらしい。


「ん〜! 美味しい☆」

「嘘だろー!!」「嘘だろー!!」「嘘だろー!!」


 走り出した手が止まらない、しかもこの辛さカレーのルーだけじゃない、何かスパイス的な……まぁいいか、美味しいし、それにもう既に私は半分まで食べている。

 身体中から汗がでる、着ていた衣服の上を脱いで、椅子にかける。

「ちょっと……ユリネ透けてるわよ、汗で」

「大丈夫、私、今回はブラジャーちゃんとしてるから」

「……男性の視線がカレーにいってるのか、それともユリネの透けたブラジャーにいってるのか、分からないわね」

 ザクロちゃんの一言で店内男性陣は視線を泳がせた、私の胸を見ていいのはムクロ君だけだ!! 

 ジロジロみてんじゃねぇ!! 胸の内側で叫ぶ。

 さて、そろそろラストスパートかな……あれ? カレーがないな? あ、食べ終わっちゃったのか。

「ご馳走さまでした」

「な、な、な、なんて奴だ、そんなこのカレーには……」

「一口食べたら、痺れるようなスパイス」

「ど、どうしてそれを……」

「カレーの味よりも強かったからね、ズルしてでも勝ちに来たのに負けちゃったんだよね〜、悔しい?」

「くぅ……俺の負けだ、お嬢ちゃんには敵わねぇ」

 店主はその場で泣き崩れながら、お代はいらねぇ! と、悔しそうに叫んだ。


 お店の外へ出ると夜風がほてりきった身体を覚ましてくれる、汗で濡れたシャツも程よく乾く。

「驚いた、まさか本当にやり切るなんて」

「まぁ、ムクロ君には到底及ばな……あー! そうだムクロ君探してたんだった!!」

「忘れてたの!!」


 



 埃臭い、ダクトを進み隣の部屋へと行く、PMC達は俺を探すのを諦めもしない、しかしESP能力が無いのか、ESPを使った索敵等をしてこない、それとも戦闘型のESPなのか?

 PMCは4人、4人とも腕にPIPは着いている、手の内が分からない以上は迂闊に手を出せない、返り討ちだけにはなりたくない。

「まるで影も形もないな」

「ああ、だが匂いはするだろ?」

「動き回ってる感じだよな、いったいどこに」

 なるほどこいつらは、嗅覚がESPなんだな、だからワンワンカンパニーって名前なんだな、だが、戦闘面において犬のような機敏性を出してきたら……。

 考えるって難しいんだな、ユリネはいつもこんな事してるのか、いつもぽや〜んとしいるが、やる事だけは本当に……くそっ、ユリネ助けてくれよ。

 助っ人が来る可能性はゼロじゃない……GECKのハッキングの時、俺を助けた逆撫の事もある、だが助けてくれる存在も誰か分からない上に、敵まで正体不明だ、完全に手足がでない。

 ……待て何か忘れてないか、俺最後に精神安定剤飲んだのいつだ? ユリネと離れてる時はあれが無いと、殺戮衝動が……。

『コロセ』

 オイオイ、まじかよこんな時に……。

『コロセ、コロセ』

 耐えろ耐えろ耐えろ!! 西園寺ムクロ耐えるんだ……! 身を潜めてれば大丈夫なんだ、余計な事は考えるな、息だけをしろ、息だけを……。

『何故、耐エル』

 何故って……どうしてだ?

『相手ハ、オマエヲコロス』

 そうだ、殺しに来てる。

『タスカリタイ』

 うん、助かりたい。

『ナラドウスル?』

 殺すしかない。

『ソウダ、コロスシカナイ!!』


 もう抑えられない……こいつら死んだな。

 ダクトを蹴って突き破る、鉄の破片を空中で掴み、敵の一人の喉に突き刺した。

「一人やられた!」

「こいつ上にいやがったのか!!」

 銃を構えて撃ってくるが、さっき殺害した男を盾にする、ミートシールドだ。

 死体からはおびただしい銃痕が出来上がり、血を噴き出している、喉に突き刺した鉄の破片を、抜き取り、敵の一人へ投げるとまた喉に刺さる。

「こ、こいつ!」

 銃の弾を装填している、攻撃のチャンスだが、あえてそうしない、至近距離において弾を逃れる方法は二つ、遮蔽物へと隠れる、もしくは相手の腕を掴み弾道を逸らす、相手の弾の発射に合わせて、腕を小突き弾道を逸らす。

「……あ、あたらない」

 弾が最後の一発になる。

「どいつもこいつも……ESPを極限状態とかにならないと使わないのか?……つまらない」

「そうだ、ESP……ちょっと、ま……」

「ばーか、遅いんだよ」

 男の首にナイフをはしらせた、鮮血が自分の顔を赤く染める。

「よくも仲間を!」

 最後の一人か……顔についた血をつけたまま、ふらりふらりと歩く。

「俺のESP見せてやる……『犬獣人』」

 得に変化はみられないが、何かあるな……しばらくすると男は素早い動きで走り出す、それも四足歩行だ、なるほど……犬の特徴を人体と一体化させるESPか……だが、俺のESPの制限はもうされていない、試してみるか。

「くらえ!」

 男が四足歩行の状態から高く跳躍する、しかし次の瞬間落下して足首をくじく。

「なんだ急にESPが……いや体全体が動かない」

「『フェタイルキャンセル』だ……人間の心を読み、そして操る事も可能……俺のESPの一つだ、冥土の土産に……覚えとくんだな!」

 とどめを刺そうとナイフを振り下ろそうと上げた腕に誰かの手が伸びて止めていた。

「クールダウン」

「ユリネ……」

「ムクロ君、心配したんだよ……」

「何故ここが……うぐっ!?」


『殺セ、引キ裂ケ、今オマエガシタイコトハワカル、ソノ女モ、コロシテシマエ』


「ムクロ君!? 最後のクールダウンからかなり時間が……さっきのじゃ効き目があまり、うわどうしよ」

 ユリネが慌ててる……まずい確かに殺戮衝動を放置し過ぎた、それにこんなにハッキリとした感覚での殺戮衝動は初めてだ。

「もう一度……クールダウン」

 二回目でようやく落ち着いてきた、ユリネが来ないで敵を殺害していたら完全に手遅れだったな、しかし何故ここが分かったんだ。

「ザクロちゃん、こっちは大丈夫、そっちは?」

 PIPの通信機能か……ザクロも来てるのか。

『終わったわよ、全員氷漬けにしてやったわ、もうすぐ、警察も来るからムクロと情報を回収したら、場所移すわよ。』

「りょーかい、さてと悪いけど色々聞かないとね、ムクロ君」

「手加減なしでいいのか?」

「もちろん」

 敵の男は潤んだ瞳をみせて、一粒の涙を流してから絶叫した。



 午前9時 東京都 秋葉原

 

 昨日俺を襲った奴らの雇い主はアンチテーゼ奴らのようだ、アンチテーゼが厳密にどういう組織なのかと言うと、日本への敵対意思を持つ他国を始めとする幾多の弱小国家の過激派連中が、集まり構成された、レジスタンスのような物だ、しかし実態が謎な上、疑問点が多い、それは日本に対するテロ行為を行うのは『彼らの仲間である日本人が大半』と言う事だ。

 もちろん今の日本に不満を持つ国民もいるが、彼らの仲間になる事にメリットは存在しない、日本の国民である以上、日本が世界を支配した方が、得するからである、ある意味最大の謎。

 そんな事を考えてると目的地についた、道の外れの裏路地の小道へ入り、古くツタの絡まった建物の地下へ入ると、赤い扉に038と書かれた扉が現れる、そこの鍵を使い中へと入る。

「ここは、秘密基地だ」

「懐かしいね! よく小学生の頃来てたね」

 ユリネと俺は懐かしさを感じて、笑ながら進みソファへと腰をかけた。

「あら、なかなか……汚いわね」

「長い間来てなかったからな……埃だらけだ、掃除するか」


 五分後


「すっかり綺麗になったな」

「これぞ秘密基地の真の姿だ!」

「小洒落た部屋になったわね」

 再びソファへと腰をかけた、さてまず何をするべきか、アンチテーゼやら国やら云々の前にだ。

「これは俺の問題だ、二人が関わる事じゃない」

 そう、これは俺が始めた事だ二人が関わる必要性などまるでない、俺がこの現状が嫌で、そして何より世界が嫌いなんだ。

「じゃぁ、なんでムクロ君は、私がいじめられたりすると助けてくれたの? ムクロ君には関係ないよね」

「それとこれとじゃ、まるで違うんだよ! 命かかってんだぞ!」

「そんなの今始まった事じゃないよ、私達はあの学校に入ってから約一ヶ月くらい、成績優秀者に課せられる特殊任務を2人で、こなして来たよね、それにムクロ君、昨日の夜の敵の事もあるよね、私がいなかったら……ザクロちゃんがいなかったら、今頃酷いことになってたはずだよ」

 その通りだ、まるで返す言葉もない、2人が来ていなければ怪我では済まなかっただろう、部屋の中の敵は倒せても、外に安心して出てきた所をやられただろう。

 だが、理由はどうあれ……今から始まる事、始める事は犯罪も含まれていて危険な旅路になる。

 こいつらが居てくれるのは心強いが、巻き込む訳にはいかないだろう。

「ムクロ、あなた私までついて来てる事も忘れてない?」

「忘れてなんかない」

「そう……じゃぁ何で私達をここに連れてきたの?」

 そうだ、何でだ。

「本当は誰かに助けて欲しいんでしょ、かまってちゃんになるくらいなら、正直になった方がいいわ」

 やれやれ、女ってのは分からないな、危険と知っていて飛び込むような事は、普通ならしないだろうに。

「分かった……その変わり約束してくれ二人とも、何があっても俺たちに、死は許されない、誰かが欠けたりしたら意味がなくなる、だから絶対に死ぬな」

「了解だよ」「了解よ」

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