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ESPフェイタル  作者: 夜栗鼠丸
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プロローグ 編入生

 朝になる、寝ぼけまなこをこすりながらベットから起き上がるとベットの中から、自分以外の存在がいる事が分かる。

 ユリネ!? 何故お前が寝ている、ここは俺の部屋なのに、確か昨日はこいつの着せ替え人形にされ、原宿で購入した、女物の服を大量にきせられたんだっけ。

 PIPの時計を見ると8時と表示されている、8時……出席チェックまで30分、急がねば、ユリネも起こすか。

「ユリネ起きろ! 朝の8時だぞ」

 ユリネは俺の声に反応して、瞼をゆっくりあけてから、上体を起こす、しかし寝ぼけているせいなのか、そのまま動かないでふらふらとしている。

 このままではまた眠ってしまうと思って俺はユリネの両肩を掴み、激しく揺する。

「おーい、ユリネ起きろー」

「う、うーん……動かさないでよー」

 ユリネはゆっくりとベットから立ち上がるが体制を崩しこちらに倒れてきた。

「きゃっ!」

「うっ……」

 一緒に倒れた衝撃で、床に後頭部を打ち付けた俺は、自分の体の上にいるユリネをどかそうとするが……なにやら唇に柔らかい感触を感じる。

 感触の正体はユリネの唇だった、ヤバイこれって事故とはいえキスしてる事になるんじゃないか? まてしかもこいつ、どく気配がない……それどころか体重をかけてきてないか?! キスに、より一層の力を感じる。

 しばらくするとユリネはゆっくりと上体を起こして、部屋のドアを開けた。

「は、早くしないと……遅刻しちゃうね、先に行ってるから」

 ユリネは部屋を出て行った、彼女の後ろ姿から見た、耳はやたらと赤かった、なんてこったファーストキスをこんな形で喪失するとは。

 いや、過ぎた事を思い返しても仕方がない、早い所学校に行かねばならない、準備をしてる暇がない、髪を適当に手櫛で梳かして、部屋を出る。

 寮の中に残っている生徒はおらず、俺ひとりのようだ、俺は駆け足で一階の玄関口に向かい靴を履き替えて、校舎に向った。

 校舎の中に入る頃PIPを見ると、8時15分を刺していて、出席チェックの8時30分には15分の差をつけていた。

 セーフだ、俺は胸をなでおろすと、校内用シューズに履き替えて教室に向かう、向かう途中で、ふと廊下の鏡をみる。

 なん……だと……思わず俺は鏡から離れて、もう一度自分の姿を見る。

「嘘だと、言っておくれ……神様」

 鏡に写し出された俺の姿は昨日の女装をしたままだった。

 猫耳フード付き長袖パーカーに、白地のワイシャツ、たまご色のミニスカート、黒のニーソックス。

 上半身、下半身、絶対領域に至るまで女物の服を身につけて俺は登校したのか、気づけよアホ! だが、来てしまったのは仕方がない、俺は覚悟を決めて教室1-Bに入った。

 戻るという選択肢はない、寮から校舎までは15分かかるのだから戻っていては、遅刻する、ちなみに遅刻すると、恐ろしい罰が待っているのが、この学校の風習なのだ、その風習とは反省文に加え一週間の町内の奉仕活動を強制される。

 反省文においては、100枚……当然書けるわけがない、奉仕活動は老人ホームなどで老人の介護……オムツまで変えるらしい。

 

 意を決して教室のドアを静かに開けて入る、まだクラスメイト共の視線は、あちこちに向いていて、自分には気がついていない、いまの内に自分の席、窓側の一番後ろへ行き、ずっと窓側を見ていれば気づかれないだろう。

 着席に成功する、そして窓側をみてフードを被る。

 腕のPIPが現在時刻を8時21分と表示し、出席コンプリートと、俺に告げた、ちなみにPIPは出席まで管理している。


 窓に自分の顔が写る、いまでも幼く線が細い顔立ちは女性と見間違われる程だ、そしてなにより男として背が低い、痩せていて細い体つき、髪はアシンメトリーに切ってはあるが、美容師が俺を女と間違え切った為、女性的印象の強いアシンメトリーになっている。

 窓から一瞬だけ隣の席に視線を移す、ユリネと目が合うがユリネはすぐに、そっぽを向いてしまった、朝の事が気になるのか、俺の現状への嫌悪なのかは分からない。

「おい、聞いたか? 今日編入生が入るんだとさ、このクラス」

「マジで、男? 女?」

「見た奴の話じゃ、超が付くほどの美人らしいぜ!」

 クラスの男子や女子が編入生の話題で盛り上がっている、そういえばユリネが昨日話していたな、名前までは知らないが……駄目だ昨日想像した筋肉ムキムキの女性ボディービルダーが根付いてどうしても、恐ろしいイメージがある。

「は〜い、みんな静かにしやがれ〜、今日は編入生が入るから、そっちを先に済ますぞっ……て西園寺君……きみは」

 懐から教官の昨日の姿の写真を取り出して見せる。

「いや、なんでもない、あー編入生の殻無君どうぞ」

 教官はおそらく自分の今の姿を指摘するつもりなのだろう、しかしそうはさせない、いつも持ち歩いてる弱みの瞬間の写真が役に立つ、この教官は普段普通に振る舞うが休み時間や特殊任務を生徒に任せる際に、とんでもなくおちゃらけて、全裸になる事などがあり、更には女子生徒へのセクハラも働くのだ。

 生徒達は俺の方を見るなんて自殺も同然と心得ているため今はどうにでもなる。

 少し間が空いて教室のドアを開けて、編入生が入ってくる。

 その刹那、優雅に黒く長い髪をなびかせて入ってくる、多分スローモーションが合うシーンというのは、ここなのだろう、そして予想の斜め上を行った俺の想像は一瞬にして弾け飛ぶ、雪のように白い肌に小顔にして長いまつ毛、身長はすらっと高くウェストはくびれていて、足は細長いヤバイ普通にめっちゃ可愛いじゃん。

 超絶美人の生徒は黒板のチョークを手に取ると、鶴の滑らかな羽の動きのような手つきで、自身の名前を書いた。

「殻無ザクロです、よろしくお願いします」

「殻無君の席は……あー、しまった空席がないね」

 ところが、殻無は教室内を歩き俺の隣のユリネの席までくる。

「あなた、どいてくださる?」

「え、ここは私の席……」

「いいから、どいてくださる?」

 ユリネは強引なおしに弱い、しかし昨日のナンパ野郎どもに対しては強気だったが、今回はどうだろ、俺はユリネに対して手を横に振って断わり切れと合図する。

 それよりも何故ユリネの席に座りたがるんだ? そこならではの利点があるのだろうか。

「殻無さんがそこでいいだろ」

「そうだ、殻無さんが、その席を欲してるんだ」

「早く神崎さんは移動すべきだ」

 言ってるのはクラスの男子達はだ、これじゃまるでユリネに非があるみたいじゃないか……体の奥底から怒りが湧き上がってくる。

 いくら、見たてや容姿がよかろうと、こんな横暴が許される訳ないのだ。

 だが、ユリネは席の荷物をまとめると立ち、殻無に席を譲り渡した。

「ありがとう」

「ううっ……」

 ユリネは泣きそうだと言うのに、殻無の奴は何事もないかのように席に座り、平然としていた。

「あなた、面白いわね……」

 殻無がこっちを見て笑う、フードを被ったまま殻無を睨む、俺はこいつが可愛い美人女子生徒だと思うのを、全身全霊を持って撤回した。

「あなた、男なの? どうしてそんな格好してるのかしら?」

 この一言でクラスの生徒の視線が全てこちらに向いた、流石にもう誤魔化せない無理だ……もうどうしたらいいんだ。

 俺は今日からみんなの嫌われもアンド女装好きの変態野郎デビューを見事に果たすのだろう。

 しばらくして、ユリネの席が用意される本来なら、この横暴を働いた編入生の物の席だ、教官もそれには触れずただ坦々と、朝の連絡事項を伝えた。

 今日から、またいつも通りの日程……学生らしい高校生活だ、ただ違う所があるとすれば、生徒達は皆、自分特有のESP能力を持ち更に、自分が得意な銃器を持ち歩いてるいるのだ。

 射撃やESPの訓練は通常の学校なら、まずやらないだろう、しかし軍事学科ともなれば、話は別だそれが一般にすら思えてくる、しかもこの学校は生徒同士の諍いで殺人未遂が起こった程度は黙認してしまう、あまりにも非常識極まりない特徴を持つ。

 まぁ生き残れたら、運良くて卒業出来たぐらいにしかならない。


 一時限目までにまだ時間がある、その間は、もちろん編入生への質問タイムとなっていた。

「家はどこにあるの」

「髪綺麗だね」

「前はどこの高校に通ってたの」

 こんなお決まりの質問で退屈だが、それすら俺の右隣の殻無は答えた、やはり見た目や振る舞い方が愛待ってか、かなりモテるようだ、俺の右隣は人集りができていてとてもじゃないが、落ち着かない……いい迷惑だ。

「クラスの分からないことなら、なんでも聞いて、勿論学校の事も」

「シャンプーとリンスは何使ってるの」

「私もそんなスタイルになりたい」

 こいつは、女子に対しても気を良く振る舞い、男子だけでなく、女子からも好意を持たれているようだ……ただユリネを除いて、俺は席を離れようとした時だった。

「ねぇ、あなた……どうしてそんな格好してるのかしら? とても良く似合っているけど」

 まさかまた同じ質問とはな、俺は答える必要はないと思い、席を立ち歩いて去る。

「殻無さん、あいつには関わらない方がいいよ」

「そう、本当……二つ名が『深淵』なだけあるよな、気味わりぃ」

 思いっきり聞こえる声で、生徒は俺の事を話し始める、俺はさっさと廊下に出て射撃訓練場を目指した、だがその途中で、ユリネに会う。

「……あ、ム、ムクロ君」

「……おう、ユリネ」

 なんだ、このよそよそしい態度は、多分朝の事と関係してるんだろう、ここはハッキリさせとかないと。

「朝のは、ほら事故だから」

「う、うん」

「あんま気にすんなよ、まぁあとあの編入生の事とか」

「うん」

「俺らは今までと通りやろうぜ、お前は俺より他の奴と関わりも沢山あんだろう、あんま気を負うな」

「あのね、私時々思うんだ、ムクロ君て偶に妙に優しいなって……多分それが本来のムクロ君なんだよ」

 この馬鹿、いま言うのはちょっと卑怯じゃないか…俺も流石に照れてしまう。

 俺は足早に少し歩いてユリネと共に射撃訓練場に向った。

 射撃訓練場、生徒達が自分に合った銃で、ひたすら的を撃ち抜く場所だ、まぁ成績優秀者を決めるのも主にここだったりする、あらゆるケースを再現できるよう、あらゆる地形やあらゆる的を瞬時に準備できる、優れた場所だ、ちなみに学校の七割の面接がこの射撃訓練場で、模擬戦なども行える。

 少し遅れて他の生徒も入ってくる、その中には殻無の姿もあった、周りにはまだ沢山の生徒の姿に加え他のクラスの顔もちらほら見える、さっきよりも増えているようだ。

 編入生プラス美人という設定はこんなにも、人気が集まるのか? まぁ高校生という歳頃を考えれば自然と言えば自然なのだろう。

 一足遅れて教官がやってくる、ちなみにこの教官の名前は薬師寺、苗字しか名乗っていない為、正式な名前なのかすら怪しい。

「いやー遅れてしまって、申し訳ないね、それじゃ皆今日は予定通り森林地帯を想定した模擬戦をやってもらうからね、各自得意な武器とペイント弾を持ってきてるよね?」

 みんなは返事こそしないが手元のアタッシュケースを持ち上げて、アピールする…中身を見ないのは教官の能力が透視だからである。

 つまりアタッシュケースの中身は透けて見えているから、開ける必要はないのだ。

 教官は、射撃訓練場の遠隔操作リモコンスイッチを取り出し、射撃訓練場の地面ハッチを開ける、校内の七割を占めるハッチの開閉音は凄まじい轟音を唸りあげ、森林を地中から持ち上げた。

「よし、各班に別れて作戦会議だ、終わったら報告してね」

 またも返事もせずに、皆は各班に集まる、ちなみに俺とユリネはどの班にも属さない、班と言っても仲のいい奴らで集まる班であり人数もバラバラである、そんな中俺は当然孤立する為、ユリネと組まざる負えない、ちなみにユリネは俺以外の奴らとも仲は良いが、ユリネ本人が俺を選ぶ為、いつも二人で作戦を立てる。

「あのーすいません私は、どの班に集まれば……」

「俺達と組もうぜ!」

「いや、ここは私達の班で」

 編入生は取り合いになる、確か噂ではあるが殻無は【スペックレベル-カオス】らしい、まぁ俺とユリネには関係ない、俺は教官から支給されたギリースーツに身を包む、これで女装からは解放される、ユリネも同じくギリースーツに身を包む。

 俺は当然スナイパー、ユリネはそのスポッターをやる、スポッターとはスポッターオブサーバーとも言って、命令の伝達や周囲の状況の把握、近寄ってくる敵の排除をする。

 しかしユリネには武器は扱えない上、人を傷つけることすら無理なので、周囲の状況把握と命令伝達しかできない。

 この為、俺は模擬戦の度、ユリネを守りつつ、尚且つ自分の身をも守らなきゃならない。

 更に言ってしまえばESP能力の使用すらも、俺には制限がされていて、非常に戦い辛いのだ、でもいつも生き残る……最後の最後までペイント弾を浴びたことはない、もし本物の銃弾なら、確実に生き残れはしないのだから。

「ちょっといいかしら?」

 殻無が訪ねてくる、ユリネは目を合わせようともしないので、俺が殻無の話しを聞く事になる。

「彼女には朝は悪い事をしたわ、でも私があの席がイイって言ったのには理由があるわ、後で説明する」

「そうかい、何でもいいがユリネは根に持つぞ、今すぐ説明してやれ」

「今は……無理……」

 いつも笑っているようなイメージの編入生は表情を曇らせる、なにかあるな……こいつでもこんな顔をするのか、まぁ人間誰でも毎日笑って過ごすなんて無理だろう。

「で? 何か用なのか?」

「あなたたちと組むことにするわ」

「まてよ、お前はいいかもしれんが、他の奴らはどうすんだ……それに俺と組むメリットなんて」

「私は貴方と組みたいの……」

 待て……こいつ顔近い、そこへ割ってユリネが入る、やたらと機嫌が悪い顔をしている、おそらく朝の事をかなり根に持ってしまっているようだ。

「ごめんなさい神崎さん……私、前の学校で、あの席だったの、だからどうしてもなるべく同じ環境に居たかったから、ちょっと強引だったけどね」

「誤魔化すのが下手くそだね、ムクロ君目当てだったくせに」

 ユリネの言葉に殻無は驚いた表情をするが、すぐに笑っている顔に戻り、いつも通りと言った風に話しを続けた。

 二人の会話なんて興味のなかった俺は準備を済ませ、教官に報告をした。

 班の編成が完全に終わり作戦を皆が立て終わると生徒達は何が不満なのか、騒ぎ始める。

「なんで、殻無さんがあんなクズと」

「殻無さん、可哀想に」

「今日こそ、あいつを仕留めてやる」

 ここへ来て二ヶ月……流石に俺もイライラしてきた、クラスメイトだからと言って、しばらくすればと思い我慢していたが、限界だ。

 俺はクラスメイト達の前に立つ。

「うるせぇよ、お前ら……誰が誰と組むのがいいのか、話し合って仲のいい奴らで、集まるって決めたのは、てめぇらだろうが……そこへ不満を漏らしあまつさえ人をクズ呼ばわりとはな……全員俺の的だからな覚悟しておけ」

「うるせぇよ! ロクにESPも使えねーのに!」

「そうよ! 本当、薄気味悪い奴」

「じゃぁ、こうするか今日の模擬戦、俺ら三人が生き残ったら、てめぇらのPIP制限を教官に俺と同じようにしてもらう、その上、一ヶ月間、俺達の奴隷だ、俺は言っておくが模擬戦で一度も被弾したことはないぞ……全員でかかってきていいから倒してみせろ」

「ふざけんな! そんなのてめぇが勝つに決まって……」

「もちろん負けたら、俺たちが奴隷になる、美人の編入生に、みんなのアイドル、ユリネもだ」

 俺は編入生とユリネを引き連れて、森林地帯に足を踏み入れた、男子どものやる気に満ちた声があがる。

「西園寺君、本気だねありゃ……まぁそう言う事だ頑張れ、みんな」

 教官の無責任な声が聞こえて、同時に女子生徒達の驚いた声と不満が入り乱れた声が聞こえた。


 15分後、自分のPIPに戦闘開始の合図が出る、森林地帯の設定という事もあり、狙撃に適した場所は二ヶ所しかない、一つは東の高い木の上、しかし木の上は、追い詰められたら逃げ場がない。

 もう一つが南の方角、木々が少なく開けた地形で、何本かの川が流れている。

 ちなみにこの射撃訓練所は、広さが尋常ではない、実際のところの広さは明かされてはいないが、噂では校庭20個分はあるそうだ。

「で? 私はどうしたらいいのかしら」

 殻無しが聞いて来る、俺は自分のVSR-10にペイント弾を装填してから答えた。

「武器は確かサブマシンガンのPeacekeeperだったな……ならまず全員で南に行く、敵がどう来るか分からない今は、スポッターのユリネが敵を見つけやすい場所に居て尚且つ、挟み撃ちを受けないように、フィールドの端っこにいた方が有利だ、それに敵は30人に対して、こちらは3人、一人一人確実に人数を減らさないと、やられる殻無は俺の側面もしくは背後を守ればいい」

「ザクロでいいわ、ザクロで私、苗字嫌いなの、ユリネちゃんもザクロって呼んでるし」

 なんだ? 仲良くなったのか? まぁチームに支障が出るよりはいいだろう。

「ムクロ君にザクロちゃん、私は敵を見つけるだけでいいの?」

「構わない……撃てないんだから」

「この子、撃てないの?」

「だが、こいつの指示はいつも的確だ、失敗したことはない」

 ザクロは首を傾げるが、俺はユリネを信頼している、指示以外にもこいつは今まで出会った人間の中で唯一の俺の理解者だ。

「よし、移動するぞ……全員通信機は持ってるよな?」

 二人はイヤホンマイクのスイッチをオンにする、最初からオンにしとけよと、ツッコミを入れたくなるが、やめておいた。

 数十分歩くと最南端につく、最南端は立ち木が植えらていて、外への行動範囲を制限している。

 イヤホンマイクから通信が入る、ザクロからだ。

「スコープ覗いて、私が見える?」

「オーケーバッチリだ、性格に100メートル離れたな」

「ザクロちゃんが敵を見つけたら私がムクロ君に指示を出すでいいんだよね?」 

「ああ、そうだ、そして敵を仕留めたら移動しろ、同じ場所に留まるとすぐに側面や後方から敵がくるからな」

「了解」


 配置は簡単だ、最南端から100メートル近く離れた、川を一つまたいだ先にザクロ、その最南端に……俺とユリネがいる。

 それとこの模擬戦、もちろんESPも使用可能ではあるが、攻撃を行うESPは制限される、そして戦闘不能の判定はペイント弾が当たった瞬間、PIPにて知らせが入る。

 勝利条件は誰も戦闘不能にならずに敵を殲滅する事。


 更に数十分後、ザクロから通信が入る。

「敵五人を確認したわ、五人見事にM4ライフル構えてる……でも距離が多少離れているわ」

 ユリネがそれに答える、俺はザクロをスコープで覗いてから、ザクロが向いてる方向に銃口を向けた。

「分かった、ザクロちゃん仕留める自信はある?」

「もちろん」

「よし、やっちゃって」

 100メートル離れた場所で、銃声が鳴る、的確に五発分だけの銃声だった、そしてザクロからまた通信が入る。

「一人だけ、ESPでドーム型のバリアーみたいなの張ってるわ! 他の四人はやったけど、あいつは無理よ!」

 バリアーはそいつ自身を覆うようにして、展開している……効果範囲は広くはない、しかしなぜ、ザクロを撃たない?

「ユリネどうする?」

「ムクロ君スコープを覗いて、ザクロちゃんは東にダッシュして、すぐに身を隠して、3、2、1、で二人共行動して、あのバリアーは多分内側からの攻撃も防ぐタイプだよ、だからザクロちゃんが隙を見せるのを待ってるんだ。」

 ユリネの指示に「了解」とだけ俺達は答えた。

「3……」

 俺はスコープを敵の頭に合わせて深く深呼吸して息を止める。

「2……」

 ザクロは匍匐状態から、体を起こし走る体制を整える。

「1……走って!」

 敵がバリアーを解いてザクロを狙うが、発砲前に俺の放ったペイント弾が、木々や葉を躱しながら突き進み、敵を眉間に付着、今の戦闘で五人の敵を排除した。

 俺は敵の愚かさに、少しだけ心の奥底で笑い、PIPの名簿を確認するとしっかり五人の名前の横に戦闘不能と表記されている。

「よし、移動するぞ二人共…」

 イヤホンマイクのイヤホンを押さえながら、ゆっくりと腰を上げる、ユリネも匍匐状態から起き上がる、離れた場所にいるザクロもすぐに合流、三人で一度集まり敵の配置に山を張る。

「……五人はどの方向から来た?」

「西側の林から……人が通れる道が数本しかないみたいね、あそこ見える?」

 ザクロが指を指した場所を俺とユリネは、近くにあった倒木に近づいて身を屈めて双眼鏡で覗いた。

「一個小隊が分散して、各方角に偵察を出したと想定すると、二三グループは北か東を偵察中だろうな、でもPIPで情報が行き渡る訳だから……すぐに南側に来るだろうな、待ち伏せか、こちら側から行くか、ユリネが決めろ」

 ユリネは目をつぶって集中する、おそらく彼女の脳内には、この森林地帯と化した射撃訓練場の全貌を上俯瞰で映しだして、敵の位置を想定しているのだろう。

「行動前に質問ザクロちゃんて、スペルレベルいくつなの?」

「あら、噂の通りカオスよ、能力名はマテリアルラウンダー、卓越した聴覚や視覚に加えて空気中の物資を多少、変質出来るわ…その気になれば、この学校だって吹き飛ばすだけの事くらいはできるわね」

「……やらないよな?」

「やらないわよ、吹き飛ばしたってメリットないんだから」

 世界に三十人くらいしいないカオス様が物騒な事、言わなくてよかった、何故か俺は安心した、そしてユリネは再び目をつぶると考え出した、そしてしばらくしてから目を開ける。

「ここに留まる……夜まで、ザクロちゃんにはやってもらう事があるけど、いい?」

「やるわよ、負けは許されないから……実際の戦場を見たことある? ないわよね、本番じゃ死ぬんだから」

 確かにザクロの言う通りだ、俺もその考えは理解できる、本番は本物の銃弾が敵味方問わずに飛び交い、一瞬の選択肢が命を左右するのだ。

「天候を雨とかに変えられないかな? 空気中の物資で」

「今すぐは無理ね、急激に空気を冷やして水分を結露させて、上空に上げても冷えすぎて、精々雪ぐらいにしかならないから」

 雪の方が凄くないか?

「まぁ、なんにせよ俺はいつも通りやるぜ……」

「雪でいいよ、雪の方が相手の体力を奪えるし、夜にはクタクタになって、北側か西側にある集合地点で凍えてるよ」

「なんで、わかるんだ?」

 

 ユリネは一呼吸、置いてから言った。


「私なら、そうするから」



 数時間後、空には暗雲が立ち込め、やたらと極端な極致的積雪状態になった、森林地帯は、まるでアマゾンの熱帯雨林に、降るはずもない雪を被せたような風景になっていた。

 更に時刻は午後9時、これまでに倒した敵は今の所、最初の五人だけで、これから仕掛けるとユリネは言う。

 但しこの積雪がESPによるのは明白、敵も警戒を強化するだろう、ザクロは銃にサプレッサーを着けた。

「あなたもサプレッサーつけたら?」

「長距離射撃にはサプレッサーを付けないんだ、弾の距離が伸びなくなるからな」

 しばらくしてからユリネが俺に「そろそろ行くよ」と言った、ようやく南端から移動をする事になる。

 ユリネは懐からハンドガンに似た何かを取り出しベッドホンを装着した、ベッドホンとその何かは、コードで繋がれてる。

「それはなんだ?」

「集音マイクだよ、これで敵がどの方角に多いか、大体を把握する……」

 ユリネはマイクをあちこちに向けて、周りを探索した、そしてザクロは耳を澄ました、ザクロのESPには聴覚も含まれる。

「西側よ」「西側だね」

 二人は同時に西側を指差して、俺より先を歩く、しかし積雪のせいで足元を雪にとられやすい、西側に行く前にこっちの体力が先に尽きそうだ。

 しばらく進むとユリネは俺にベッドホンを被せた。

 ベッドホンからは、小さな音ではあるが、会話が聞こえてくる。


「なんで、雪が降るんだ寒くてかなわねぇよ」

「多分、編入生のESPだろうな……カオスって噂は本当だったか」

「おい二人とも、見張りの交代だ、テントの中には発火能力ある奴がストーブがわりになってるぜ」

「マジかありがてぇな、所で女子共はどうしてるんだ?」

「テントの中でこもりっきりだ、俺達がこの模擬戦に『深淵』から出された条件に乗り気なのが、気にくわねぇんだとさ」

「でも、あいつって意外と女子人気高いだろ……孤高っての? クール系じゃん、一部の女子は乗り気だろ絶対」


 俺はベッドホンをユリネに返す、どうやら女子と男子では戦いに対する士気が違うようだ、ユリネはここで「ゴホン」とわざとらしい咳払いをして話し出した。

「私達のクラスにはアクターが三人いるのは知ってるよね?」

 俺は知ってるがザクロは知らないので、ザクロは首を横に振った。

「あ、そっか……じゃあ説明するね、私はそのアクター三人組をもっとも警戒するべきだと思うの、一人は自分の体を砂に出来る、一人はテレポート出来る、一人は鉄を曲げられる、最重要排除対象とも呼べるね……でもまずは、それ以外を排除してから、最重要排除対象を倒す、手順はトラップとザクロちゃんの銃だけで事は足りる」


 ユリネの作戦は単純かつ明確だ、単純すぎる故に相手の裏をかくこともありうるとは、まさに三国志に出て来る諸葛孔明をも欺く事だろう。

 まずは、ワイヤートラップを仕掛ける、ワイヤートラップと言っても、攻撃能力のない、音を鳴らすタイプの奴だ、音を鳴らすのに空き缶を使う。

 空き缶の音を鳴らす事により、敵の撹乱を行うそうだ、集団の弱点は連絡事項の不行き届きにあると言ったユリネは、そこをつく事により、空き缶の音を侵入が来たと勘違いした敵を、排除するそうだ。

 排除を行う際、ザクロが先行をし、その離れた場所から俺が援護をする。

 ユリネは俺の隣で、スポッターをいつも通り行うそうだ。

 ユリネの作戦通り俺は、トラップを四ヶ所、敵の集合テントの回りに張り巡らせる。

 やはり雪のせいもあり、かなり体力が削られるようで、手先も震えてしまい時間がかかる。

「遅いよ、何してたの……」

「ちょいと、寒くてな、ザクロは?」

「配置についてる、私が指示するまでは動かないでよ」

「あいよ」

 ユリネは、再びベッドホンを耳に装着すると、敵の状態を探った。

「見張りは、声からして四人いる、夜間偵察をするか、どうかを話してるね……見張りを何人残すか……排除された五人の事も話してる……偵察の人数は四人、いま見張りをしてた奴ら……残りの人数21人の内、三人を外に出して見張りにするみたい」

 俺はしゃがんだユリネの隣に匍匐をして、敵のテントを見る、まずはザクロの位置を確認する、今回は敵のテントを挟んで反対側の林に潜んでるようだ。

「ザクロの位置を確認した、スコープをナイトスコープに切り替える」

 イヤホンからザクロの声が聞こえる。

「援護頼むわよ、木々が邪魔で狙撃不能とかは勘弁してよね」

「そうだな」

 俺は引き継ぎ夜間の敵テントを、ナイトスコープを使って、見続けていた、敵の夜間偵察部隊が動き出す。

「ユリネ、ザクロ、夜間偵察の奴らが出発したぜ、俺はこのまま見張るか?」

「そうだね、じゃあザクロちゃん、ワイヤートラップをこっちから鳴らしちゃおう」

「了解」

 ザクロは配置の場所を離れて木と木の間にあるワイヤートラップを手でグイッと引っ張る。

 空き缶の音が敵のテントの周りを、走り抜けた。

 予測通り、敵はテントの中から飛び出し何の音だと言わんばかりに、周りを見渡す。

「ザクロちゃんお願い!」

 サプレッサーのプスプスという独特の音が僅かに聞こえる、ナイトスコープでテント周辺を見ると見事に命中している。

 混乱する敵を次々とザクロはペイント弾を当てていく、何人かがザクロの位置に気がつくと、ようやく反撃を仕掛けてくる。

「ザクロちゃん一旦隠れて! ムクロ君!」

「了解……距離162メートル、風は東からやや強め……」

 俺は計算を口にしてから、引き金を引く、放たれたペイント弾はカーブを描いて、木々をすり抜け敵に命中した。

「やつら驚いてるぜ」

 俺達は敵のテントを挟むよう配置に、ついてる、サプレッサーのついてない、銃とサプレッサーのついてる銃に挟まれれば、敵は俺達全員がまとまっていると勘違いを起こし、スナイパーである俺のいる方しか見なくなる。

 ユリネはここまで計算に入れて配置を考えていた、まったく将来はいい指揮官になるぜ。


「粗方の敵はペイント弾を当てたんじゃないか?」

 ユリネは俺の声を聞いてPIPを見る。

「まだ、後三人……最重要排除対象が残ってる、何処にいるんだろ?」


 何故か嫌な予感がする、ユリネの指示通り、配置について、夜間偵察部隊と、テントの中にいる敵は全て排除したはずだ。

「確かめる必要があるな」

「ザクロちゃん、テントの中を見てくれる?」

「分かったは、まったくペイント弾食らった奴らは早い所、フィールドから出なさいよね」

 テントの周りには沢山の悔しがる生徒達の姿があった。

「俺、誰も倒してない…」

「私もよ…」

「あの、三人相手に敵う奴らなんていないよ……まぁまだ、こっちにも切り札がいるからそいつらに任せよう」


 切り札……アクターの三人だろうな、ザクロがテントを開けて中をチェックする。

「……もぬけの殻ね……」

 ユリネがしゃがんだ体制から、立ち上がって、テントに駆け寄る、そして俺も遅れて、テントに近ずく。

 俺達三人は暗いテントの中をライトで照らす。

(来たよ、馬鹿め)

 声? いや違うこれは、心の方だ……。

 照らした光の先にMP5が落ちてるのに気がついた俺は、ライトを当て続けた、そしてそのMP5がいきなり宙に浮いた、いや違う……地中から何がが出てMP5を掴んでいるんだ!

 俺はとっさにユリネとザクロをテントの外へ押しのけるようにして、自分も外へ出た。

 弾が当たるか当たらないかギリギリの所で交わす。

「……おしいな、あとちょっとだったのに」

 テントの中から、砂人形のような形をしたMP5を持った人間が出てくる、その砂人形は、砂を体中からボロボロと落とすと、一人の人間になった。

「……いやぁ本当悔しい悔しい」

 砂人形だった、人間はヘラヘラとしていて、何処か掴み所がない雰囲気がある。

「名前くらい名乗ったら?」

「愿 砂だよ……原に心って書いて名前はそのまま漢字で砂……編入生のザクロちゃんだっけ? いやぁ手合わせ出来て嬉しいなぁ、僕と君どっちが強いかな?」

「気安く名前で呼ばないでくれる、私はあなたみたいなタイプが大っ嫌いなのよ」

 愿と名乗った、男子生徒はMP5をザクロに向ける、ザクロも自分の愛銃ピースキーパーを愿に向ける、もちろん俺もVSR-10を向けるが、また声が聞こえた。

(いまなら…)

「後ろか!」

 何もなかった背後には、女子生徒が回し蹴りを放とうとしていた。

 とっさに身を屈めて蹴りをかわした。

「ふぅん、避けたのは、あんたが始めてだよ……『深淵』」

「お前だれ?」

「……逆撫 楓、能力テレポート」

 俺は敵から一定の距離を置いて、VSR-10を構える。

「あと、一人いるはずだよな? ユリネ」

 ユリネは周りを見渡すが、その一人が見当たらない、周りには雪が積もった森だけが見えるばかりだ。

 ユリネはポケットから磁石を取り出すと、テントに向けて投げた。

「……二人は、二人を排除して!」

 それだけ言うとユリネは一人何処かへ、走り去って行く。





 私は走る、二人を見捨てて逃げるわけじゃない、私はU字型の磁石をそこら中に投げて行く、実は私の能力はムクロ君を落ち着けたり、傷を癒したりするだけではない、ただこの能力はあまりにも出番が少ない為、教官やPIP以外に誰にも知られずにいた能力がある、それは『磁力制御』その場にある磁石の磁力の力を変えたり、機会の操作やデータ収集及び復旧が可能なのだ。

 今磁石を投げて走る理由は、鉄を曲げる事を得意とする敵を察知する為だ、投げた磁石の位置はすべて自分の五感とリンクしていて、実は模擬戦の開始直後から、磁石をばら撒いては、磁石から得る情報で敵の動きを予想していた。

 それが私の指示が的確な理由で、ムクロ君の信頼を得てる、彼も知らない私の能力なのだ。

 これだけ、ばら撒いた……そろそろ敵の位置が分かるはずだ、全ての磁石に自分の五感を繋げ、敵の位置を確認すると、味方のザクロちゃんやムクロ君が敵と戦っている姿などが、ハッキリ体に伝わってくる、それに混ざり微かではあるけど、機械が軋むような音が聞こえる。

 これは……すぐ近くだ……東の方向……目を開けて東を見る。

「へぇ、集中には目を瞑るんだ」

「なっ! いつの間に」

 東の方向を見た私の目の前には、何処かの特撮ヒーロー物に出てくるような人型メカ兵器みたいな、物体が現れた。

「ユリネちゃんの能力はクールダウンだけじゃないって、予想してたんだ、さっきテントを襲撃した時の指示は君だよね、実はあの時、僕もテントの近くに居たんだ、本当はそこで倒してもいいんだけど、スナイパーが怖くてね……こうして金属類を纏って、君の磁石の探知から逃れたのさ、君の磁石探知は、金属類には反応しないんでしょ?」

「確かに、金属類は探知不能で、生物的な動きのある物……つまりソナーみたいに生命反応のみをキャッチする……でも、まさかそんな金属に覆って姿を隠すなんて、考えてもみなかった、だけど貴方の負け」

「どうしてだい?」

 金属類を纏った、敵は首を傾げて聞く、機械的な喋り方や機械的な仕草を敵はするが、その中にある敵意を私はハッキリと感じ取れた。

 何故なら彼は右手にLMGを持っていたからだ、片手で構えられるように身を纏う金属類の一部にめり込むように固定されている。

「……磁石探知じゃなくて、磁力制御だからだよ」

 彼のすぐ近くに、ある磁石の磁力を強める、彼の片手のLMGはそれに引っ張られ私には向けられなくなる。

「うわっ! なんだよ、ふざけんなよ……君のスペックレベルはハウルのはずだ! こんなの軽くフォースは、超えてるんじゃないか?」

「そうだね、でも私はハウルでいい」

 私は磁石をポケットから取り出して、金属類を纏う彼の金属を右手に持った磁石で、引っ張り剥がしていく。

 胴体が露出した所で、ペイント弾の塗料を塗ってある磁石をポケットから取り出して彼の胴体に投げ当てた。

 彼の戦闘不能が、PIPに表示された。




「ユリネが何処かにいったわよ、どうするの」

「俺達だけで、考え……」

 言葉が途切れる、途切れたので、何事かと思って、右隣にいたムクロの方を見た。しかし、ムクロは消えていた、文字通りの意味で。

「逆撫の奴、本気みたいだね……アハハハッ! こっちはこっちでやるかな……安心しな『深淵』もそう簡単にはやられないだろう」

 私は唇を噛み締めてPeacekeeper構え続け、愿と名乗った自分の敵に銃口を向け続ける。

「ねぇ、一つ聞きたいんだ……なんで、あんな奴と一緒に行動するの?」

「私の勝手でしょう……私は私の直感に従って生きてる、正直……編入生だからって優遇されたり、見たてや容姿だけで、すり寄って来る人間……特に男は私大嫌いなのよね、そんな奴らの考えてる事なんて一つ、ヤりたいだけ」

 愿は私の話を聞いて、笑い声を上げる、何処が面白いのかは分からないが「アハハハッ!」っと言うわざとらしくも耳障りな笑い声は気に食わない。

「まさか、それだけの理由で……この歳になれば仕方ない事だよ、人間のサガって奴……避けて通れない物を気にして、なんになるんだい? あんな奴といたら君は嫌われるだけ……まぁ負けは確定なんだ、大人しく撃たれてね」

「そういう訳にはいかない……」

 私は銃の連射をセミオートにして打ち続ける、だが、愿はそれを体を砂へと変えて受け流す。

「弾は僕には通用しないんだ……砂だからね、いくらカオスでも敵にダメージが通らなきゃ意味ないね、アハハハッ!」

 愿も銃を撃ってくる、幸いにも狙いはそんなに良くないので、交わしながら木に隠れるのは容易である。

 しかしこれではいつか体力が尽きた所で、撃たれて敗北は確定だろう、何か砂に打ち勝つ事の出来る物はないのか……。

「砂の体は他の砂を吸収して、一部を大きくできるんだよ!」

 考えている間に、砂で出来た大きな手が自分の隠れてる木を引き抜いた、そして愿はまた銃を連射してくる。

「なんて馬鹿力なのよ……!」

 飛び退いてまた違う、木に隠れる、ふと自分の持ってる荷物を見ると勝てるかもしれない切り札が入っていた、これしかない! 覚悟を決めろ……チャンスは一度きりだ……逃すな!

 私はそれを両手を使って掴み、愿に向かって走る、そしてそれをかけた……水筒の水だ。

「水だと!?……これはまずい」

 効果はありそうだ。

「とでも言うと思ったか!」

 効果はまるでない、しかしまだこれは第一段階だ、私は隙を見計らいながら、銃撃を交わしつつ、奴からの距離を取る、これは第二段階。

「おーい鬼ごっこかい? くそまた冷えてきたな……ん?」

 そして第三段……空気中の物資を思いっきり冷やす、空気に含まれる僅かな水分すら冷えて、キラキラと輝く。

「その冷えた状態で、砂になれる?」

「体が氷ってる…砂ごと!? しまった」

「もう遅い」

 私はセミオートの銃撃を愿の体の氷ってる部分に撃つ、ペイント弾がしっかり当たり液体塗料を、愿の体に付着させた。

 腕のPIPを確認すると、ちゃんと戦闘不能表示が、下されていた。



「俺たちだけで考えて、やるしかないだろ」

 周りを見渡すと、ザクロの姿はなかった、というか自分がさっきまで、いた場所とは違う場所に立っていた、なんだこれは? 一瞬現状の把握に戸惑う、しかしすぐに答えが分かる。

 後ろだな。

「これでも、躱すか!」

「生憎、不意打ちは効かないもんでね」

 今度はハンドガンを俺に向けていたが、俺は、上半身を右に傾けてよける、続けざまにハンドガンの発砲音が鳴り響くが、その発砲音の鳴った回数だけ、体を動かして、ペイント弾を避ける。

 逆撫はハンドガンのトリガーを引き続けるが、弾切れを起こし、カチカチと虚しい空撃ちの音しか聞こえなくなる。

「……本番なら死んでるぞ、お前模擬戦でよかったな」

「うるさい! 死ね!」

 怒りのこもった声と共に目の前から、逆撫が消えた、またテレポートか……上だな。

 上からの急降下によって蹴りの威力の増幅をしようとしてるのか、単純だな。

「死角からの攻撃だぞ! 何故避けられる!?」

 俺が躱して、逆撫の蹴りは地面にめり込みクレーターを作っていた、普通に当たったら死ぬ威力だ。

「……頭に血が上ってるな随分と、それと銃撃戦より肉弾戦の方が得意なんだな……やり方合わせてやるよ」

 VSRを地面に置く、雪が積もっているので、あまり良くはないが、仕方ないだろう。

「後悔するわよ、私のテレポートの速度から出る攻撃は岩をも砕く」

「ためしてみな、その岩をも砕く拳が俺に届くか」

 逆撫は、テレポートして正面から拳を出してくる。

「ぬるい……」

 俺は拳を顔の前で、握り止める、なるほど……受け止めて初めて分かる、威力はかなりあるのか、手が痺れている。

「くそっ!……これなら」

「また、背後から蹴りか……」

 背を向けたまま、今度は足を受け止める。

「……何だ、まるで心を読まれてるみたいだ……」

「その通りだ、俺のESPの能力の一つがお前の攻撃方法を教えてくれる、名付けてリーディングハート」

 逆撫は、俺から距離を取る。

「リーディングハート……ならこれはどう?」

 逆撫は連続でテレポートしながら、連続で蹴りと拳で攻撃を仕掛けてくる、なるほど考えたな、躱されると分かる攻撃ならまだしも、肉体動作的に受け止める事しか出来ない、攻撃を連続で……これはまずい、攻撃を受け続ければ、いづれは痺れが蓄積して、動けなくなる。

「もらった!」

 しまった! 痺れて動けない! みぞおちに拳を受ける、異常な違和感が腹部に連続して叩き込まれる、相手の動きはわかるが、対処しきれない。

「テレポートガトリング!」

「がはっ!」

 意識が飛びそうになるが、連続した拳の攻撃をなんとか両手で掴むと、俺は立ち上がった。

「なっ!」

「ぬるいんだよ、てめぇ……の拳は……歯食いしばれよ……このクソアマ!!」

 俺は頭突きを逆撫の顔面に叩き込む、鼻からは血が出ている、ゆっくりではあるが彼女は意識を失っていった。

「俺もまだまだだな……」

 地面に置いてあったVSRを拾い、気絶していた、逆撫に撃ち込んだ。

 それと同時に模擬戦終了の合図であるブザー音が射撃訓練場に鳴り響く。

「あー…疲れた」

 思わず思考が口から漏れた、PIPを確認すると、ユリネもザクロも戦闘不能にはなっていなかった、つまりそれぞれがそれぞれの敵を倒して、俺達三人は勝利を掴んだんだ。

 思えば今日の一時限目の授業開始から、夜までずっとこの射撃訓練場にいたな……。

 俺は射撃訓練場を出ると、ザクロとユリネを見つける。

「随分とボロボロだね?」

「なにがあったのよ」

「……強敵だったんだよ、あのテレポート女」

 俺はユリネに抱きつかれ「クールダウン」を掛けられる。

「ああ、ありがとうな」

「いつも通りだよ、いつも通り」

「そうだな、オイ、ザクロ……」

「なに?」

「何で俺達についてきたんだ?」

「直感よ直感……この三人ならやれるって思ったからよ」

 イマイチまだ、このザクロの性格がわからないが、まぁ久々にいい仲間が増えたと考えよう。









 

 


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