↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ESPフェイタル  作者: 夜栗鼠丸
1/4

プロローグ 日常

 第二次世界大戦中、アメリカの核兵器開発を日本の諜報員が情報を送り、先に作り上げた結果大戦に大きな影響をもたらした、そして侵略を続け。

世界が日本の支配下におかれてから68年

 それは唐突なものだった。

  宇宙から隕石が大量に降り注いだ。

 降り注いだと言っても、大気圏で大概が燃えて、小さな石ころになって、世界の各地へ散ってしまった。

 その石ころはどういわけか、人間の潜在能力を引き出す、特殊な物質【アンロックスペック】を常に放出していた、勿論地球上の物資ではない。

 その【アンロックスペック】によって人々はESP、超能力に目覚めていった訳だが。

全ての人間がそうである訳ではない、適正とでも呼べる、素質がある者のみ、超能力に目覚めたのだ。

 しかしそれは当然のごとく、犯罪やテロに使われ、世界治安は悪化の一途を辿った。

 さらに期を同じくして、あらゆる人種や旧国のレジスタンスが蜂起、日本から奪われた北米、南米、オーストラリアを奪還。

 日本の独裁は68年続いたが、たかが石ころに、その独裁を邪魔されてしまったのだ。

 状況を重く見た日本政府は超能力を発現した者のみを軍事力に導入することによって、外 交上の反発牽制を実現した。

 そんな世界の事なんて、俺にはどうでもい、俺はただのうのうと人生を貪り生きていたかった。

 世界はどうでもいいが、自分を取り巻く環境は、少しばかり優遇されたい。

 きっと誰もがそう思うだろう。

 だが、決して俺は優遇されなかった、理不尽なくらいに。

 両親はひどいものだった、毎日酒に酔い博打を打ち、家に帰っては暴力を俺にふるう、身体中痣だらけになっても、血まみれになっても死ねず、「痛いからやめろ」と言っても当然その行為が止まる事はなかった、俺は自分の置かれたこの環境を酷く醜く呪った、故に卑屈で根暗な性格になった俺は学校や近所じゃ避けられる対象になった。

 しかしある日を境に、その環境から俺は脱出する事になった。

 西暦2014年、隕石が落ちて14年後、俺が高校に上がる時だった。

 もちろん高校などにいくつもりはなかったが、行く事により、多少ではあるが今の環境に 変化が見られるからだ、というより国の決まりで半ば強制的と言えるだろう。

 俺の身体にESPが目覚めたのだ。


 ESPの発現条件としては、隕石との接触及び隕石が地球の大気に振りまいている【アンロックスペック】を体内に吸収する事だ、俺はこのうち後者に当たる。

 ESPの発現は個人差があり能力も別々にして特有である、そして大体の能力は、【スペックレベル】と呼ばれ、差を明確にしている。


【スペックレベル-ゼロ】これは能力こそあるが、特に役に立たない能力、例えば皮膚を自由自在に伸ばせる、しかし伸ばしたところでなんになると言うのだろう。


【スペックレベル-ハウル】能力はあるし多少は役に立つ、これに於いては治癒能力の向上や共有が当てはまる。


【スペックレベル-フォース】この辺から、発火や蓄電と言える、殺傷に結びつく物があげられていく、もちろん軍事国家の日本では、優遇される対象だ。


【スペックレベル-アクター】殺傷はもちろん、それ以外にも秀でた能力が複数備わる、簡単に言えば「発火攻撃をしながら自分を回復させられる」という事である、かなり貴重な存在だ。


【スペックレベル-カオス】殺傷というよりは殺戮にほぼ近い事が可能、例えば視界に映る物資を変質させて爆発させたりする、近くにいるだけで、殺されるんじゃないかと、ヒヤヒヤする形破りな能力を有する。

まだ世界で30名程しかいない。


【スペックレベル-ロスト】未だ実在していないレベルで、人間がこの段階に来る事はないとされている。


 俺はこの内のレベルの何にも当てはまらない……。



「あーだるぅい、寮なんかにもどりたかねぇぜ」

 学校の屋上でオレンジ色に染まる空を仰ぎながら、俺は呟く…ここ軍事学科ESP専門高校に来てから毎日同じ事を呟いている気がしてならない。

 目の下に出来た大きなクマを指でなぞり、目を子供のようにこすると横たわり寝た。

 しかしそれを親切にも妨害してくれる、存在がやって来る、屋上へ続く階段を駆け足で上がり、ドアを大きな音と共に開ける。

「はぁはぁ、ムーくんこんな所にいたぁ」

「……ユリネか、ムーくんと呼ぶな俺の名前は西園寺かムクロで呼べよ」

「はいはいムクロ君」

 こいつの名前は神崎ユリネ、幼い頃からの知り合いで、小学、中学と同じだった、避けられている俺とは対処的で容姿も性格もいい為、それなりに人気がある。

  俺と同時期にESPが覚醒して、同じく軍事学科ESP科高校に入れられた哀れな同胞だ。

「調子は大丈夫かな、ムクロ君」

「今の所、ユリネに見てもらうような身体の異常はないな、だが一応頼む」

「了解、ギューッ!」

 ユリネは横たわったままの俺の身体に抱きついてESPを使う。

 ユリネのESPは『クールダウン』任意の相手をあらゆる病気や怪我、そして心まで苦痛から解放する。

  しかし抱きつく必要はなく、何故このような形容し難い妙な行動をするかは不明である。

「はい、完了」

 上体を勢い良く起こすと彼女のツインテールが揺れる、なかなか綺麗な髪だ、俺もしばらくしてから上体を起こすと、彼女の腕輪がキラキラと発光している様子がわかった。

「うわ! あと20分までに寮に戻らないと、腕輪に罰されちゃう」

 俺も同様に腕輪を見る、この腕輪はESPが覚醒した人間だけが、つける事を義務化された、通称PIPである。

  PIPには所有者の現在地から健康状態、ESPの制限制御、様々な事を処理してくれる。

 ちなみにユリネの腕輪はESPの制限がされないタイプである、理由は簡単【スペックレベル-ハウル】の彼女が人を殺したりはできない上に、彼女は他人のためにしかESPを使わないからだ。

 逆に言えば俺の腕輪はガチガチに制限だらけで、いつでもESPを行使できる訳ではない、足枷ならぬ腕枷だ。

 もっと単純に言えば手錠。

「やれやれ俺も戻るかな……」

「私も〜」

  PIPの情報が更新される音がする、俺とユリネの両方の音だった、俺は階段を下りながらユリネと共にPIPを確認する。

【緊急招集 0時 場所 おまいらの教室】

「なんだ、おまいらの教室って…2ちゃんねる口調とか意味が分からない、まぁあの馬鹿教官の事だ、またどうせ俺たちに面倒な任務でも押し付けるんだろうな」

「ムクロ君と一緒の任務かぁ、楽しみだねぇ」

 ユリネと誰も居ない校舎を出て学校の敷地内の南側へ向かう、南側には寮の他にプールやグラウンド、体育館などの学校らしい設備がある、しかしどれも授業で使う以外は俺にはまったく無縁である。

 寮につくとユリネは早々と部屋へ戻って行った、ユリネの部屋は2階の西側の廊下の突き当たりにある、対する俺は寮の5階、部屋はいくつか有るが、5階の住民は俺だけだ。

 俺は左腕のPIPを部屋の前にあるPIPリーダーにかざす、部屋の鍵の役割もPIPが果たしてくれている。

 部屋に戻ると、自分のベッドの上に制服のまま寝転び再びPIPを見る。

【校則違反 0 能力の使用回数 0 受講義務達成 本日は模範的な結果を残した為、PIPの解除許可を与える】

 PIPの解除の項目が現れるが、俺はNOを選択した、どのみちこの後の緊急招集で、この忌々しい腕輪もしくは手錠をつけて任務を行なう義務が発生するのだ、それに外せない理由は他にもある。

「はぁ〜……」

 深くため息をつく、まるで漁に出たわいいがまったく魚が釣れなかった漁師のように。

 ぼと良い夕日が窓から差し込み俺の身体を温める、次第に夕日は沈み空が紫色になる頃、部屋の鏡の前になんとなく立ってみる。

「昔は鏡で見るたび、痣だらけだったな」

 昔の事を思い出しつい口に出してしまった。

 俺は決して善人ではないだろう、親は俺の血を分けた親であって、俺にはその血が同じく流れているのだ、人を殴り蹴り苦しめ快楽を得る呪われた血が。

 いつ頃からだったか、物心つく頃には、自分が異常である事に気がついていた。

道端で、すり寄ってきた子猫の首をきつく締め「苦しい? 苦しい?」と繰り返し聴きながら自分はまるでピエロのように泣き笑いしていた。

 当然周りの人間は俺をおかしな子供としてみていた、小学校に通う頃にそう言った行動が 初めておかしい事だと学んだ。

 学んだと言うよりは知ったと言う方が正しい「ムクロって奴おかしくない?」「ムクロ君ってちょっと怖いよね」こういった言葉が俺はおかしな奴だと自覚させた。

 自分の頭がおかしいと、自覚してくれたのはいいが、生まれ持った根っこの部分は、まるで変わらない、やはり人が苦しむと密かに心の底で泣き笑いするピエロが出てくるのだ。

 鏡を見続けているとPIPに自分の詳細が描かれたページが浮き上がる。

【西園寺 ムクロ】

【出席番号01】

【身長 162cm】

【体重 50kg】

【成績 B+】

【スペックレベル……エラー】

 スペックレベルの欄でエラーと表記されるのは何時もの事だ。

 理由は不明である、だが検討はついてる。

俺の能力は相手の心を読み、行動を操る事も可能で、それに加え瀕死状態でも血さえ与えれば復活できてしまう。

 更に検査の結果、俺の能力は常に寝ていようがコントロールが効かない上、成長し続けているらしい、現にESPに目覚めたその日に、錯乱状態を起こした俺を止めるため、沢山の犠牲者がでたらしく、編成されたばかりのESP部隊の約半分以上の死者と行方不明者を出してようやく制止、PIPを取り付けたに至る。

 つまりPIPが俺の生命線も同然。

 つくづくついてない……。

 部屋をノックする音が聞こえた、おそらくユリネだろう。

「ムクロ君いるー? ねームーくん?」

 俺は鏡から離れて部屋のドアを半分開ける、予想通りユリネがいた。

 そこでドアをおもいっきり閉めようとするが、ユリネが履いている靴がドアに挟まり閉まらない、糞がっ!

「なんで、しめるの!」

  半ば強引にユリネが部屋入ってくる、入り口で靴を脱ぎ捨ててベッドにダイブする。

「んーふかふか〜癒されるー」

「やめろ人のベッドだ……」

「いいよねームクロ君は、こんないい部屋、 アンロックスペックの低い私には割り当てられないよ緊急招集の時間までここでゴロゴロしてよ〜」

「やめろって言ってんだろ、自分の部屋のベッドで我慢しろ、ていうか俺の部屋が羨ましいなら、すこしは自分のESPを成長させることだ、そうすりゃ多少はマシになるだろ」

俺はベッドの上でただをこねるユリネを自分のベッドから引き剥がして、「ゴロゴロ禁止」と言ってから、読書できる本を渡して、適当な場所に座らせる。

「あ、この本新しい新刊出てたんだ」

「その本貸してやるから大人しくしてろ」

「あ、この部屋鏡支給されたんだ」

「おい、人の話し聞けよ」

 ユリネは本をもったまま、鏡の前に立つ。

 すると先程の俺と同じように、PIPにユリネの詳細が表示されたページが出る。

【神崎 ユリネ】

【出席番号 13】

【身長 161cm】

【体重 48kg】

【成績 A−】

【スペックレベル-ハウル】

【バスト 85 ウェスト55 ヒップ83】

「え!? ちょっとなによこれー」

ユリネが女の子らしい可愛い声で叫ぶ。

「プライバシーの侵害じゃないの!? なんでスリーサイズまで勝ってに表示されるの、ていうか測ったことないんですけど!」

そして羞恥と怒りの矛先は俺に向けられた、「勝ってにみないでよ馬鹿ー!」と叫ばれ、みぞおちにユリネの鉄拳が炸裂し俺は地面にひれ伏し、悶絶した。

「な、なにすんだ」

「あ……ごめん、ついとりみだしちゃって」

ひれ伏していた床から起き上がり、ゆっくり歩くと、俺はベッドに座った、もしPIP無しでも能力の制御が可能なら、今すぐこの女を血祭りにあげてやりたい。

「いいか、ユリネ……言うことを聞けよ、その本貸してやるから大人しくしてろ!」

「う、うん」

二時間後、夕日が完全に沈んだ頃、俺は部屋のテレビをつけた。

 テレビのニュースを見てみると、またESPによる犯罪やらテロだのと相変わらずのニュースで、何度も同じ事件を繰り返し報道している。

 誰もがここで思う事は「何度も同じ事を伝えるな」「もう知ってるから新しい事を伝えろ」など様々だろう。

 しかし、しばらくすると全く新しい事をニュースのアナウンサーが伝えてくる。

『えー臨時ニュースをお伝えします、東京都の東京都庁が、たたった今何者かの集団が侵入し、占拠されたとの報告が入っています』

「お、マジか……やべんじゃね」

「どーしたの?」

「東京都庁が占拠されたとさ、まぁどうせ反抗政府かテロリストってパターンだろ」

「こりないねぇ、日本のESP組織がすぐに鎮圧しに来るのに」

更に二時間後、緊急招集の時間になる。

「ユリネ、いつまで読んでるんた行くぞ」

「え、もうそんな時間?」

 俺はテレビのリモコンを取り電源ボタンを押すと同時にユリネに声をかける、ユリネは慌てて、本を机の上に置くと、俺よりも早く部 屋を出て校舎に向かって行く。

 俺も早く行かねば。

 校舎の中に入り教室である、1-Bと書かれた教室を目指す、深夜0時という事もあって、肝試し並みの不気味さがあたりを漂っている。

  1-Bだけ明かりが点いていたので、もうユリネは着いているようだ、恐らく教官もだろう。

「西園寺ムクロ、入ります」

「入ってちょんまげ」

 今の声が教官だと思いたくないが、教官だった、こんな奴が自分達を指導しているのが本当に信じがたい。

「やぁ西園寺君、今日は重大な任務を神崎君と共に成し遂げて欲しくて、きてもらっちゃったのさ」

 そんな言葉を放ちながら、教官は教卓の机の上で、ふんどし一丁で踊っていた。

「帰っていいすか?」

「待ってごめん……本当真面目にやるから待って」

「最初から真面目にやって下さいよ、てかユリネ、お前もよくこんなの……に……」

ふと教室の隅のユリネの姿に目をやると、ユリネは下着姿だった…俺の頭の中を何が駆け巡る、この男は何故裸なのか、そして何故ユリネまで下着姿になっていたのか。

 俺は教卓の上の変態の首を持ち上げながら締める。

「てめぇ、ユリネに何しようとしてたんだ」

「苦しい苦しい……別に私が裸だから神崎君も裸になって踊らないか、もしくはプロレスをしないかと誘った訳ではなく」

「教官が私と下着姿でプロレスしたいって言ってきた」

 俺は更に変態の首を絞める力を、よりいっそう強くした。

「苦しい……」

「二度とユリネに変なことをさせようとするな」

「はい」

俺は変態の首を離し自分の席についた。

「はぁ、やってらんね」

「そうだね」

「お前も服を着ろ!」

「はぁい」

ユリネは制服のスカートとブラウスを着用してから、再び俺の隣の席に戻った。

「では、今回の任務の説明をする…東京都都庁が反抗政府を名乗る通称『アンチテーゼ』に占拠された、奴らの目的は日本が過去の大戦に置いて、侵略した領土及び各国の解放だ、無論こんな条件飲めるわけがない」

教官はそう言うと、大きな紙を黒板に張り出す、その紙には敵の武装データ、ESP能力者の有無などが記載されていた。

「東京都庁占拠したぐらいで、国が従う訳ない……教官この行為、何か裏がありそうです」

「鋭い指摘だな神崎君、その通り私達もそう考えている」

「つーことは、俺達の任務は東京都庁の解放及び人質の救出と、奴らの真の目的の把握って事だな」

教官はその通りだと頷くと、今度は教卓の中からアタッシュケースを取り出し俺に渡す。

「武器が入っている……き使い方は心得ているはずだ、神崎君はPIPとこのアタッシュケースに入っている端末で敵のデータを随時、西園寺君に報告してくれたまえ」

  ユリネは教官に対して敬礼をすると一言。

「終わったら下着プロレスしましょう」

「もちろんだ」

「やめんかアホ」


 東京都庁がよく見える、近くのビルの屋上についたのは0時30分の事だった。

「よしはじめるか、アタッシュケースを開けて……これはM82A1か、弾は炸裂弾と特殊徹甲弾、あとこれはユリネ用の端末だな」

 特殊徹甲弾は最近開発された新弾で、人間の肉以外の場所に当てると、それを突き破って進む……しかし人間の体に当たると、途端に進むのをやめて停止する、優れものだ。

 炸裂弾は名前の通り、着弾地点で爆発する仕組みを有していて、威力自体はトップクラスだ。

 端末を手渡すとユリネは手慣れた手つきで、端末を立ち上げて、敵の居場所をリアルタイムで表示できるように人口衛生への接続を開始した。

「妙だよね、こんな事私達に任せるより、あらかじめ組織化されてる部隊とかに任せた方が簡単だし、早いのに」

「なんか事情でもあるんだろ」

 俺はM82A1の三脚をビルの屋上のはじっこにある塀のような出っ張りに立てると匍匐し、狙撃の体制に入る。

「敵は、50人いる、入り口や出口の見張りが2人ずつ、それから各部署に数十人、警備室に5人……少ない……少なすぎる……人質は全員上のフロアに集められて拘束されてるよ」

「数なんてどうでもいい、どいつから殺すか決めちまおうぜ」

 俺は狙撃の体制から更に弾を装填、スコープを覗いて風の風量を計算する。

「まずは警備室の5人、呑気にコーヒーなんて飲んでるわ」

「特殊徹甲弾で壁に風穴開けてからじゃ、遅いな、炸裂弾に変更する……警備室に発火もしくは爆発出来る物は」

「高圧電流が流れてる配電盤があるわ、でもこれはあまりオススメしないわ、施設の電気系統がダウンして、奴らに気づかれて、犠牲がでるかも」

 スコープから一旦目を離して考える。

 人質の数は少ないが、誰が欠けても恐らく今の日本には重大な影響を与える、誰も失わないやり方があればそれを選択すべきだろう。

 しかし、意外にもその策がユリネもないのか黙りこんでしまった。

 そうか、外交の緊張状態に理由があったんだ!

  緊張状態の今、重要人物を失えば、大きく国は傾く。そりゃ、あらかじめ組織化されてる部隊も手がだしずらいのも納得がいく、更に少人数なのも、奴ら側の被害を最小限に抑える為。

 なかなか考えていやがる。

「わかった、でも警備室を先にやる、奴らが気がつくと同時に人質のフロアにいる敵の居場所の報告を頼む、勝負は一瞬できまる!」

「わかったわ」


 再びスコープを覗いて深呼吸をする、警備室をみる、炸裂弾を装填する。

「もう少し上……ストップ……撃って」

 ユリネに言われた通り狙いを合わせてトリガーをゆっくり絞る。

 M82A1から炸裂弾が弾きだされ、警備室の壁を刳り配電盤を爆発させる。

 爆発を確認と同時に、特殊徹甲弾へと弾を装填する。

「人質のフロア! 敵二名が銃を構えてる」

「させるかよ!」

 徹甲弾二発を素早い装填と共に撃ち出す、弾は再び壁を貫通していき、敵の眉間に命中、鮮血が人質のフロアに広がっただろう。

「他の敵も人質のフロアに向かってる! 早い順番から撃ち殺して!」

「了解」

 ユリネの指示に従い敵を排除していく、壁越しから撃たれて慌てふためく敵の顔を想像するだけで、自分の中にいる泣き笑いするピエ ロがもっと殺せと囁いてくる。

「待ってムクロ君、ムクロ君?」

「次だ」

「全員殺しちゃダメだよ!」

「うるさい」

 もっと殺したい! もっとだこんなものじゃ足りない、もっと大量の血を!

「クールダウン」

 ユリネが抱きついくる、自分の中の殺戮衝動が消えていく。

「私達の目的を忘れないで! 次は階段で移動してる敵……ちゃんと足を撃って」

「すまない……わかった」

  ユリネがクールダウンしなかったら全員殺していただろう、俺達の任務の最も重要な部分、それは敵の真の目的を把握し、持ち帰る事。

 しかし50人いた敵の数は完全に無力化する頃には10名程しか、敵は生きていなかった。

「いこう次は敵の真の目的を掴むよ」

「すまない……また殺戮衝動が」

「仕方ないよ」

 ビルを降りて、東京都庁に近づくと、警察やマスコミ、野次馬が道を塞いでいた。

「通して下さい! 私達は軍事学科ESP専門高等学校の者です!」

 ユリネが生徒手帳を証明がわりに、見せつけながら進んで行く、それに続くようにアタッシュケースを持ちながら、俺も進む、ここで、野次馬や警察は道を開けてくれるが、マスコミはそうはいかない「何か一言」「お二人だけですか」「今回はどのような任務なのですか」と質問攻めにしてくるのだ。

ユリネはこの手の質問攻めに弱く、あたふたしてしまうので、俺がユリネの手を掴みマスコミを押しのけて進む。

 ようやく都庁の中に入り、俺は狙撃で生き残った奴らをその場で、尋問した。

「お前らの真の目的はなんだ」

「言うと思うか」

 口答えする奴には傷口を指で抉る。

「や、やめてくれ 話すから」

「さっさと言え」

「俺達はこの場所で探し物をするように『アンチテーゼ』に言われて金で雇われた民間PMCとESP能力者の集まりなんだ」

一人の男は怯えながら、話し出す。

「俺達はここの警備員として、潜り込んだんだ……」

「それで全員日本人って訳か、で探し物ってのはなんだ」

 再び傷口を抉る。

「GECKって言われてる物だ!  いたい、やめてくれ!  話してるじゃないか!」

「そんで、そのGECKってのは何なんだ?」

「俺達もそこまではしらされてない、仲間のESP能力者に探し物…ダウンジングを出来る奴が居たが……殺された、お前に」

「おーそりゃ……わるかったな!」

 男のみぞおちに蹴りを入れる。

「次の質問だ、貴様らの雇い主は」

「俺は知らない!  ただ上司に命令されて…」

ちょうどその場にユリネが来る、ユリネは肩をほぐしなが俺に歩み寄ってきた。

「人質の拘束解除と懐柔に時間かかっちゃった、で〜何か情報は?」

「GECKってのを探してこの都庁に来たらしいな、まぁそれ以外に目ぼしい情報が出ないから殺そうかと」

 ユリネに「こら!」と言われて小突かれてしまう、まぁ元々殺すのが目的はではないので、それは俺に非があるのだろう。

「ごめんね犯罪者さん、こいつ大分頭おかしいんだ」

「下着姿でプロレスを始めようとする奴には言われたくねぇよ」

 ユリネは男に俺に対してやったように抱きつきクールダウンをかけた。撃たれた傷の痛みを消す為か俺に与えらた恐怖から解放する為かは分からない。

「お嬢ちゃん優しいね……俺にも君と同じくらいの子供がいるんだ、それなのに俺は」

 男の目から大量の涙がこぼれ落ちた。

  人に優しくされるのがそんなに嬉しいのだろ

うか。

「仕方ないよ、世界が悪いんだから」

 ユリネらしいと言えばユリネらしいが、こんな奴らに同情しに来たわけではない、あとは警察に任せて、去ろうとした時だった、敵の一人が銃をこちらに向けて負傷しながらも片足で立っていた。まずい完全に後手に回ってしまった!

 銃の発砲音がした、しかしそれは敵ではない、ユリネが懐柔した男の物だった。

 男の放った弾は敵の眉間を撃ち抜いた。

 助けられた?

「お嬢ちゃんのおかげで、やり直す決心ができたよ、罪を償った後はちゃんと前を向いて生きていこうと思う。」


 分からない、俺には何故こんな世界で、前を向いてだなんて、ユリネにはそれが何なのか分かるのだろうか。ユリネは笑って、男に「元気でね」なんて言っていた。


 任務を終えて校舎の1-Bに戻る頃には、時間が午前二時を刺していた。

「戻ってきたか」

「人質は全員無事救出しました、敵の41名の死亡を確認、残りの9名から情報を収集した所、彼ら自身はアンチテーゼではなく、アンチテーゼに雇われたPMCとESP能力者達でした、誰に雇われたかは警察の方に任せましたGECKという物を探して都庁を占拠したようです」

 教官は首を傾げながらGECKと小さくつぶやくと「ああ、あれか」と言った。

「GECKってのは、君たちが着けてるPIPの大元だよ、まぁ持ち出されたり破壊されたりしたって報告はないから、多分大丈夫だろう、それはそうと二人共にお疲れ、明日は学校を休むといい、それと西園寺君にはプレゼントだ」

 そう言うと教官はアタッシュケースを渡す、俺はアタッシュケースの中身を確認すると、思わず飛び上がって喜びそうになるが、必死に冷静を装う。

「VSR-10だ、あとPIPの能力制限を少しだけ緩くしておく、今回の功績を讃えてとの都庁からのはからいだ、受け取れ…まぁそれはそうと、神崎君、裸でプロレスしよう」

 俺は素早くVSR-10に弾を装填して、ボルトアクションをして教官の眉間に突きつけた。

「すいません、すいません、許してマジで許してください!」

 寮に戻ろう。

 寮戻ると俺は、PIPの能力制限を少しだけ緩くされたと言う事が気になり、能力の行使を試した。

 しかし、行使しようにもコントロールしたこともないので、もちろん体をどんな風に動かしたりしたら、いいかわからな。

「ムクロ君なにしてるの?」

 寮の一階の広間にユリネがやって来る。

「お前、先に戻って寝たんじゃないのかよ…まぁいいちょっと付き合え、お前は自分の能力を使うときどうしてる?」

「えーとまずはリラックスして、意識を対象となる人物へ向ける、それだけ」

「抱きつく必要は皆無なんだな」

「あるよ!  ムクロ君と重症な人には」

 すこし、顔をムスっとさせて、怒ったようにユリネは言ってみせる、本当に色々な表情か感情があって羨ましい。

「リラックスして、意識を集中か…」

 ユリネに言われた通りに目を閉じてやってみる、もちろん試す相手はユリネだ、すると声が聞こえてくる。

(どーせムクロ君は私が気にかけたってなんとも思わないんだろうな)

 聞こえてきた声は、おそらくユリネの心の声だろう、相手の心が読める程度に制限が緩くなっているようだ。

「まぁ…ユリネ、そのいつもありがとうな気を使ってくれて」

「え…いきなりどうしたの…そんな照れるよ、すごく」

 ユリネの顔は真っ赤だった、本当にわかりやすい奴だ。

 それに色々な表情と感情があって、羨ましい。

「…さて部屋に戻るか、もう寝よう」

「私もそうするよ、今日は疲れた」

  翌日、俺は時間通りに目が覚めてしまう、今日は昨日の振替休日のようなもので、学校にはいかなくていいが、俺としたことが目覚ましを、いつもの時間にセットして寝てしまったようだ。

 目覚めた時間は朝7時、びっくりするくらい規則正しい朝と言えるだろう。

 まぁ起きてしまったのは仕方がないので、寝癖をとかし、顔を洗った後で、朝食の食パンをそのまま食べて、歯磨きをして街に出掛ける事にした。

 寮の玄関口にユリネが立っている、完全に誰かを待っているようだ、俺でないことを祈りながら俺は玄関を通ろうとする。

「ムクロ君見つけた」

 俺かよ、まぁ仕方あるまい、偶には俺からどこかに誘うか。

「ユリネか、俺はちょうど今から街に出掛けるんだが、お前も一緒にくるか」

「うん、行くよムクロ君に誘われたら断れない」

 まだ朝の7時という事もあって街に出たわいいがまだほとんどの店が準備中で、行くところと言ったら、コンビニくらいだった、ここ東京都渋谷区にはコンビニが無数にあるが最寄のコンビニはあえて避けた。

「もっと近い所に行けばいいのに」

「校内の連中がこの時間帯だといる可能性高いんだよ、俺がどういう存在かお前も、分かってんだろ」

 俺が言いたいのは、ESPが覚醒した日に俺自身がこの国そのものから恐れらる力を有してる為、また誰かを殺すんじゃないかとか、誰かを操りおどろかすんじゃないかと、ESP能力者であっても、嫌うような人間の側にいることを自覚して欲しいのだ。

「大丈夫だよ、私がいずれムクロ君が危険な存在じゃない事を証明するから、それに私は結構モテる」

「そうかい、頼りにしてるぜ…そのスリーサイズを」

 そう言った瞬間、みぞおちに強烈なパンチが炸裂する。

「さーせん、もう言わないです」

「よろしい」

 すこし離れた場所のコンビニに到着、俺はとりあえず朝食が食パンだけで、まだ自身の胃袋が飯を欲していたので、カップラーメンと飲み物の清涼飲料水を購入した、ユリネは女性誌を一冊とお菓子を買ったようだ、お菓子の袋には「コーンラーメン」と書かれていた。

「うまうま…うまうま…」

 子供のように食べるユリネを俺はラーメンを食べ歩きながら見ていた、なんとなくだが「これが何時もの休日だ」と胸を張って言えそうな気がする。

 しばらくして飯を食べ終わるころには駅に到着した、駅から電車に乗り表参道へと赴く、時刻は10時を指していた。

 人もそれなりに多くいる、だがやはりPIPを付けているせいか、周りの人の視線が痛いくらいにユリネと俺に向けられる。

 いくらESP能力者が増えているとは言え、その存在はやはり若干の嫌悪と嫉妬を混ぜた歪んだ視線を向けられるのだ。

「そういえば明日、編入生が来るんだってさ」

「へぇ、どんな奴なんだ?」

「それがすごいんだよ、まだ世界に30人しかいないスペックレベル-カオスで、容姿端麗、成績優秀で、完璧無敵超人な女の子なんだって」

「完璧無敵超人……女……?」

 俺の脳内には、ビキニ姿で褐色の筋肉ムキムキ女性ボディービルダーが満面の笑みで映し出された。なにこれ怖い。

 しばらく歩きながら俺はユリネに尋ねた。

「なんだってこんな時期に?  入学っていうか……強制連行されてから二ヶ月経って、六月になるんだぞ」

「そりゃ、今はいつESPが覚醒してもおかしくない時代だからじゃない?ほんの14年前はこんな力、私達には無縁だったのにね」

「確かにな、まぁ誰がいつ来ても俺は構わないさ、俺に関わらなきゃな」

 表参道を明治神宮に向かって、歩き竹下通りに差し掛かったあたりでユリネが地面に座り込んだ。

「もう歩けない……足いたい」

「はぁ?  自分の能力で治せないのか?」

「任務や学校外での私的ESPの使用は校則違反なの、おんぶして。」

 まったく、仕方のない奴だ、まぁいつも殺戮衝動を抑えてくれるのは、こいつだし、ここまで誘ったのも俺だ、偶には助けてやろう。

「すこしの間だからな」

 そう呟いて、俺はしゃがむ、途端に背中いっぱいにやたらと柔らかく心地よい弾力性の強い何が当たる、そう言えばこいつが俺にクールダウンする時にいつも押し付けてくるアレか、その時とはまるで違うような感触だ。

「何してるの、早く進んでよ」

「わかってる」

 竹下通りは平日といえ、人通りは多く、周囲からは、この異様な行動がかなり注目を集める、正直恥ずかしい。

「あ、このお店がいい! 降ろして」

「はいよ」

 とある女物の服が沢山売ってある店の前で、背中のユリネを降ろした、ユリネは店の中へ、俺の腕を引っ張りながら急かすように中に入れられた。

「わー、これ可愛いなぁ」

「俺は店の外にいたい」

「いいじゃんせっかくなんだし」

 ユリネはじっくりと店内を見ましてから、何着かの服を試着しては、俺にみせてくる。

「この白いワンピースどうかな?」

「自分でいいと思ったのを買えばいいだろ」

「ムクロ君に決めて欲しいの!」

 試着の見たて役にされた俺はその店で一時間近く、ユリネに付き合わされた、ユリネは一着の服を決めるのにかなり優柔不断に迷ったあげく、白いワンピースを買った。しかし  その後で、もう一着選びだした。

「うーん……これだな」

「試着しないのか?」

「これは必要ないの、私が着るわけじゃないから」

 言葉の意味も分からないまま、俺はユリネと共に店の外へでる、そして次は男物の服がある場所に俺を引っ張っていく。

「ムクロ君もなにか買いなよ、ここで」

「確かにいつも同じ服と制服じゃぁなんだしな、ん?」

「どうしたの、早く行こうよ」

「待てユリネ」

 俺はその店の店頭にある看板をみる、大きく腕輪にバツ印がされた交通標識にもよく似たマークの看板だった。

 これが何を意味するかは、分かっている。

「ここに俺達は入れない」

「本当だ、残念」

 この看板はESP能力を持つ者の入店を禁じているのだ、理由は簡単明白だ、差別されているのだ俺達は。

「許せない……いくら犯罪の温床だとか言われても」

 実際にESP能力の犯罪率はかなり高い、ESP能力を駆使し、物を騙し取ったり、奪ったり、偽るなどいくらでも出来る。

 しかしあの看板は法的に言えば、意味を成さない、ただESP能力を持っている者を避けるためには民衆が勝ってに作り上げた象徴が普及してるに過ぎないのだから。

「白い目で見られるのには慣れてるだろ」

「そうだけど、あんまりだよ」

  俺達はESP能力者は常人と比べれば強さは一目瞭然だが、今この状況では社会的弱者として差別されるのだ。

 こうした店や公共の場は今も増え続けている、一方で過激派のような一派も出てきていると聞く。

「別の店に行こう」

 そう俺は提案したが、ユリネは泣きながら行きなり走り出した。

「あ、おい待て」

  引き止めも効かずに、ユリネは走り去って行く。

 見失う前に追いかけようと走るも人混みに飲 まれて完全に見失ってしまった。

 しばらくして携帯電話を持っている事を思い出し、携帯電話で通話を試みたが、応答なし、仕方ないのでメールを送りユリネが居そうな場所を探した。

 どうせユリネの事だ、何処かでクレープを食べたり、服をまた漁ってると思ったらがなかなか見つからず、12時間を過ぎる。

流石に探し疲れてしまった上、空腹なので、  昼食を買う事にした。

 ふと明治神宮前の駅の近くに美味しい唐揚げを売ってる店を思い出す。

「すいません、唐揚げ弁当二つ」

「はい、毎度630円です」

  代金と引き換えに唐揚げ弁当をこの店の店主らしき、男性から受け取る。

「その腕輪PIPかい?」

 唐突な質問に少し驚く、男性は俺が驚いた事を見逃さなかったのか「ガハハハ」と笑うと 左腕を俺に見せた。

「仲間同士だ」

 男性の左腕にもPIPがついていた。

「能力は物をあっためる程度だから、俺は面倒な機関には連れてかれなかったが、兄さんは違うみたいだな」

「察しがいいな、おっさん……そうだよ」

 男性はポケットからタバコを取り出して、火を付けると売り場のカウンターから体を少し持たれかけさせる。

「すこし前に兄さんの仲間が明治神宮の中に走っていったな……ウチの唐揚げ弁当は一人で二つは流石に無理だろ、片方はお仲間のだろ? 早く行ってやんな」

 まるで、何もかも見透かしたかのように語る男性はユリネを見たようだ、俺は小さくお辞儀してから信号を渡り、神宮の中に走っていった。

 神宮の中に少し入ると、ユリネの姿があった、だが周りには三人の男が取り囲むようにして立っている。

 ああ、あれだなナンパとかいう奴か、ユリネは押し付けられたりすると、おどおどしてしまうから、俺が助けてやるべきなのだろうけど、しばらく様子を見て見る事にした。

「ねーいいーじゃん、奢るからさ」

「お兄さん達と遊ぼうよ」

「いい店があるからさ」

 思わず笑ってしまいたくなるようなテンプレートなセリフだ。

「お断りします」

 おや? ユリネらしからず、キッパリと断ってる。

「えーどーして? どうせ暇なんでしょ」

「お願いだからさー」

「嫌です!  私は人を待ってるんです」

 すげぇ、あんなハッキリしてるユリネ見た事ない、よしいいぞユリネその調子で、そのアホ共を殴り殺せ! ヒャッハー!!

 ん? 俺は何故盛り上がっているんだ。


 一人の男が痺れを切らしたかのように、ユリネの腕を掴んで無理矢理連れて行こうとするが、男はユリネの掴んだ腕にPIPが付けられているのを見て、驚く。

「へぇー君って超能力者なんだ」

「おい、ヤバくね?  能力使われて抵抗されたら」

「心配すんな、勝手に使用する物なら処罰されるらしいぜ、ESP専って」


 そろそろ助けに行くかな、俺は男達の間に割って入るとユリネの腕を掴んでる男の手を振り払ってやる。

「誰お前?」

 一人の男が邪魔だと言わんばかりの眼光を向けて来る。

「こいつの連れ」

 俺は簡単に言うと、その場をユリネと離れようとするが、肩に手を置かれて引き止められる。

「そりゃないだろ、人の獲物を奪っておいてさぁ」

「チビのくせして生意気なんだよ」

「金ぐらい出せよ」

 うわー面倒くさいなぁ、まぁいいや、久々のストレス発散台になってもらおう。

 俺は自分の内に秘めてる殺戮衝動を自ら呼び起こす、そして肩に置かれた手を両手で掴み引っ張り自分の肩の骨で相手の肘を真逆に曲げる。

「ぎゃあああ!」

 そしてそのまま背負い投げをする。

 一人撃破。

「なにしてんだ、この!」

 単調な拳だな、拳に対して俺は拳をぶつけた、やや斜め上から手の甲に目掛けて。

 手の甲骨にヒビが入る音がする。

「ぐおっ!」

 二人目撃破。


「て、てめぇ舐めてんじゃねぇぞ!」

 三人目の男はポケットからナイフを取り出して俺に向けるが腰が完全に引けていて、震えていた。

 俺は蹴りでナイフを落とさせる。

「あ……あ、許して、許してください……俺達が悪かったから!」

「その言葉を待ってたんだ、俺」

 男はホットした表情をみせるが、俺が許すという意味でこの言葉を待っていたのではない。

 完全に敗北の二文字を相手に叩きつけた後で、思う存分嬲るという意味でだ。

 尻もちをついて後ずさりする男の腹の上に足を叩きつけた、何回も踏みつける。

「ヒャーハハハハ! これだよこれ、何回やっても飽きねぇ!  ほらもっと泣けよ! 喚けよ!  もっと楽しい歌を聞かせてくれよ!」

  足の裏から骨の砕ける感触が伝わって更に俺を高揚させる。

 泣き笑いするピエロはケタケタと笑い出し俺の理性を飲み込んでいく。


「クールダウン」

「…あ」

「もう充分だよ、ありがとう助けてくれて」

  ユリネは俺に抱きつくのではなく、腕を掴んでクールダウンをした。

「その性格治らないの?」

「…わからない」

 俺はユリネが悲しんでいる事に気がついて、途端に申し訳ない気持ちになる、元々こういう性格なのは、認めざる負えないだろう。

「なぁユリネ、何でお前あの時走ってったんだ?」

 ユリネは唇を歯で噛むと、深いため息をついて、語り出す。

「私は昔、まだこんな力持つ前から、ずっと世界を呪ってたの、どうして自分の思うようにいかないんだろうって、学校ではいじめられて、省かれて……それを更に追い込むかのようにして、こんな力が備わって…もう、何もかもウンザリしてる……ムクロ君なら分かるよね私より酷い目にあってるんだから」

「ああ、この世界が憎い、憎くて憎くてしょうがない……でもな、そんなに悪くないって俺は最近思ってるんだ。」

「どうして?」

「わからねぇけど、お前は俺が暴れる度に…止めてくれるじゃないか、正直感謝してるし、それが楽しく感じるんだよ……ああそうだこれ食うか?お前の分もあるんだ」

 そう言って俺は唐揚げ弁当をユリネに渡す、ユリネは相当お腹が空いていたのか、がっつくように、唐揚げを頬張る。

「私分からない、確かにムクロ君といられる機会も増えて楽しい時間を過ごす事もあるけど、それ以外だと私はまるで、ただムクロ君が暴走しないようにするリミッターだよ、ただの」

  俺はその言葉に何も返せない、確かに俺はリミッターとしてしか、ユリネを見ていないのかもしれない。

 唯、今日に限っては、ちゃんとこいつを見てやるべきなのかもしれない。

  いや、いつもそうしてやるべきなんだろう、俺は唯一の理解者であるユリネに申し訳ない気持ちで一杯だった。


「よし! ユリネ、服買いにいこうぜ! 今度はお前が見てくれよ、俺の服」

「どうしたの急に? ムクロ君らしくない」

「いいじゃん」

 すこし間が空く。

「そうだね! いいと思うよ!」


 結局この日はユリネと夕方遅くまで、服を買ったり食べ物を飲み食いして遊んだ。

 多分これがユリネと俺にあるべき、楽しい事なんだ。


  寮に戻って自分の自室にて、買ってきた洋服をしまう、クローゼットの中がパンパンになってしまったが、問題ない。

 ふと服が入っていた買い物袋の底に何かを見つける、これは最初の店でユリネが迷わずに買っていた服だ、その服のタグにユリネの字で何かが書いてあった。

『ムー君用』

  ああ、俺のか、これ…いやいや待て待て…これ女物だぞ!?


  部屋のドアからノックの音が聞こえる…まさか、恐る恐る俺はドアをあける。

「さぁ、お着替えしよっか……ムーちゃん」

「やめろ、やめてくれ、ぎゃあああああ!」

「大丈夫、ムクロ君は女の子みたいな顔と綺麗な肌してるからさ!」

  抵抗も虚しく俺は女装姿にされ、写真を沢山取られた後、深く眠ってしまった。


 この睡眠が次の日に惨劇を呼ぶとも知らずに。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。