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浜山高校の問題児たち  作者: ayano
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28/30

予算取り合い騒動! 生徒会vs軽音部 -28-『私のやり方』




 外の空気は少し冷えていた。

 私は電話をするふりをして、ファミレスの外に出ていた。本当は電話をする相手なんていなかった。ただ、少し一人になりたかっただけだ。

 駐車場の隅、街灯の下で私はぼんやりと立っていた。


「――こんなところにいたんだ」


 声をかけられて振り返る。

 楓がそこに立っていた。


「……楓」

「隣、いい?」


 私は頷いた。楓が街灯の下、私の隣に並んで立つ。

 しばらく二人とも、何も言わなかった。


「勝負、負けちゃったね、私」


 楓がそう切り出した。


「うん」

「あなたには勝てなかった」


 その言葉に私は少し驚いた。


「共倒れだった。……勝ったわけじゃない」

「ふふ、そうだね。でも、私が思ってたよりずっと強くなってた」


 楓の声には素直な喜びが滲んでいた。

 私は少しの間迷った。ずっと、聞きたかったことがあった。だがそれを聞くのが、少し怖かった。


「……楓」

「うん?」

「なんで、あっち側だったの」


 私は思い切って聞いた。


「まだ一年あったのに。なんで、応援部を離れたの」


 楓は少しの間夜空を見上げてから、口を開いた。


「葵。私ね、あなたに応援部を任せた時から決めてたことがあったの」


 楓はそこで一度、言葉を切った。


「私がいる限り、あなたたちは私に頼っちゃう。私が引っ張って、私が決めて、私が守る」


 それから静かに続けた。


「それじゃいつまで経ってもあなたたちは、自分の足で立てるようにならない。だから、離れた」


 その言葉に私は何も言えなかった。


「……それでも」


 私は絞り出すように言った。


「置いていかれた気がした。ずっと」


 楓はその言葉を静かに受け止めるように、目を伏せた。


「うん。ごめんね」


 それからまた、ゆっくりと口を開く。


「でも今日、確信した。あなたはもう、私がいなくても大丈夫」


 楓は私の方を真っ直ぐ見た。


「それどころか、私とは違うあなただけのやり方をちゃんと持てる人になってた。今日の戦い見てて、そう思ったの」

「……」


 私は何も言えなかった。


「敵として本気でぶつからないと、多分あなたは、まだ私の真似をしたままだったと思う」


 楓は少し寂しそうに笑った。


「私のやり方を追いかけて、私と同じ道具で戦おうとしてた。いつまでも」


 楓の言葉に私は、はっとした。

 確かにそうだった。私はずっと、楓みたいになりたいと思ってきた。同じ土俵で、同じやり方で、あの人に追いつこうとしてきた。


「だから私は、あえて敵として来た」


 楓は続けた。


「あなたが私と正面からぶつかって、私のやり方を真似するんじゃなくて、あなた自身のやり方を見つけられるように」

「……最終戦で私、指示を出さないやり方に変えた」

「知ってる。見てた」


 楓は少しだけ微笑んだ。


「あれがあなたの答えだったんだと思う」


 それから続けた。


「私のやり方を真似るんじゃなくて、あなた自身の答えを見つけた」


 私はしばらく何も言えなかった。ただ胸の奥に何か、温かいものが広がっていくのを感じていた。


「……ずるいよ、楓」


 私はそう言った。


「そんな回りくどいことしなくても……。ちゃんと、言葉で言ってくれれば」

「言葉じゃ伝わらないこともあるでしょ」


 楓はそう言うと、いつもの気さくな笑顔に戻った。


「それにあなたは、言葉より体で分かる方が性に合ってるでしょ」


 その言葉に私は思わず、少しだけ笑ってしまった。


「……悔しいけど、否定できない」

「ふふ」


 二人の間にこれまでとは違う穏やかな空気が流れていた。

 全部が解決したわけじゃない。この一年感じてきた寂しさや、置いていかれた気持ちが一言で全部消えるわけじゃない。

 それでも——。


「……また、たまには顔出しに来て。応援部」


 私はそう言った。


「うん。今度は敵としてじゃなく」


 楓はそう言って頷いた。

 その時、ファミレスの方から秋村の呑気な声が遠くに聞こえてきた。


「あれ、二人ともこんなとこにいたのかよ! 早く戻ってこいって、料理来ちまうぞ!」


 私と楓は顔を見合わせて、少しだけ笑った。


「戻ろっか」

「うん」


 私たちは並んでファミレスへと歩き出した。

 まだ、全部が綺麗に片付いたわけじゃない。それでも今は、少しだけ心が軽くなっていた。

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