予算取り合い騒動! 生徒会vs軽音部 -28-『私のやり方』
外の空気は少し冷えていた。
私は電話をするふりをして、ファミレスの外に出ていた。本当は電話をする相手なんていなかった。ただ、少し一人になりたかっただけだ。
駐車場の隅、街灯の下で私はぼんやりと立っていた。
「――こんなところにいたんだ」
声をかけられて振り返る。
楓がそこに立っていた。
「……楓」
「隣、いい?」
私は頷いた。楓が街灯の下、私の隣に並んで立つ。
しばらく二人とも、何も言わなかった。
「勝負、負けちゃったね、私」
楓がそう切り出した。
「うん」
「あなたには勝てなかった」
その言葉に私は少し驚いた。
「共倒れだった。……勝ったわけじゃない」
「ふふ、そうだね。でも、私が思ってたよりずっと強くなってた」
楓の声には素直な喜びが滲んでいた。
私は少しの間迷った。ずっと、聞きたかったことがあった。だがそれを聞くのが、少し怖かった。
「……楓」
「うん?」
「なんで、あっち側だったの」
私は思い切って聞いた。
「まだ一年あったのに。なんで、応援部を離れたの」
楓は少しの間夜空を見上げてから、口を開いた。
「葵。私ね、あなたに応援部を任せた時から決めてたことがあったの」
楓はそこで一度、言葉を切った。
「私がいる限り、あなたたちは私に頼っちゃう。私が引っ張って、私が決めて、私が守る」
それから静かに続けた。
「それじゃいつまで経ってもあなたたちは、自分の足で立てるようにならない。だから、離れた」
その言葉に私は何も言えなかった。
「……それでも」
私は絞り出すように言った。
「置いていかれた気がした。ずっと」
楓はその言葉を静かに受け止めるように、目を伏せた。
「うん。ごめんね」
それからまた、ゆっくりと口を開く。
「でも今日、確信した。あなたはもう、私がいなくても大丈夫」
楓は私の方を真っ直ぐ見た。
「それどころか、私とは違うあなただけのやり方をちゃんと持てる人になってた。今日の戦い見てて、そう思ったの」
「……」
私は何も言えなかった。
「敵として本気でぶつからないと、多分あなたは、まだ私の真似をしたままだったと思う」
楓は少し寂しそうに笑った。
「私のやり方を追いかけて、私と同じ道具で戦おうとしてた。いつまでも」
楓の言葉に私は、はっとした。
確かにそうだった。私はずっと、楓みたいになりたいと思ってきた。同じ土俵で、同じやり方で、あの人に追いつこうとしてきた。
「だから私は、あえて敵として来た」
楓は続けた。
「あなたが私と正面からぶつかって、私のやり方を真似するんじゃなくて、あなた自身のやり方を見つけられるように」
「……最終戦で私、指示を出さないやり方に変えた」
「知ってる。見てた」
楓は少しだけ微笑んだ。
「あれがあなたの答えだったんだと思う」
それから続けた。
「私のやり方を真似るんじゃなくて、あなた自身の答えを見つけた」
私はしばらく何も言えなかった。ただ胸の奥に何か、温かいものが広がっていくのを感じていた。
「……ずるいよ、楓」
私はそう言った。
「そんな回りくどいことしなくても……。ちゃんと、言葉で言ってくれれば」
「言葉じゃ伝わらないこともあるでしょ」
楓はそう言うと、いつもの気さくな笑顔に戻った。
「それにあなたは、言葉より体で分かる方が性に合ってるでしょ」
その言葉に私は思わず、少しだけ笑ってしまった。
「……悔しいけど、否定できない」
「ふふ」
二人の間にこれまでとは違う穏やかな空気が流れていた。
全部が解決したわけじゃない。この一年感じてきた寂しさや、置いていかれた気持ちが一言で全部消えるわけじゃない。
それでも——。
「……また、たまには顔出しに来て。応援部」
私はそう言った。
「うん。今度は敵としてじゃなく」
楓はそう言って頷いた。
その時、ファミレスの方から秋村の呑気な声が遠くに聞こえてきた。
「あれ、二人ともこんなとこにいたのかよ! 早く戻ってこいって、料理来ちまうぞ!」
私と楓は顔を見合わせて、少しだけ笑った。
「戻ろっか」
「うん」
私たちは並んでファミレスへと歩き出した。
まだ、全部が綺麗に片付いたわけじゃない。それでも今は、少しだけ心が軽くなっていた。




