予算取り合い騒動! 生徒会vs軽音部 -27-『決着、そして打ち上げへ』
勝負から数日後。
各部の部長が集う月例の部会が開かれた。この場で今回の一連の騒動の正式な決着が発表されることになっていた。
「それでは今回の予算取り合い合戦の件について、生徒会からの最終報告を行います」
神原が部会の壇上で淡々とそう切り出した。
俺と真琴、俊太、九条は部外者ながらこの場に同席することを許されていた。まあ、当事者と言えば当事者だ。
「まず、今年度の予算取り合い合戦の結果については宣言した通り、無効とします」
神原の言葉に会場が少しざわついた。
「これは過去数年にわたって、予算取り合い合戦が部活動間の対立を助長してきたという経緯を鑑みての判断です。今後、この行事については抜本的な見直しを検討します」
部長たちの反応は様々だった。頷く者もいれば、複雑そうな顔をする者もいる。だが、事前の対戦の結果もあってか大きな反発の声は上がらなかった。
「なお」
神原は続けた。
「今回の一連の件で、軽音楽部の皆さんには多大なご協力をいただきました。その意味も込めて、生徒会として軽音楽部の文化祭に向けての活動を別途支援させていただくことになりました」
「――は? なにそれ」
綾音の声が思わずといった調子で漏れた。
「無効にして元通りにするっていうのに、支援?」
「ええ」
神原がこともなげに頷く。
「今回の予算取り合い合戦の結果はあくまで無効です。ですが、文化祭という学校全体の催しに向けての活動支援はまた別の話ですから」
綾音はしばらく、狐につままれたような顔をしていた。
「……なんか、丸め込まれた気がするんだけど」
「そう思っていただいても構いません」
神原が涼しい顔でそう返す。
俺はその様子を見ながら、少し笑ってしまった。理屈で言えば確かにそうだ。予算取り合い合戦の結果とは切り離した形で支援を行う——それは、綾音たちの顔を立てつつ神原が当初から目指していた「行事そのものの見直し」という目的をしっかり守り抜いた形になっている。
勝っても、負けても、恨みが残らないように。
それが、神原が最初から目指していたものだったんだろう。
部会はその後もいくつかの議題を経て、無事に終了した。
部会が終わった後、俺たちは揃って昇降口へと向かっていた。
「なあ、健」
真琴が隣で声をかけてくる。
「打ち上げやろうぜ、打ち上げ」
「打ち上げ?」
「決まってんだろ、勝負のだよ。俺らも軽音の連中も頑張ったんだからさ」
真琴の提案に俊太も頷く。
「いいんじゃない? 節目にはそういうのも必要でしょ」
「……賛成」
九条も短く同意した。
「ファミレスとかでいいか?」
俺がそう言うと皆が頷いた。
少し離れたところで見ていた綾音に声をかけてやる。
「おう、綾音。良かったら軽音の連中も一緒にどうだ?」
敵味方関係なくこの一ヶ月、それぞれに頑張ってきたんだ。一緒に締めくくるのも悪くない。
「……別に、いいけど?」
綾音はそっぽを向きながらそう答えた。
「桐生先輩たちも誘っとくわ」
こうして生徒会チームと軽音楽部チーム、合同での打ち上げが決まった。
放課後、俺たちは学校近くのファミレスに集まっていた。
長テーブルを繋げて大人数で座る。生徒会側のメンバーと軽音楽部のメンバー。数週間前まで勝負を賭けて争っていた面々が今は同じテーブルを囲んでいる。
「いやー、しかしまさか、あんな展開になるとはなぁ」
桐生先輩がドリンクバーのグラスを片手にしみじみと言った。
「最後の最後で、ヒーラーにひっくり返されるとはねぇ」
大場先輩も苦笑しながら続く。
「まあ、俺らも良い経験になったよ。マギスラ、あれから普通にハマっちまってさ」
水無瀬先輩がそう言って笑った。
「あんたら、勝負終わった後もまだやってんの?」
綾音が呆れたように言う。
「いや、単純に面白かったからな」
そんな軽口の応酬がテーブルのあちこちで交わされていた。
と、その時だった。綾音がふと思い出したように神原の方を向いた。
「そういえば」
「なに?」
「会長、これからは理恵って呼ぶから」
「……ええっ!?」
神原が素っ頓狂な声を上げた。
「な、何、急に」
「別にいいでしょ。あたしは負けたんだし、いつまでも会長会長って呼ぶのも、なんか負け惜しみっぽくてやだし」
綾音はそう言うと、今度は九条の方に顔を向けた。
「九条も、葵でいいわよね?」
「……唐突」
九条が短くそう返した。
「なによ、駄目なの?」
「駄目とは言ってない」
九条は少し間を置いてから続けた。
「……好きに呼べば」
「よし、決まり」
綾音は満足げに頷いた。
「理恵、葵。これからよろしくね」
「い、いきなり距離を詰めてくるわね……」
神原が戸惑ったようにそう漏らす。
「なんか、清々しいくらい唐突だな」
俺も思わずそう呟いた。
真琴と俊太は桐生先輩たちとすっかり打ち解けた様子で盛り上がっている。神原も、いつになく肩の力を抜いた表情でその様子を眺めていた。
俺はそんな全員の顔を見渡しながら、ふと思う。
勝負が終わって、こうしてみんなが笑い合っている。それだけのことが、なんだか無性に嬉しかった。
ふと視線を巡らせると、九条の姿が見当たらなかった。
「……あれ、九条は?」
俺がそう呟くと、真琴がファミレスの入り口の方を指差した。
「さっき、外で電話してくるとか言って出てったぞ」
俺は少し気になって窓の外に目をやった。
駐車場の隅、街灯の下に九条の姿があった。
そして、その隣には——藤崎楓の姿も。
「……いつの間に」
俺は思わず呟いた。
どうやらあの二人にもまだ、済ませていない話があったらしい。




