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浜山高校の問題児たち  作者: ayano
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25/30

予算取り合い騒動! 生徒会vs軽音部 -25-『葵と楓』




 残ったのは私と楓、そして神原と朝寺。

 視聴覚室の空気が痛いほど張り詰めていた。


「九条さん」


 神原の声が静かに届く。


「何かいい手はある?」


 私は少しの間答えられなかった。

 正直に言えば——無い。楓の実力はこの一ヶ月の全部を注ぎ込んでも、まだ届いていない。

 それでも私は言った。


「無い。でも」


 私は続けた。


「楓は、私が必ずなんとかする。だから、耐えて」


 その言葉に根拠なんてなかった。ただ、そう言うしかなかった。


「……簡単に言ってくれるわね」


 神原の声には呆れと、それでも確かな信頼が混じっていた。

 試合が再び動き出す。


「ホラホラ! 会長はこっちィ!!」


 朝寺の声が明るく、それでいて容赦なく響いた。神原に真っ直ぐ向かっていく。


「くっ……!」


 神原の苦しげな声、私はその様子を視界の端に捉えながら目の前の楓に集中した。


「私たちも、決着をつけようか」


 楓の声にはこれまでのような余裕の笑みはもうなかった。ただ、真っ直ぐな確かな熱があった。


「わかってる」


 私はそう答えた。

 これが最後だ。

 双剣を握り直す。楓の槍が私を捉える。

 私たちの戦いが再び始まった。

 私はもう迷わなかった。楓と同じ土俵で読み合いをすることはもうやめた。ただ、この一ヶ月で積み上げてきた私自身の動きを、私自身の感覚を、信じて動く。

 楓の穂先が幾度となく私を襲う。私はそれを紙一重で躱し続けた。反撃を一つ、また一つと繋いでいく。

 だが——楓もまた本気だった。

 私が読みを手放したことで、私の動きは確かにこれまでより読みにくくなっていたはずだ。それでも楓は、その僅かな綻びすら、見逃さなかった。

 私の一撃が楓の肩を掠める。同時に楓の穂先が私の脇腹を突いた。

 どちらも致命傷ではない。だが、どちらも確実にダメージを重ねていた。

 激しい応酬が続く。私が斬り込み、楓が受け流し、また突く。私が躱し、また斬り込む。

 時間の感覚が消えていった。ただ、目の前の楓だけが私の世界の全てだった。

 この一ヶ月、ずっとこの人の背中を追いかけてきた。楓みたいになりたいとずっと思っていた。だが今、私は楓と正面から向き合っている。追いかける背中じゃなく、真正面から。

 それだけで、何かが報われたような気がした。

 私たちのHPは削り合うように減っていった。

 そして——。

 最後の一撃を私たちは同時に繰り出した。

 私の双剣が楓を捉える。楓の槍が私を捉える。

 どちらのダメージも致命的だった。

 二人分の名前が同時に戦況表示から消えた。


「そんな……」


 私は思わず声を漏らした。

 共倒れ。勝ちきれなかった。私は最後まで、楓に一歩届かなかった。


「ふふ」


 楓の柔らかい笑い声が聞こえた。


 「最後まで、詰めが甘いんだから」


 その声には悔しさよりもどこか優しさが滲んでいた。


 「でも」


 楓は続けた。


 「強くなったね、葵」


 その一言に私は何も答えられなかった。ただ、胸の奥がじんと熱くなるのを感じていた。

 視聴覚室にどよめきが広がる。

 残ったのは——神原と朝寺。

 ヒーラーと双剣アタッカー。

 その組み合わせを見て、誰もが勝敗はもう決したものと思っただろう。私自身、そう思いかけていた。攻撃力を持たないヒーラーが、最速の剣士に太刀打ちできるはずがない。

 だが——。

 ただ一人。

 神原だけはまだ、諦めていないようだった。

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