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浜山高校の問題児たち  作者: ayano
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24/30

予算取り合い騒動! 生徒会vs軽音部 -24-『三つの戦線 』




 二勝二敗。最終戦。


「指示、出さないつもりか?」


 秋村の声に私は答える。


「重要な場面では出す。でも、基本的には各自の判断で動いて」


 その言葉に皆が頷いた。


 理由を私はまだ誰にも説明していなかった。

 楓は私の指示を読んでいる。私が誰に何を指示するか、その一手先を常に読み切っている。だから、私が全員の動きを指示で統率すればするほど、楓は私の思考だけを追えばよくなる。一人分の思考を読むだけで、五人全員の動きが分かってしまう。

 なら、私が指示を出さなければいい。

 そうすれば楓は、五人それぞれの判断を同時に読まなければならなくなる。いくら楓でも、五人分の思考を同時に完全に読み切るのは流石に無理がある。

 だが、それだけでは駄目だった。指示を完全に手放してしまえば、それはただ指揮官が指揮を放棄しただけになる。バラバラに動いた末にいずれはまとまりを欠いて、崩れていく。

 だからこそ、「必要な時だけは指示を出す」。それが私が出した答えだった。

 開始の合図が鳴る。

 最終戦、第五戦が始まった。

 視聴覚室に緊張した空気が満ちる。私は画面越しに敵の陣形を見た。

 三つの戦線が同時に始まろうとしていた。

 軽音楽部の三年生、桐生先輩、大場先輩、水無瀬先輩の三人が有島、秋村、峰本と対峙する。

 楓と私。そして——朝寺と、神原。

 私はその配置を見て覚悟を決めた。


「有島、秋村、峰本。そっちは任せた」

「おう」


 有島の声には確かな落ち着きがあった。


「私は楓を止める」


 その言葉を口にした瞬間、胸の奥が少しだけ震えた。

 試合が動き出す。

 有島たちの戦線では早々に異変があった。有島が何かを地面に仕掛けている。


「なんだそれ?」


 桐生先輩の声が警戒するように上がった。


「真琴、相手を引きつけててくれ」


 有島の短い指示。秋村が前に出て敵の意識を引きつける。


「そんな敵の目の前で仕掛けた罠なんて踏むかよ!」


 大場先輩が、鋭くそう言った。


「……くっ」


 有島の、短い声。


 その反応に、私は微かな違和感を覚えた。だが、今は、自分の戦いに集中しなければならない。


「楓」


 私は、画面の向こうの、あの人に向けて、静かに呼びかけた。


「久しぶりだね、葵」


 楓はいつもと変わらないあの気さくな声で答えた。だが、その奥にある鋭さを私は誰よりもよく知っている。

 私たちの戦いが始まった。

 楓の槍はこれまで見てきたどんな相手とも違っていた。速さだけじゃない。相手の呼吸、間合い、次の一手。全てを、まるで最初から知っていたかのように正確に読んでくる。長い間合いを保ちながらも、私が踏み込む隙を一切与えてはくれなかった。

 私は双剣で応戦した。だが、私が斬り込めばその先にはいつも楓の穂先があった。私が退けば、その隙を正確に突かれた。

 まるで、鏡合わせのような戦いだった。

 私が動く。楓が動く。私が読む。楓が読み返す。

 だが——私は気づいていた。楓の動きに、これまでにない何かが混じっていることに。

 それは迷いじゃない。むしろ——手加減のない、本物の本気。


「……楽しそうだね、葵」


 楓の声に確かな喜びが滲んでいた。


「私も」


 私は短く答えた。嘘じゃなかった。恐怖と、緊張と、そして——確かに楽しさがあった。

 ふと、有島たちの戦線に視線が向く。

 激しい攻防の末、有島と秋村が同時に倒れた。


「っ……!」


 胸が冷たくなる。

 だが、その瞬間だった。


「峰本、今!!」


 私は叫んでいた。

 考えるより先に体が動いていた。倒れた二人の代わりに、満身創痍の峰本に最後の一手を託す。

 峰本の詠唱が爆発するように放たれた。

 大魔法が桐生先輩、大場先輩、水無瀬先輩の三人を一気に飲み込んだ。

 三人の名前が戦況表示から消える。


「よし……!」


 安堵するその瞬間。


「峰本!!」


 私はまた叫んでいた。何かを感じたわけじゃない。ただ、なぜかそう叫ばずにはいられなかった。

 その声が届く前に——楓が投擲した槍が峰本を貫いた。

 峰本の名前も戦況表示から消える。


「……」


 私は言葉を失った。

 残ったのは——私と楓。そして、神原と朝寺だった。

 視聴覚室の空気が張り詰めていく。

 私はまだ、目の前の楓から視線を逸らせずにいた。

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