予算取り合い騒動! 生徒会vs軽音部 -22-『快勝』
第三戦。
二対一とはいえ、決して油断できる相手ではない。俺たちは気を引き締めて試合に臨んだ。
「今日の綾音、なんか粘っこいな」
開始早々、真琴がそう漏らした。
確かに綾音の動きはこれまでの二戦とは違っていた。第一戦のような真っ直ぐ神原を狙う直線的な猛攻ではなく、じっくりとこちらの隙を窺うような粘着質な動きに変わっている。
「相手も修正してきてる」
九条が冷静にそう分析した。
「前の戦法、通用しなくなったから」
「なら、こっちも合わせて崩すだけだ」
俺はそう言って、いつも通り隙間を埋める動きに徹した。
試合はこれまでで一番の接戦になった。
真琴が綾音の連撃をぎりぎりのところで受け止め続ける。この一ヶ月で鍛え上げたタンクとしての粘りがここで存分に発揮されていた。
「くっ、まだいける!」
「無理すんな、下がっていいぞ」
俺は真琴のHPを見ながら声をかけた。
「まだ大丈夫だっつーの!」
真琴は根性で持ちこたえる。その隙に俊太の魔法が着実に敵の数を削っていく。
「……いい判断」
九条の短い評価が聞こえた。
神原もこの試合ではただ守られるだけではなかった。狙われそうになった瞬間、あえて一歩前に出て自ら注意を引きつける動きを見せる。
「会長、危ないぞ!?」
「大丈夫、これは計算のうちよ」
神原の声にはこれまでにない落ち着きがあった。狙われることを恐れるのではなくその立場を逆手に取る。育成編で積み上げてきた囮の動きが実戦の中で確かに形になり始めていた。
一進一退の攻防が続く。
双方、削り合うようにHPが減っていく。誰の目にも決着がどちらに転ぶか分からない、緊張感のある展開だった。
「……ここ」
九条の声が鋭くなる。
「秋村、今、前出て。有島、右から合わせて」
「了解!」
「おう!」
その一瞬の指示で、俺たちは同時に動いた。真琴が最後の力を振り絞って前に出て、敵の注意を引きつける。その隙を、俺と俊太が正確に突いた。
敵の最後の一角が崩れる。
結果表示に生徒会側の勝利が示された。
視聴覚室にこれまでで一番大きな歓声が上がった。
「よっしゃあああ!」
真琴が椅子から立ち上がらんばかりの勢いで叫んだ。
「これで二勝一敗! あと一勝で勝ちだぜ!」
「……やったな」
俺も思わず頬が緩んだ。ここまで来た。あと一勝すれば俺たちの勝ちだ。
「本当に……勝てるかもしれないわね」
神原の声にも確かな高揚があった。
「油断は禁物だけど……」
俊太も珍しく声を弾ませていた。
「でも、いい流れだよね、これ」
「……」
九条だけはまだ何かを警戒するように静かにしていた。だが、その九条でさえこの試合の手応えには確かな満足を感じているようだった。
野次馬たちも盛り上がりを隠さない。
「マジかよ、生徒会側押してんじゃん!」
「これはワンチャンあるぞ!」
俺たちは次の試合に向けて気持ちを新たにしていた。あと一勝。そこまで来ればこの一ヶ月の全てが報われる。
そう誰もが思っていた、その時だった。
スクリーンの向こう、軽音楽部側の席でそれまで黙って様子を見ていた人物が静かに立ち上がった。
『――綾音、もういいよね?』
落ち着いた、それでいてよく通る声。
これまで聞いたことのない声だった。
『私が指揮を執るね』
その一言に、視聴覚室の空気が一瞬にして変わった。
「……え?」
真琴が間の抜けた声を漏らす。
軽音楽部側の画面にこれまでとは違う落ち着いた佇まいの人物が映し出されていた。
藤崎楓。
「……嘘だろ」
俺は思わず呟いた。
高揚していたはずの空気が一気に張り詰めたものに変わっていく。
九条の横顔が明らかに強張っていた。
「……楓」
九条の呟きが小さく漏れた。
あと一勝で勝利だったはずだ。
だが——その手応えの直後に現れたこの気配。
俺たちはまだ気づいていなかった。
本当の勝負はここから始まるということに。




