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浜山高校の問題児たち  作者: ayano
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21/30

予算取り合い騒動! 生徒会vs軽音部 -21-『開戦』




 本番当日。

 放課後、俺たちは視聴覚室に集まっていた。

 この部屋は普段は資料映像を見るくらいにしか使われない場所だ。だが、今日は違った。


「……おいおい、こんなに野次馬が集まってんのかよ」


 俺は思わず扉を開けた瞬間にそう漏らした。

 室内には既に何十人もの生徒がひしめいていた。全校生徒が押し寄せるような規模ではもちろんない。だが、それにしたってこの人数は予想外だった。噂を聞きつけたのか、あるいは単に暇を持て余しているのか、廊下にまで人が溢れている。


「げっ……」


 真琴も隣で顔を引きつらせていた。


「なんでこんな集まってんだよ」

「まあ、生徒会と部活動の対立、噂にならないわけないでしょ」


 俊太がいつもの飄々とした調子で言う。


「見世物としてちょうどいい規模の騒ぎだったんじゃない?」


 部屋の前方には大型のスクリーンが設置され、対戦画面が投影される準備が整っていた。マギスラの試合を観戦者に見せるための仕組みらしい。誰が用意したのかは知らないが、随分と本格的だ。


「私たちの席は、こっちよ」


 神原が前方の一角を示す。生徒会側の席には俺たちのノートパソコンが五台、既にセッティングされていた。

 綾音たちはまだ姿を見せていなかった。


「……綾音たちは?」

「向こうは会場は別にしてるみたい。開始時刻に合わせて繋ぐ形になるはずよ。通話も繋がるから、うっかり作戦を口走らないでね」


 神原がそう説明した。

 俺たちは自分たちの席に着き、パソコンを立ち上げる。周囲のざわめきが妙に緊張感を煽ってくる。


「……なんか、思ったより大事になってんな」


 俺は思わずそう呟いた。


「今更、びびってる?」


 九条が淡々とそう言う。


「びびってねぇよ。ただ、こんなに見られてるとは思わなかっただけだ」


 開始時刻が近づき、対戦フィールドが読み込まれていく。スクリーンに両チームのキャラクターが並ぶ様子が映し出された。


『――おっけー繋がった! 待たせたね!』


 通話越しに綾音の声が聞こえてくる。相変わらずの明るさだった。


『今日は遠慮なくいくから!』

「上等だ」


 真琴が負けじと返す。

 審判役——生徒会の別の役員が務めているらしい——の合図とともに、第一戦が始まった。


 開始直後、俺たちはすぐに現実を思い知らされることになる。

 綾音の動きはこれまでの練習で見てきたどんな相手とも違っていた。俺たちの陣形を一目で見切り、最も崩しやすい場所——神原のいる後衛に真っ直ぐ狙いを定めてくる。


「会長、狙われてる!」


 九条の声が飛ぶ。だが、綾音の速度はその警告よりも速かった。


「っ……!」


 神原の悲鳴じみた声。囲まれ、あっという間に体力を削られていく。俺は援護しようと動くが、その俺自身も別のメンバーに足止めされていた。


「くそ、届かない……!」


 俊太の魔法も、綾音たちの巧妙な陣形の前では思うように刺さらない。真琴が前に出て食い止めようとするが、既に崩れかけたバランスはそう簡単には立て直せなかった。

 あっという間に神原が沈む。

 残されたメンバーで粘ろうとしたが、数的不利のままじりじりと押し切られていった。

 第一戦、終了。

 結果は——完敗だった。

 スクリーンに映し出された結果表示を見て、視聴覚室にどよめきが広がる。


「うわ、あっさり負けたな……」

「生徒会側、ほんとに勝てんの?」


 野次馬たちの声が遠慮なく耳に入ってくる。俺は思わず唇を噛んだ。


「……くそ」

「大丈夫よ、有島くん」


 神原が努めて冷静な声で言う。だが、その声にも悔しさは滲んでいた。


「まだ、あと四戦あるわ」

「そうだな」


 九条が静かに続けた。


「相手、朝寺のペースで動いてる。……対応、考える」


 九条の言葉に俺たちは頷いた。第一戦で見えたものは確かに大きかった。綾音の狙いは明確に神原——一番の的を、最速で潰すこと。それが分かっただけでも収穫はある。


「よし、次はこっちだ」


 俺はそう切り出した。


「神原を守る動き、もっと徹底する。俺が先回りして敵の狙いを分散させる」

「私も初動、もっと速く読む」


 九条が続けた。


「秋村は前で敵の意識を引きつけて。峰本はその隙に確実に削る」

「わかった」

「了解」


 真琴と俊太が、それぞれ頷いた。


 第二戦が始まる。

 開始と同時に俺は真っ先に動いた。神原に向かおうとする敵の動線を読み、あえて自分から前に出て、その進路を塞ぐ。マーキングで敵の位置を全員に共有し、九条の指示がその情報をもとに素早く飛んでくる。


「秋村、健が抑えてる隙に、右から」

「了解!」


 真琴がその指示通りに動く。感覚派の真琴もこの一ヶ月で指示を的確に受け取れるようになっていた。

 俊太の魔法が、真琴が作った隙を正確に突く。今度は巻き込みも空振りもない、綺麗な一撃だった。


「よし、当たった!」


 敵の一角が崩れる。

 神原も今度はきちんと守られた位置から、冷静に回復を撒いていく。狙われかけた瞬間も俺と九条が素早くフォローに入り、致命的な一撃を許さなかった。


「……いいぞ、この調子だ!」


 俺は思わず声を上げた。

 チームの動きが練習で積み上げてきた通りに噛み合っていく。真琴の突破、俊太の火力、神原の回復、九条の指揮。そしてその全ての隙間を埋める、俺の動き。

 綾音の陣形も崩れ始める。第一戦とは明らかに違う展開だった。


『あれ、あれれ……?』


 通話越しに、綾音の声に微妙な焦りが混じり始める。


「くっ……!」


 最後は俊太の一撃が綾音のメンバーの一人を沈め、そのまま数的有利を維持したまま俺たちが押し切った。

 第二戦、終了。

 結果表示に生徒会側の勝利が示される。


「……よっしゃあ!」


 真琴が拳を突き上げる。

 視聴覚室にどよめきとも歓声ともつかない声が広がった。


「おい、やり返したぞ!」

「マジかよ、さっきの負けから、こんなに変わるもんなのか」


 野次馬たちの反応にも驚きの色が滲んでいる。


「……取り返せた」


 九条の声に微かな安堵が混じっていた。


「ああ」


 俺は頷いた。

 だが、まだ一勝一敗。これで安心できるような状況じゃない。相手は綾音だ。この程度であっさり引き下がるような相手じゃないことは、俺たちも既に知っている。


「油断すんなよ、まだ始まったばっかだ」


 俺がそう言うと、皆がそれぞれ頷いた。

 スクリーンには第三戦の準備画面が映し出されている。

 勝負はまだ、始まったばかりだった。

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