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浜山高校の問題児たち  作者: ayano
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20/30

予算取り合い騒動! 生徒会vs軽音部 -20-『決戦前夜』

2026/7/8

内容推敲して修正しています。

この12話以降の内容、展開が変わっています。

よろしくお願いします。




 本番前日。

 放課後、俺たちはいつものボイスチャットではなく、久しぶりに顔を合わせていた。

 場所は旧校舎の隅にある空き教室。使われなくなって久しいこの部屋を、神原が生徒会権限で貸し切りにしてくれていた。


「こんな権限まで使えるのか、会長様は」


 俺がそう言うと、神原は当然のような顔で答えた。


「『勝負の準備のため』って言えば、大抵のことは通るのよ。私、これでも生徒会長だから」


 教室の中には各自が持ち寄ったノートパソコンが五台、机の上に並んでいる。埃っぽい教室に場違いなほど眩しい液晶の光が並ぶ様は、なんだか妙な光景だった。


「最後くらい、顔合わせて練習してもいいだろって思ってさ」


 真琴がうきうきした様子で椅子を並べ替えている。


「まあ、悪くないな」


 俺もノートパソコンを机に置きながら答えた。ヘッドセットを装着せずに隣の相手の声を直接聞ける。それだけのことがなんだか新鮮だった。


「にしても……」


 俺は教室を見渡した。

 真琴、俊太、神原、九条。そして俺。

 この一ヶ月弱、通話越しにしか声を聞いていなかった面々が今、同じ空間に揃っている。改めて顔を合わせると、なんとも不思議な感覚だった。


「こうして並ぶと、なんかすげぇ面子だな」


 真琴がしみじみと言った。


「ゲーム初心者の生徒会長、寡黙で最強な応援部部長、世界ランカーのサボり魔、そして俺と健」

「お前が言うと締まらないな」


 俺は思わず突っ込んだ。だが、真琴の言う通りだった。改めて考えると、とんでもない顔ぶれが揃っている。

 パソコンを立ち上げていつも通りマギスラを起動する。だが、今日は隣に座る相手の顔を画面越しじゃなく直接見ながら会話ができる。それだけでなんだか練習の空気が少し違って感じられた。


「よし、最後の仕上げといこうか」


 俊太がいつもの調子でそう言った。


「今日で確認できることは全部確認しとく。連携、装備、立ち回り。抜けがないように」

「了解」

「わかったわ」

「うん」


 それぞれの返事のあと、俺たちは最後の練習マッチに挑んだ。

 この一ヶ月弱で俺たちは確かに変わった。

 真琴の突破力は感覚のままに前へ出るだけの粗さから、状況を見て引き際を判断できるようになっていた。俊太は指揮という役目を潔く手放し実行に徹する形で、より一層その火力を研ぎ澄ませていた。神原はあの完全な初心者から、ヒーラーとしての判断力を誰よりも速く体系立てて身につけた。そして、狙われることを恐れず、あえてその立場を利用する囮の動きさえ少しずつ様になり始めていた。

 九条の指揮は練習を重ねるごとに、さらに鋭さを増していた。戦場の変化を誰よりも速く読み、短く的確な言葉で俺たちを導いてくれる。

 そして俺は——相変わらずこれといった見せ場もない。だが、真琴の位置を整え、俊太の射線を空け、神原の負担を減らす。その積み重ねだけは、誰にも真似できない自信があった。

 練習マッチは危なげなく終わった。


「……いい感じじゃねぇか」


 真琴が満足げに伸びをする。


「うん、悪くないと思う」


 俊太も頷いた。


「……仕上がった」


 九条も短くそう言った。

 だが——。

 その空気の中に一つだけ、微妙な陰りがあった。


「……九条」


 俺は思い切って声をかけた。


「藤崎先輩のこと、大丈夫か」


 九条は少しの間黙っていた。


「……分からない」


 やがて、そう答えた。


「本気で来てって、言われた。……でも、それがどういう意味か、まだ、分からない」


 その言葉には迷いが滲んでいた。俺たちがどれだけ練習を重ねても、九条の中にあるあの人との過去は簡単には片付かないものらしい。


「まあ、明日になれば分かるだろ」


 真琴が努めて軽い調子でそう言った。


「今更うじうじ考えたって、しゃーねぇし」

「……うん」


 九条はそれだけ答えると静かに視線を落とした。

 俺はその様子を見ながら内心で思う。

 この一ヶ月、俺たちは色んなものを積み上げてきた。だが、藤崎楓という存在だけはまだ誰にも解けない謎のまま、明日を待っている。

 その時神原がふと静かに口を開いた。


「……ねえ、みんな」


 その声にはこれまでとは少し違う、決意めいた響きがあった。


「私、勝ちたい」


 その一言に教室の空気が少しだけ引き締まった。


「この一ヶ月、みんなが積み上げてきたもの。私が初めて触れたゲームの世界で、みんなと一緒に過ごした時間。……全部、無駄にしたくない」


 神原はまっすぐ俺たちを見渡した。


「相手が誰であっても。……たとえ、藤崎先輩がどれだけすごい人でも」


 その決意は九条の口から何度も聞いていた言葉と同じ響きを持っていた。だがこうして直接神原の声で改めてその決意を聞くと、なんだか胸に来るものがあった。


「勝ちましょう。明日」


 その言葉に誰も異論を挟まなかった。


「……おう」


 真琴が真剣な顔で頷く。


「うん」


 俊太も静かに同意した。


「……勝つ」


 九条も短く、しかしはっきりとそう言った。


「ああ」


 俺も頷いた。

 しばらく教室に静かな空気が流れた。だが——。


「なあ、こんな辛気臭い顔してたら、勝てるもんも勝てねぇぞ」


 真琴がひょうきんな調子でそう言った。

 俺は思わず笑った。

 教室にいつも通りの軽い空気が戻ってきた。緊張していた空気が少しだけ緩む。

 俺はそんな皆の様子を見ながらふと思った。

 この一ヶ月弱、色んなことがあった。俊太の隠された実力、九条の観察眼、神原の目覚ましい成長、真琴と俊太の衝突、そして、藤崎楓という、まだ解けない謎。

 だが——それでも俺たちは、確かにここまで辿り着いた。

 明日、俺たちがどんな結果を迎えるのか、それはまだ分からない。だが、少なくとも後悔のないように戦える。そう思えるだけの準備はしてきたはずだ。


「よし、じゃあ景気づけに何か飯でも食いに行くか」


 俺がそう言うと、皆が立ち上がった。

 窓の外はもうすっかり夕暮れだった。橙色の光が埃っぽい教室を柔らかく染めている。

 明日。俺たちの一ヶ月の集大成が試される。

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