表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
浜山高校の問題児たち  作者: ayano
PR
17/30

予算取り合い騒動! 生徒会vs軽音部 -17-『連携の壁』

2026/7/8

内容推敲して修正しています。

この12話以降の内容、展開が変わっています。

よろしくお願いします。




 神原がヒーラーとして安定し、俊太から九条へ指揮が移り、それぞれの成長は確かに感じられていた。だが——チーム全体としての連携は思ったほど噛み合わなかった。

 その日も、練習マッチは苦戦を強いられていた。


『秋村、下がって』

『いや、まだいける!』


 九条の指示に真琴が食い下がる。


『ダメ、下がって』

『あと一発、あと一発だけ——』


 その瞬間、真琴のHPが大きく削れた。


『あー、もう!』


 真琴が悔しそうな声を上げる。前に出すぎて包囲されかけたところを、慌てて下がった格好だった。


「真琴、お前ヘイト稼ぐの下手になってないか?」


 俺は思わず口を挟んだ。


『いや、稼いでるだろ普通に』

『稼いでるけど、位置が悪い』


 九条が短く指摘する。


『前に出すぎて、味方から離れすぎてる。そうすると、私たちが守れない』

『……そう言われても目の前の敵、殴りたくなるだろ』


 真琴が不服そうに言う。感覚で動くタイプの真琴にとって、位置取りの細かい指示はどうにも肌に合わないらしい。

 その一方で——。


『あ、ごめん、また巻き込んだ』


 俊太の後方から放った範囲魔法が、真琴を巻き添えにしていた。


『いや、巻き込むなよ!』

『範囲、そんなに広くないはずなんだけど……』


 俊太が首を傾げる。


『真琴が思ったより前にいたんだよ』

『それ、俺のせいにする気か?』


 真琴が少し声を尖らせる。


『いや、事実として——』

『事実として、俺が動いてる場所にお前が魔法撃ってくるのが悪いんじゃねぇの?』


 珍しく、真琴の声にはっきりとした苛立ちが滲んでいた。


『……それ言い出したら、僕はいつ魔法撃てばいいのさ』


 俊太も、いつもの飄々とした調子が少しだけ硬くなっている。


『君が僕の射線読んでくれれば、こんなことにならないでしょ』

『は? そっちがこっちの動き読めよ』

『いや、それは——』


 通話の空気が、微妙に張り詰め始めた。

 感覚で動く真琴と計算で動く俊太。二人の噛み合わなさが今日は特に目立っていた。


『……あの』


 その隙間を縫うように、神原の遠慮がちな声が聞こえた。


『私も、回復のタイミング、ちょっとずれてて……』

『今のは会長は悪くないよ』


 俊太が少し早口でそう答える。だがその口調には、余裕のなさが見え隠れしていた。


 九条は黙って戦況を見つめているようだった。的確な指示は出し続けているが、その指示にチームがついてこられていない。

 俺はその空気を感じながら、内心で考えていた。


 ——このままじゃ、まずい。


 個々の力は確かに上がっている。神原のヒーラーとしての判断力、九条の指揮、俊太の火力、真琴の突破力。誰も欠けていない。なのに、噛み合わない。それぞれがそれぞれの理屈で動こうとして、互いの隙間を埋めきれていない。

 次の一戦。

 俺はいつもより少しだけ、意識的に動いてみることにした。

 真琴が前に出ようとする瞬間、俺は先回りするように敵の位置に印をつけた。


「真琴、そこじゃない。もう少し右、こっちなら味方から離れすぎない」

『……お、おう』


 真琴が素直にその指示に従う。俺の指示なら素直に聞くらしい。感覚派同士、変な壁がないのかもしれない。

 次に、俊太が魔法の詠唱に入るタイミングを見計らって、俺は真琴の位置から少し離れるよう軽く声をかけた。


「真琴、俊太が撃つぞ。前出すぎるとまた巻き込まれる」

『わ、わかった』


 真琴が慌てて位置を調整する。俊太の魔法が今度はちゃんと敵の群れだけを飲み込んだ。


『……あ、今度はちゃんと当たった』


 俊太が少し安堵したような声を出す。

 俺はさらに、神原が回復を撒きやすいように、真琴と神原の間の敵を意識的に自分の方へ引きつけた。


「神原、こっちは俺が見とくから、真琴の回復に集中していい」

『……分かったわ、ありがとう』


 派手なことは何もしていない。ただ、真琴に位置を伝え、俊太の射線を空け、神原の負担を減らす。それだけだ。だが、その小さな調整の積み重ねで、チームの動きが少しずつ噛み合い始めていた。


『……あれ』


 通話越しに真琴が呟いた。


『なんか、さっきよりやりやすくね?』

『そう?』


 俊太も少し驚いたような声を出す。


『言われてみれば……巻き込みも減ったし』


 二人とも、何が変わったのかはっきりとは気づいていないようだった。ただなんとなく、動きやすくなった。それだけの感覚なのだろう。

 だが——。


『……有島』


 九条だけが静かにそう呼びかけてきた。


『さっきから、位置調整してる』


 その一言に俺は少し驚いた。


「……気づいてたか」

『見てれば、分かる』


 九条はそれだけ言った。多くを語らないいつもの調子だったが、その声には確かな評価の色が混じっている気がした。


 俺はなんとなく面映ゆい気持ちになって、頭を掻いた。


「別に、大したことしてねぇよ。ただ、隙間埋めてるだけだ」

『簡単に言うけどそれ、難しい』


 九条はそれだけ言うと、また指示に戻っていった。

 その日の練習マッチは、それまでとは見違えるほどスムーズに進んだ。誰か一人が突出して活躍したわけじゃない。真琴も、俊太も、神原も、それぞれの調子で動いていた。ただ、その隙間がいつの間にか埋まっていた。


『……なんか今日、いい感じじゃね?』


 試合後、真琴が満足げに言った。


『うん、悪くなかったね』


 俊太も同意する。


『特に何も変えてないのに、不思議だな』


 真琴が首を傾げる。俊太も、はっきりとした理由には思い至っていない様子だった。

 俺はその様子を見ながら、少しだけ苦笑した。

 別に誰かに気づいてほしくてやったわけじゃない。器用貧乏な自分にできることといえば、結局こういう地味な調整くらいのものだ。真琴の突破力も、俊太の火力も、神原の回復も、九条の指揮も、俺には真似できない。だが——その全部の隙間になら、入り込める。

 誰の記憶にも残らないような、小さな仕事の積み重ね。

 それでいい。それが俺の役目な気がした。


『……お疲れ様』


 神原が静かにそう言った。


『今日は本当にいい練習になったわ』

「そうだな」


 俺はそれだけ答えた。

 誰も気づかない場所で、チームを噛み合わせる。それも悪くない——柄にもなく、そんなことを思った夜だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ