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浜山高校の問題児たち  作者: ayano
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12/30

予算取り合い騒動! 生徒会vs軽音部 -12-『世界ランカーの正体』

2026/7/8

内容推敲して修正しています。

この12話以降の内容、展開が変わっています。

よろしくお願いします。




 特訓が始まって、数日が経った。

 神原の上達は、正直に言って目覚ましかった。

 初日には街の住人に斬りかかっていた完全初心者が今ではもう、雑魚モンスター程度なら一人で危なげなく倒せるようになっている。相変わらず操作は丁寧すぎるほど丁寧で、派手さはまるでないが、一度教えたことを二度は間違えない。この吸収の速さはやはり只者ではなかった。


『ふぅ……。ねえ有島くん、この個体はもう倒していいのよね?』

「ああ、そいつは経験値おいしいから積極的に狩っていい」

『わかったわ』


 今夜は五人でフィールドに出て、モンスター狩りをしていた。

 いわゆるPvE——プレイヤー対モンスターの、協力プレイというやつだ。神原のレベル上げも兼ねて、少し強めの狩場に足を伸ばしている。


『けっ、この辺のモンスター、硬くなってきたな』


 真琴の大剣が、ずしんと重い一撃を叩き込む。感覚派と評されるだけあって、こいつの立ち回りは理屈っぽくないが妙に的確だ。危ないと見るや前に出て、敵の注意を自分に引きつける。タンクという役割を、頭ではなく体で理解している感じがする。


「真琴、右から来てるぞ」

『おう、見えてる見えてる』


 俺はといえば、弓で後方から援護しつつ、崩れそうな場所に短剣で割り込む。器用貧乏の面目躍如、といったところか。派手な活躍はないが、誰かが困った時にすっと入れるのは悪くない。


『……有島、そこ抜けてる』


 ぽつり、と九条の声。

 言われて視線を向けると、確かに一体、こちらの隊列をすり抜けて神原に向かおうとしているモンスターがいた。俺は慌てて弓を引き、足止めの矢を射る。


「助かる。よく見てんな」

『……見てるだけだから』


 そう、九条は今日、あまり前に出ていない。

 本来ならアサシンとして真っ先に斬り込むはずなのだが、今夜は後ろの方で、全体をじっと観察するような立ち回りに徹していた。まるで、俺たちの動きを一つ一つ確かめているみたいに。

 ——と、その時だった。


『あー、めんどくさ。まとめて片付けちゃおうか』


 のんびりした声とともに、後方の俊太が動いた。

 次の瞬間、視界が光に染まった。

 いや、比喩じゃなく本当に。

 俊太のメイジが放った魔法が、群がっていたモンスターの一団を、一瞬で薙ぎ払ったのだ。しかも、ただ範囲魔法をぶっ放しただけじゃない。敵が固まる位置を事前に読んで、一番効率のいい瞬間に、一番効率のいい角度で撃っている。無駄がまるでない。


『うわ、俊太また一人で全部持ってったよ!』

『だって君ら、倒すの遅いんだもん』


 真琴が抗議の声を上げるが、俊太はどこ吹く風だ。

 そして俺は、改めて思う。

 こいつ——本当に、次元が違う。

 俺たちがちまちま一体ずつ相手にしている間に、俊太は常に三手先を見ている。どのモンスターがいつ動くか、自分の魔法の詠唱がいつ終わるか、MPがどれだけ残っているか。全部を頭の中で計算し尽くして、そのうえで最短の手順で敵を消し飛ばしていく。

 同じゲームをやっているとは思えなかった。

 俺なんかがたまの暇つぶしにやるのとは、積み上げてきたものが違いすぎる。


『ボスが来る。……この狩場の主』


 九条が短く告げる。

 フィールドの奥から、ひときわ大きな影が姿を現した。この辺り一帯を縄張りにしている、強力なモンスターだ。本来なら、俺たちくらいのパーティが五人がかりで挑んで、それでもなお苦戦するような相手。


『あ、こいつ知ってる。じゃ、僕がやるね』


 俊太が、あまりにも軽い調子でそう言った。


「いや、待て。こいつは流石に一人じゃ——」


 止める間もなかった。

 俊太のメイジが、するりと前に出る。

 ボスが咆哮を上げ、巨大な腕を振り下ろす。だが、その一撃は空を切った。俊太が、まるで攻撃が来ることを最初から知っていたかのように、寸前で回避していたからだ。

 そこから先は、もう、見ていて呆気にとられるしかなかった。

 ボスの攻撃を紙一重で躱しながら、俊太は正確に魔法を刻み込んでいく。相手の行動パターンを完全に把握しているのだろう。どの攻撃が来て、その後にどれだけの隙が生まれるか——全て見切ったうえで、その隙にだけ、的確にダメージを重ねていく。

 俺たちが手を出す余地なんて、どこにもなかった。

 いや、下手に手を出せば、俊太の完璧な立ち回りを崩してしまう。そう思わせるほどの、精密さだった。

 そして——数分後。

 この狩場の主は、俊太ただ一人の手によって、地に沈んだ。


『……ふぅ。こんなもんかな』


 通話越しに、あくびでも噛み殺すような声が聞こえた。

 俺も、真琴も、神原も、しばらく声が出なかった。


『……すごいわね』


 最初に口を開いたのは神原だった。


『私、ゲームのことはまだよくわからないけど……。今のが、普通じゃないってことくらいは、わかるわ』

『まー俊太、ゲームうめぇのは知ってたけどよ……』


 真琴がへらへらと笑う。だが、その声にはどこか、感心を通り越した呆れが混じっていた。

 ——と。

 それまでずっと黙って観察に徹していた九条が、静かに口を開いた。


『……ねえ』

『ん? なに、九条さん』

『峰本、ランキング……入ったことある?』


 一瞬。

 通話の向こうで、俊太が黙った。

 ほんの、コンマ数秒。

 いつも飄々として、何を聞かれても軽く受け流すあの俊太が、確かに一瞬、言葉に詰まった。


『……なんで、そう思うの?』

『動きが、そう。無駄がなさすぎる。ボスのパターン、完全に覚えてた。あれは……何百回もやり込んだ人の動き』


 淡々と、九条は続ける。

 感情のこもらない、けれど確信に満ちた声だった。


『それも、遊びでやってた人のじゃない。……上を目指してた人の動き』


 沈黙が流れた。

 俺は、思わず壁の向こうへ意識を向ける。すぐ隣の部屋にいるはずの俊太の顔が、この時ばかりは、まるで見えない気がした。

 やがて。


『……はは。参ったな』


 通話越しに、俊太が小さく笑った。

 観念した、というよりは、隠すのが面倒になった、という感じの笑い方だった。


『昔ね、ちょっとだけ。対モンスター戦のランキング、上の方にいたことがあるんだ』

『対モンスター戦?』


 思わず聞き返したのは神原だ。


『そ。マギスラって、モンスターをどれだけ速く、どれだけ効率よく倒せるかを競うランキングがあってさ。世界規模のやつ』


 世界規模。

 その単語に、真琴が『はぁ!?』と素っ頓狂な声を上げた。


『お前、世界で上位だったのかよ!?』

『昔の話だよ、昔の。今はもう引退してるし』


 あっけらかんと言う俊太。

 だが、俺の頭の中では、ある事実がぼんやりと繋がりかけていた。

 ——俊太が、時々ふらりと学校を抜け出して、どこかへ「旅」に出ること。

 電話も通じなくなること。

 どこにそんな金があるのか分からないこと。

 もしかして、あれは。

 いや——考えすぎか。

 こいつのことだ、どうせ聞いても笑って誤魔化すに決まっている。だから俺は、その疑問を口には出さなかった。今はまだ、その時じゃない気がした。


『でもさ』


 俊太の声のトーンが、少しだけ変わる。


『九条さん、よく見抜いたね。動き見ただけでランキングのことまで当てる人、そういないよ』

『……私も、昔ちょっと界隈にいたから』


 さらりと、九条がそう返した。

 界隈。その言葉に、俺は綾音が九条を評した時のことを思い出す。「あの人、昔ちょっと界隈で有名だったし」——確か、そう言っていた。

 俊太は世界ランカー。九条も、かつて名の知れたプレイヤー。

 ……とんでもないやつらが、俺たちのチームには揃っているらしい。


「なんつーか……頼もしいのか、恐ろしいのか、わからなくなってきたな」

『両方に決まってんだろ』


 真琴がけらけら笑う。


『買いかぶりすぎだよ。引退したって言ったでしょ』


 俊太が苦笑する。


『あら、頼りにしちゃ駄目なの? 世界ランカー様なんでしょう?』

『その呼び方やめてよ会長』


 軽口を叩き合う俊太と神原。

 その隣で、真琴が『いやー頼もしいわ』とはしゃいでいる。

 これで綾音相手にも十分戦える——そう、誰もが思い始めていた。

 だが。


『……でも』


 水を差すように、九条が呟いた。


『それとこれとは、別』


 その一言に、場の空気がわずかに引き締まる。


『どういう意味だ?』


 俺が尋ねると、九条は少し間を置いてから、静かに答えた。


『峰本が強いのは、対モンスター戦。……相手が人間の団体戦は、前提が違う』


 その言葉の意味を、俺はまだこの時、正確には理解していなかった。

 ただ、九条の声にあった確かな重みだけが、妙に耳に残った。


『まあ、それは追い追い話すよ』


 俊太が、どこか含みのある声でそう言って、その日の狩りはお開きになった。

 世界ランカーの存在に沸いた夜。

 だが、その高揚に静かに釘を刺した九条の一言が、この先の俺たちを待ち受ける壁を、既に言い当てていたことを——俺たちが思い知るのは、もう少し後の話だ。

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