予算取り合い騒動! 生徒会vs軽音部 -10-『心強い味方』
応援部室を出た頃には、すっかり日が傾いていた。
「いやー、なんとかなったな!」
旧特別棟の廊下を歩きながら、真琴が満足そうに伸びをする。
「お前は気楽でいいよな……」
俺はため息を吐いた。
メンバーが揃ったのは確かに大きい。だが、問題はここからだ。
初心者の神原。対戦経験の少ない俺。そして相手は綾音率いる軽音楽部。
勝てるビジョンがまだ見えない。
「そんなに凄いの? 九条さんって」
神原が不思議そうに聞いてくる。
「俺は詳しくないが、真琴や俊太が言うなら相当だろう。その九条が協力してくれるのはかなり大きいと思う」
俺がそう答えると、真琴が珍しく真面目な顔になる。
「凄いなんてもんじゃねぇよ。アイツ反応速度がおかしいんだ」
「反応速度?」
「そ。対人戦って相手の動き見て回避したりスキル合わせたりするだろ? あいつ、それが異常に速ぇんだよ」
真琴は心底嫌そうな顔をした。
「昔ちょっとマギスラで戦ったことあるけど、マジで気持ち悪かった」
「お前がそこまで言うの珍しいな」
「いやほんとに。人間相手してる感じしねぇもん」
そこまで言われると逆に怖い。
すると俊太が、くすくす笑いながら口を挟む。
「まぁ、葵ちゃんゲームになると別人みたいになるからねぇ」
「お前いつの間にそんな仲良くなったんだよ」
「応援部に入り浸ってたら自然と?」
意味が分からない。
「でもよ、九条が強いならなんで応援部なんかにいるんだ?」
真琴が首を傾げる。
「あんな静かな性格なら、もっと別の部活とかでも良さそうなのに」
すると俊太が少し考えるように視線を上げた。
「んー……まぁ、居心地がいいんじゃない?」
「適当だなぁ」
「実際そんなもんだと思うよ。応援部って、変に他人を否定しないし」
その言葉に、神原が小さく目を瞬かせた。
「……素敵な部活なのね」
ぽつりと漏らされたその言葉に、真琴が吹き出す。
「いや騙されんな会長。変人しかいねぇぞあそこ」
「それは否定しない」
俊太が即答した。
そんな話をしながら昇降口へ向かっていると――。
「あ」
前方に見覚えのある姿を見つけた。
長い茶髪。肩にギターケース。そして、やたら目立つ美人。朝寺綾音だった。
綾音もこちらに気づいたらしく、一瞬だけ足を止める。
「……げ」
露骨に嫌そうな顔をされた。
「なんだよその反応」
「いや別にー?」
絶対別にじゃない。
綾音の視線が、俺と神原の間を行ったり来たりする。
「へぇー。まだ一緒にいたんだ?」
「いや、たまたま帰るタイミングが――」
「ふーん」
怖い。
なんか知らんけど怖い。
すると真琴が空気を読まずに口を開いた。
「おう綾音! メンバー揃ったぜ!」
「は?」
綾音の目が細くなる。
「……もう?」
そして、ゆっくりこちらを見回した。
「会長、真琴、健、俊太……あと誰?」
神原が答える。
「九条葵さんに協力してもらえることになったの」
その瞬間。
綾音の表情が変わった。
「……マジ?」
初めて、明確な警戒が顔に出た。
「九条葵って、あの応援部の?」
「ええ」
綾音は頭を抱える。
「うわぁ……それは普通に嫌なんだけど」
「そんな強いのか?」
「強いとかそういうレベルじゃないって。あの人、昔ちょっと界隈で有名だったし」
界隈ってなんだよ。
「まぁでも」
綾音はふっと笑った。
「そうじゃないと面白くないか」
その目は、完全に勝負する側の目だった。
「こっちも負ける気ないから。覚悟しといてよ?」
そう言ってギターケースを担ぎ直す。
だが、去る前に。
綾音はもう一度だけ俺を見た。
「……健」
「ん?」
「あたしの敵になったこと、後悔させてあげるから」
挑発的に笑って、綾音は背を向けた。
夕陽に照らされたその後ろ姿は、妙に眩しく見えた。
「……なんだよあれ」
思わず呟く。
すると真琴がニヤニヤしながら肩を組んできた。
「青春だねぇ」
「うるせぇ」
今日だけで何回それ聞いたと思ってんだ。




