予算取り合い騒動! 生徒会vs軽音部 -09-『勧誘』
部室の空気が、ほんの少しだけ張り詰める。
窓から差し込む夕陽が、静かな応援部の部室を赤く染めていた。
九条葵は、しばらく何も言わなかった。
ただ静かに神原を見つめている。
その沈黙に耐えきれなくなったのか、皆木が先に口を開いた。
「えっと……何のお願い?」
神原は小さく息を吸う。
「マギアスラッシュオンラインの団体戦で、私たちに力を貸してほしいの」
皆木が目を瞬かせた。
「マギスラ?」
「うん」
神原は頷く。
「一ヶ月後に、ある事情で対戦をすることになってしまって……。でも、こちらにはゲーム経験者が少ないの。だから、九条さんに協力をお願いしたくて」
そこで、九条の視線が僅かに鋭くなった。
「……誰と戦うの?」
小さい声。だが、妙に圧がある。
「軽音楽部よ」
その瞬間。
「あー……」
皆木が納得したような声を漏らした。
「なんか面倒事っぽいと思ったらそういうことか」
俊太が苦笑する。
「まぁねぇ」
「お前絶対最初から面白がってただろ」
「否定はしない」
こいつ本当に自由だな。
そんな中、九条だけは無言だった。
ただ静かに神原を見ている。
「……どうして、私?」
神原は少し困ったように笑った。
「有島くんと秋村くんから聞いたの。あなたがゲームに強いって」
「……そう」
九条の視線がちらりと俺と真琴へ向く。
真琴は気まずそうに頭を掻いた。
「まぁ、その……強いのは事実だし」
「……勝手に話した」
「いやごめんって」
九条は小さくため息をつく。
すると真琴が、ぼそりと呟いた。
「相変わらずだな、お前……」
九条がちらりと真琴を見る。
その瞬間、真琴が露骨に視線を逸らした。
「……?」
不思議そうな九条。
対して真琴は妙に居心地悪そうに頭を掻く。
「いや、その……久しぶり?」
「半年ぶりくらい」
九条は淡々と返した。
「真琴、知り合いだったのか?」
「あー……まぁな」
歯切れが悪い。
すると皆木がニヤニヤし始めた。
「この二人、少し前にちょっと色々あったんだ」
「湊」
九条の声が少し低くなる。
「はい黙ります」
即座に引き下がった。力関係が見える。
しかし気になる。
真琴が応援部を苦手としてる理由、もしかして九条絡みなのか?
「つーか真琴、お前応援部苦手とか言ってなかったか?」
「苦手だぞ」
「即答かよ」
真琴は真顔だった。
「だってこいつら、気づいたら人の悩みとか問題に首突っ込んでくるし……。なんか気づいたら解決方向に話進めるし……」
「いいことじゃねぇか」
「怖いんだよ!」
真琴が珍しく本気で嫌そうな顔をする。
皆木は腹を抱えて笑っていた。
「分かる」
「お前部員だろうが」
「巻き込まれる側になる時もあるんだって。ちょうど今みたいにさ」
それを言われると少し耳が痛い。
応援部、思った以上にカオスな場所かもしれない。
すると、今まで黙っていた九条が再び口を開いた。
「……別に、協力するのはいい」
その一言に、神原の表情が明るくなる。
「本当!?」
「でも条件」
九条は静かに言った。
「弱い人とやるの、嫌」
ぐさり。
その場の視線が、何故か俺に集まった。
「なんで俺見るんだよ」
「いやだって健、プレイ歴浅いし」
「初心者会長もいるしな」
俊太と真琴が納得したように腕を組む。
ひどい空間だった。
だが九条は、そんな俺たちの騒ぎなど気にせず続ける。
「ちゃんと勝つ気あるなら、やる」
「もちろん、そのつもりよ」
神原は真っ直ぐ頷いた。
その顔を見て、九条は少しだけ目を細める。
「……ならいい」
どうやら、これでメンバーは揃ったらしい。
「よっしゃぁ!」
真琴が勢いよく拳を突き上げる。
「これでやっとスタートラインだな!」
「まだ始まってもいねぇよ……」
むしろここからが本番だ。何せ神原はゲーム初心者。
しかも相手は綾音率いる軽音楽部。
勝てる保証なんてどこにもない。
だが、そんな俺の不安をよそに、俊太は妙に楽しそうだった。
「いやぁ、なんか面白くなってきたねぇ」
「お前完全に他人事だろ」
「半分くらいはね」
そう言って笑う俊太に、神原がじっと視線を向ける。
「でも峰本くん。本当に協力してくれるの?」
その言葉に、俊太は少しだけ目を細めた。
「んー……まぁ、健が出るならね」
軽い調子だった。
だが、それが俊太なりの本音なのだろう。
すると九条が、小さく呟く。
「……仲いいんだ」
俊太と俺を見比べるようにして、ぽつりと。
「腐れ縁なだけだよ」
「ひどいなぁ」
俊太がわざとらしく肩を落とす。
そんな馬鹿みたいなやり取りを見て、九条はほんの少しだけ口元を緩めた気がした。
……気のせいかもしれないけど。




