ワイバーンなんて、軽く倒しちゃいます
とはいえ、僻地ともなると候補地がいくつかある。険しい山々に囲まれた場所か、海岸線しかない場所か、畑しかない場所か。
どちらにせよ、ここからはかなり距離がある。
「転移魔法を使うかな……ん?」
そんなことを考えていた時のことだった。近くから馬の鳴き声と、何人かの悲鳴が聞こえてきたのだ。
どうも、この様子だとかなりまずそうな雰囲気はある。
「とりあえず急ごう」
私はパッと手のひらを前に出す。すると、魔法陣とともに箒が目の前に現れる。すぐにまたがって、急ぎで現地へと向かった。
……少しして、現場に到着した。
「く、クソ……!」
大きな荷車を引っ張っている馬車の御者が、どうにかワイバーンから荷物を守ろうと必死に守っている様子だった。
最近、この辺りに頻出している魔物だ。これくらいなら何度も倒してきた。
というか……御者一人だけか。あの大荷物だと、他にも兵士が同伴していたりもするんだけど……。
そんなことはいいか。
「今倒します!」
私はワイバーンの前に出て、箒から飛び降りる。そして、手のひらを前に突き出して魔法を発動する。
「《衝撃》」
詠唱した刹那——強力な無属性魔法がワイバーンの体を貫いた。衝撃で地面が大きくえぐれ、土煙が周囲に舞う。
確実に殺せた。もう跡形も残っていない。
「マジか……すごいね嬢ちゃん」
驚いた様子で、御者である男性がこちらへやってくる。
しかし、どこか身なりはきっちりしている。茶の中折れ帽に、黒のベスト。パッと見はどこかの貴族のようにも見える。
まあ……こんな場所でたった一人で大荷物を運んでいる貴族なんて存在しないと思うが。
「そんなすごい魔法を扱う人間が、こんな場所で……ああ! もしかして、カーヴァー公爵家の!」
どうやら私のことを知っているようだった。いや、でも一般の方には公開していない情報なのだが、どうしてこの人が知っているのだろう。
私が微妙な表情を浮かべていると、男の人が焦る。
「ごめんごめん。そりゃ怪しいよな。俺はクラム・ノーラン。辺境伯領の領主をしている。ま、見ての通り自分の荷物は自分で運ばないといけない貧乏貴族だけどな」
なるほど。向こうが貴族なら、私が婚約していたことを知っていてもおかしくはない。
でもクラム辺境伯領か。確か、山と海と畑しかない僻地だったか。
「エリナ・ウィズです。知っているならお伝えしておきますが、ケイン様との婚約はなかったことになったので、今は一人さまよっていたところです」
「……ほんとに言っているのかい?」
ノーラン様は信じられないことを聞いたと言わんばかりに驚いている様子だった。
「君の噂は兼々聞いていたが、君を追い出してあの領地はどうするつもりなんだ……?」
「知りません。どうやら私の魔法が魔女そのものだから気味が悪いらしくて。代わりは見つかったようなので、その人とどうにかするんじゃないですかね?」
「代わりって……それに魔女だなんて、少し頭が悪いんじゃないか? そのケインって令息は」
あまり否定はできない。確かに頭は悪そうだからだ。
なんてことを思っていると、ノーラン様が顎に手を当てる。
「とはいえ、君にどうお礼をしたらいいものか。今渡せるものなんてないしな」
どうやらお礼をしたいと考えてくれているようだ。なら、頼みたいことがある。
「では……辺境伯領に私もご一緒していいですか? ちょうど新たな移住先を探していたところなので」
「そ、そんなのでいいのか? かなり辺鄙な場所だけど……でも君が来てくれたら領民も喜ぶと思うよ。よし、なら馬車に乗ってくれ! 俺が乗せていってやるさ」
とてもありがたい話だ。ただ……少し馬車だと時間が掛かりすぎるかも。
「なら、私が転移魔法で移動しましょう。馬車も一緒に運びますよ」
「は……君、転移魔法使えるの? それ、神話級の魔法じゃなかったか……?」
ああ、そういえばそうだった。この魔法、神話級だった。




