2章 第4話 ディアナ散る
王都ヴェネスシティ、北は貴族区のノーブルタウン、南は市民区のアンダー、貴族と平民が住み分けられていた。
その境い目にある地域に王都の資本家やジェントリーが屋敷を職場を建てた。
正確には市民区に当たるが北の貴族区ノーブルタウンに接してはいた。
王都の金融資本家はここに銀行や証券取引所をかまえ富を生んでいた。
そんな屋敷の一角に一人の男がいた。
名はロナルド・トランプ。
平民生まれで、若い頃はB級舞台俳優で人々から好青年ととらえられた。
支配人との金による仲違いを起こし解雇され、その後は金の亡者となり不動産業に手を出し成功を収めた。
「おい、ロン、見てくれよこれ」
「ああ?」
「師団がドゥムノニアから引き上げるかもだって」
仲間が差し出した新聞にロナルドは食い入るように見つめた。
「商工会がドゥムノニアから撤退、王都に専念するだぁ」
「師団はドゥムノニアから王都に商売を移すかもよ」
「理由としてはドゥムノニアでの品質低下に管理できなくなった。輸送コストの高騰により採算が合わなくなった。王都で流行った高級品が工業都市であるドゥムノニアには住民の気質や経済力に合わず販売不振に陥った。ふんっ見通しが甘かったんだな」
「なあどうする?ウチも引き上げるか?」
「そうするしかあるまい。ウチは師団と切っては切れぬ関係だ。ドゥムノニアからすべての仲間たちを王都に呼び寄せろ」
ロナルドが指示すると仲間たちは慌ただしく動く。それを尻目に一服葉巻を吹かす。
「……こいつぁ動くな」
ロナルドが葉巻を吸い終えると、おもむろに席を立ちある男を呼び寄せる。
「おい、ロレンスいるか」
「ん、何だ」
浅黒い肌をした少年ロレンスはロナルドに顔を出した。
「この新聞を見ろ、どういうことだ」
「……政治的な動きだな」
「何?」
「……なぁ、ロン、お前は伝説の勇者にならないのか?」
「ふんっバカが、あんなもんになっても得にもならない」
「だろうな」
「あれは市民権のない低学歴の低脳どもが群がる、無駄に命を散らす大馬鹿事だ」
「ロンなら、もっと上を目指すものな」
「上ってなんだ? 貴族様か? 俺に公爵になれと?バカか。俺は不労所得より、働いて働いて働いて働いて働いて死ぬんだよ。もちろんガッポリと大金を稼いでな」
「違うな、もっと上だ」
「もっと上てなんだ、王族か?」
「……更にもっと上さ。それにならないか?」
王国最南端、ドゥムノニア。ここは鉱山開発により資本が大量に流れ発展に発展を重ねた。
その第二の都市となるドゥムノニアにリリー率いる旅団たちがいる。
「商工会が王都に専念!?」
リリーも同じくその新聞を読んでいた。
「中小企業の後ろ盾でもある商工会が撤退なんてしたらドゥムノニアに発展は……」
「リリー、私は王都に戻るとする」
「ブラム……悪いけどお願いするわ。旅団もあらかた連れて行って。私はケヴィンくんたちもあるから残るとするけれど」
「わかった」
ブラム率いるあらかたの旅団たちは王都へと引き帰って行った。
「何か嫌な予感がするわ」
「そろそろ完璧です」
「そうか。濃縮は?」
「まもなく90%になるかと」
「よし、なら合図があり次第やれ」
「ハハッ、行意に。敬愛する魔王様」
「マイン、シルフで土や砂を取り除けないか」
「わかりました、やってみます。
先の大戦の遺物よ、今現れ給え。シルフ」
ゴオオオオと一陣の風が吹き、土や砂をごっそりと持っていく。すると金属製の地雷に、木箱型の地雷も現れた。こうすれば早いし安全だよな。
「きゅう、パクっ」
現れた地雷を次から次へとメタルスライムが食べて爆破除去していく。
「すごいわね、もうこんなにたくさんも。もしかしたら、探知犬は使わなくてもいけるかも」
「うーん、ディアナ公妃、それは難しゅうございます。探知犬やスライムである程度の範囲を見つけたからシルフも特定して風を吹かすことができます。
しかし、むやみたらに土をめくり返すほどの威力を持った風を吹かすと、めくれた土が擬似的に人体の重しとなって不用意に地雷を爆発させてしまいます」
「そ、そうね。範囲を狭めて狙って手加減しながら風を吹かしているものね」
そう言うと再び、俺は探知犬に探知させ、ディアナ様はスライムに探知させ、ポイントをつくり、そこにマインのシルフで一気にめくり上げさせていた。
こうなると地雷除去も早く安全に終わっていくだろう。ほら、そうこうしているうちにもうこんなにも。
「ざっとパレードができるくらいかしら。うふふ」
ディアナ様がそうユーモラスに言う。まあ、たしかにパレードをするぐらいの横の範囲や縦の長さはある。
「どんどんやりましょう」
こう見るとたしかにディアナ様は国民に愛されるお方だ。親しみやすく、美しく、そして慈悲深い。
「一度上空から見てみましょうか。どれくらいの範囲が片付いたか」
「あら、お願いするね」
「マイン、頼む」
「はぅ、わかりました。
想い人共に眺めたいです。シルフ」
俺は落ちぬようマインの身体をギュッと抱きしめた。
するすると俺とマインは上空に浮かぶ。
下からディアナ様がお~いと言わんばかりに手を振っている。
見渡す限り随分と片付けたなぁ。あとどれくらい除去すればいいのだろうと、ふとコンクリートの分離壁を見やる。
あの辺りから観測塔ぐらいまでと言ったが横幅もかなりあるなぁ。んっ?
シルフによりどんどんと上空へと昇っていくと、コンクリートの分離壁の向こう側が見えてきた。
寂れた工業都市に見える。ところどころ焼き落ちたのか、屋根や壁などが破壊されたままであった。
数十年前の戦争の跡を物語らされる。
ここまで魔王軍が侵攻したのか。
そしてここのどこかに魔王が封印されているのか。
そんなことを思うとどこから、キーーと音がした。マインも気づく。
何か甲高い音はまるで蚊が頭の中を飛び回るかのように響く。
その時、ピカッとコンクリートの分離壁の向こう側から青白い閃光が見えた。その刹那。
「わあああああああ」
「きゃああああああ」
大きな爆発に巻き込まれた。
爆発の瞬間、超高温の火球が周囲に向かって衝撃波を食らわす。
その爆風によりコンクリートの分離壁は粉々になり辺り一面に石礫が散らばる。
俺たちはシルフに守られ爆熱は防げたが、爆風により後へと吹き飛ばされる。
地面へと叩きつけられたが怪我をするほどではなかった。
俺たちはすぐに起き上がり目の前の光景に理解が及ばなかった。
「きのこ雲?」
分離壁の向こう側から見えた光景を俺はつぶやいたが、マインは違った。
「ディアナ公妃!!」
その言葉にハッとなった。
「急ごう!!」
高速ですぐさま向かう。そこには地獄絵図が待っていた。
「きゃああああ」
ディアナ様であったであろう肉片がそこには散らばっていた。
酷いことに顔がわかるように首だけが飛ばされていた。
「……ぅっ」
「マイン!マイン!!」
マインは気絶した。
俺はすぐさまマインを抱き、ドゥムノニアの病院へ向かう。その際に王国軍兵士とすれ違った。
「向かえーー。分離壁の向こうは魔王軍だぞ!」
のちにこの王国軍兵士たちがディアナ様の遺体を発見し無言の帰宅をすることとなる。
ドゥムノニアの病院。マインは大事には至らなかったが、少し療養が必要だった。無理もない目の前で親しい人が亡くなったのだから。
病院にはラジオがつけられている。
そのラジオから、国王陛下からの玉音放送があった。
「我々は今、一人のプリンセスを失った。
しかし、これは敗北を意味するのか!?
否、始まりなのだ!
……私の元妻、国民らが愛してくれたディアナは死んだ!何故だ!?
休戦して落ち着いた。しかし戦争は続いておったのだ! この対岸の火として見過ごしいたのではないか!?
かつての諸君らの父も兄も子も、その魔王軍の無思慮な抵抗の前で死んでいったのだ!
この悲しみも、怒りも、忘れてはならない!
それをディアナは死をもって我々に示してくれた!
我々はこの怒りを結集し、魔王軍に叩きつけて、初めて真の勝利を得ることができる!
この勝利こそ戦死者すべてへの最大の慰めとなる!
国民よ!悲しみを怒りに変えて!
立てよ、国民よ!
我々王国民が魔王率いるモンスター共に負けることはない!
オール・ハイル・キングダム!!
グローリー・オン・ザ・キングダム!!」
王国は動員令を出した。予備役も含めてほとんどの王国軍がドゥムノニアに行軍してきた。普段治安部隊としての王都の守備隊も参加している。王都に残るのはわずかな警察組織と近衛兵ぐらいなものだ。
その王都に半旗を掲げた。ディアナ様は離婚したので平民だが、その多くの国民に愛された功績もあって国葬となった。宮殿には多くの哀しみに暮れた国民が花を手向けにやってくる。
「おい、ロレンスこれは一体……」
「ロン、君は僕の指示通りに動くといい。だろう?
それに僕もすぐさまドゥムノニアに向かう」
浅黒い肌をした少年は、にやりと黒い笑みを見せた。
「……母上」
王太子はツーと頬を濡らす。別れを誓った後、王太子にやらねばならぬ事がある。
「全軍よ。私が総指揮をとる。ここドゥムノニアは私の庭だ。そこでこのようなことが起こった。タダでは生かしておけぬ!
まずは手始めに王国の最新兵器、飛行船爆撃機でやつらの根城を焦土とせよ!」
「「イエス、ユア、ハイネス!」」
ツェッペリン伯爵の開発した飛行船。王国はこれを新たな旅客輸送機と爆撃機とした。
新しく出来たばかりであまり試験運用もせず初めての爆撃となる。
高く昇っていく飛行船はゆっくりとドゥムノニア南部、魔王軍の駐留地の上空に差し掛かる。
「放て!!」
将軍の合図に次々と焼夷弾が魔王軍に降り注ぐ。
すでに荒廃した工業都市から煙が上がる。
そこに潜んでいるモンスターを焼き殺すが。
悲鳴は上がらない。
「よし、全軍突撃ーー!!」
空爆した後、王国軍は魔王が潜むその戦地へと突撃していった。
「容体は?」
「大丈夫です。身体は」
「そう。あまりここにはいられないわ。ドゥムノニアには戦場になる」
リリーさんがマインを心配しに来て病院に来てくれた。他の旅団たちは王都に戻っているそうだ。
「マイン、大丈夫か?」
「はい、ケヴィンさま。私は大丈夫です」
「あまり無理をするなよ」
「はい」
「王都に戻ろうと思うが」
「大丈夫です。身体は動きます」
「よし、戻ろう」
「何? いない?」
「はい、隊長。モンスターが見当たりません。いるとしたらザコモンスターのメタルスライムぐらいです」
「ええい、いないならよい。魔王を探せ! 今度こそ息の根をとめるぞ」
王国軍の前線部隊は少し混乱していた。いるはずのモンスターがいないからだ。
兵士たちが魔王を探すその時。
「我輩を探しておるな」
「ま、魔王!?」
顔はヤギのしゃれこうべに、身体は魔人、どの兵士たちよりも大きな体躯をしている。
「くっ、覚悟ーー」
「ふんっ」
魔王の一振りで数人の兵士たちを屠った。
その絶望さやたるや兵士たちを震え上がらせていた。
「もう昔の我輩ではないわ」
魔王軍は北上へと進軍する。
一方、後方部隊の王太子は作戦の行方を見守っていた。
「もっと前線に兵をよこせ」
「しかし、ここが手薄になりますが」
「かまわん! 攻撃が最大の防御だ。攻めて攻めて攻めまくるのだ!」
「わかりました」
王国軍は次々へと前線に兵を送る。
一通り兵を送ると、作戦本部はしんっと静かになった。そこには王太子ぐらいしかいなかった。
その最中に少年はやってきた。
「よう」
「ロレンス! 久しいな」
「今は旧知を深める時間ではないだろ」
「そうだな、ロレンスここは戦場になる。君みたいな民間人は来てはいけない」
「……そうではないんだがな」
「えっ?」
その刹那、ロレンスの後に次々とボスやモンスターが勢揃う。
「なっ、モンスターが! いつの間に!」
「前線に送りすぎだよ、殿下。こんなに手薄じゃあ、簡単に挟撃されちゃうじゃないか」
「挟撃だと」
「そう、向こうから父上が進軍してくる。そして後からは僕たちが挟み撃つのさ」
「父上だと……まさか君は」
「……魔王子」
「魔王子!?」
「魔王の息子だよ。国王の息子である王太子殿下にはよくわかるだろ」
「貴様……」
「フフフ、殿下。君の生まれの不幸を呪うがいい」
「何? 不幸だと?」
「そう、不幸だ。君はいい友人だったが、君の父上や歴代の国王たちがいけないのだよ。フフフ、ハハハ」
「ロレンス! 謀ったな! ロレンス!!」
ロレンスは手を挙げると、モンスターやボスたちが一斉砲火の準備をする。
「私とて、王家の男だ。無駄死にはしない。うおおお」
王太子は剣を抜きロレンスに突進をするが。
「殿下、私からの手向けだ……母上と仲良く暮らすがいい」
「王国に栄光あれーー」
ロレンスが振り上げた手を下ろすと、モンスターたちが一斉砲火を浴びせた。
「さて、僕はこのまま王都に戻る。お前たちは父上と合流しろ」
「ハッ! ファイサル王子」




