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2章 第5話 革命



 王都ヴェネスシティは人でごった返していた。


 ディアナへの手向けではない。


 資本家やジェントリー階級や労働者が王宮に集まっていた。なぜかと言うと。



「うおおおおお、出てこい!国王!」


「夫人もだ!出てこい!」



 王都市民が国王夫妻に王宮から出ててこいと、血眼になって叫んでいる。

 一人や二人ではなく大勢の数が。



「我々から搾取しやがって!」


「農業も衰退だ!こんちくしょう!」


「出てこい!八つ裂きにしてやる!」



 熱気冷めやらぬ王都に市民は次々と今までにたまった不満を言う。



 王国は国を強くするため、近代化政策をとった。

 おかげで経済、軍事は強くなった。しかし、システムには綻びが生じた。


 旧来の農業が衰退したのだ。農民から工場労働者へと転身したのだ。


 儲からない農業よりも新しい技術の工場のほうが儲かると信じたのだから。都市部はその傾向が強い。



「うおおおおお、出てこい!出てこい!出てこい!」



 王政府は急進的な土地改革を行った結果、伝統的な農業共同体が破壊され、小規模農家が経済的に破綻した。食料自給率は低下し農業は完全に衰退した。


 生計を立てられなくなった大量の農民が都市へと流入し貧困層となった。


 貧困と飢えに苦しむ農民や労働者たちはデモを行った。


 普段なら治安部隊に鎮圧されるが、今は王国軍の多くが魔王軍との戦闘で出兵している。


 そのがら空きとなった王都を狙ったのだ。



「皆さん、王宮には国王夫妻の他には近衛兵ぐらいしかいません。王宮の門を固めよう!

 そしてこれらに加担するのが貴族です!」



 資本家がそう陣頭取る。


 資本家も貴族から虐げられた存在だった。


 近代化政策によって急成長した資本家はそれまで富の頂点であった貴族たちから疎まれていた。


 それ故に資本家たちの間で始まっていた思想が、資本主義だ。


 王国をこれまでの封建制をやめ、資本主義を導入しろと言うのだ。


 いや、すでに導入してはいるが、それは封建制と併用している。


 封建社会のまま、資本主義経済をし、急成長した軍事力で帝国主義をしていた。


 しかし、政治の場には地主であるジェントリー階級やブルジョワジーである資本家はあまり参加出来ておらず、不満が高まっていた。



「殺せ!貴族もろとも王族も殺せ!」



 そう叫ぶのは、ロナルド。ロレンスから唆されていた。



「もし、貴族や王族を排除した時、本当の民主主義になる。その際は俺が大統領となって、共和国を建国する!」


「うおおあおおおお」



 ロナルドがそう宣言すると、熱にうなされた民衆どもは熱気を上げる。


 共和制は君主国をやめ、国家元首を選挙で選ぶということだ。


 ロナルドは今すでに選挙演説をしていた。








「隊長、門に市民たちが!」


「なんとか保て!」



 近衛兵たちは混乱していた。今まで見たことない憎悪が王室に向けられていたのだ。



「私は陛下に指示賜る。それまでなんとか耐えてくれ」



 近衛兵の隊長は、すぐさま宮殿の玉座に座る両陛下に指示を賜るが。



「殺せ! 我が国王に向かって、何たる不敬だ!」


「そうよ。私は国民の母として頑張ったのに……」 


「し、しかし、陛下。相手は国民です。モンスターや敵国ではありません」


「うるさい!いいから、片っ端から殺してしまえ!すればじきに収まる」


「………………………」



 隊長は無言で踵を返した。


 その内容を部下たちにそのまま伝える。



「だ、そうだ」


「そんな……」


「同胞たちに銃は向けられん」


「同じくです、隊長」


「仕方ない、両陛下を明け渡そう」


「っ!? 隊長! いいんですか!? そんなこと!」


「もうあの二人は我々の国王や王妃ではない。売国奴だ」


「…………わかりました」


「民衆にもわかるように顔を出す。そのあとにすぐさま裁判をする」


「弁護人は?」


「急なのでつけない」


「…………承知しました」



 近衛兵らは、今まで守っていた国王夫妻をひっ捕らえ、城のバルコニーに顔を出させた。


 それまでとは違う無様な顔をした両陛下に市民らは歓喜の声を上げ、殺せの合唱をする。


 その後、即席の裁判が始まる。



「罪状を述べる。

 国家と国民に対し武装行動を組織し、国家権力を転覆させようとした罪。

 建物の破壊損壊都市における爆発で工業設備を破壊した罪。

 国民経済を弱体化した罪。

 国民を虐殺の指示の罪である」



 臨時の軍事裁判の議長が述べる。内容は証明が使用の無いものも含まれる。それに対し国王は反論する。



「王国議会の承認がない限り、この裁判は無効であり、自分たちを裁いている軍人たちの言い分には何の根拠もない」


「そうよ、そうよ」


「私は起訴などされていない。私は王国の国王であり、最高司令官であり、王国議会総会と労働者階級の代表者のみで答えよう。それだけだ。

 このクーデターを起こしたものたちの行為は、国民に対する裏切りであり、王国の独立の崩壊に追い込んだのだ。最初から最後に至るまで、すべてが欺瞞なのだ」



 その反論に検察役の軍人が助け舟を出した。



「精神疾患を抱えているを認めるなら、被告人に責任を負わせるつもりはない」


「それは、無い! 決して無い!!」



 提示した妥協案に国王夫妻は強く拒否した。

 議長が早くも判決を言う。



「主文、死刑。並びに全財産の没収を宣告する」


「いかなる判決であれ、私は認めるつもりは無い!」



 国王がすぐさま反論すると、検察も反論した。



「この判決を認めないというのは、被告人は控訴する権利を行使しない、という意味です。今この場において、この判決は最終決定である点に気をつけて下さい」



 事実、この裁判は憲法にも違反しているし、自分を権力の座から追放する権限があるのは王国議会総会だけである。


 国王は当初から法的な観点に基づいて議論していた。裁判開始から閉廷まで国王は明晰さを保っていた。


 近衛兵の隊長は、すぐに処刑を行うことを望んでおらず、数週間後には正式な裁判を実施しようと考えていたが、これに反対したのが部下である近衛兵たちであった。すぐに処刑しないと今の国民の勢いは抑えれないと、進言したのだ。


 国王夫妻の両手を紐で後ろ手に縛られた状態で建物から中庭へと連れ出されてた。その時、国王夫妻は叫んだ。



「自由なる独立国、我が王国万歳!」


「これは何なの? これで何をするつもりなの? 触るな! 縛るな! 私たちを怒らせるつもり!? 私はお前たちの母親であり続けたのよ! 手が折れる! 手を離せ! 恥を知りなさい!」



 中庭の地べたに目隠しさせた国王夫妻を座らせると、選抜された三名の空挺兵が銃を構えた。


 近衛兵の隊長が手を挙げる。その手はかすかに震えていた。この手を下ろせば国王夫妻は処刑される。その死刑執行人の責任の重さに耐えている。


 しかし宮殿の外には多くの市民が殺せの大合唱をしている。その者たちに多くの銃声を聞かせることで、騒ぎは収まると信じていた。


 隊長はこの先の未来のことを考えた、国王のいなくなった王国はどうなるのか、王太子がすぐさま即位するのか、否、不要だろう。今の王国に王室は必要ないと市民は言っているのだから。


 隊長は息を整え、大きな声を上げ、その手を下ろした。



「撃てーー」



 三人の無数の銃弾が国王夫妻の身体に風穴を開ける。みるみると身体は蜂の巣になり、まるで人形かのようにパタンと前や横に倒れた。実に120発以上の弾丸を浴びせた。


 その長い銃声を聞いてか、宮殿の前にいる市民たちはうおおおおと歓声を上げたのだった。











「国王夫妻が処刑されたぞーーー」


「これからは俺が大統領になる! お前ら、ついて来い!」


「うおおおおおお!!」



 熱気冷めやらん市民たちが雄たけびをあげる。

 その中、ようやく王都に戻ったリリーは驚愕の事実を知った。



「そんな、国王夫妻が殺された。ならこの後に起こるのは……まずいわ!」



 リリーはすぐさまあるところに向かった。せめてもの救いと信じて。





「ロン、威勢がいいな」


「おお、ロレンス。今戻ったか、お前の言った通りだ。革命だ!市民革命!これで俺は新しい共和国の大統領になる!」


「もちろん共和制にするなら封建制は廃止にするんだろ?」


「ああそうさ、なんなら今そうだ!」


「もう農作物ではなくて金が必要だろ?」


「ん? ああそうだな。資本家やジェントリーはすでに金でやり取りしているからな。労働者はその体力を払っているしな」


「まずは、その労働者たちに金を与えなきゃ。底辺の労働者が金をじゃんじゃんと使えば経済が回るさ」


「ああそうだが。労働者が高い買い物し、その金が給料となって、設備などを投資し、また高い品を生み出し、労働者が高い買い物する。そうすれば青天井の高度経済成長を起こす」


「でも共和国独立したばかりの今は、労働者たちはそれまでの貴族たちによって搾取されあまり金がない。そのままだったらそんなバブル経済は起きない。つまり労働者たちに金を流し込まなきゃ」


「ああ、なら貴族や王族の金品を奪うか? それを金にして、あとは土地とかも……」


「そんなの時間がかかるよ。即効性のが必要だ」


「即効性て、なんだ?」


「バラまきだよ」


「バラまき!? そんな金があるのか」


「あるさ今ここに」


「な、なんだその麻袋は? まさか」


「大量の紙幣だ」


「どうやって!?」


「簡単だよ魔王軍からの戦利品を紙幣に替えたのさ」


「マジかよ! やるじゃんロレンス!」


「貴族や王族の金品を金に替えるのはいい。それも並行しよう。それと魔王軍討伐や近隣諸国の併合植民地化すれば本土の王国民は金持ちになる」


「ああ、消費主導型の好景気になるな。貧乏なやつは植民地国になすりつけよう。よしお前を大蔵大臣に任命する」


「はは、サンキュー大統領。では大統領まずはこの金を今、宮殿に来ている市民たちにバラ撒いてくれ」


「よし、やるぞ! おーーい、みんなーー聞いてくれーー」



 ロナルドはロレンスに唆されると、いくつものの麻袋から大量の紙幣を宮殿のバルコニーからバラ撒いた。


 それに群がる市民たち、我先にとその紙幣に飛びつく。この紙幣さえあればなんでも買えるし、銀行が金にも替えてくれる。


 魔法の金だった。



「ふっ、ロナルドやつB級俳優から資本家になれたのは運が良かったのか。とにかくバカで助かったよ」



 ロレンスはそうつぶやく。本来バブル経済は銀行が企業に金を貸しやすくして、企業が金持ちになり、その余波で給料アップや設備投資をし、土地や株に投資し、青天井の価値に上がる。


 そのこともつゆ知らずにただ多くの人である労働者が金持ちになれば、いっぱい消費をすれば好景気となって資本家が更に金持ちとなる。


 ロナルドはそういう神話を信じていた。実際はそうはいかず、ハイパーインフレを起こすし、労働意欲も低下するし、財政破綻も起こす。


 そしてなにより。



「あれが俺たち魔族たちで作った偽札だと知らずに」



 偽札。それは国家を経済破綻させるテロリズム。

 ほとんどの国で偽札を刷ると重罪となる。


 魔族たちで刷った偽札は、スケープゴートという意味を込めて、ゴート札とも言われる。


 この先の王国の未来の話をしよう。


 農業大国だった王国から工業大国となった今、偽札という兵器を放たれた時どうなるか。


 工場が全停止して大量の失業者が街に溢れる。


 農業国であればお金が紙切れになっても、最悪自分たちが作った芋を食うことで生き延びられた。


 しかし、工業国では労働者は給料をもらい、それで食料を買う。

 

 偽札によってハイパーインフレが起き、通貨が崩壊すると、工場主であるジェントリーは原材料が買えず、労働者にも給料を払えなくなる。


 飢えに苦しむ労働者たちが暴徒化し、王族、貴族、新興の金持ちたちを標的にした凄惨な共産主義的、無政府主義的な暴動が勃発する。


 貴族や経営者は邸を焼き払われ、一握りの富裕層と圧倒的貧困層の内戦状態になる。


 とくに資本家が破産と経済麻痺に陥る。

 地主であるジェントリーと違い資本家のブルジョワの資産は、現金、預金、株式、債権といった紙の上の信用だ。


 銀行の連鎖倒産も起こる。預金者が一斉に現金を下ろそうとする取り付け騒ぎが起き、金融システムが崩壊する。


 紙のお金を信用できなくなると、人々は目に見える、絶対に消えない価値に逃げ込む。


 金や銀の争奪戦となり、貴金属が唯一の決済手段になる。


 没落したはずの農地や、そこで採れる食料を持つ者が再び最強の権力を握る。社会が一時的に中世や封建社会に逆戻りする。


 そういわゆる地獄絵図が待ち受ける。


 ロレンスはそれを見越して、秘密裏に師団や資本家や王族と関係を持ち、革命を起こさせ、そして偽札で経済破綻させる気だ。 



「これで数十年越しの恨みを晴らすことできたかな」













「どうなっているんだこれは」


「ケヴィンさま、王宮に市民が溢れています。こんなことありえません。正月でもこんなことはありませんでした」



 ようやく王都に戻った二人はその信じられない光景に絶句をする。


「とりあえず、マインの家に戻ろう」


「待ってください、ケヴィンさま。ノーブルタウンへの水路が閉ざされています」


「何だって!?」


「ありえませんこんなこと。信じられません」


「じゃあどうやって行くんだ? 陸路で行けるか? それともシルフを使うか?」


「いえ、それよりも市民たちが殺気だっています」


「近づこうにも近づけないてか」



 そう呆然していると、リリーが二人を見つけ話しかける。



「何してるの!? こっちよ!!」


「リリーさん!?」



 二人はリリーに連れ去られ、市民区であるアンダー、その更に奥にある旅団のアジト、アンダーにやって来た。



「お父様、お母様!」


「マイン!」



 アジトにはマインの親父さんとお袋さんがいた。



「リリーさん、これはどういうことですか?」


「大変なことが起きたわ」


「大変なことて?」


「国王夫妻が処刑されたのよ!」


「なっ、何だって!?」


「もう王国はダメよ、革命が起きたわ」


「革命て、じゃあ王国はどうなるんですか?」


「おそらく、共和国になる。その国家元首として大統領になると宣言している男もいたわ」


「くそっ、混乱してるぜ」



 俺がドンッと床を踏みつけると、マインが話に入る。



「もしかして、封建制は崩壊したのですか?」


「………ええ、そうよ」


「そっ、そんなぁ」



 マインは膝から崩れ落ちた。



「マイン!? 大丈夫か!?」



 俺はすぐさまマインの身体を抱える。



「リリーさん、どういうことですか?」


「封建制はね貴族制なの。つまり貴族の廃止を意味するのよ」


「なっ!?」


「つまりそれは、多くの貴族が没落するってことなのよ!」


「……じゃあ、マインの家は」


「今、没落したわ」


「そんなっ!!」


「それだけじゃないの!」


「まだ何か」


「あなた達は、没落貴族にさせないために、伝説の勇者になるのよね」


「ええ、そのつもりです」


「国王夫妻が処刑された今、伝説の勇者を決める伝説の儀を行う者がいないの! つまり!」


「……伝説の勇者は認められない」


「そう! 新しい爵位も与えることなんて無くなったのよ!!」



 リリーさんの叫びで絶望する。


 俺たちが今までしてきた事って一体なに?


 俺は没落候補のマインを没落させないために、自分が伝説の勇者となり新しい爵位を貰って、マインを嫁にして、そして……そして。



「今、貴族や王族たちの私刑が始まっているわ。とてもじゃないけどノーブルタウンや王宮に近づいてはダメよ!」



 リリーさんの忠告に耳が貸せない。


 身体が絶望している。





2章終わりです。

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