表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
3/6

2章 第2話 ディアナ鉱山




「リリーさん次はもっとレベルの高いものはないんですか?」



 この間のゴブリン退治は簡単なものだった。おまけに実入りも少なかった。

 なので今度はもっと高度で実入りのあるものをとリリーさんに頼んだのだ。



「……危険なところがあるわね」


「そこはどこなんですか?」


「王都から南に行くと鉱山地帯があるわ。

 鉱山の近くは荒地だけど、鉱石の採石工場もあり都市となっているの。その工場都市での危険なクエストがある」


「危険というのは?」


「行けばわかるわ」


「……話さないんですね」


「行って見たほうが早いわ」


「ちなみに報酬はどれくらい?」


「大量の紙幣で払うくらいね」


「紙幣ですか?うーんそれはどれくらい多いのですか?」


「紙幣はね、金貨の代わりになるものよ。近年出来たものだからまだ平民まで信用はあまりないと思うけど。信じてもいいわ」



 リリーさんの言う通り王国は近年、紙幣を発行した。それは大量の金貨を持ち歩くには不便だからというわけで。


 王都に中央銀行を設立し、そこから紙幣を発行して王国全土に行き渡らそうとしている。

 この紙幣制度でさらに通貨のコントロールに置くつもりだ。


 中央銀行の地下の金庫には大量の金のインゴットや金貨が準備している。

 国民の紙幣と中央銀行の金貨を替えるため、あるいはその逆も。


 通貨のピラミッドがある。


 1.頂点である金、金貨。これが唯一の本物の価値。

 2.分身である紙幣、兌換紙幣。金と直結、高額決済用。

 3.サポートである銀貨。中額の決済用。

 4.末端である銅貨。少額の端数用。日常の買い物。


 このようにして近年現れた紙幣は金貨の代わりとなる存在だ。


 庶民の日常生活は主に銅貨を使い、たまに銀貨を使うぐらいだ。

 庶民が金貨を使うなんて結納金か家を購入するぐらいなもんだ。だから庶民は金貨なんて滅多にお目にかからない。


 しかし貴族や上流階級の人たちには親しみがある。

 金貨を何十何百と持ち歩き、決済に使う。金貨も数がかさめば重くなるもんで代わりにもっと軽い紙を代用したらとなったのだ。


 庶民あがりでよくわからんが、紙幣一枚で金貨一枚、あるいは金貨数枚、または数枚の紙幣で金貨一枚か。


 一応、銀貨も紙幣に替えれるが中央銀行には法的な義務はない。あるのは金貨だけ。

 法的義務はなくとも銀貨と替えれるのなら、実質的に銀貨から紙幣へ、紙幣から金貨へとステップアップできると思う。


 ゴブリン退治をした村から出たのは銀貨八枚だった。それと比べれば今度のクエストはもっと大きな依頼になるのだろう。



「少しマインと話します。マイン、どう思う?」


「私はケヴィンさまとならどこだってついて参ります」


「危険と言われているが」


「ケヴィンさま、残念ですが安全な選択肢だけでトップに立つのは不可能です。本当にトップに立つなら清濁併せ呑むことも大事です」


「そ、そうだな。わかりました、そのクエスト受けます」


「そう言うと思ったわ。このクエストには私やブラムも旅団として同行するわ」


「旅団もですか。それほど大掛かりなんですか」


「もしかしたら、師団の連中もいるかもしれないからね」


「一触即発にならなければいいんですけど」



 そう言うと、俺たちは南の工業都市に出発ということになった。なんと移動は鉄道だ。初めて蒸気機関車に乗った。

 





 王国の最南端、ドゥムノニア。


 現在はドゥムノニア公領となっているが、かつてはここに王国があった。


 しかし王国の併合により、王家は伯爵に格下げされた。

 のちに元王家の血が途絶えると、今度は国王の長男がこの場所の公爵となり、公爵領となった。


 ドゥムノニアにはスズや銅など鉱物資源が豊富でその利権を手に入れるために併合したのだ。


 この豊かな鉱物資源を他の貴族に渡さず、王室で独占するための画期的な仕組みをつくった。


 それが国王の長男である王太子を初代ドゥムノニア公爵に任命することだった。


 この時、ドゥムノニア公爵の地位と領地は国王の最年長の息子が自動的に引き継ぐという憲章が定められたのだ。


 ドゥムノニアの公爵誕生は地元の元王家を懐柔するものでは決してない。


 武力で元王家や地元勢力を完全に排除一掃した。

 空き地王室直轄地になったドゥムノニアの豊かな鉱山利権をロックオンした。


 王室の財源を確保するために、身内である王太子を公爵として送り込んだ。


 その背景があってかこのドゥムノニアに王太子のカントリーハウスが建てられたのだ。


 王太子の公務の多くはここ王国最南端のドゥムノニア、正月や建国記念日など残りが王都となっている。

 

 世界の半分のスズと銅を供給すると言われるほどの超巨大鉱山地帯だ。


 近代化政策の心臓部、世界最大のスズと銅の生産地となり、鉱山から水を汲み出すために蒸気機関などの最新技術が次々と開発された。



「つまり、王太子殿下のお膝元てことよ」


「すごいですね。そんなところにクエストがあるなんて」


「旅団としてもこんな大きいヤマを受けるのは珍しいわ」


「リリーさん、そろそろいいんじゃないんですか?どう危険なんです」


「あれよ」


 リリーさんが指差す方角には鉱山があった。


「鉱山ですか?」


「いえ、もっと危険なところ」


「鉱山も危険だと思いますが」


「その奥よ」


 奥と言われ、目を凝らす。


「コンクリート?」


「そうね、コンクリートの分離壁よ」


「あそこが何が危険なんですか?」


「分離壁の向こうに魔王がいる」


「!?」


 その発言を聞いて泡を食った。


「でもね魔王退治をするんじゃないの。魔王はすでに封印しているわ」


「では何を?」


「分離壁の周りは緩衝地帯になっているわ。そこには地雷が埋められている」


「地雷除去ですか!? そいつは危険すぎる」


「王国も地雷除去を独自に行なっているけど、これも案外バカにならない損害も食らうのよね」


「なんで地雷なんか埋めたんだよ」


「あなた達が生まれる前の話だけどね、ここは魔王との最前線だったの」


「なんだって!?」


「鉱山資源のために併合したけど、それより南下できなかったのは魔王軍がいたためでもあるの」


「その魔王軍との交戦の際に地雷を埋めたのか」


「正確に言うと王国軍が撤退する時にね」



 リリーさんが言うにはもっと南までドゥムノニアは存在していた。

 鉱山もあり鉱石資源を採るための施設や街もあったが、そこを魔王軍が占領した。


 王国軍は奪還するべく戦闘となったが、以外にも魔王軍は粘り強く消耗戦となった。


 これ以上はいたずらに兵を減らすことになるし、何より国民の支持も得られなくなる。


 そこで王国軍は方針を転換し、魔王軍の殲滅ではなく斬首作戦、魔王の封印を行った。


 魔王を封印する事が出来たが、殺す事までは出来なかった。


 魔王軍は戦意を喪失と向上とで二分し混乱した。


 逆上した魔王軍に激しい抵抗に会いながら、これ以上の奪還は棚上げにすると判断した。


 その際に魔王軍の残滓らが北上して来ぬように、戦闘の後方でコンクリートの分離壁を建設し、撤退時に地雷を埋めたのだ。



「それでなぜ今になって地雷除去を?必要なのでは」


「たしかに必要だと言う勢力もいるけど、そうは言ってられないのよね」


「というと」


「ドゥムノニアの住民たちが被害を被っているの」


 それを聞いて頭痛がしてくる。いらぬ置き土産だ。


「緩衝地帯だから進入禁止エリアでは?」


「本当はそうだけど、もうここ何十年も魔王は封印されたままだし。魔王軍の進軍もないし、みんな平和ボケしてるのね」


「だとしても一度被害に会ったのなら、もっと禁止にすべきでは?」


「それが全ての地雷を把握できないの」


「はぁ」


「だからどこまで地雷原なのかよくわかってないの」


「後世に残すなよ」


「ここはドゥムノニア、王太子殿下のお膝元よ。威信にかけてもこの問題を解決したいのよ」


「わかりました。これに旅団も動員したんですね」


「それはまた別になるわ。だってここは鉱石資源が豊富だからね」



 リリーさんは不敵な笑みを浮かべる。


 鉱物資源と言ったが周りは不毛の大地。露天掘りもあるが、重金属の有害物質による土壌汚染で植物が育たなくなり荒地となった。


 鉱山事業は主に官営であるが、リリーさんや旅団たちに何か得をするのであろうか。

 あるいは師団との縄張り争いか。



「とりあえずあなたたちは地雷除去の手伝いをお願いね。こっちは別のことをするけど」


「わかりました。それで大まかな地雷原はどこです?」


「案内するわ、ついてきて」



 そう言われるままにリリーさんについていく。


 リリーさんが案内したのは街の一角にある大きなコンクリートの建物。

 リリーさん曰く、ドゥムノニアの建物の多くは前線基地としての名残りが多いそうだ。その元官舎なのだろう。



「紹介するわ、ここがあなたたちが地雷除去をやってもらう事務所よ」


「ディアナトラスト?」



 リリーさんはコンコンとノックをすると、ガチャっと扉が開く。


 そこにはすっげー美人な女性がいた。


 オリーブオイルのような金髪に、まるでサファイアかのような碧眼で身長も高く優秀な遺伝子の人種と思わせる。



「あら、こんにちは」


「初にお目見えて光栄です。私、青い旅団の取締役を務めさせております、リリーと申します。先日、地雷除去の件でお手紙いたいしました」


「ああ、あなたたちね、どうぞいらっしゃい」



 そう女性が事務所に招き入れる。

 俺はこの後、失態をする。



「ケヴィンです。よろしくお願いします」


「マイン・カルヴァート。カルヴァート伯爵の娘です。本日はお招きありがとうございます。ディアナ妃」



 マインはそう言うと片脚をひざまずかせ、スカートの裾を少し持った。



「カルヴァートて、あの無限水源の地の。古くからの名家のご令嬢と会えて、わたくしも光栄だわ」



 女性もマインと同じような仕草をする。



「リリーさん、この方は?」



 その時、空気が凍った。



「ちょっと、何言ってんの。この方、ディアナ妃を知らないの?」


「ええ、すみません。誰ですか?」


「おほほほ、申し訳ございません。少し席を外させてもらいます。しばしの間、貴族同士で高貴なお話でもお楽しみいただけたらと。ごめんこの後よろしくね」


「わ、わかりました。ディアナ妃、お話いたしませんか?」


「ええ、いいけど。それと、わたくしはもう妃殿下ではなくてよ。ほほ、元妃ね」


「うふふ、そうでしたね。ディアナ公妃」



 俺はリリーさんに無理やり腕を引かれ外に出された。





「あなた、ディアナ様を知らないの!?」


「えっ……不勉強ですみません」


「肝が冷えたわ。あのね、ディアナ様はね国王陛下が王太子時代の王太子妃なのよ!」


「そ、そうなんですか。でも王妃は違いますよね」


「やめなさい。知らないとはいえ、あまりつつかない方がいいわ」


「すみません。でもどういうことなんですか」


「はぁ、ディアナ様は国王陛下が王太子時代に婚約、結婚した方なの」


「ええ、それはさっき聞きました」


「なのに今、王妃ではないということはつまり……」


「……離婚したんですか?」


「……そうよ」


「なんでまた、王室の権威に関わることでは」


「王太子と夫人の不貞問題よ」


「それて、王太子の不倫なんじゃ」


「しっ!あんまり言うもんじゃないの!誰かに聞かれるわよ!」


「す、すみません」


「……たしかに、王太子の不倫だったわ。ディアナ様と別居されてから、王太子の不倫報道がされていたわ。将来の国王なのに」


「案外、王国も自由な国なんですね」


「まぁ、近代化政策の落とし子とも言えるわね。自由経済だから」



 その後、リリーさんは国王陛下が王太子時代にした事やディアナ様の顛末を話してくれた。


 ディアナ様が結婚した翌年には王子つまり現在の王太子を出産なさった。その翌年にも王子をお産みになさった。

 しかし婚約当初から夫人との不貞問題により夫婦関係は悪化し結婚から11年後に別居、4年間の別居生活を経て離婚が成立。


 王子たちの親権を二人で平等に持ち、公妃の称号を維持と、妃殿下の剥奪の引換に莫大な慰謝料を獲得した。


 離婚後、王室の公務がなくなったディアナ様はその穴を埋めるかのように、慈善活動を始めた。その一つが地雷除去である。




 そして、問題は国王陛下と夫人だ。


 ディアナ様は国民から愛された存在だが、二人は違う。特に夫人が愛人として見られた。他国を訪問してもその国民から歓迎されることはなく、時には帰れ!と罵られるか無視されるかだった。


 末っ子の王子が20歳になるころ二人は再婚した。しかし、国民はあまり歓迎されなかった。


 なので、夫人は王太子妃を名乗らず、公爵夫人を名乗った。

 法的には夫人が公妃だが、それは前妻の称号として残り続けていたため使えなかった。



 国王陛下が王太子時代、王太子夫婦が行幸をする際に国民はどちらを愛したかというと、ディアナ様である。

 王太子なのにディアナ様のオマケ扱いされたのである。  


 

 やはり国民は国王陛下や夫人よりも、ディアナ様のことを愛しているし、今もほぼ王族のような扱いをしている者もいる。

 正確にはディアナ様は姻族であるため離婚したら平民である。しかし社会的には公爵級の扱いをされているのだ。



 田舎者であったため知らなかった王室スキャンダル。これは変につつくものではないな。



「そういうの、他にもあるからね。例えば国王陛下の弟のスキャンダルで王子を剥奪や。かつての国王が駆け落ちして事実上国外追放になった話も」



 結構やばそうな話だ。



「とりあえず、ディアナ様は離婚後は法的には平民だけど扱いは王宮公爵級なの。一応、現王太子の母でもあるから」


「そういえば、ここドゥムノニアは王太子のお膝元ですよね」


「そうよ。母子にしかわからないものもあるかもしれないけど、長男の近くに居たいのかもね」


「それでもなかなか危険なことをしてますけどね」


「地雷除去は慈善活動の一つだからね。別にやめることを考えてはないんでしょうね」


「わかりました。ここは国王の元妻ではなく、現王太子の母として見た方がいいのかもしれないですね」


「そのほうがいいかもね」



 その後リリーさんが補足してくれた。

 

 現王太子が即位したら国王大権により母であるディアナ様を殿下の敬称を奪還する考えだそうだ。

 即位した際にディアナ様が存命であっても、王太后になれないからだ。


 国王の母を意味し、先代の国王の王妃だった者に使われる称号だが、ディアナ様は一度も王妃になったことはない。

 

 だから殿下の称号を奪還するには、新たな肩書が必要である。

 『国王の母』最高位の敬意を示す歴史的な称号だ。


 他にも『王国のプリンセス』結婚による公妃ではなく、彼女自身の功績と身分を称えるための独立したプリンセスの爵位。


 あとは、独自の公爵夫人。王室の公式な構成員として復帰させるため、新しく特別な領地の爵位を与えられるケースだ。


 国王の実母として、王室内の序列や影響力は非常に高くなる。

 現王妃の夫人よりも、国民から絶大な人気を誇る元妃の方が実質的にファーストレディのような立場で国事行為やチャリティ活動を主導するであろう。


 リリーさんからひとしきりディアナ様の経歴を知らされた後、事務所に戻った。





「ほほ、まあ、それで今は婚約の旅に出かけているのね。素敵だわ」


「うふふ、ありがとうございます」



 ディアナ様とマインが談笑していたようだ。



「先ほどは失礼しました。ディアナ妃」


「別に構いませんわ。それとわたくしはもう妃殿下ではありませんのよ」


「はは、そうなんですね。ディアナ様」



 どうやら許してくれたみたい。寛大な人でよかったぜ。



「では、話を戻しますわ。あなた達は地雷除去をしていただけれるのよね。地雷除去は危険だから慎重にお願いね」


 

 ディアナ様が地雷除去について説明してくれる。


 防護服を着て手作業マニュアル除去を行うのが一般的だと。

 最も一般的で確実とされる方法だが、非常に時間がかかり危険も伴う。


 金属探知機で地中の金属反応を一つ一つ調べる。

 ブロッダー探針棒、金属探知機が反応した場所を、細い棒で斜めから慎重に刺して地雷の形を確認する。


 掘り出し、地雷が見つかったら、周囲の土を少しずつ手で取り除く。


 他には重機で除去する方法だ。

 回転カッターチェーン、車体前方の大きなドラムを回転させ、地中を叩いたり掘り起こしたりして、強制的に地雷を爆発、粉砕させる。


 あとは動物の力を借りる。

 地雷探知犬、火薬の臭いを嗅ぎ分け、地雷がある場所でお座りして知らせる。


 見つかった地雷は、その場で爆破処理か信管を抜いて無力化するか。


 鉄製の砲弾を使用したものなら、金属探知機で反応するが、木箱に入ったタイプや、火薬が劣化して周囲の土壌に溶け出している場合は探知が難しく、手作業での慎重な掘り起こしが必要となる。


 今回は金属探知機と犬を使って探し出し、手作業で掘り起こしや信管を外すかそのまま爆破処理するかだ。



「くれぐれも慎重にお願いね」


「わかりました」



 俺たちはディアナ様といっしょに地雷除去をすることとなった。まだこのあとの惨劇を知らずに。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ