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神の奇跡と忠誠の宴〜解放された奴隷たちに安息の地を与える




赤星の領地であった広大な更地を後にし、俺は数十人の亜人たちを引き連れて大森林へと帰還した。


長年、まともな食事も与えられず過酷な労働を強いられてきた彼らの足取りは重い。だが、その瞳にはかつてのような絶望の色はなく、微かな希望の光が宿っていた。


「……着いたぞ。ここが、お前たちの新しい家だ」


鬱蒼とした森の奥深く。俺が虚空に向かって手をかざすと、空間を覆っていた『不可視の結界』が陽炎のように揺らぎ、その奥から白亜の巨大な要塞——『万象工房』が姿を現した。


「おお……っ! 森の中に、こんな立派なお城が……!」


「まるで神様の御業だ……」


圧倒的な光景に息を呑む亜人たち。


城門が開くと、中から獣人のリリアとルン、そしてセレスティアが駆け寄ってきた。


「みんなっ! よかった、本当に無事で……っ!」

「リリア! ルンまで……生きていたのか!」


かつての集落の仲間たちとの再会。


首輪を外された亜人たちは、互いの無事を確かめ合い、抱き合って涙を流した。


「湊、お疲れ様。みんな無事に連れて帰ってきてくれたのね」


セレスティアが、労うような優しい微笑みを向けてくる。


「ああ。ついでに、東のゴミ掃除も完璧に済ませてきた。……ただ、少し人口が増えすぎたな。今の工房の居住区だけじゃ、全員は入りきらない」

俺は集まった五十人近い亜人たちを見渡し、足元の大地に両手を叩きつけた。


「『創成』」

ゴゴゴゴゴゴォォォォォッ!!


心地よい地響きと共に、万象工房の敷地内の大地がうねり、新たな石造りの家屋が次々とせり出してくる。


それだけではない。ベッド、机、暖炉といった家具、さらには清潔な衣服まで、森の木々や岩盤を素材にして一瞬にして『再構築』していく。

ほんの数十秒で、巨大な城壁の内側に、誰もが快適に暮らせる美しい街並みが完成した。


「い、家が……一瞬で生えてきたぞ!?」


「衣服まで……こんな上等な布、王侯貴族しか着られないような品だ……」


驚愕で言葉を失う亜人たちに向かって、俺は振り返った。


「家と服は用意した。次は飯だ。腹が減ってちゃ、明日を生きる気力も湧かないからな」


俺は空間に魔力を展開し、森に生息している巨大な魔猪オークボアや、栄養価の高い果実を『運搬』スキルで一瞬にして手元へと引き寄せた。


そして、それらの素材を『分解』し、不純物や毒素を完全に取り除いた上で、極上の料理へと『創成』する。


空中に浮かび上がったのは、湯気を立てる肉厚なステーキ、黄金色に輝く濃厚なスープ、そして焼きたてのふかふかなパンの山だ。


それを、広場に創り出した長テーブルへと次々に並べていく。


「さあ、遠慮はいらない。好きなだけ食ってくれ」


その言葉を合図に、亜人たちはテーブルへと群がった。


最初は遠慮がちに、だが一口食べた瞬間、彼らの目から大粒の涙が溢れ出した。


「うっ、ううぅぅっ……おいしい、おいしいよぉ……っ!」


「こんなに温かくて、柔らかいお肉……生まれて初めてだ……!」


顔をぐしゃぐしゃにして泣きながら、夢中で料理を頬張る人々。


セレスティアとリリアも、笑顔で彼らに果実水を振る舞っている。


やがて食事が落ち着いた頃、亜人たちを束ねる白髪の長老が進み出て、俺の前に深く跪き、額を地面に擦り付けた。


それに倣い、数十人の亜人たち全員が、一斉に平伏する。


「湊様……。我ら一族を地獄から救い出し、このような安息の地を与えてくださったこと、いかばかり感謝してよいか分かりませぬ」


「顔を上げてくれ。俺は俺の目的のために動いただけで——」


「いいえ。湊様は、我らにとってまさしく救済の神。……どうか、我ら一族の命、湊様に捧げさせてくだされ。どんな過酷な命令であろうと、必ずや成し遂げてみせましょう!」


長老の言葉に、全員が力強く頷く。


彼らの瞳に宿っているのは、絶対的な『忠誠』だった。


かつて赤星が暴力で縛り付けていた隷属とは違う。心からの恩義と、俺という圧倒的な力に対する畏敬の念。


「命を捧げる必要はない。俺がお前たちに求める『労働』は、ただ一つだ」


俺は彼らを見渡し、はっきりと告げた。


「この場所で、お前たちの技術を活かして、安全に、そして豊かに生きてくれ。……俺は、この狂った世界を支配している連中を全て引きずり下ろす。お前たちには、その後ろ盾になってもらう」

「ははっ!! 我らの血肉に代えましても、湊様の大業を成し遂げる礎となりましょう!!」


こうして、俺の復讐のための影の軍団——『万象工房』の盤石な基盤が完成した。


彼らが生産する物資と情報は、やがて王国を内側から崩壊させる猛毒となるだろう。


◆ ◆ ◆


一方、その頃。


聖王国の王都にそびえ立つ、豪奢な王城の謁見の間。


「どういうことだ! なぜ東からの魔力供給が途絶えている!!」


玉座に座る国王が、顔を真っ赤にして怒鳴り散らしていた。


その眼下には、国の重鎮たちと、白銀の鎧を身に纏った勇者——堂島翔が、苛立たしげに腕を組んで立っている。


「落ち着けよ王様。単に魔法陣のメンテナンスを怠っただけだろ。あの赤星のバカ、調子に乗って亜人をいじめすぎたか?」


堂島は鼻で笑い、事態を全く深刻に受け止めていなかった。


彼にとって、この世界は自分たちが無双するためのゲームに過ぎない。トラブルもまた、自分が力を見せつけるためのイベント程度の認識だった。


そこへ、玉座の間の扉が乱暴に開かれ、全身泥だらけの伝令騎士が転がり込んできた。


「ほ、報告いたしますッ!! ひぃっ、ぜぇっ……!」


「騒々しいぞ! 東の領地はどうなっている! 赤星は何をしているのだ!」


国王の怒声に対し、伝令の騎士はガチガチと歯を鳴らし、絶望に染まった顔で叫んだ。


「ひ、東の領地が……消滅しました!!」


「……は?」


堂島の顔から、余裕の笑みが消えた。


「消滅しただと? 言葉の意味が分からんぞ。魔物の大群にでも襲撃されたとでも言うのか!」


「違います! 城下町こそ無事ですが、赤星様が居城としていた巨大な城が……跡形もなく、ただの『更地』に変わっていたのです! 瓦礫一つ残されていませんでした!」


「なんだと……!?」


王と重鎮たちが息を呑む。


巨大な城が一夜にして消え去るなど、どんな大規模魔法でも不可能だ。


「それで、赤星はどうした! あいつは『炎の魔法剣士』だろうが!」


堂島が伝令の胸倉を掴み上げ、凄んだ。


「あ、赤星様は……更地の中央で、発見されました。しかし……」


伝令の顔が、さらに青ざめる。


「両腕と両脚の骨が完全に粉砕され……首には、見たこともない呪いの首輪が嵌められておりました。体内で目に見えない炎に焼かれ続けているらしく、狂ったように悲鳴を上げてのたうち回っており……すでに、正気を失っております……!」


「……ッ!!」


堂島の顔が、怒りと、僅かな『悪寒』によって引き攣った。


あの赤星が、手も足も出ずにダルマにされ、永遠の苦痛を味わわされている?


この世界で最強の自分たちの一角を、これほどまでに無惨に蹂躙できる存在がいるというのか。


「誰だ……誰がやった!! 亜人の反乱軍か!? それとも魔王軍の残党か!!」


堂島が怒号を上げると、伝令は震える声で、決定的な一言を口にした。


「赤星様は、痛みに狂いながら、一つの名前だけをうわ言のように叫び続けていました……」


「名前……?」


「はい。……『ユウキ、ミナト』……結城湊、と」

その名前を聞いた瞬間。


堂島の心臓が、ドクンと冷たく跳ねた。


「結城……湊、だと……?」

あり得ない。


あの、戦闘力ゼロの最弱のハズレ職。


自分が奈落の底に蹴り落とし、魔物の餌になったはずの、底辺のゴミ。


「ば、馬鹿な……! あんなゴミが生きているはずがない! ましてや、赤星を倒せるわけがないだろうがッ!!」


堂島は伝令を床に投げ捨て、ギリッと歯を食いしばった。


頭では否定している。しかし、背筋を這い上がる得体の知れない恐怖が、彼の直感に告げていた。


かつて自分が見下し、踏みにじった存在が、得体の知れない化け物となって地獄の底から這い上がってきたのだと。


「……上等だ」


堂島は血走った目で、東の空を睨みつけた。

「誰の仕業か知らんが……俺たち勇者に喧嘩を売ったこと、後悔させてやる。俺が直々に、そいつの首を刎ねてやる!!」


安全圏でふんぞり返っていた傲慢な勇者たちの足元が、今、決定的に崩れ始めた。


王都に激震が走る中、俺とセレスティアによる次なる『解体』の標的が、静かに定まろうとしていた。

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