表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/16

炎の魔法剣士の末路〜永遠に炎で焼かれる奴隷の首輪を繋ぐ



万象工房の地下で東の領地への魔力供給を断ち切った翌朝。


俺は一人、出立の準備を整えていた。


「湊様、本当に一人で行かれるのですか……? 東の城には、赤星の他にも大勢の王国騎士が駐留しています。どうか、私どももお供させてください!」


城門の前で、獣人のリリアが必死に食い下がってきた。


俺は彼女の頭を優しく撫でてなだめる。


「気持ちは嬉しいが、今回はただの『ゴミ掃除』だ。それに、向こうにはまだ捕まっているお前の同胞たちが大勢いる。彼らを安全にここまで連れて帰るためにも、お前たちには工房で受け入れの準備をしておいてほしい」


「……わかりました。どうか、ご無事で」


「ああ。セレスティア、留守を頼む」


「ええ、いってらっしゃい、湊。……あまり、無理はしないでね」


心配そうに見送るセレスティアに軽く手を上げ、俺は不可視の結界を抜けて森を蹴った。

向かうは東の領地。


かつて俺をいじめ、この異世界でも弱者を炎でいたぶり続けているクズ——赤星の拠点だ。


◆ ◆ ◆


東の領都は、異様な混乱に包まれていた。


インフラの多くが依存していた星の魔力が消失し、街の機能は完全に麻痺している。


俺は騒ぎをよそに、領都の中央にそびえ立つ赤星の城へと真っ直ぐに向かった。


「と、止まれ! ここは赤星様の——」


城門を警備していた騎士たちが槍を突き出してくるが、俺は歩みを止めない。


ただ視線を向け、小さく呟く。


「『分解』」

パァァンッ!


「な、なんだぁっ!?」


「俺たちの槍が、砂に……!?」


騎士たちが握っていた鋼の槍が、一瞬にしてサラサラの砂と化して指の隙間からこぼれ落ちた。


腰を抜かす彼らを一瞥もせず、分厚い鉄の城門に手を触れ、それすらも微塵に解体して城内へと足を踏み入れた。


◆ ◆ ◆


「どういうことだ! なんで俺の魔法が戻らねえんだよ!!」


謁見の間では、赤星が血走った目で喚き散らしていた。


玉座の周囲には数十人の親衛隊が控えているが、彼らもまた魔力低下の影響を受け、顔を青ざめさせている。壁際には、首輪をつけられた亜人の奴隷たちが、顔を腫らして怯えたように縮こまっていた。彼が八つ当たりで殴りつけたのだろう。


「堂島さんからの通信も繋がりません! 領地全体の魔力が、まるで底が抜けたように消失しています!」


「ふざけんな! 俺は選ばれた勇者だぞ! 炎の魔法剣士様だぞ! こんな……こんなこと、あってたまるかぁっ!!」


赤星が玉座を蹴り飛ばした、その時。


「——ずいぶんと無様だな、赤星」


重厚な扉を蹴り開け、俺は謁見の間へと悠然と足を踏み入れた。


「ひっ!? だ、誰だ貴様は!」


赤星が怯えたように後ずさる。漆黒の竜鱗コートを羽織った俺から放たれる圧倒的な重圧に、怯懦な本性が露呈したのだろう。


俺はゆっくりとフードを下ろし、顔を晒した。


「……忘れたとは言わせないぞ。高校の時から、散々俺をパシリにしてくれたんだからな」


「あ……?」


赤星の顔が、呆然としたものに変わる。


やがてその目に、信じられないものを見るような驚愕と、恐怖が浮かび上がった。


「ゆ、結城……!? お前、結城湊か!? なんで生きてる! お前は堂島さんに、奈落の底に突き落とされたはずじゃ……!」


「地獄の底から這い上がってきたのさ。お前らに、地獄の底を味わわせるためにな」


俺が静かに歩み寄ると、赤星は顔を引き攣らせて叫んだ。


「ひ、ヒィッ……! お前ら、何をしている! そいつを殺せ! ただのハズレ職だぞ、そいつは!!」


主の命令に、数十人の親衛隊が一斉に剣を抜き、俺へと襲いかかってくる。


だが、その速度は俺にとっては止まっているも同然だった。


ただ、両手を広げて周囲の空間を掌握する。


「『分解』」

ガシャァァァァァァンッ!!!


突撃してきた数十人の騎士たち。彼らが身につけていた鎧、兜、籠手、剣の全てが、空中で一瞬にして金属の破片へと解体され、雨のように床へ降り注いだ。


「な、なんだこれは……」


「化け物だ……逃げろ!!」


下着一枚にされた騎士たちは、戦意を完全に叩き折られ、悲鳴を上げてその場から逃げ出した。


残されたのは、震えが止まらない赤星ただ一人。


「来るな、俺に近づくなぁっ!!」


赤星は隠し持っていた護身用の短剣を引き抜き、狂ったように俺へと突き出してきた。


俺はその刃を素手で掴み、握り潰して砂に変える。


そして、そのままの勢いで赤星の右腕をガシッと掴み上げた。


「がっ……! 離せ、離せぇっ!」


「お前は、この手で亜人たちを燃やし、殴りつけて悦に浸っていたそうだな?」


「ヒッ……結城、悪かった! 謝るから、命だけは——」


「殺しはしないさ。お前みたいなゴミのために、手を汚す気はない。——だが、生かしたまま『解体』することはできる」


俺は掴んだ右腕に、ゆっくりと、意図的に時間をかけて能力を流し込んだ。


皮膚と肉を残し、内部の『骨』と『魔力回路』だけを標的にして、ボロボロに粉砕していく。

メキボキボキィッ……!!


「————ッッッ!!?!?!?」


肉の中で骨が砂利のように砕け散る異音。


赤星の右腕が、まるで水風船のようにグニャリと醜く折れ曲がった。


「あ、ぎっ、がぁぁぁぁぁぁぁっっっ!?!? うでっ、俺の腕がああああああッ!!」


「痛いか? だが、まだ左腕と、両足が残ってるぞ」


俺は容赦なく左腕を掴み、粉砕する。


悲鳴を上げて床にのたうち回る赤星の膝を踏み抜き、両脚の骨と腱も完全に『分解』した。


「ひぎぃぃぃぃっ!! ゆる、ゆるして、助けてえええっ……!!」


四肢の骨を失い、芋虫のように床を這いずるしかなくなった炎の魔法剣士。


だが、俺の復讐はこんな生温いものでは終わらない。


俺は、部屋の隅で震えていた亜人たちの首から『奴隷の首輪』を外してやった。


そして、その首輪を空中に浮かべ、【万象の造物主】の力で一つの凶悪な魔導具へと『再構築リビルド』する。


「な、なにを……何を、するつもりだ……ッ」


「お前が彼らに与えた絶望を、お前に返すだけだ」


俺は這いずる赤星の首に、その赤黒い鉄の首輪をガシャンと嵌めた。


「『創成』——【業火の隷属輪】。……この首輪はな、お前の肉体から微量に生成される魔力を吸い上げ、お前の体内に『不可視の炎』を発生させる」


「え……?」


「お前が死ぬまで、内臓を直接火で炙られ続けるような激痛が続く。他人に怒りを抱いたり、魔法を使おうとしたりすれば、その痛みは十倍に跳ね上がる特別製だ」


直後、赤星の体がビクンと跳ねた。


「ガ、アアアァァァァァァァッッ!!! あつい、あついあついあつい!! からだの、なかが、焼けるぅぅぅっ!!」


首輪から生み出された幻影の炎が、彼の神経を直接焼き焦がしていく。


外傷は一切ない。だが、その苦痛は彼がこれまで他人に与えてきた炎の何十倍にも相当するはずだ。


「結、城……殺せ、いっそ、殺してくれぇぇぇっ!!」


血と涙と涎を垂らし流し、芋虫のように悶え苦しむ赤星。


俺は冷ややかに見下ろし、その顔を踏みつけた。


「死んで楽になれると思うな。お前はこれから一生、誰の助けも得られず、ただ這いつくばって、自分が燃やした亜人たちに乞食のように許しを請いながら生きていくんだ」


俺は謁見の間の床に両手を叩きつけた。


「『解体』」


ゴゴゴゴゴゴゴォォォォォォォォッ!!!

赤星の権力の象徴であった巨大な城が、音を立てて崩壊を始める。


天井が消え、壁が砂となり、豪華な調度品が微塵に砕け散る。


俺の意思のもと、城を構成していた全ての物質が『ただの平らな大地』へと強制的に還されていった。


ものの数十秒で、壮麗な城は完全に姿を消し、見渡す限りの更地だけが残された。


眩しい太陽の光の下、何もない荒野に、赤星の絶叫だけが虚しく響き渡っている。


「……行こう。お前たちの本当の居場所に案内する」


俺は、解放されて呆然としている亜人たちに優しく声をかけた。


「ひぃぃぃぃっ、痛い、痛いよおおおおっ……! 置いていかないで、誰か、助けてええええっ!!」


かつての傲慢な領主は、もはやただの肉塊となり、永遠の業火に焼かれながら更地の真ん中で泣き喚いていた。


その醜悪な姿に同情の目を向ける者は、ただの一人もいなかった。


七年前から続く因縁。


その最初の一人に対する復讐は、これ以上ないほど残虐で、完全な形で幕を閉じたのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ