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万象工房の始動と星脈の切断〜元クラスメイトの領地から魔力を『搾取』する




鬱蒼とした大森林の奥深く。


不可視の結界に守られた白亜の城塞『万象工房』には、活気のある声が響き渡っていた。


「湊様! 本日の畑の収穫、こんなにたくさん採れました!」


「聖女様、この布の織り方はこれでよろしいでしょうか?」


リリアとルンを保護してから数日。


王国軍による亜人狩りから逃れ、森を彷徨っていた獣人やドワーフたちが、不可視の結界の噂(俺が意図的に森の動物たちを介して流したものだ)を聞きつけ、次々と工房へ逃げ込んできた。

その数、およそ五十人。


俺は彼らを無条件で保護し、安全な寝床と温かい食事を与えた。


その上で、彼らに『労働』を依頼した。


畑の管理、布の織り子、簡単な鍛冶作業。もちろん、俺が【万象の造物主】の力で創り出したチート級の農具や機織り機を使わせているため、彼らの肉体的な負担は皆無に等しい。


「元の世界じゃ考えられない、超絶ホワイトな職場環境だな」


俺は工房のテラスから、笑顔で働く亜人たちを見下ろして呟いた。


彼らは俺を命の恩人として崇拝し、与えられた労働に涙を流して感謝しながら取り組んでくれている。俺にとっても、信頼できる手足が増えるのは好都合だった。


「湊、お疲れ様。冷たい果実水を持ってきたわ」


背後から、エプロン姿のセレスティアが歩み寄ってきた。


銀色の髪を後ろで緩く束ねた彼女は、工房の皆から「聖女様」と慕われ、怪我人の治療や生活のサポートを率先してこなしている。


「ありがとう、セレスティア。体調はもう完全にいいのか?」


「ええ、湊が創ってくれた杖のおかげで、魔力もすっかり元の状態に戻ったわ。……それよりも、リリアちゃんから『彼ら』の情報を聞いたのよね?」


セレスティアの表情が、少しだけ真剣なものに変わる。


俺は果実水を一口飲み、頷いた。


「ああ。堂島たち……俺をゴミ扱いして突き落とした連中の、現在の動向だ」


昨夜、リリアから王国の現状について詳しく話を聞いた。


七年前にこの世界に召喚された俺の元クラスメイトたちは、現在、聖王国の最高戦力たる『勇者』として各領地を支配しているという。


堂島は王都に駐留し、「光の勇者」として軍の全権を握っている。


そして、この大森林に隣接する東の領地を支配しているのが、堂島の取り巻きの一人だった男——赤星あかぼしだ。


赤星は高校時代から堂島の腰巾着で、弱い者いじめの実行犯だった。


この世界では『炎の魔法剣士』として覚醒し、自らの領地で亜人たちを奴隷として酷使している。少しでも逆らう者がいれば、業火の魔法で生きたまま焼き殺すという、残虐極まりない恐怖政治を敷いているらしい。


「リリアの集落を焼き払ったのも、その赤星の部隊だ」


俺の言葉に、セレスティアが悲しげに目を伏せる。


「許せないわ……。私の魔力を吸い上げて得た力で、罪のない人々を苦しめるなんて」


「セレスティアからの魔力供給は、俺が鎖を壊した時点で絶たれている。だが、奴らは星の地脈レイラインから直接魔力を吸い上げる巨大な魔法陣を領地に築いて、今の力を維持しているらしい」


俺はテラスの手すりをトン、と指で叩いた。


「俺の復讐の第一歩。まずは手始めに、その赤星の領地を『解体』する」


◆ ◆ ◆


その夜。

俺は工房の最下層に設けた、地下室へと足を運んだ。


セレスティアも横に付き添っている。


床に手を触れ、【万象の造物主】の力を深く、星の奥底へと浸透させる。


「視えるぞ……」


俺の脳内に、この世界全体に張り巡らされた魔力の脈絡——巨大な光の河のような『星の地脈』の構造が浮かび上がった。


そして、東の領地に向かって、その光の河から不自然に太い管が伸び、大量の魔力が吸い上げられているのを捉えた。


赤星の領地にある魔力抽出陣だ。


(あいつの炎も、武具の強化も、全てはこの星から搾取した魔力に依存している)


俺は冷酷に笑い、地脈に向かって右手を突き出した。


「お前らのチートの源泉、ありがたく『回収』させてもらうぜ。——『分解』」


パキィィィンッ!!


俺の意思が星の奥底に届き、赤星の領地へと繋がっていた魔力の供給線を、根元から粉々に砕き割った。


さらに、分解して行き場を失った膨大な魔力の奔流を、全てこの『万象工房』へと繋ぎ直すように『創成』する。


ゴォォォォォォォッ!!


工房の地下に、黄金に輝く純粋な魔力の泉が湧き出した。


これで、万象工房の結界と設備は半永久的に維持され、逆に赤星の領地は完全な『魔力枯渇状態』に陥ったはずだ。


「すごいわ、湊。星の魔力の流れそのものを、一瞬で書き換えちゃうなんて……!」


「これで準備は完了だ。さあ、あいつらがどんな間抜けな顔をするか、見物だな」


◆ ◆ ◆


同じ頃。大森林の東、赤星の治める城の謁見の間。


「おい、この亜人のメス、動きが鈍いぞ! もっと酒を注がんか!」


豪奢な椅子にふんぞり返り、赤星は苛立たしげに声を荒らげた。


足元には、首輪をつけられた獣人の少女が震えながら平伏している。


「も、申し訳ありません……赤星様……っ」


「言い訳すんじゃねえよ、ゴミが。俺は『炎の魔法剣士』様だぞ! 俺の機嫌を損ねたらどうなるか、その体に教えてやる!」


赤星は残忍な笑みを浮かべ、右手に極大の炎魔法を構築するための詠唱を始めた。


いつものように、部屋の空気を焼き尽くすほどの業火を出し、奴隷を恐怖で支配する。それが彼の日常だった。


「灰になれ、下等生物! 『業火の——」


バチッ。


赤星の手のひらから、小さな静電気のような火花が散った。


それだけだった。


「……あ?」


赤星は間抜けな顔で自分の手を見た。

もう一度、強く念じる。


「『業火の——!」

シュボッ。


今度は、ロウソクの火にも劣る、か細い炎がチロチロと現れ、数秒で消えた。


「は……? な、なんだこれ!? 俺の魔法が……出ない!?」


謁見の間にいた兵士たちも、顔を見合わせてざわめき始める。


赤星は焦り、腰に差していた自慢の『炎熱のミスリル剣』を抜き放った。魔力を流し込めば、刀身が赤熱して何でも溶け斬るはずの業物だ。


「クソッ、魔法がダメなら剣だ! 燃えろ!!」

ガキンッ!!


赤星が近くの石柱に剣を叩きつけた瞬間。


魔力の供給を絶たれ、ただの脆い金属になり下がっていたミスリルの剣は、あっけなく半ばからポッキリと折れ飛んだ。


「お、折れた……? 王家から下賜された、国宝級の魔剣が……!?」


赤星の顔から血の気が引いていく。


魔法も使えず、自慢の武器もただの鉄屑に変わった。


七年間、この世界で己を最強の捕食者だと信じて疑わなかった彼の足元が、音を立てて崩れ去った瞬間だった。


「な、なんでだ!? 堂島さんに連絡しろ! 魔力抽出陣を確認しろ! 俺の力が……俺の力が消えちまったあああああっ!!」


城の中に、赤星の無様な絶叫が響き渡る。


自分が蹂躙してきた亜人たちに見つめられながら、彼はただパニックに陥って泣き喚くことしかできなかった。


——彼らはまだ知らない。


奈落の底に捨てたはずの「最弱のハズレ」が、全てを奪い返すために、静かに牙を剥き始めたということを。

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