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最強の武具を創成する〜底辺からの逆襲



串刺しになった奈落の番竜の巨骸を見上げながら、俺は静かに息を吐いた。


「さて、まずはこの巨大な獲物の『解体』から始めるか」


俺が番竜の黒鱗に手を触れると、セレスティアが心配そうに隣から顔を覗き込んできた。


「湊、解体って……まさか、その素手で……?」


彼女の疑問ももっともだ。番竜の鱗は神話の金属にも匹敵する硬度を持つ。並の刃物では傷一つ付かないだろう。


だが、今の俺には不要な心配だった。


「見ててくれ。——『分解』」


俺の手のひらから淡い光が広がり、番竜の巨体を包み込んだ。


次の瞬間、音もなく巨竜の肉体が崩壊を始める。


しかしそれは腐敗や消滅ではない。巨大な肉体が、素材ごとに完璧に『分別』されていくのだ。

空中に幾つもの光の球体が浮かび上がる。


鋼より硬い漆黒の『竜鱗』。


底知れぬ魔力を宿した紫色の『竜核(心臓)』。


あらゆるものを斬り裂く鋭い『竜牙』と『竜骨』。


そして、猛毒の瘴気を完全に分離・浄化された、最高級の『竜肉』だ。


「嘘……あの番竜が、一瞬でただの素材の塊に……」


セレスティアが信じられないものを見るように目を丸くしている。


俺はその中の素材を組み合わせ、新たな『創成』を開始した。


まずは俺の装備だ。


空中に浮かぶ『竜鱗』と『竜骨』に魔力を注ぎ込み、俺の頭の中で思い描く最強の防具の形へと再構築する。


光が収まると、そこには漆黒のロングコートと、動きやすい黒の野戦服が完成していた。


袖を通してみると、驚くほど軽い。絹のようにしなやかでありながら、先ほどの番竜のブレスを真正面から受けても無傷でいられるほどの絶対的な防御力を誇っている。


さらに、巨大な『竜牙』を削り出し、俺の手に馴染む漆黒の片手剣を創り上げた。装飾の一切ない実用性のみを追求した刃だが、触れるだけで空間すらも両断しそうな鋭気を放っている。


「次は、お前の番だ」


俺は『竜核』の魔力を純化させ、そこに『竜鱗』の一部を組み合わせて、一本の美しい白銀の杖を創り出した。杖の先端には、星のように輝く純白の宝玉が埋め込まれている。


「これを。お前は魔力を搾取され続けて弱っているからな。その杖が、失われた魔力を補い、お前を守る盾になる」


「私に……? こんな神々しい杖、神話の聖女様が持つような代物よ……!?」


おずおずと杖を受け取ったセレスティアの顔が、驚きでパッと明るくなる。杖を手にした瞬間、彼女の身体を淡い光が包み込み、青ざめていた肌に血色が戻った。


「すごい……! 体の中に、温かい力が溢れてくるわ。湊、本当にありがとう……!」


「礼には及ばない。これから一緒に生き抜くための、相棒への初期投資だ」


相棒。その言葉に、セレスティアは嬉しそうに微笑み、杖を胸に抱きしめた。


「よし、装備は整った。次は腹ごしらえだ。何せ、こっちは百日以上も苔と泥水しか口にしてないからな」


俺は浄化された『竜肉』を、先ほど創成した石の鍋に入れ、空気中の水分と塩分を抽出して味付けをした。俺の意思一つで、完璧な火加減の『極上竜肉のシチュー』が完成する。


香ばしい匂いが空間に広がり、俺とセレスティアの腹の虫が同時に大きく鳴った。


顔を見合わせ、二人で吹き出してしまう。

「……いただきます」


熱々の肉を口に運んだ瞬間、脳が痺れるほどの美味さが口いっぱいに広がった。噛む必要がないほど柔らかく、溢れ出す肉汁が極限まで飢えていた細胞の隅々にまで染み渡る。


「おいしぃ……っ、何これ、すっごく美味しい……!」


セレスティアも、両手で器を持ちながら夢中で肉を頬張っている。涙目で幸せそうにシチューを飲む彼女の姿を見て、俺の心に重くのしかかっていたどす黒い怒りが、少しだけ和らぐのを感じた。


(ああ、美味い飯を食って、隣で笑ってくれる奴がいる。ただそれだけのことが、こんなにも尊いなんてな)


元の世界のブラック企業では、食事は栄養ゼリーで済ませ、ただPCの画面と睨み合うだけの孤独な日々だった。


だが今は違う。俺の力で、この少女を守り、共に笑い合うことができる。


食事を終え、体力が完全に回復したのを確認すると、俺は奈落の天井——果てしなく続く暗闇の縦穴を見上げた。


「さて、行くか。上の世界へ」

「でも、どうやって? ここは地の底よ。見上げるほど高い絶壁を、登り切るなんて……」


「ただの壁ならな。だが、道がないなら『創ればいい』」


俺は岩壁に手を当て、魔力を流し込んだ。


この縦穴の周囲の岩盤を『分解』し、全く別の構造物へと『創成』する。


「大地よ、道を拓け」


ゴゴゴゴゴゴォォォォォッ!!


奈落の底から地響きが鳴り、岩壁が生き物のようにうねり始めた。


ただの垂直な崖だった壁面が削り取られ、平らな石畳が次々とせり出してくる。


それは、地底から遥か上空の出口へ向かって螺旋状に続く、巨大で美しい『石の階段』だった。


「道が……できちゃった」


「ああ。これなら、歩いて登れるだろ」


俺は一歩先んじて階段に足を乗せ、セレスティアに手を差し出した。


「さあ、俺たちの反撃の始まりだ」


彼女は力強く頷き、俺の手をしっかりと握り返した。


◆ ◆ ◆


螺旋階段を登る旅は、数時間に及んだ。


途中で息を切らせたセレスティアを俺が背負い、歩みを進める。背中から伝わる彼女の温もりと、規則正しい心音だけが、静寂の穴に響いていた。


「湊……私、外の世界の光を見るのは、本当に久しぶりなの」


背中で、セレスティアがぽつりと呟いた。


「私が捕まる前の世界は、もっと緑が豊かで、風が気持ちいい場所だったわ。でも、王国が私の魔力を吸い上げて勇者たちに分け与えるようになってから、星の力は枯渇し始めているはずよ」


「自分たちの力のために、世界を犠牲にしてるってことか。なら、あいつらをぶっ潰す大義名分がまた一つ増えたな」


俺は冷たく言い放つ。


ただの私怨ではない。王国と、堂島たち勇者が存在している限り、この世界はいつか滅びる。


俺が【万象の造物主】の力で、狂った世界の理を『再構築』してやる。


やがて、頭上の暗闇に、微かな光の点が現れた。


「出口だ」


だが、俺はこのまま一直線に階段を伸ばすことはしなかった。


真っ直ぐ上へ繋げれば、俺が突き落とされた王城のバルコニーに出てしまう。


今の俺なら王国軍を正面から蹂躙することも容易いように思うが、セレスティアを守りながら、見知らぬ土地で相手の戦力も把握しないままいきなり総力戦をするのはリスクが高すぎる。


(まずは拠点を作り、情報を集め、確実にあいつらの首を絞め上げる準備をする)


俺は階段の軌道を強制的に捻じ曲げ、城の地下を迂回し、王都のさらに外側——広大な『大森林』の地下へと続くように岩盤を創り変えた。

斜めに長く伸びたトンネルの先。


ついに、俺たちは最後の土壁を『分解』した。

眩い光が、ぶわりと視界に飛び込んでくる。


「あ……」


セレスティアが、俺の背中から降りて、ふらふらと光の中へ歩み出た。


そこは、見渡す限りの鬱蒼とした大森林のど真ん中だった。


木々の隙間から降り注ぐ、黄金色の太陽の光。

肌を撫でる、柔らかな風。


鳥たちのさえずりと、緑の匂い。


「太陽……お日様の、光……っ」


セレスティアは両手で顔を覆い、その場にへたり込んで泣き崩れた。


それは悲しみの涙ではない。長きにわたる絶望の暗闇から解放され、再び世界に受け入れられた歓喜の涙だった。


俺は眩しい太陽を見上げ、大きく深呼吸をした。


肺を満たす新鮮な空気が、俺が生きていることを実感させる。


視線を遠くへ向けると、森の木々の向こう側に、白亜の巨大な王城の尖塔が小さく見えた。

俺をゴミと呼び、殺そうとした連中がふんぞり返っている場所。


「待っていろよ、堂島。王族のクズども」


俺は漆黒のコートの裾を風に翻し、冷酷な笑みを浮かべた。


「お前らが俺から全てを奪おうとしたように……今度は俺が、お前らの全てを『解体』してやる」


最弱の【労働者】は、地獄の底から這い上がった。


俺とセレスティア、二人だけの、世界を敵に回した壮絶な復讐劇が、今、陽の光の下で幕を開けたのだ。

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