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魔導都市の驕慢と理の剥奪〜千年の結界を指先で解体し、真理を追う賢者たちを平伏させる〜



万象国が鉄機帝国と商業連合アルシャードを立て続けに傘下に収めたことで、大陸の勢力図は完全に塗り替えられた。


軍事と科学の【西】、経済と資源の【南東】、そして圧倒的な武力と創成の理を掲げる【中央】の万象国。


数年後に迫る並行世界からの侵略軍を迎え撃つための巨大な防衛網——【星系防衛システム(アストラル・イージス)】の構築は、これら三大勢力の人材と資源が融合したことで、劇的な速度で進展していた。


だが、星を丸ごと覆うほどの防衛結界を張るためには、どうしても不可欠な「最後のピース」が存在した。


「……大陸北部の霊山に位置する、独立魔導都市【アイテール】。ここが、星の地脈レイラインの最大交差点——マナの心臓部を独占しています」


本城の円卓会議室。


情報部隊を統括するリリアが、ホログラムの地図の北部を指し示した。


「アイテールは、千年以上前から外界との交流を断ち、独自の魔法研究に没頭している魔術師たちの聖地です。彼らは鉄機帝国の科学を『野蛮なガラクタ』と見下し、我々アルシャードの商人も『俗物』として一切の立ち入りを禁じてきました」


新たに万象国の財務と物流を任されたアルシャードの代表、シャクヤが扇子で口元を隠しながら補足する。


「彼らに星の危機の話を信じさせ、地脈の管理権を明け渡させるのは骨が折れるでしょうね。なにせ、アイテールを統べる『七賢人』は、自分たちの魔法理論こそが世界の真理だと狂信していますから」


「真理、ねえ」


俺は腕を組み、冷ややかに鼻を鳴らした。


「本当に真理を理解しているなら、数年後にこの星のマナが並行世界に根こそぎ奪われることくらい、自力で予測できそうなもんだがな」


俺は立ち上がり、円卓を見渡した。


「星系防衛システムを完成させるためには、どうしてもその魔導都市の地脈が必要だ。……言葉で通じない頭の固い学者連中には、彼らの大好きな『ことわり』で直接教育してやるのが一番手っ取り早い」


◆ ◆ ◆


数時間後。


俺はセレスティア、そして護衛として獣王ボルガと海王グラキエスを伴い、魔導浮遊車で大陸北部の霊山へと到着した。


標高三千メートルを超える険しい雪山の頂。


そこには、巨大な透明の球体結界ドームに覆われた、美しくも異質な石造りの空中都市が浮かんでいた。


「……チィッ。見ろよ我がマスター、あの結界。ただの魔力障壁じゃねえ。空間そのものを何千層も折り畳んで、外界からの干渉を完全にズラす『次元断層』の類だぜ」


獣王ボルガが、野生の勘で結界の異常性を察知して唸り声を上げる。


「ええ。それに、結界の内側でマナが異常な速度で循環しているわ。……彼ら、自分たちの魔法研究のために、星の地脈から過剰に魔力を吸い上げている。これでは、いずれこの星の寿命を縮めることになるわ」


星の女神としての記憶を取り戻したセレスティアが、神杖を握りしめ、悲痛な表情で都市を見上げた。


俺たちが浮遊車から降り、結界の前に立つと、都市の内部からホログラムのような巨大な映像が投影された。


ローブを深く被った七人の老人の姿。アイテールを統べる『七賢人』だ。


『——立ち去れ、野蛮なる万象国の覇王よ。我らアイテールの真理の探求に、俗世の覇権争いを持ち込むことは許さぬ』


中央の賢人が、見下すような傲慢な声で告げた。


「俗世の覇権争いじゃない。並行世界という外部からの侵略に備えるために、星の地脈を統合する必要がある。……大人しく結界を解き、協力しろ」


俺が静かに要求するが、七賢人たちは嘲笑するようにお互いの顔を見合わせた。


『並行世界からの侵略だと? 笑止! 仮にそのような外敵が現れたとしても、我らアイテールが千年かけて構築したこの【絶対不可侵の次元結界】を破ることなど不可能! 世界が滅びようとも、我らの都市だけは永遠に存続するのだ!』


「……自分たちだけ助かればそれでいいってか。どこの世界にも、引きこもってふんぞり返るだけの無能な上司ってのはいるもんだな」


俺は深くため息を吐き、首をポキポキと鳴らした。


「ボルガ、グラキエス。あの結界、お前たちならどう壊す?」


俺が問うと、二柱の魔王は即座に答えた。


「俺の闘気で空間ごとブチ破ることは可能ですが、それだと反動で中の都市ごと木っ端微塵になりますね」


「私の絶対停止で結界のエネルギー流動を止めることはできますが……地脈の魔力と直結しているため、星の地脈そのものに深刻なダメージを与えかねません」


「そうだ。力任せの破壊なら誰でもできるが、今回は中の設備と地脈を『無傷』で手に入れる必要がある」


俺は黄金の闘気を指先に集中させ、ゆっくりと結界の表面へと歩み寄った。


『無駄だ! いかに貴様が鉄機帝国を屈服させた武力を持っていようと、この次元結界は物理攻撃や魔法を文字通り「別次元」へと逸らす! 貴様の拳など——』


七賢人が勝ち誇ったように叫ぶ中、俺は【空葬武人】としての理を、指先一点に極限まで圧縮した。


物理的な破壊ではない。


結界を構成する魔力の術式、空間を折り畳む次元の座標、地脈から魔力を引き上げるパイプライン。


それら全てを『線の束』として視認し、俺の都合の良いように「書き換える」。


「お前たちの千年の研究成果とやら、たった数行の無駄なコード(術式)にすぎないな。——『解体』」


俺が次元結界の表面を、指先でピンッと軽く弾いた。


パキィィィィィンッ!!!


その瞬間、何千層にも折り畳まれていた次元の断層が、まるで精巧な知恵の輪が一瞬で解けるように、パラパラと音を立てて崩れ去った。

爆発も、衝撃波も一切ない。


ただ、絶対不可侵と謳われた千年の結界が、俺の指先一つで「ただの空気」へと変換リビルドされたのだ。


『な……っ!? ば、馬鹿なァァァッ!?』


『次元の位相が、術式ごと消滅しただと!?あ、あり得ん! 神の如き奇跡……いや、これではまるで、世界の理そのものを書き換えるような……ッ!』


投影されていた七賢人のホログラムが激しくノイズを走らせ、彼らの驚愕と恐怖の悲鳴が山頂に響き渡った。


「真理を探求するなら、自分たちの井戸(結界)の中から世界を見てちゃ駄目だろ」


俺は結界が消滅し、無防備に姿を晒した空中都市の正門を、そのまま堂々と潜り抜けた。


◆ ◆ ◆


アイテールの中枢、大賢聖堂。


俺たちが足を踏み入れると、そこにはパニックに陥り、腰を抜かして座り込む七賢人と、無数の魔術師たちの姿があった。


「ひぃぃっ! く、来るな! 我々の叡智の結晶を、乱暴な手で汚すなァッ!」


賢人の一人が震える手で杖を向けてくるが、その後ろから進み出たセレスティアが『天星の神杖』を静かに床に突き立てた。


カァァァァッ……!


彼女の杖から放たれた純白の光が、聖堂内を満たしていく。


それは、彼ら魔術師が普段から扱っているマナの、さらに根源にある『星の息吹』そのものだった。


「あ、ああ……この深く、清らかな波動……。ま、まさか……神話の時代に失われたとされる、星の女神の……!」


長寿の魔術師たちは、その光に触れた瞬間、魂の奥底から込み上げる本能的な畏敬の念に抗えず、次々と杖を取り落として平伏し始めた。


「あなたたちの研究の成果は素晴らしいわ。でも、地脈から魔力を吸い上げすぎるのは星の寿命を削る行為よ。これからは、並行世界の脅威から星を守るために、その叡智を正しく使いなさい」


女神としての威厳を放つセレスティアの言葉に、七賢人たちは涙を流しながら深く頭を垂れた。


「ははぁっ……! 我ら、千年の間、真理を追うあまり己の傲慢さに目を塞いでおりました。武を極めし覇王どの、そして星の女神様。我らアイテールの全魔導技術と地脈の管理権、貴方様方に捧げます……!」


こうして、知識と結界に引きこもっていた気難しい魔導都市は、俺の『理の剥奪』とセレスティアの『神威』によって、一滴の血も流すことなく完全に万象国へと恭順した。


◆ ◆ ◆


数日後。


アイテールから持ち帰られた古代魔法の理論と、鉄機帝国の最新科学、そして俺の『森羅創成』による無限の素材供給。


これらが完全に融合し、万象国の本拠地で【星系防衛システム(アストラル・イージス)】の最終調整が行われていた。


「すごいわ、湊。これで大陸の地脈が一つに繋がって、星全体を覆う防衛結界がいつでも展開できるようになったのね」


執務室のホログラムを見つめながら、セレスティアが安堵の息を吐く。


「ああ。鉄機帝国の『対魔導相殺炉』を応用して、並行世界から飛来する未知の兵器のエネルギーを中和・反発させる巨大な防壁だ。これで、いざ次元の亀裂が開いても、奴らの大軍勢が直接地上に降り注ぐ事態は防げる」


「ガハハハッ! 結界で足止めしたところを、俺たち魔王や幹部が空に飛び出して、一匹残らず叩き潰すって算段だな!」


ボルガが豪快に笑いながら拳を打ち合わせる。

大陸の全勢力が一つにまとまり、来るべき決戦への準備は万端に整いつつあった。


人間の国々との小競り合いや、愚かな派閥争いは、俺という絶対的な抑止力と「豊かな日常」の提供によって完全に沈静化している。


(……あとは、並行世界の連中がいつ、どんな形で牙を剥いてくるかだ)


俺がホログラムの星空を見上げていると、執務室のドアが控えめにノックされた。


「湊様。アルシャードのシャクヤ議長より、新たな献上品と親書が届いております。……またしても、『今夜こそ旦那様のお側に侍る許可を』というふざけた文面が添えられていましたが、私が事前に燃やしておきました」


リリアが冷静な顔で、灰になった手紙の残骸をゴミ箱に捨てながら報告する。


「……リリア、お前も最近、随分と容赦がなくなってきたな」


「万象国の情報統括として、湊様に害をなす(主に貞操的な意味で)女狐は、未然に空間ごと切断するのが私の『労働』ですから」


リリアが獣耳をピコピコと揺らしながら、真顔で恐ろしいことを言う。


その後ろでは、フレアが「よくやった獣娘! 私の愛人枠筆頭の座を脅かす奴は許さん!」と拍手喝采し、セレスティアが「……湊。今夜は一緒に、霊山から届いた新しいお茶を飲みましょうね?」と、有無を言わさぬ笑顔で俺の腕に絡みついてきた。


星の危機が迫る中であっても、俺たちの周囲には常に騒がしくも温かい日常の空気が流れている。


どんな理不尽な侵略者が来ようとも、俺は【空葬武人】として、この愛おしい騒騒しさを守り抜く。


星の全生命を束ね上げた覇王と、その家族たちの、平穏で無敵な日々。


だが、その平穏な空の彼方では——次元の壁を食い破ろうとする並行世界の「本隊」の足音が、確実な絶望として迫りつつあった。


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