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魔導鉄道の開通と黄金の商業連合〜砂漠の国に無限のオアシスを創成し、抜け目のない商人を心酔させる〜



鉄機帝国という巨大な軍事国家を無血で併合し、万象国の傘下に収めてから一ヶ月が経過した。


並行世界からの侵略軍が到来するまで、数年の猶予。


俺たちはその間に、この星の人間たちを束ね上げ、星全体を一つの巨大な『要塞』へと作り変える必要がある。


その第一歩として、俺は鉄機帝国の技術者たちと、万象国のドワーフたちを完全に統合した。


帝国の誇る「魔力相殺炉」の理論を平和利用し、魔力の消費を極限まで抑えつつ超大質量を牽引できる新型機関を開発。それを俺の『森羅創成』で生み出した無限の耐久力を持つ星鋼オリハルコンのレールに乗せたのだ。


大森林の万象工房を起点とし、西の鋼都アイゼン、そして大陸の各要所へと血脈のように伸びる巨大な交通網。


【魔導大陸鉄道】の完成である。


これまでは馬車や一部の富裕層しか使えない転移魔法に頼っていた物流が、文字通り「爆発的」に加速した。万象国で生産される美味なる食料、画期的な日用品、そして帝国の工業製品が、大量かつ安全に大陸中を行き交うようになったのだ。


「湊様。魔導鉄道の開通の噂を聞きつけ、大陸南東部を支配する巨大な独立勢力……【黄金の商業連合アルシャード】から、正式な使節団が到着いたしました」


本城の執務室。


書類仕事の合間に一息ついていた俺に、リリアが静かに報告を入れる。


彼女の腰には、俺が創った空間切断の双剣が光っている。


「アルシャードか。過酷な砂漠地帯にありながら、大陸中の富の三割を握っているという商人たちの国だな」


「はい。彼らは鉄機帝国すらも警戒し、常に中立を保ってきた抜け目のない連中です。……今回の会談、向こうはかなり強気な条件を提示してくると予想されます」


「構わない。俺たちの方から出向く手間が省けた。丁重に客間へ案内してくれ」


俺は立ち上がり、隣で書類の整理を手伝ってくれていたセレスティアと共に、応接の間へと向かった。


◆ ◆ ◆


応接の間に通されたのは、豪奢なシルクの衣装を纏い、黄金の装飾品をこれでもかと身につけた数人の商人たちだった。


その中心に座るのは、豊かな金色の髪と、狐の耳、そしてふさふさの尻尾を持つ妖艶な獣人の女。


「お初にお目にかかります。私は黄金の商業連合アルシャードの代表議長、シャクヤと申します。此度は万象国の建国、ならびに鉄機帝国の併合、誠におめでとうございます……新しき覇王どの」


シャクヤは流し目を送りながら、優雅に一礼した。


だが、その細められた狐の瞳の奥には、俺という存在の底を値踏みしようとする、極めて冷徹で計算高い光が宿っている。


「歓迎するよ、シャクヤ議長。遠路はるばる砂漠からご苦労だったな。……さっそくだが、用件を聞こうか」


俺は正面のソファに腰を下ろし、単刀直入に切り出した。隣にはセレスティアが静かに控えている。


シャクヤは扇子で口元を隠し、クスリと笑った。


「流石は武を極めし御方。商人の前置きなど不要ということですね。では、単刀直入に申し上げましょう」


彼女は扇子を閉じ、スッと目を細めた。


「我がアルシャードの持つ莫大な金(資金)と、南東部に広がる鉱物資源の採掘権を、万象国に提供いたします。……その代わり、万象国で生産される未知の特産品の『独占販売権』、ならびに、新たに開通した魔導大陸鉄道の南東部ルートの『管理権』を、我が商業連合に譲渡していただきたい」


リリアがピクリと眉を動かした。


資金と資源を提供するとはいえ、特産品の独占販売とインフラの管理権を要求するなど、万象国の経済の首根っこを掴もうとするに等しい強気の条件だ。


「……独占販売権はともかく、鉄道のインフラを他国に握らせる気はない。随分とふっかけたな」

俺が冷ややかに返すと、シャクヤは余裕の笑みを崩さなかった。


「お言葉ですが、万象国どの。鉄機帝国を飲み込み、巨大な防衛網を敷こうとしている貴国にとって、今最も必要なのは『莫大な資金』と『物資の流通網』のはず。武力で国を奪えても、経済を回さねば国は内側から干からびますよ? 我がアルシャードの協力なしに、この大陸の経済を掌握するのは不可能かと」


自国の経済力を絶対の盾とし、こちらが喉から手が出るほど金と資源を欲しがっていると踏んでの交渉。


確かに、普通の国家運営であれば彼女の言う通りだ。


だが、俺は【空葬武人】であり、【万象の造物主】だ。既存の常識で測れるような労働者ではない。


「金や既存の物流網なんて、俺が『創れば』いいだけの話だ。お前たちの協力が必須という前提が、そもそも間違っている」


俺がそう告げると、シャクヤはピタリと扇子の動きを止めた。


「……強がりはおやめなさい。無から黄金を生み出すなど、神にでもならねば——」


「俺を誰だと思っている?」


俺は黄金の闘気を指先に纏わせ、テーブルの上の空のティーカップに触れた。


『森羅創成』。


一瞬の光と共に、陶器のカップが構造を書き換えられ、純度一〇〇パーセントの眩い『黄金の杯』へと変貌したのだ。


「なっ……!?」


シャクヤたち使節団が、目玉が飛び出るほどに目を見開く。


「金が必要なら、その辺の石ころを黄金に書き換える。物流が必要なら、鉄道を一瞬で大陸の果てまで敷き詰める。……お前たちの提示する条件は、俺にとっては魅力的でも何でもない」


俺は背もたれに深く寄りかかり、汗を流し始めたシャクヤを見据えた。


応接室は快適な温度に保たれているはずだが、砂漠から来た彼らの息は荒く、顔には疲労の色が濃く表れている。


「交渉の基本は、相手が『最も欲しているもの』を提示することだろ? ……お前たちが本当に欲しいものは、金や権利じゃない」


俺は空間収納庫から、二つの見慣れない魔導具を取り出し、テーブルの上に置いた。


「一つは『魔導製水機』。空気中のマナを吸収し、水魔法の使い手が常駐していなくても、極上の冷たい真水を無限に精製し続ける箱だ」


コトリ、とグラスに注がれたキンキンに冷えた水をシャクヤの前に差し出す。


彼女は震える手でそれを受け取り、一口飲んだ瞬間、雷に打たれたように硬直した。


「あ……甘露……! 砂混じりの泥水でも、魔力で無理やり絞り出した水でもない……! こんな清らかな水が、無限に……!?」


「そしてもう一つが『魔導冷風機クーラー』。室内の熱を魔力で奪い、常に極寒のオアシスのような涼しい風を送り出し続けるシステムだ」


俺が指を鳴らすと、冷風機が起動し、応接室全体に心地よく冷たい風が行き渡る。


砂漠の灼熱地獄で一生を過ごしてきたアルシャードの商人たちにとって、それは金や宝石など比較にならない、文字通りの『命の価値』を持つ代物だった。


「こ、こんな魔法のような代物が……。もしこれを、我が国の都市に導入できれば……いや、アルシャードの全ての民が、渇きと暑さから解放される……!?」


シャクヤの狐の耳がピンと立ち、尻尾が興奮で激しく揺れている。


「この冷風機を搭載した魔導列車をアルシャードの首都まで通し、砂漠の各都市に大型の製水プラントを建設してやる。これで、お前たちの国は死と隣り合わせの砂漠から、緑豊かなオアシスに変わる」


俺は立ち上がり、シャクヤを見下ろした。


「代金は、アルシャードの全土を万象国の傘下とし、俺が構築する『星系防衛システム』のインフラに全物流網を自由に組み込ませることだ。……どうする? 乗るか、乗らないか」


圧倒的な技術力と、国そのものを救う「価値」の提示。


シャクヤはもはや交渉の余地がないことを悟り、静かに扇子を置き、ソファから立ち上がった。


そして、俺の前に深々と膝をつき、平伏したのだ。


「……完敗でございます、万象国の覇王どの。貴方様の底知れぬ御力と、我ら砂漠の民を救う御慈悲に、心より感服いたしました。黄金の商業連合アルシャードは、これより万象国への全面的な服従と協力を誓約いたします」


並行世界の脅威を迎え撃つための、南東部最大の経済・物資拠点が、一滴の血を流すこともなく完全に俺たちの手中に収まった瞬間だった。


◆ ◆ ◆


その日の夜。


アルシャードの使節団を国賓として迎えた歓迎の宴が終わり、俺が執務室に戻ろうと自室の前の廊下を歩いていると、甘い香水を漂わせた人影が待ち伏せしていた。


「お待ちしておりました、湊様……」


薄絹の、身体の線が透けて見えるような艶やかな寝間着を纏ったシャクヤだ。


狐の尻尾がゆらゆらと揺れ、妖艶な笑みを浮かべて俺に擦り寄ってくる。


「お近付きの印と、我が国を救ってくださるお礼に……今宵は私の身体の全てを使って、貴方様に最高の『奉仕』を——」


シャクヤが俺の胸に顔を埋めようとした、その瞬間。


「——あら。砂漠の狐さんが、ウチの旦那様に何の用かしら?」


「——むむっ! 新参者の分際で、愛人枠筆頭の私を差し置いて旦那様の夜伽を目論むとは、万死に値するぞ泥棒狐ェッ!」


廊下の曲がり角から、白銀の杖を構えて絶対零度の笑顔を浮かべるセレスティアと、拳からバチバチと火花を散らしているフレアがヌッと現れた。


「ひぃッ!?」


「湊は今夜、私と一緒にゆっくり休むの。……あなたには、特別に冷たい客室を用意してあげるわ」


「焼け焦げたくなければ、今すぐ自分の部屋に戻ることだな!」


二人の放つ星の神威と竜の殺気に当てられ、シャクヤは「し、失礼いたしましたぁッ!」と尻尾を巻いて猛スピードで逃げ去っていった。


「全く、油断も隙もないわね。湊も、あんな狐にデレデレしちゃ駄目よ?」


セレスティアがツンとそっぽを向きながら、俺の腕にギュッと抱きついてくる。


「私という極上の果実がいつでも食べ頃だというのに……旦那様は我慢強すぎるのだ!」


フレアも反対の腕に抱きつき、豊満な胸を押し当ててくる。


「……誰もデレデレしてないし、我慢もしてない」


俺は苦笑しながら、両腕の愛おしい重みを感じていた。


鉄機帝国の軍事力と技術、そしてアルシャードの莫大な資金と物流網。


星を護るための盤面は、着実に、そして強固に組み上がっている。


数年後に迫る並行世界の侵略軍。


彼らがどれほどの絶望を持って次元の壁を破ろうとも、俺が創り上げたこの無敵の国と、大切な家族たちのいる「日常」は、絶対に壊させはしない。


廊下の窓から見える星空は、嵐の前の静けさのように、ただ美しく瞬いていた。

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