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厄災の復活と万象国の胎動〜交易都市で決戦に備える




狂気に支配されていたルシフェリア神国を後にし、俺たちは大森林に広がる『万象工房』へと帰還した。


俺の脳裏には、第五の魔王ファントムとの盟約、そしてセレスティアが取り戻した「並行世界からの侵略」という衝撃的な真実が刻まれていた。


「……湊。これからの戦いは、今までとは規模が違うものになるわね」


助手席で街の灯りを見つめるセレスティアの横顔には、女神としての記憶を取り戻したゆえの、深い憂いと覚悟が宿っていた。


「ああ。だが、まずは地盤を固める。……俺たちの『戦力』も、このままじゃまだ足りない」


浮遊車を着陸させた俺は、出迎える仲間たちにリリアの治療の完遂を報告し、真っ先に工房の最深部にある、厳重に封印された宝物庫へと向かった。


そこには、俺がかつて『解体』し、素材として回収していた二つの巨大な『魔石核』が鎮座している。


第四の魔王【狂乱の獣王】。

第六の魔王【絶氷の海王】。


新たに獲得した【空葬武人くうそうぶじん】のスキルは万物を解体し、己の望む新たな形として再構築する能力がある。


「これから、俺たちの庭を守るための『最強の門番』を用意しよう」


◆ ◆ ◆


宝物庫の冷たい空気の中、俺は二つの魔石核を宙に浮かせた。


黄金の闘気が俺の肉体から溢れ出し、空間を黄金色に塗り替えていく。


俺は両手を差し出し、死した魔王たちの残滓に、俺自身の闘気と『理』を直接叩き込んだ。


「『森羅創成アーカーシャ・リビルド』——そして、魂の従属をここに刻む」


ドクンッ、と魔石核が鼓動を始めた。


彼らの存在の根源や性格を書き換えるような、人形遊びをするつもりはない。俺が施すのは、彼らの持っていたスキルの『昇華』と、俺に対する『絶対的な隷属の契約』だ。


カァァァァァァァァッ!!!


眩い光が収まった後、そこには二人の人影が立っていた。


一人は、獅子の鬣を思わせる金髪をなびかせた、筋骨隆々の巨漢。


もう一人は、透き通るような氷の肌と冷酷な美貌を持つ、人魚のような女王。


「……ガハハハハッ! なんだか知らねえが、生き返ったぜェ! おい猿ゥ、俺を殺した借りを今すぐ返してやる!!」


「……不愉快な熱ね。私が敗北したという事実ごと、今度こそ永遠に凍てつかせてあげる」


目覚めた直後、己が状況も完全に理解しないまま、二柱の魔王は俺に向かって剥き出しの殺意を放った。


獣王の巨大な拳が迫り、海王の絶対零度の刃が俺の首筋に迫る。


だが、俺は避けることも防御することもなかった。


「ガァァァッ!? な、なんだこれは……ッ! 身体が、動かねえ!?」


「くっ……私の魔力が、貴方の前で霧散していく……!?」


俺の身体に触れる直前、二柱の魔王は空中でピタリと硬直した。


そして、彼らの魂の奥底に刻み込まれた『絶対従属』の呪縛が発動し、目に見えない巨大な力で床に無理やり平伏させられたのだ。


「お前たちの自我も、性格もそのままだが、俺の魂の支配下にある以上、俺や俺の仲間に敵対する行動は物理的に不可能になるよう『魂』に刻んでおいた」


俺は床でギリギリと歯を食いしばる二柱を見下ろした。


「チィッ……! ふざけるな! 俺らを操り人形にする気かァッ!」


「勘違いするな。並行世界から星を喰らう軍勢がやってくる。お前たちを蘇らせたのは、その戦力として働くための『労働力』が必要だったからだ」


俺は指を鳴らし、彼らを抑えつけていた圧力を少しだけ緩めた。


「俺に絶対服従してもらう代わりに、お前たちのスキルを『真の領域』へと昇華させておいた」


「スキルの、昇華……?」


海王が憎々しげに俺を睨み上げながら呟く。


「獣王。お前の『超再生』は、ただ肉体を復元するだけだったが、俺のスキルで【不滅の闘獣】へと進化させた。受けたダメージの属性を記憶し、再生と同時にその攻撃に対する完全な『耐性』を獲得する仕様だ」


「海王、お前の『絶対零度』は、物理的な温度を下げるだけだったが、【絶氷の理】へと進化させた。部分的だが時間も『停止』させる真の冷気だ」


俺の言葉を聞き、二人は自身の体内に渦巻く、以前とは比較にならないほどの莫大な魔力と新たな理を実感して息を呑んだ。


「……ガハハッ! なんだこの力は! これなら前の俺よりも百倍は暴れられそうだぜ!」


「……屈辱だけれど、この力は本物ね。貴方という男の底知れなさは、魔王の常識すら超えている」


「当面は魂の従属による強制的な主従関係だが、いずれ純粋な信頼関係が築けることを期待しているよ」


俺がそう告げると、獣王は鼻を鳴らし、海王はフイッと顔を背けた。


まだまだ反抗的だが、戦力としてはこれ以上ないほどに頼もしい。


◆ ◆ ◆


翌日。


俺は万象工房の幹部、そして新たに従えた二柱の魔王を集めた。


その円卓の場に、パタパタと一匹の紫色のカラスが舞い込んできた。


『——やあ、無事にお帰りかな、新しき武人どの』

幻月の魔王ファントムの使い魔だ。


『三日後の夜、大陸の中央に位置する【始まりの荒野】で、我ら魔王と君を交えた円卓を開催する。……だが、今日使い魔を送ったのは、日時の伝達だけが理由ではない』


紫色のカラスが、妖しく目を細める。


『忠告だ、結城湊。君の創り上げたその拠点は、今や周辺諸国の目を引きすぎている。東のルシフェリアをたった数人で崩壊させた異常な戦闘力。西の覇権国家である【鉄機帝国】をはじめ、周辺の人間国家が君の拠点を「得体の知れない巨大な脅威」として極秘裏に探り始めているよ』


「……嗅ぎ回られている、か」


『並行世界の軍勢を迎え撃つには、この星の住人同士で無用な血を流している暇はない。他勢力を無闇に刺激せず、かつ並行世界との戦いに向けて利用するつもりなら……君のその拠点、正式に【国家】として名乗りを上げるべきだ。圧倒的な武力と経済力を持つ「国」として他国と対等な外交権を持てば、誰が敵で誰が味方か、盤面が明確になる』


それだけ言い残すと、紫色のカラスは煙を上げて消え去った。


「国家の樹立……建国、ですか」


リリアが驚いたように息を呑む。


「確かに、魔王の言うことにも一理ある」


俺は円卓に広げた大陸の地図を見下ろした。


これまではあくまで「工房」という自給自足の拠点に過ぎなかったが、並行世界の大軍勢を迎え撃つとなれば、この星の資源や人間の動向を把握する必要がある。


「ただ力でねじ伏せるのは簡単だが、それでは反乱の火種が残る。……なら、向こうから喜んで頭を下げてくるような『盤面』を創ってやる」


俺は幹部たちを見渡し、不敵な笑みを浮かべた。


「これより、この地を独立国家【万象国】として建国する。そして、人間の国々との『貿易』を正式に開始するぞ」


◆ ◆ ◆


国家としての外交権を確立し、他国の人間を呼び込むためには、彼らが喉から手が出るほど欲しがる「価値」を提示する必要がある。


俺は【空葬武人】の万物を書き換える力を、都市開発へと全振りした。


大森林の結界の一部を解放し、外界から安全にアクセスできる巨大な『魔導舗装路』を創成する。


そして、街の外郭に、他国の商人や使節団を受け入れるための広大な【交易特区】を建設したのだ。


俺が現代日本の知識を総動員して創り上げたその街並みは、異世界の人間の常識を完全に破壊するものだった。


「な、なんだこの街は……!? 夜だというのに、太陽のように明るい光が道を照らしているぞ!」


「見ろ! あの透明な箱の中! 氷の魔法使いがいなくても、肉や魚が全く腐らずに保存されている!」


他国から恐る恐るやってきた商人たちは、交易特区に足を踏み入れた瞬間、度肝を抜かれていた。


立ち並ぶのは、清潔な上下水道が完備された美しい石造りの宿屋。そこには俺が考案した「温泉」が備え付けられており、長旅の疲れを完全に癒すことができる。


さらに、彼らの胃袋を完全に掴むための『食の通り』。


オークボアの濃厚な出汁を使ったラーメン、冷たいアイスクリーム、完璧な温度管理で肉汁を閉じ込めた極厚のステーキ。


それらを一口食べた商人たちは、あまりの美味さに涙を流し、この街の虜となっていった。


「この『万象国』の特産品を我が国に持ち帰れば、莫大な富になる……!」


「武器も凄いぞ! この軽さで鋼を真っ二つにする剣など、鉄機帝国の最新兵器すら赤子扱いだ!」


噂は瞬く間に大陸中を駆け巡り、各国の商人やスパイ、外交使節団が続々と万象国を訪れるようになった。


俺の狙いはまさにそれだ。


街の運営と交渉はガングたち商人組に任せ、リリアたち情報部隊が、訪れる人間たちの動向を裏で監視する。


誰が純粋に交易を望み、誰がこの街を侵略しようと企んでいるか。並行世界の脅威に対抗するための「人間の勢力図」が、手を取るように見えてきたのだ。


「湊、すごいわ。力で従わせるんじゃなくて、みんなが自然とこの街の魅力に惹きつけられている。これも湊の『労働』の成果ね」


本城のバルコニーから活気に満ちた交易特区を見下ろし、セレスティアが誇らしげに微笑む。


「ああ。国を豊かにして情報を集める。それが一番の防衛策だからな。……だが、どれだけ外交を尽くそうと、最後は並行世界の侵略軍との直接的な武力衝突が待っている」


俺はバルコニーから身を翻し、最下層にある巨大な星鋼の鍛冶場へと向かった。


国としての形は整った。次は、この国を守る絶対的な『武』の用意だ。


◆ ◆ ◆


灼熱の鍛冶場。


目を閉じ、己の魂の奥底で燃え盛る黄金の闘気を練り上げる。


【空葬武人】へと至ったことで、俺の肉体そのものが万物を解体し、理を書き換える究極のシステムとなった。


俺の闘気と意思を、直接、物質の概念に叩き込み、新たな法則を持つ武具として『受肉』させる。


「『森羅創成』……理を刻め」


カァァァァァァァァッ!!!


数日間に及ぶ不眠不休の『神の労働』の末、俺は万象国の幹部たちを無敵の軍団へと変貌させる、神域の武装群を完成させた。


リリアには、あらゆる魔法的防御を透過して空間そのものを『切断』する双剣を。


ゴルダンには、どんな質量攻撃も『反射』し、受けた運動エネルギーを熱に変換する絶対の剛盾を。


フレアには、炎の温度上限を撤廃し、星すらも焦がす『熱量』を際限なく増幅させる竜の籠手を。


そして、セレスティアには、

彼女が星の防壁を維持するために失った魔力を無尽蔵に補給し、次元の干渉すらも防ぐ『天星の神杖』を。


「……できたぞ。これで、並行世界の魔導兵器だろうと容易く解体できる」


俺が完成した武装群を携えて地上へ戻ると、すでに魔王の円卓へ向かうための『魔導浮遊車』の準備が整っていた。


「待っていたわ、湊」


美しく煌めく新たな神杖を手にしたセレスティアが、決意に満ちた青い瞳で俺を見つめる。


フレアも新たな竜の籠手をはめ、不敵に牙を見せて笑っている。そしてその後方には、護衛として付き従う獣王ボルガと海王グラキエスの姿があった。


「行くぞ。俺たちの愛する日常を守るための、大一番だ」


俺たちは浮遊車に乗り込み、魔王たちが集う大陸の中央——【始まりの荒野】へと向けて、夜空を真っ直ぐに駆け抜けていった。


星の存亡を懸けた次元を超えた決戦の幕開けが、すぐそこまで迫っていた。

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