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星蝕の円卓と鉄機帝国の急襲〜魔王たちに絶対的な武力を示し、傲慢な人間たちの最新鋭部隊を『空葬』にする〜



果てしなく広がる夜空を、漆黒の流線型をした『魔導浮遊車』が音もなく滑空していく。


目指すは、大陸の中央に位置する不毛の大地——【始まりの荒野】。かつて神話の時代に、この星で初めて次元の亀裂が生じたとされる禁忌の場所であり、魔王たちが会合を開くという円卓の地だ。


「……すごい魔力。荒野に近づくにつれて、空気がビリビリと震えているのが分かるわ」


助手席で、セレスティアが新調した『天星の神杖』を両手で握りしめながら小さく息を吐いた。

彼女の青い瞳には、星の理を守護していた先祖たちの記憶が宿っている。この荒野に刻まれた古い傷跡が、彼女の魂を微かに共鳴させているのだろう。


「大丈夫か、セレスティア。無理はするなよ」


俺が運転席から声をかけると、彼女はふわりと微笑んで俺の肩に頭を預けてきた。


「平気よ。湊が創ってくれたこの杖のおかげで、嫌な感覚も弾き返せるし、何より湊が隣にいてくれるもの」


その甘い空気を断ち切るように、後部座席から不満げな声が上がる。


「むむっ、またしても正妻の余裕を見せつけて……! 旦那様、私だってこの『爆炎の籠手』で、いつでも敵を焼き尽くす準備はできているからな!」


フレアが両手にはめた真紅の籠手を打ち合わせ、バチバチと火花を散らす。


「おいトカゲ女、車の中で火を出すんじゃねえ。我がマスターの御車が焦げたらどう落とし前をつける気だァ?」


「……暑苦しい。少し黙りなさい、獣。貴方のその粗暴な声を聞いているだけで、私の氷の心が溶けてしまいそうになるわ」


さらにその後方——浮遊車の牽引シートでは、俺の魂の支配下にある二柱の魔王、第四の魔王【狂乱の獣王】ボルガと、第六の魔王【絶氷の海王】グラキエスが、さっそく殺伐とした口喧嘩を始めていた。


自我や性格は生前のままだが、俺の『理』によって魂の従属を刻まれた彼らは、今や万象国の最強の門番として完全に機能している。 


「お前ら、着く前から暴れるなよ。今日はあくまで『話し合い』の場だ」


俺がバックミラー越しに軽く睨みを利かせると、二柱の魔王はビクッと肩を揺らし、「「……ハッ。申し訳ありません、我が主」」と即座に頭を下げた。魂に刻まれた絶対服従の呪縛は、彼らの本能すらも上書きしている。 


やがて、荒涼とした大地の中央に、巨大なクレーター群が見えてきた。


その中心に、星の光を吸収して黒く輝く、巨大な石造りの『円卓』が鎮座している。


すでにそこには、異常なまでのプレッシャーを放つ三つの影が集っていた。


俺は浮遊車を静かに着陸させ、セレスティアたちを伴って、その円卓へと歩みを進めた。  


◆ ◆ ◆


「——よく来てくれたね、結城湊。そして、新たなる星の女神よ」


円卓の上座から立ち上がったのは、紫色の魔力を揺らめかせる第五の魔王、ファントムだった。


彼の隣には、山のように巨大な体躯を持つ漆黒の竜人——第二の魔王【暴食の竜王】ウロボロス。


そしてもう一人、全身をボロボロのローブで包み、死の瘴気を放つ骸骨の魔人——第三の魔王【不死の死霊王】ノスフェラトゥの姿があった。


「第一の魔王たる【万物の祖】は、すでに肉体を捨てて星の地脈と同化している。よって、現在稼働可能な魔王は、私を含めたこの三柱となる」

ファントムが優雅に手を広げて説明する。


「……おい、ファントム。冗談だろう?」


突如、地響きのような低い声が響いた。暴食の竜王ウロボロスだ。


彼は俺の後ろに控えているフレア、そしてボルガとグラキエスを交互に睨みつけ、巨大な牙を剥き出しにした。


「竜族の娘が人間のオスに傅いているだけでも反吐が出るが……なぜ、死んだはずの獣王と海王がそこにいる? しかも、その魂に人間の『隷属印』を刻まれているだと!? 我ら魔王の誇りを泥で汚す気か、貴様ァッ!!」


竜王ウロボロスの全身から、周囲の空気を喰らい尽くすような『暴食』の覇気が放たれ、凄まじい暴風となって俺たちに襲いかかった。


「旦那様に無礼だぞ、爬虫類の親玉がァッ!!」

フレアが激昂して前に出ようとしたが、それよりも早く、俺の背後にいたボルガとグラキエスが一歩前に出た。


『——我が主に吠えるな、トカゲの分際で』

『——黙りなさい。貴方のその不純な息、凍てつかせてあげる』 


ドゴォォォォォォンッ!!!


ボルガから放たれた黄金の闘気と、グラキエスから放たれた絶対停止の冷気が、竜王の覇気を正面から粉砕し、逆に竜王の巨体を数歩後ずさらせた。


「な、なんだと……!? 貴様ら、以前よりも魔力の底が知れなくなっている……!」


竜王ウロボロスが驚愕に目を見開く。


かつては互角だったはずの同格の魔王たちが、人間の配下となったことで『真の領域』へと昇華し、己を凌駕するほどの力を手に入れている事実に、他の魔王たちも息を呑んだ。


「俺は、お前たちと無駄な殺し合いをしに来たんじゃない。並行世界の脅威とやらの情報を共有しに来たんだ」


俺は【空葬武人】としての絶対的なことわりを、わずかに周囲へと解放した。


ただそれだけで、荒野の空間そのものがミシミシと悲鳴を上げ、竜王ウロボロスや死霊王ノスフェラトゥの膝を強制的に地につかせた。


「……っ!? この、規格外の重圧は……ッ」

「ククッ……だから言っただろう、ウロボロス。


彼を敵に回せば、我々など数秒で『消去』されるとね」


ファントムが額に冷汗を浮かべながら苦笑する。


俺は静かに円卓の空席に腰を下ろし、隣にセレスティアを座らせた。


俺の圧倒的な武威と、配下となった魔王たちの力を見せつけたことで、彼らに「誰がこの場の主導権を握っているか」を完全に理解させたのだ。


「……認めよう、新しき武人よ。貴様のその力、我ら魔王の玉座を凌ぐに足る」


死霊王ノスフェラトゥが、骨の擦れるような声で降伏の意を示した。竜王ウロボロスも、忌々しそうに舌打ちをしながらも席につく。


「よし。これで話が早くなったな。……ファントム、並行世界の連中がいつ攻めてくるのか、正確な時期は分かっているのか?」


俺の問いに、ファントムは円卓の中央に星と次元の立体映像を投影した。


「預言の魔王が視た未来によれば、次元の防壁が完全に崩壊し、彼らの大軍勢がこの星の空を埋め尽くすまでには、まだ【数年の猶予】がある。だが、問題はそこに行き着くまでの過程だ」


「過程?」


「並行世界の軍勢を迎え撃つには、この星の全生命が連携し、資源と魔力を集中させなければならない。しかし、人間の国々は自分たちの欲望に目が眩み、並行世界の脅威など信じようとしない。それどころか……彼らは我々魔王が目覚めたことを『好機』と捉えている」


ファントムが地図の西側——【鉄機帝国】の領土を指差した。


「鉄機帝国は、王国の結界が消滅した今、魔法を無効化する『対魔導科学』を用いて大陸全土を武力統一しようと企んでいる。彼らは並行世界の存在を知る由もないが、この星の内部で無益な殺し合いを始めれば、いざ次元の壁が破られた時に我々は為す術なく滅びるだろう」


「なるほどな。星の外からの侵略に備える前に、まずは内輪揉めを鎮圧し、この星の資源と戦力を一つにまとめ上げなきゃならないってわけか」

俺は腕を組んだ。 


「その通りだ。結城湊、君の【万象国】はすでに凄まじい経済力と技術力で他国から注目を集めている。我々魔王は影から君を支援する。君には、周辺諸国との貿易、あるいは戦争を通じて、この星の人間たちを束ね上げる『覇王』となってもらいたい」


ファントムの提案に、俺は少し考える素振りを見せた。


確かに、万象工房の平和な日常を守るためには、周囲の国々が安定し、かつ俺たちの脅威にならない状況を作り出す必要がある。並行世界の軍勢とやらが来る前に、人間の国々との小競り合いを終わらせ、盤石な体制を築くのは理にかなっている。


「……いいだろう。周辺の国々は、俺が交渉——あるいは『物理的な教育』で分からせてやる」


俺がそう宣言した、その瞬間だった。


ゴォォォォォォォォォッ!!!


夜空の雲を引き裂き、突如として無数の巨大な影が荒野の上空に現れた。


それは並行世界の軍勢ではない。


鋼鉄で覆われた無骨な飛行船団。船体には、歯車と剣を象った【鉄機帝国】の紋章が刻まれている。


「なっ……人間の軍隊だと!? なぜ我らの会合の場所がバレたのだ!」


死霊王ノスフェラトゥが立ち上がり、瘴気を放つ。


「ククッ……どうやら、彼らの『対魔導レーダー』とやらを甘く見すぎていたようだな。魔王が集まる異常な魔力溜まりを感知して、一網打尽にしようと強襲をかけてきたか」


ファントムが冷たく空を見上げる。

上空の飛行船団から、スピーカーを通して拡声された傲慢な声が響き渡った。


『——我らは鉄機帝国、魔神討伐部隊! 地上に這いつくばる魔王ども、並びに万象国を名乗る野蛮な賊どもよ! 貴様らの時代は終わった! 我が帝国の誇る【対魔導殲滅兵装】の前に、塵となって消え去るがいい!!』


声と共に、飛行船のハッチが開き、数百体の『鋼鉄の機甲兵』が荒野に向かって投下された。


彼らの装甲は特殊な鉱石でコーティングされており、周囲の魔力を強制的に散らして無効化する性質を持っている。


「チィッ! 魔力を打ち消す石だと!? 小賢しい人間どもめ!」


竜王ウロボロスが巨大な顎を開いて極大のブレスを放つが、機甲兵たちは陣形を組み、対魔導の盾を連結させてその炎を完全に霧散させてしまった。


『ハハハッ! 無駄だ! どれだけ強大な魔法だろうと、我らの科学の前では無力!』 


「……随分と威勢がいいな」


俺は円卓から立ち上がり、上空の艦隊を見上げた。


「魔王の魔法が通じない程度で、世界の頂点にでも立ったつもりらしい」


俺は、背後に控える配下たちに視線を向けた。

「セレスティア、フレア、ボルガ、グラキエス。俺が創った神域の武装の試運転だ。……対魔導装甲ごと、奴らの傲慢さを解体してこい」 


「「「「——御意!!」」」」


俺の号令と共に、四人の力が爆発した。

先陣を切ったのは、フレアだ。


彼女が両手にはめた『爆炎の籠手』が、星すらも焦がす異常な熱量を増幅させる。魔力を打ち消す装甲だろうが関係ない。物理的な「圧倒的熱量」が、大気そのものを発火させる。


「魔力が消えるなら、熱で直接溶かすまでだァッ!!」


フレアが放った火柱は、機甲兵たちの盾を紙のように容易くドロドロに溶かし、一瞬で数十体の兵器をスクラップに変えた。


『ば、馬鹿な! 融点を超えているぞ!?』


機甲兵たちが陣形を立て直そうとするが、そこにグラキエスの『凍華の宝冠』から放たれた絶対停止の冷気が押し寄せる。


「……永遠の静寂に沈みなさい」


冷気が触れた瞬間、機甲兵たちの駆動部のオイルや歯車が物理的に収縮・凍結し、空中でピタリと静止した。対魔導の石すらも、概念的な停止の理の前には無力。


そこに、ボルガの『破神の金剛棒』が振り下ろされる。


「ガァァァァッ! 脆い、脆すぎるぜ人間ッ!!」

黄金の闘気を纏った純粋な物理の暴力が、凍りついた数百体の機甲兵を大地ごと粉砕し、巨大なクレーターを穿つ。


「とどめは、私が刺すわ!」


セレスティアが『天星の神杖』を天高く掲げた。

星の根源から引き出された無尽蔵のエネルギーが、夜空に無数の『光の流星』を現出させる。それは魔法という枠組みを超えた、星の質量そのもの。


「星の瞬きよ……彼らの理を穿ちなさい!」


降り注ぐ光の豪雨が、地上に残った兵士たちと、上空に浮かんでいた鉄機帝国の飛行艦隊を正確に貫き、大爆発を連鎖させていく。


圧倒的、かつ一方的な蹂躙。


最新鋭の科学を過信した帝国の軍勢は、俺の【空葬武人】の理を刻まれた神域の武装の前では、ただのブリキの玩具でしかなかった。


「……な、なんだあのバケモノ染みた軍団は。あれが人間の……いや、万象国の戦力だというのか」


死霊王ノスフェラトゥが、顎の骨を震わせて呟く。


ファントムも、竜王ウロボロスも、ただ呆然と、瞬く間に炎上する鉄屑の山へと変わった荒野を見つめていた。


「よし。これで少しは静かになったな」 


俺は満足げに頷き、燃え落ちる帝国の旗艦を冷たい目で見据えた。


「鉄機帝国……。わざわざ向こうから喧嘩を売ってきてくれたんだ。今後の貿易と外交の『良い教材』になってもらうとするか」


並行世界の脅威が到来する前に、まずはこの星の人間たちを束ね上げる。


圧倒的な武力と、魅惑の経済力を持った【万象国】の主として。


周辺諸国との謀略、戦争、そして国交。


俺たちの騒がしくも容赦のない「国取りゲーム」が、荒野の夜風と共に幕を開けた。

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