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冷徹なる反逆と幻月の狂気〜神国の軍勢を無慈悲に『解体』し、人類最強の十座を塵に還す




見習い神官エルナの案内で、俺たちは狂乱に包まれた大通りを抜け、ルシフェリア神国の中枢たる巨大な白亜の神殿へと辿り着いた。


だが、その巨大な門の前には、異様な熱気と殺気を放つ軍勢が壁のように立ち塞がっていた。


「……ざっと三千人といったところか」


俺は外套のフードの下から、静かに視線を向けた。


神殿を守護しているのは、全身を白銀の鎧で固めたルシフェリアの聖騎士たち。彼らの瞳は血走り、口元には不気味な笑みが張り付いている。


「ヒッ……! あ、あの人たちは神殿の近衛兵……普段は優しくて、誇り高い騎士様たちだったのに……っ」


エルナが恐怖と悲しみで顔を覆い、ガタガタと震える。


俺は星鋼オリハルコンの剣の柄に手を当てながら、思考を巡らせていた。


(魔王の幻惑によって精神を操られているだけなら、俺の『分解』で彼らの脳内に絡みついている魔力回路だけを精密に断ち切れば、元に戻せるはずだ。……無闇に命を奪う必要はない)


「フレア、セレスティア。俺が彼らを無力化する。お前たちはエルナを守ってくれ」


俺がそう指示を出そうとした、その時だった。


「クハハハハッ! 来たか、逃げ出した子羊と、不純な熱を持つ異端者ども!」


三千の騎士たちを真っ二つに割るように道が開き、一人の大柄な男が進み出てきた。


身の丈二メートルを超える巨体に、禍々しい紫色のオーラを纏った大剣を担いでいる。


彼から放たれる魔力の圧は、ただの騎士とは次元が違った。


「我は、この神国が誇る人類最高峰の武力……『天位十傑てんいじゅっけつ』が第六位、【断空だんくう】のザイード!! 新たなる神、幻月の魔王ファントム様より極上の快楽を賜りし超人であるッ!」


幻月の魔王。


「ザイード様……どうして! 貴方は国を守る誇り高き十傑だったはずです! なぜ悪魔の言いなりに……目を覚ましてください!」


エルナが涙ながらに叫ぶ。


しかし、ザイードは醜悪な笑みを浮かべ、舌なめずりをした。


「言いなり? 操られている? クククッ、勘違いするなよ小娘! 我々は誰かに操られているわけではない! 幻月様は、我々が心の奥底に隠していた『真の願い』を解放してくださったのだ!」


「真の、願い……?」


「そうだ! 我々はずっと、女神の教えという窮屈な鎖に縛られていた! 弱者を慈しみ、欲を捨てろだと? ふざけるな! 強者が弱者を蹂躙し、奪い、犯し、殺戮の快楽に酔いしれることこそ、生物の真理ではないか!!」


ザイードの狂気に満ちた叫びに呼応するように、背後の三千の騎士たちが「オオオォォォッ!!」と歓喜の雄叫びを上げた。


彼らの目に宿っているのは、操られた虚無ではない。純粋な悪意と、自ら進んで狂気に身を委ねた者特有の醜い熱狂だった。


「幻月様は我々を肯定してくださった! だからこそ、我々は喜んでこの国を捧げたのだ! さあ小娘、お前もあの偉大なる神の『肉の器(依代)』となる聖女への、極上の生贄として切り刻んでやろう!」


その言葉を聞いた瞬間。俺の中で、彼らを「救うべき被害者」として見ていた認識が、冷たく凍りついた。


こいつらは、操られているんじゃない。自らの意思で、弱者を虐げる快楽のために悪魔に魂を売った『外道』だ。


「……救う価値のないゴミどもが」


俺が低く呟き、前に出ようとした瞬間。


ザイードが、俺の死角から異常な速度で動いた。人類最強と謳われる超人の脚力。


「まずは、その目障りな小娘からだァッ!!」


ザイードの大剣が、紫色の真空のオーラを放ち、俺を飛び越えて後方にいるエルナへと一直線に放たれた。


その速度と威力は、空間そのものを断ち割る絶技。


「危ないッ!!」


獣人の驚異的な反射神経を持つリリアが、咄嗟にエルナを突き飛ばし、自らの身体を盾にして前に出た。


ズバァァァァァァァァァァンッ!!!!


「あ……」

嫌な音が、広場に響いた。


リリアの構えていた星鋼の双剣ごと、彼女の細い身体が袈裟懸けに深く切り裂かれたのだ。


「が、はっ……!!」


鮮血が噴き出し、リリアの身体が宙を舞って石畳に叩きつけられる。


「リリアァァァァッ!!」

セレスティアが悲鳴を上げ、即座に彼女の元へ駆け寄る。


「しっかりして、リリア! 今すぐ治癒を……っ!」


白銀の杖から放たれる光がリリアの傷を包むが、ザイードの放った魔王の呪いが傷口を侵食し、再生を激しく阻害している。血だまりがみるみるうちに広がっていく。


「み、湊様……申し訳、ありま……せん……」


リリアの焦点の合わない瞳から、涙がこぼれ落ちた。


俺の視界が、ゆっくりと暗転していく感覚があった。


ずっと、どこかで線を引いていた。


人間を殺せば、俺自身が彼らと同じ「バケモノ」に堕ちてしまうのではないかという、前世から引きずっていた甘い倫理観。


だが、その甘さのせいで。俺の決断がコンマ一秒遅れたせいで、俺の家族とも呼べる大切な仲間が、冷たい石畳の上で血を流している。


プツリ、と。


俺の魂の奥底で、何かが決定的に『壊れる』音がした。


(——そうか。世界を最適化する【万象の造物主】に、甘いストッパーなど必要ないんだ)


害虫を駆除するのに、いちいち命の重さなど量らない。


俺の庭を荒らし、俺の大切なものを傷つける存在は、それが人間であろうと魔王であろうと、等しく『ただの処理対象ゴミ』だ。


俺はゆっくりと顔を上げた。


その双眸には、もはや怒りすら存在しない。ただ絶対零度よりも冷たい、虚無のような理性が宿っていた。


「クハハハハ! どうだ、我が断空の一撃は! 次はその白髪の女も——」


ザイードが嘲笑いながら剣を振り上げた、その時。


「——黙れよ、廃棄物」


俺の口から零れ落ちた、絶対的な支配の言霊。 


俺の全身から放たれたのは、これまでとは比較にならないほど高密度で、世界そのもののルールを書き換える異常な魔力だった。


不殺のストッパーが完全に外れたことで、俺の【万象の造物主】としての権能が、新たな次元へと進化したのだ。


俺は右手を上げ、押し寄せる三千の狂騎士たちに向けて、ただ無造作に掌を向けた。


「『解体』——【領域指定・完全廃棄エリア・スクラップ】」


パァァァァァァァァァァァンッ!!!!


俺の掌から放たれた不可視の波動が、扇状に広がり、突撃してくる三千の狂軍勢を丸ごと飲み込んだ。


次の瞬間。


「……え?」


後方で見ていたザイードが、間抜けな声を漏らした。


突撃していた三千の騎士たちの足が、ピタリと止まる。


そして、彼らが身につけていた白銀の鎧が、握りしめていた剣が、そして……彼らの肉体そのものが。


音もなく、一瞬にして赤黒い血の霧とサラサラの砂へと分解され、風に乗って吹き飛んでいったのだ。


悲鳴すら上がる暇はなかった。


痛みを感じる神経の伝達速度すらも置き去りにし、三千という人間の形をした「物質」が、世界から完全に消去された。


後に残されたのは、血の匂いが混じった赤い砂埃と、異常なまでの静寂だけ。


「…………は?」


ザイードは、自分の目の前で起きた光景が理解できず、ぽっかりと空いた無人の広場を呆然と見渡した。


「軍勢が……俺の部下たちが……消えた……? 幻術か……!? いや、幻月様の加護を受けたこの俺の目に、幻など通じるはずが……ッ!」


「幻じゃない。ただの『一括処分』だ」


俺はザイードの目の前まで、歩いて距離を詰めた。


靴底が、騎士たちだった赤い砂を踏みしめる。俺の心には、微塵の罪悪感も湧かない。


「な、貴様……貴様ぁぁぁっ! 何をした! 何の真似をしたァァァッ!!」


ついに恐怖を理解したザイードが、狂乱の叫びを上げて巨大な大剣を振り下ろしてくる。


だが、その速度は今の俺にとっては、止まっているも同然だった。


俺は避けることすらしない。


ただ、下から上へと、星鋼の剣を一閃した。

ガギィィィィンッ!!!


「ば、馬鹿なッ!?」


ザイードの紫色のオーラを纏った大剣が、俺の剣に触れた瞬間に半ばから粉々に砕け散った。


それだけではない。俺の剣閃から放たれた『分解』の波動が、ザイードの分厚い鎧を塵に変え、彼自身の両腕を肩から先まで完全に「消滅」させた。


「ギャアアアアアアアッッ!?!?!?」


両腕を失ったザイードが、大量の血を噴き出しながら無様に地面に転がった。


「人類最強の十傑、か。魔王の力に縋らなければ剣も振れないような奴が、最強を名乗るな」


俺は冷徹に見下ろし、血だまりの中でもがく彼を足で踏みつけた。


「ひぃぃぃっ! や、やめろ、待て! 俺は天位十傑だぞ! 国宝級の人間なんだ! 殺せば世界が……ッ!」


「世界がなんだ? お前たちのようなゴミが生きている世界なら、一度全部解体して創り直してやる」


俺の絶対的な殺意と、真の強者の冷酷さに触れ、ザイードはついに狂気の幻惑から覚め、子供のように泣き叫び始めた。


「た、たすけてくれぇっ! 幻月様! 幻月様ァァァッ!!」


「お前の神は、お前を助けには来ないよ。……そのまま塵になれ」


俺は剣の切っ先をザイードの胸元に突き立て、無慈悲に『分解』の魔力を流し込んだ。


「ア、アガァァァァァァァッ……!!」


ザイードの肉体が足先から徐々に光の粒子へと変わり、完全に空中に霧散するまで、ほんの数秒のことだった。


大国の神殿前。三千の軍勢と人類最強の一角は、文字通り「跡形もなく」俺の手によって解体された。


俺はすぐさま踵を返し、セレスティアの元へと向かった。


「湊……っ」


「セレスティア、俺に代われ。リリアの傷にこびりついている魔王の呪いを、俺が『分解』する。その後に全力で治癒をかけてくれ」


俺がリリアの傷口に手をかざし、再生を阻害している紫色の魔力回路だけを精密に解体する。


呪いが消え去った直後、セレスティアの星の魔力がリリアの傷を劇的な速度で塞いでいった。


「ん……ぅ……」


リリアの呼吸が落ち着き、顔に血の気が戻る。峠は越えた。


「よかった……本当によかった……っ」


セレスティアが安堵の涙を流して崩れ落ちる。

俺はホッと息を吐き出し、静かに立ち上がった。


俺の背後で、フレアが畏怖と驚愕の入り混じった目で俺を見つめている。


「だ、旦那様……。貴様、たった一撃で三千の人間を……。竜王国の歴史上でも、これほど無慈悲で圧倒的な蹂躙は見たことがない……ッ」


だが、セレスティアは違った。


彼女はリリアをフレアに預けると、迷うことなく俺の元へ歩み寄り、血の匂いが残る俺の身体を正面から強く抱きしめてきた。


「セレスティア……? 怖いか。俺が、一瞬で人間を数千人も殺したことが」


俺が静かに問うと、彼女は俺の胸に顔を押し当てたまま、力強く首を横に振った。


「ううん。全然怖くないわ。……だって、湊は私たちを守るために、あの人たちの命を背負う覚悟を決めてくれたんでしょう?」


彼女は顔を上げ、俺の頬を優しく両手で包み込んだ。


その青い瞳には、絶対的な肯定と、深い愛情だけが満ちている。


「優しいだけの湊も好きよ。でも、私のために、仲間のために冷徹な決断を下せる今の湊は……もっとかっこいいわ。私は、あなたの全てを愛しているもの」


「……お前には、本当に敵わないな」


俺の心に張り詰めていた冷たい氷が、彼女の温もりによってふわりと溶けていく。


不殺の甘さを捨て去り、真の冷徹さと圧倒的な暴力を手に入れた造物主。


その足取りは、かつてないほどに力強く、そして容赦のないものへと進化していた。


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