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虚飾の錬金術師の末路〜黄金の宮殿を『泥』へと還す



吹き荒れる猛吹雪が、視界を真っ白に染め上げる北の雪山。


その中腹にぽっかりと口を開けた巨大な鉱山に向かって、俺とドワーフの長・ゴルダンは静かに歩を進めていた。


「湊様、申し訳ありませぬ。わしのために、このような過酷な極寒の地にまで足を運ばせてしまって……」


「気にするな。それに、これくらい大したことない」


俺が着ている漆黒の竜鱗コートは、俺の『創成』によって周囲の冷気を遮断し、常に体温を最適に保つ術理が組み込まれている。ゴルダンにも同じ素材の防寒具を与えているため、この猛吹雪の中でも俺たちは全く寒さを感じていなかった。


やがて、鉱山の入り口が見えてきた。


そこには、分厚い毛皮を着込んだ王国兵たちが、吹雪の中で震えながら見張りに立っていた。


そして彼らの足元では、薄着のまま鎖に繋がれた数名のドワーフが、重い鉱石の入った籠を背負わされ、雪の中に倒れ伏している。


「立て、このゴミども! 緑川様が魔石の納品を急がせているんだ! 死ぬなら掘り出してから死ね!」


王国兵が、倒れたドワーフの背中に容赦なく鞭を振り下ろす。


「や、やめてくだされ……もう三日も水すら飲んでおらんのです。これ以上は……っ」


「知るか! お前らの命より魔石の方が価値があるんだよ!」


再び鞭が振り上げられた、その瞬間。


「『分解』」


俺が小さく呟くと同時に、王国兵の握っていた鞭がパァンッと音を立てて砂に変わり、吹雪の中に消え去った。


「……あ?」


間抜けな声を漏らす兵士たちの前に、俺は悠然と姿を現した。


「な、なんだ貴様らは!? ここは天才錬金術師・緑川様の鉱山だぞ!」


「賊だ! 殺せ!!」


五人の兵士が槍を構えて襲いかかってくる。

俺は立ち止まったまま、彼らの足元の『雪と岩盤』に視線を向けた。


「お前らが落ちろ」

ズボォォォォォッ!!


兵士たちの足元の地面が一瞬にして『泥の沼』へと再構築され、彼らは悲鳴を上げる間もなく、首まで泥に飲み込まれて完全に身動きが取れなくなった。


「ひぃぃっ!? な、なんだこれ、体が抜けないっ!」


「凍る、泥が凍っていく! 助けてくれぇぇっ!!」


急速に凍結し始めた泥の沼で泣き叫ぶ兵士たちを放置し、俺は倒れ伏しているドワーフたちへ歩み寄った。


「おお……みんな、無事か!!」


ゴルダンが駆け寄り、同胞たちの体を抱き起こす。


「ゴ、ゴルダン長……? まさか、助けに来てくださったのですか……?」


「ああ、そうだ! 我らが救世主、湊様と共にな!」


俺はドワーフたちを縛る鉄の鎖に触れ、次々と『分解』して塵に還していく。


さらに、万象工房から持参した『純度百パーセントの霊薬』を彼らに振りかけた。淡い光が彼らの体を包み込み、鞭の傷や凍傷、極度の飢餓状態が瞬く間に全快していく。


「おおお……! 痛みが、嘘のように消えたぞ!」

「力が湧いてくる……! なんという奇跡だ……!」


「坑道の奥にいる仲間たちも、全員この霊薬で治してやってくれ。ゴルダン、誘導は頼む」


「ははっ! 湊様、この御恩は生涯忘れませんぞ!」


ゴルダンたちが坑道へと駆け出していくのを見送り、俺は雪山の頂へと視線を向けた。


猛吹雪の向こう側に、周囲の景色とは完全に浮いた、悪趣味にギラギラと輝く『黄金の宮殿』がそびえ立っている。


「さて、あいつがどれだけの『天才』か、見極めてやるとするか」


俺は雪を蹴り、黄金の宮殿へと真っ直ぐに歩き出した。


◆ ◆ ◆


「み、緑川様! 賊です! 正体不明の男が、たった一人で正面から宮殿に向かってきています!」


黄金の宮殿の最上階。


監視の兵士からの報告に、緑川は苛立たしげに舌打ちをした。


「たった一人だと? 馬鹿馬鹿しい。俺が直々に創り上げた『魔導ゴーレム』を出せ! あんなゴミ、一瞬でミンチにしてやれ!」


緑川の命令により、宮殿の門が開かれ、全長五メートルを超える巨大な岩の巨人が三体、ズシンズシンと地響きを立てて現れた。


それらは、ドワーフたちが掘り出した最高品質の魔石を核にし、緑川が王国の魔法陣から搾取した魔力を注ぎ込んで作られた、彼の『錬金術』の最高傑作だった。


『ガガガガ……侵入者、排除スル』


三体のゴーレムが、俺を取り囲むように巨大な岩の拳を振り上げる。


「これが天才錬金術師の最高傑作ね……笑わせるな」


俺は足を止めることなく、ただ右手を振るった。


「『分解』」

パァァァァァァァンッ!!!


ゴーレムの巨大な拳が俺に触れる直前。


三体の巨躯を構成していた岩の結合が完全に解き放たれ、ただの小石と砂埃の山となって崩れ落ちた。


残されたのは、地面に転がる魔石の核だけ。

「な……!?」


宮殿の窓からその光景を見下ろしていた緑川が、悲鳴のような声を上げた。


「お、俺の最高傑作が……一瞬で砂になった!? 馬鹿な、どんな魔法を使ったんだ!?」


混乱する緑川の視界の中で、俺は宮殿の黄金の扉の前に立ち、それを軽く蹴り飛ばした。

ドゴォォォォンッ!!


純金でコーティングされた分厚い扉が、飴細工のようにへし折れて吹き飛ぶ。


俺は静かに、宮殿の大広間へと足を踏み入れた。


「ひ、ひぃぃぃっ!?」


腰を抜かし、黄金の玉座から転げ落ちる緑川。


周囲にいた傭兵たちも、俺の圧倒的な魔力のプレッシャーに当てられ、武器を捨ててクモの子を散らすように逃げ出していった。


「だ、誰だお前は! 俺を誰だと思ってる、俺は天才錬金術師の緑川だぞ! 金ならいくらでもくれてやる、だから命だけは——!」


「自分の力で稼いだわけでもない金で、命が買えると思ってるのか?」


俺はフードを深く被ったまま、冷徹な声を響かせた。


その声に、緑川の体がビクッと震える。


「お前……その声……。まさか、お前……」


俺がゆっくりとフードを下ろすと、緑川の顔面から一気に血の気が引いた。


「ゆ、結城……!? なんで、なんでお前が生きている! 堂島君に突き落とされたはずじゃ……っ!」


「地獄の底から帰ってきたんだよ。お前らが他人の血と汗で築いたハリボテを、全てぶっ壊すためにな」


俺が歩み寄ると、緑川はパニックに陥り、狂ったように叫んだ。


「く、来るな! 俺は天才だ! お前みたいな無能なハズレ職が、俺に勝てるわけがないだろうがぁっ!!」


緑川は懐から数十個の魔石を取り出し、周囲にばら撒いた。


王国の魔力を無理やり詰め込んだだけの、粗悪な爆弾だ。


「消し飛べ、結城ィィィッ!!」


魔石が眩い光を放ち、爆発——するはずだった。

だが、光はすぐにシュゥゥ……と音を立てて消え失せ、魔石はただの石ころになって転がった。


「……え?」


「なんで爆発しないのか、教えてやろうか?」


俺は緑川の首根っこを掴み、軽々と持ち上げた。


「お前の『錬金術』は、ただ星の魔力を石に詰めているだけの紛い物だ。その魔力の供給元である王国の魔法陣への接続を、さっき俺が切断した」


「な……っ!? ほ、星の魔力を切断!? そんなこと、人間にできるはずが——」


「できるさ。お前が他人の成果を盗んでふんぞり返っている間に、俺は奈落の底で泥水をすすりながら、全てを創り変える力を手に入れたんだからな」


俺は緑川の顔を近くに引き寄せ、冷酷に告げた。


「高校の時から変わらないな、お前は。俺に宿題を全部やらせて、自分は天才のフリをして教師に媚びへつらっていた。……この世界でも、ドワーフたちに死ぬ気で掘らせた石を、自分の手柄にして富を貪っていた」


「ゆ、結城、悪かった! 謝る、謝るから! この宮殿も、金も、女も全部お前にやる! だから許してくれぇぇっ!」


「いらないよ、こんなゴミ」


俺は緑川を床に叩きつけ、そのまま宮殿の床に両手を当てた。


「『解体』——からの、『再構築リビルド』」


ゴゴゴゴゴゴォォォォォォォォッ!!!

黄金の宮殿全体が激しく鳴動した。


壁を覆っていた金が、柱の大理石が、豪華な調度品が、全て俺の力によって『分解』され、最も価値の低い『ただの冷たい泥と鉛』へと強制的に変換されていく。


「あ、あああ……俺の黄金が……俺の宮殿がぁぁぁっ!!」


数秒後。


緑川の権力の象徴であった黄金の宮殿は、雪山に不自然にそびえ立つ、巨大な『泥の塊』へと姿を変えた。


風が吹けば崩れるような、無価値な泥の城だ。

「さて、最後はお前自身への精算だ」


俺は絶望で放心状態になっている緑川の『両手』を、上から容赦なく踏みつけた。


メキボキィッ!!

「ギャアアアアアアアアアッッ!?!?!?」


雪山に、緑川の絶叫が木霊する。


骨が完全に粉砕され、二度と使い物にならない肉塊と化した両手。


他人の成果を奪い、傲慢に振る舞ってきたその手を、俺は物理的に完全に『解体』したのだ。


「い、痛い、手が、俺の手があああぁぁぁっ……!」


「お前は錬金術師を名乗っていたな? なら、これからは自分自身の力だけで『労働』してみろ」


俺は、先ほどまでドワーフたちが着けられていた『奴隷の首輪』を、緑川の首にガシャンと嵌めた。


「こ、これは……っ!?」


「その首輪は、お前が一日百キロの石を掘り出さない限り、激痛を与え続ける特別製に『調律』しておいた。手がないなら、足と歯を使ってでも掘るんだな」


俺は冷ややかに見下ろした。


「お前が殺したドワーフたちの無念、永遠の強制労働で償え」


「い、いやだぁぁぁっ! 助けて、誰か助けてくれぇぇぇっ!!」


泣き喚く緑川を冷たい雪山に残し、俺は背を向けた。


猛吹雪の中、ドワーフたちを連れたゴルダンが、涙を流しながら俺に感謝の祈りを捧げているのが見える。


二つ目の復讐が完了した。


他人の血を啜って肥え太っていた虚飾の天才は、全てを失い、永遠の労働地獄へと堕ちた。

残る勇者は、あと少し。


王国を内側から食い破る俺の反逆は、いよいよ中枢たる王都へとその刃を向ける。

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