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『2021年』世界一周阻止  作者: 珍百景
第二連邦制フィリピン
9/10

後に残される



マニラ港 コンテナヤード

2021年 5月20日


「なんて様だ!!」


カリルト・リキシヤは今回の取引に釣られて誘き出された自分を恥じた。


「イースパニア号には戻らんのか!? あれにはヘリがあったろう?」


「それこそ飛行爆弾の餌です! 車も駄目だ。どうにか徒歩で脱出しましょう!」


護衛隊長のホアンが大声で叫び返し、彼の襟元を掴みながら姿勢を低くし先導する。


ようやくブツの交換という大詰めの場面を、手柄欲しさの軍と、爆弾使いの邪魔者に潰されたのだ。


そして、思慮の浅い買手が裏切られたと勘違いし、此方に銃撃してきたことも苛立ちを募らせた。


護衛の半数が台湾マフィア・琉球人と撃ち合っている。


琉球人はチンピラ同然で出鱈目に撃っているが、台湾マフィアはホアンと同じ元イースタシア軍人を引き抜いているようで、正確で連携のとれた射撃だった。


勿論、カリルトの護衛の兵士もゲリラ上がりの精鋭だが撃ち合う以上、足止めされてしまい、置いていく他無かった。


「あの爆弾の奴、どこのだ?」


「旧イースタシア圏の人間なのには違いないかと・・・ あの操縦は手慣れてます」


ホアンは武器商人の側を離れずに部下達を散開させ、上空を警戒しながら手当たり次第に光源を潰すように命じている。


飛行爆弾は標的へ接近する際にどうしてもモーター音が消音出来ずに探知しやすい弱点がある。


コンテナヤードの合間を彼等はジョギングするかのように走り抜けていた。


「いつまでも走れんぞ! サツに包囲されてるからな」


「マニラの事務所に連絡を入れました。車が来ます!!」


「俺らが捕まった後か、入る前にそいつらが捕まるだけだぞ!?」


「ご安心を。何処かの車か、最悪はサツの車両を奪いましょう。ランチャーはまだ持ってるな?」


ホアンは物騒なことを背後の部下に尋ねる。


尋ねられた部下は頷き、ベルトで背負っているオセアニア産の携帯式対戦車ミサイルを自慢げに叩く。


「まだあったのか・・・ だったらヘリでも堕とせるな」


上空にヘリの羽音が滞空していたが、銃撃戦の現場が都合の良い陽動になり注意が逸れている間が勝負だった。


「ブツは惜しいことをした」


「取り戻せますかね?」


「難しいな。軍が大々的に動いたってことはデカい作戦だ。その押収物を売り捌くのは楽じゃない。市場に出るのはずっと先だし、俺に売り返しに来ても値を釣り上げてるだろう・・・ まあ、捨て金と思っておこう」


「情報が漏れたことが気になります。やはり、買手が?」


「だったら飛行爆弾に狙われた説明がつかねぇ。それで連中はキレたからな・・・ チクったのは爆弾野郎だ。そうに違いない。俺らで殺し合わせて高みの見物だ」


コンテナ群の物陰に隠れて様子を見ている時に武器商人は吐き捨てた。


走り疲れ一息入れるためだが、一方で数名の部下に周辺を偵察させ車を探させている。


警察も流石に広いマニラ港に網を広げられる予算は無い。


「ライバル組織ですか?」


「マニラで敵を作った覚えはないしなぁ。ミンダナオの田舎者にはここまで出張れる足がねぇし。国外のやつかな?」


「脱出しても危険ですね。この分では暫くは・・・」


「ホアン、それだが、帰れたらミンダナオを離れるよ、一時な。シンガポールの友人から誘われてニュージランド北部の都市ゲリラに武器を下ろす話がある。乗ってみようと思う」


「南部の反政府組織はいいんですか?」


「南部はまだまだ党の力が強いからな、俺なんかよりもオーストラリアとくっついてる」


カリルトが未来について案じていると、先行させた護衛が戻ってきて、簡易事務所に使える車を発見しエンジンをかけている最中だと報告する。


「行きましょう!」


「まだ走るのか?」


「時間のロスをなくすためです」


駆け足で車の元へ向かうと丁度エンジンがかかったところだった。


後部座席の扉を開けてカリルトに入るように急かそうとすると、付近に従業員らしき死体が転がっているのが目に入った。


部下に運悪く鉢合わせしたので始末されたのだろうが、ホアンはその視線の先に人間の頭が動くのを感知した。



マニラ港 コンテナヤード 空き地


松島は機会を待ち望んでいた。


協力者が軍に垂れ込み、加えて飛行爆弾で挑発したお陰で相手側の不信感が高まり銃撃戦になった。


カリルトが護衛隊長に連れられ包囲されつつある港からの離脱に入るのを確認すると、すぐに身支度を整え、道具を燃料促進剤で燃やすと、コンテナの上を滑るように駆け抜ける。


上空を警戒して歩みが遅い武器商人の一行よりもだいぶ先の地点で着地し見張っていた。


途中で一行が出した斥候が先駆けてきたのを見て焦ったが、足の確保だと見当をつけて安堵する。


彼等が目撃者を殺している間に、標的が乗るであろう車を狙撃するのに十分なポイントに身を滑り込ませる。


呼吸を整え銃を固定し、照準を合わせて距離を測る。


とてもとても一瞬だった待ち時間が終わり、カリルト達が現れ車に乗り込もうとする。


ふと護衛隊長の台湾人の目線が此方を向いた気がしたが、それは正しい。


既にユーラシア製の軽量機関銃がドラムマガジンに詰まった全弾を吐き出し始め、防弾では無い一般車両の装甲を貫通し、襲い掛かっていた頃合いだった。


その銃撃で、運転手は即死、乗り込んだ直後だったカリルトは腰や首に被弾し致命傷を負い、ホアンは前輪に隠れたため生き延びるも腹と太ももに被弾していた。


松島は素早く凶器を遺棄し逃走に入る。


背後で中華語訛りの英語が鋭く飛び、自分への罵声と放っておいた部下への追撃命令を発した。


追手は自動小銃持ちではあったが、唯一松島が身につけている拳銃で相手する必要はない。


警察の包囲網まで逃げ切れば、今の港湾職員風の格好なら一時的にせよ受け入れてもらえるのだ。


しかし銃撃を恐れて一直線になりやすいコンテナヤード間の通路を右へ左へ影へと交わしながら走るとスピードがガクッと落ち、走り慣れている相手の方に有利だった。


近づくサイレンの音に負けじと追手は声を張り上げて仲間と意思疎通を図っているが、ひょいと松島は物陰に隠れたと見せかけて背後の敵目掛けて拳銃を発射した。


1人が転倒し1人がその援護に入り、最後の3人目が制圧射撃を行う頃には拳銃を捨てて姿を消していた。


そして遂に警察の規制線へと辿り着く。


緊張感に欠ける6人組が2台の車で道を塞いでおり、松島の姿を見て驚き警告してきた。


「止まれ!! 止まるんだ!! 両手を見せろ! 早く!!」


「撃たないで! 私はエンジニアだ。逃げて来たんだ!! 連中から・・・」


港湾職風の姿は警戒度を幾らか下げたが、相手はゆっくりと近寄ってきた。


そこに背後から追い付いた追手が銃撃を加えたため、警官達は彼を車の背後に連れ込んで応戦する。


「1人やったぞ!」


防弾チョッキと軍用ライフルで武装した警官の1人が声を張り上げた直後に、飛来したロケットが車両を吹っ飛ばし衝撃波を発する。


松島は警官の躰が盾になって助かったが、他は這々の体で、そこに平均より小さな体躯で眼の大きな兵士が止めを刺しに乗り込んで来る。


自動小銃で暫くは立ち回ったが、弾切れになると起き上がってきた警官を銃床で横殴りにすると、脚のホルスターから拳銃を引き抜いて殺しを続行した。


衝撃波の耳鳴りがある中、松島は盾になった気絶中の警官をどかし逃げようとするが、それを目ざとく見つけた追手は拳銃を向ける。


そこに気絶していた警官が間に割り込み追手を狙って拳銃を乱射する。


弾は追手の肩に食い込んで拳銃をその手から落とすも、汚い歯を見せると追手は腰からナイフを引き抜いて警官に馬乗りになって滅多刺しにした。


最後の追手が警官を殺し終わり、松島に目を向けた時には既に彼は立ち上がっている。


松島はここで一挙に距離を詰めて、変装用のジャケットを敵の顔に叩き付ける。


機先を制された敵はナイフを振り回して距離を取ろうとするが、姿勢を低くして放たれた脛への蹴りに思わず悲鳴をあげ、その隙に耳下部位への当身をくらい、ナイフを持った腕を押さえ込まれた。


追い詰めた事に慢心していた敵は凶器に固執したあまり、他の反撃策へ移行出来ずに背から首に回された腕を解けず、ほどなく窒息する。


ようやく全ての障害を取り除いた松島は、敵が落とした拳銃を拾い、残弾を確認し終えるとまだ息がある警官を殺して廻る。


目撃者は要らないのだ。


作業が完了し、彼はナイフだけ身につけると、ヘリと羽音と強力なライトで照らされる港を背に、颯爽と闇の中へと踏み入ってしまった。

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