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『2021年』世界一周阻止  作者: 珍百景
第二連邦制フィリピン
8/10

燻り出し



第一連邦制フィリピンは俗にいう共産主義政権であり内戦を制した1959年に誕生したのに対して、第二連邦制フィリピンは、2004年に統一戦争を経て出来た比較的新しい政体であり、徹底した公共インフラの敷設と管理、民族間差別の調整と教育の普及、周辺資源開発の推進に努め40年近く治世を続ける。


だが末期は、イースタシアとオセアニアの板挟みとなり、公害・環境破壊・民族不遇・奴隷労働・華僑財閥の軋轢よる周辺国との紛争等で弱体化し、1998年にオセアニアの支援を受けたクーデターが勃発し統治機能を損失する。


オセアニアにとって海峡戦争で敗北したことの報復であり政権奪取の際には核搭載の戦略爆撃機を配備する予定だったため、イースタシアは直ちに空母機動部隊を派遣し旧政府を援護したのだが、途中で余りの旧政府の支持率の無さに辟易し、新規浮動要塞の建設までの時間稼ぎに戦略を切り替えようとしたが、優勢になったクーデター側で寝返りが起きた。


オセアニア側が投入した人員が占領地で余りの蛮行を平然と継続し、抗議すらも黙殺したため見限ったのである。


統一戦争は2003年に現政体の勝利で終わったが大列強が倒壊し、巨大市場のフロンティアが唐突に出現したことで、政財界や裏街道ですらも浮き足立っている。



第二連邦制フィリピン

マニラ市内 某所

2021年 5月20日


「捉えたぞ!!」


協力者であるマルスが歓声を上げる。


取引の調整のために船を降りた黄蘭友(ホワン・ランヨウ)と、取引相手である琉球人下里、仲介の台湾マフィアが品物を積んだトラックと護衛の車によるコンボイがマニラ市内へと入った報せだった。


「感謝する。それで・・・ 手は回したか?」


「松島、俺の繋がりを舐めてもらっちゃあ困るな。軍の上層部は財閥とウィンウィンだ。天下れるからな。ロクデナシノの俺の吹き込みでも、点数稼ぎになると思ってくれてるぜ」


「よくやってくれた」


「あんたの上から給金出てるんでね。それで、これからはどうするんだ? 知らせて終わりか?」


松島の頼みでマルスは台湾人の護衛隊長がマニラ市外へ出たのを確認すると、幹線道路沿いに小遣い稼ぎの偵察要員をびっしりと配置し、連中のマニラ入りを監視してくれていた。


「あとはこっちがやる。手配についても礼を言うよ。じゃないと潜り込めなかった」


「上手くいきそうか?」


「成功かどうかは問題じゃない。お前は痕跡を撤去し、この件からは手を引け。忘れるんだ」


「そうするぜ。だが、派手な新聞の見出しには期待しとこう」


「確約は出来んな」


携帯電話の通信を切った松島は電源を切り、懐に仕舞う。


マルス・カールセン・チゥーはよくやってくれたが、携帯を処分するともう彼との繋がりは皆無だ。


小型望遠レンズの先でマニラ港にカリルトのイースパニア号かゆっくりと接岸するため近づいてきているのを、彼はコンテナヤードの上で視認した。



マニラ港


イースパニア号が港に接岸すると速やかに荷下ろしが始まる。


港湾の労働者や役人や治安組織には予め賄賂を渡しているし、台湾マフィアが噛んでいるということで下手を打たないように、皆がテキパキと動いている。


カリルトも港に降り立ち、クレーンでトラックの荷台に導かれる武器入りのコンテナを横目に、先方との取引場所まで徒歩で移動する。


護衛の兵士達が目立たないようにあたりを威嚇しながら散開していた。


20分ほど待機していると、ブツを積んだコンボイが到着し買手が降りてきた。


カリルトは合流したホアンと固く握手すると、台湾マフィアと琉球人へと振り向く。


「大したブツだそうだな。聞けばこれからも送ってくれるとか・・・ 期待しているよ日本人」


「そう願うが、ビジネスはビジネス。おたくのブツはまだ見てない」


「あのトラックにある。急ぐことはない。台湾の方のも入ってるからな」


新規取引なのでお互いを信用しきれていない一行は、護衛達の物々しさも相まって神経が昂っているようだ。


イースパニア号のコンテナを積んだトラックが合図を受けて接近すると、下里達はイナゴの様に中身に群がる。


豊富な実弾に買手が唖然としながらも品数を計算する傍らで、擲弾を備えた小銃を確認しながら台湾マフィアが声をかけてきた。


「あんたのことを疑っていた訳じゃないが、よくもまあこれだけのイースタシア規格の品を揃えられたな」


「別に不思議でもないさ。イースタシアに面した第四世界の奴等が反イースタシア組織を飼っていたのは有名だろ? 赤道事変もそれで起きたしな。でもそんな危ねぇ連中を支援してるのがバレると核撃ち込まれるだろ? アラブの湾岸地域みたいにな。だから、どの国もバレないようにイースタシア製のコピーをせっせと作って流してたのさ。で、肝心の大元が潰れて今でも殺し合ってるから、何処もかしこも実弾を生産しまくってるんだ。そんな感じで在庫が余ってるから拝借するのは簡単だね」


「ならこの銃は?」


「それはオセアニア産だ」


気分よく雑談していると、下里から数量に間違いがないと報告が来た。


「では商談成立か?」


「ああ、この関係が長く続くことを祈るよ」


互いに握手しトラックを入れ替え後は去るのみだった。


カリルトの部下が無線で連絡をいれ、コンテナの船への回収を指示し辺りの雰囲気が落ち着いたところでホアンの携帯が鳴った。


電話に出た彼はサッと顔色が悪くなる。


「なんだ?」


「マニラの事務所からです。手が回った! 軍が動いてる」


「どういうことだ!?」


「誰かが密告したようです。脱出します」


武器商人の相貌が怒りに満ち溢れ買手側を睨みつけるが、突然の出来事に動揺しているのは彼らも同じだった。


部下が船からの無線で湾に巡視艇とヘリが接近していると伝え、同時によく響くサイレンが聞こえる。


「ブツはどうするんだ!?」


買手が喚く。


「ほっとけ。逃げるのを優先しろ! どうせ押収されるが、軍人の懐は寒い。また買い戻せばいいだけだ」


「俺らにそんな金はねぇぞ!!」


「知るか!!」


買手がカリルトの護衛に牽制され慌てふためく中、彼は素早く車に乗り込んで現場からの離脱を画策している。


ミンダナオの辺境商人だが、統一戦争時代に貸しがある地元有力者は山程いるので、この場を脱することが安全策でもあった。


と、そこに場違いなキューーーィンとする音が空気を震わせ、次の瞬間に黒い影が買手のトレーラーに衝突したかと思うと、一気に爆発し車両部分を吹き飛ばした。


ホアンはそれが自分がイースタシア軍でよく使っていた飛行爆弾だとすぐに看過し戦慄する。



マニラ港 コンテナヤードの上部


松島はマルスの手引きで早々とマニラ港へ潜入し、イースパニア号の監視を続けていたのだ。


一方で彼にはもう1つの仕事、即ちフィリピン軍上層部にマリラ港での取引を密告するよう頼んでいた。


カリルトは基本的にミンダナオ付近でしか商売をしないが今回はルソン島まで出張っている。


それでも安心して取引出来るのは、相手が何処かのゴロツキだと、体制側が賄賂の鼻薬の効果もあって高を括っていたからに他ならない。


今回マルスに密告させた内容は取引相手が分離独立派だということで、目を瞑っていた連中はお膝元での面子に賭けて、遮二無二動き出すという寸法だ。


「彼はよくやってくれた」


松島は僅かに口元から言葉を漏らしながら、飛行爆弾を操作し買手側のトレーラに的を絞って攻撃を仕掛ける。


飛行爆弾は、持ち運び可能な発射台ノズルから投射され、ラジコンで操作可能な翼が付与された黒い筒状の自爆兵器であり旧イースタシア軍の標準装備である。


航空産業でオセアニアに劣り、ロケット技術ではユーラシアに追い抜かれていたイースタシアが生み出した苦肉の作品であった。


しかしそれは第四世界での低強度紛争や係争地帯で無類の威力を発揮し、それを通じてオセアニアの基地破壊やユーラシア戦車・艦船の大破に有効だと実証されたため、研究予算が大量に与えられ、万里の長城の無人化計画と合わさって発展と量産が進んだ。


イースタシアの自壊の後に世界中でその技術が再評価され、正規・非正規問わず戦場で活躍しているので、騒ぎを起こすのにはもってこいである。


流石に標的の護衛隊長はその経歴から異変の正体を見破り部下達に上空警戒を促すと同時に周囲の光源を手当たり次第に打ち込ませた。


暗視機能がない手動の飛行爆弾は操縦者の視界が確保されてないと機能出来ないが、24時間稼働の港では心配無用である。


寧ろその判断は、自分達が苦労して運び込んだ運搬車両の破壊を目にして動揺し、さらには軍隊の出動や突発的な発砲に怯えていた買手側の疑惑に一挙に火をつけることになる。


松島の思惑通り武器商人と台湾マフィア・琉球人の銃撃戦が始まった。

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