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『2021年』世界一周阻止  作者: 珍百景
第二連邦制フィリピン
7/10

どっちがよく



第二連邦制フィリピン マニラ郊外

旧準人民寄宿施設 現農機具倉庫

2021年 5月19日


取引の買手側である琉球人と落ち合った、元イースタシア軍人である黄蘭友(ホワン・ランヨウ)は、先方の案内で運び込まれた支払いの代替手段である武装の品質確認のために出向いていた。


昼にイースパニア号から港へ到着すると、関わりのある小役人や労働者に念を入れながらマニラ市内のダミー会社オフィスへと向かう。


琉球人、下里は台湾マフィアと2名の部下を連れて既に到着していた。


「品物がまだ海の上って、商売する気があるのか?」


「いくら、同胞の伝手でも君は新規の客だ」


「前金、あれはどうだ? しっかりした品だったろ?」


「大変好評だ。だが物々交換であることに変わりはない。簡単に移動出来る代物じゃない。慎重にしなくてはな・・・ 言っておくが、そっちは我々以外からブツを手に入れられるか? ボスが乗り気だから私は来たのだが、手を引いてもいいぞ」


「だいぶ苦労してブツを陸に揚げたんだ。殺生な言い方はやめてくれ、兄弟。なあ、ニッポン人、こっちはブツをクソ政府に押収されたら取り返す対価がねぇ。危険なのを承知で乗ってくれた恩義がリキシヤさんにはある。その代理のホアンにもな」


台湾マフィアに嗜められ、矛を収めた下里は大人しくなった。


その後、マニラに警戒用の人員を残し、大型トラックとミニバンに乗って商品の隠し場所へと向かった。


到着する頃には日が沈んでいたが、その銀色のターバン風の建物は盗難対策のためかライトが多くついている。


「目立ち過ぎると思うが・・・」


「ははっ! 誰も収容所だった建物には近寄らないよ。農業組合が買い上げるまでは落書きや器物損壊だらけだったからな。でかいブツが運ばれても農機具ぐらいにしか思われない。周りの農民も副業で大麻か覚醒剤を作ってるから一蓮托生だ」


台湾マフィアは生き生きと語りながら待機していた部下へ指示を飛ばしている。


招かれた中にはトレーラが何台も待機し、台湾系、フィリピン系、日系などの人員が忙しなく動いていた。


中にはおそらくは軍属と思しき者も混じっている。


ホアンはトレーラーに積み込まれた分解されている装甲車には目もくれず、小型兵器の品質を確かめた。


「デカブツは見なくていいのか?」


「動かなくても問題ない。ミンダナオで確保している修理工場で整備する。その後に出荷だ」


「あんたら扱えるのか?」


下里が小馬鹿にしたように中華語(イースタシア公用語)の会話に混ざってきた。


「琉球人は軍の奴隷だったから知らないだろうが、イースタシアは第四世界の紛争に積極的に武器を輸出していた。ついでに扱える人員もな。ましてや、今の政府はイースタシアの強い後押しで出来ている。確保するのは容易だ」


下里は憎々しげに口元を歪めるが、台湾マフィアの圧を受けて目を逸らした。


琉球として総督府の管理下に置かれていた沖縄だが、それは駐留イースタシア軍の接待をするために作られていただけだった。


軍属は移民組の大陸系に牛耳られ、嘗て県民だった者達は工業プラントか農業プラントの建設や稼働に従事させられ、自分達の収容所を自らの手で完成させる立場に置かれていた。


総督府の手引きで水産海軍が駐留基地を制圧したが、琉球人の配給制居住区へ逃げ込んだ大多数の兵士は沖縄の人間を盾とした。


7ヶ月掛けて総督府部隊と抵抗運動が航空支援を受けながら掃討したが、その間の夥しい犠牲を沖縄は忘れていない。


現地で募ったらしい下里の部下も、統一戦争の際に標的にされ苦しんだ日系人らしく複雑な顔をしているが、ホアンにはどうでもよく、品物の確認を急いでいる。


「素晴らしい。ほぼ、いや完全に無傷だ。これだけの数・・・ どうやった? 日本の政府は武器管理に厳しかったはずだ」


「列島は内紛状態だ。もう事情が違うよ。それに沖縄は別だ。イースタシアとは決別したから、軍属は皆んな敵性外国人になったんだ。だから総督府は人手が足りないから今まで差し出してきた俺達沖縄の人間を割り当てるようになった。まあ、ド素人だから外国人でも協力しながらな・・・ しかし、管理なんてあってないから、これからは有力な売り手になるぜ」


「待て、そうすると武器には困らないだろ? 我々を頼った理由はなんだ?」


「そう警戒するな、兄弟。事情は勿論ある。総督府は海軍と連携して弾狩りをしたのさ。銃があっても弾がねぇ。海軍の施設に厳重保管されてる。手が出せねぇ。何かを始めたくてもな・・・」


元イースタシア軍人は頷いた。


イースパニア号が積んでいる商品は、台湾マフィアへの擲弾搭載の小銃は別にすると口径は問わず弾が8割を占めた。


中には迫撃砲、対戦車ミサイル、地対空ミサイル、攻撃ヘリ用の空対空ミサイルまでもが用意されている。


「しかし、地雷を手放してもいいのか?」


「長期戦なら別だが、そんな大層な戦いじゃない。それに俺らは攻める側だし、毒ガスは正直扱いづらい」


イースタシアではガス地雷は専ら、ユーラシア国境全土に拡張された万里の長城の防衛兵器として運用され、第四世界との国境沿いには主に通常地雷が使用された。


毒ガスの扱いは困難であるし、資源の有力な調達網を汚染したくはなかったからだが、1997年の赤道事変で反抗勢力が雇ったアフリカ人パイロットが航空優勢を覆した時に無意味となった。


小型武器を入念に調べ終えると、護衛隊長は雇い主のカリルト・リキシヤへ衛星電話を掛ける。


「どうだったね?」


「数は事前通達通りです。欠けはありません。質はかなりいい。無論、持ち帰ってテストする必要がありますが・・・」


「商売繁盛だな。買手の様子は? 囮捜査ではないよな? 敵対組織かもしれん」


「そんな素振りは今のところないですね。マニラの部下からも報告はきていないので。もし仮にそうだとしても火力で圧倒します」


「ああ、対戦車ロケットを持って行ってるんだからそれもそうだな。よし、買手に取引成立だと言ってくれ。港で落ち合おう。こっちの商品の陸上げをしとかにゃならん。また連絡する」


「了解です、ボス」


ボスとの通信を切って、台湾マフィアと下里に取引の承諾を伝えると、2人とも小躍りした。


倉庫に詰めていた人員は指示を受けるとてきぱき荷物を片付け、広げていたブツをトレーラーに押し込み、各々乗車し簡易のコンボイを形成して、取引場所である港へと向かう。


マニラ市街へ入る途中でコンボイとすれ違ったカップルは、トレーラの写真を撮り終えるとメールに添付して送信した。

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